軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戯れる将軍とその妻

色とりどりの衣装を着た人の波。

女性のドレスは肩を露出した形が今年の流行りで、シンプルなAラインやマーメイドタイプが人気らしい。

ユンさんのリサーチ通り、今はスマートな体型に見せるデザインが主流だった。

私がマーメイドラインにしたのは、あくまでダンスのときの足さばきに自信がないから。流行りがたまたまそれでよかったと思う。

国王陛下は途中でやってくるそうで、私はまずダンスという難関を乗り越える必要がある。ただでさえ緊張するのに、将軍が妻を伴い参加しているということで注目度はものすごく高い。

今この場で倒れていないだけ、及第点なのかも?

アレンは騎士団の仲間や事務官に声をかけられ、私のことを紹介していった。

「その節はどうも……」

「お久しぶりです」

騎士のジャックスさんは、私が執務室でアレンに求婚されたときに運悪く入室してしまった不運の人だ。あれ以来の再会になるが、申し訳なさそうに挨拶された。

ジャックスさんはアレン直属の部下で、22歳の独身。子爵家の次男だそうで、実家には戻らずこのまま騎士を続けると聞いた。

「今後もずっと、アレン様の特務隊でお世話になります。どうぞお見知りおきを」

上官の妻である私に、ジャックスさんは低姿勢で柔らかな笑みを見せる。私もそれに笑顔で応えた。

「こちらこそ、どうかアレンのことをよろしくお願いいたします」

命の危機に見舞われることは、この平和な日々にはないかもしれない。

けれど、味方は多い方がいい。

私は騎士の皆さん一人一人丁寧に挨拶をして、アレンのことをお願いして回った。皆いい人たちだったので、後日、騎士団へ差し入れを持っていこうとも思った。

「本当に、お二人が幸せそうで何よりです。万が一にでも将軍がリンドウお悔み案件になっちゃったらって心配していたんですよ」

ジャックスさんはそう言って笑う。

騎士団では、妻や恋人に逃げられたときに上官から白いリンドウと慰労文が届く慣習があるらしい。もしも私がアレンと離婚していたら、そのリンドウお悔み案件というものにアレンもなっていたんだとか。

「ふふふ、おかげさまでこうして二人でいられています」

騎士の人たちがあまりに心配するから、私はにっこり笑って幸せアピールしておいた。恥ずかしいけれど、不仲だと噂が回るのはさすがに嫌だ。

人の噂話は、いいものより悪いものの方が圧倒的に広まりやすい。「重々お気を付けください」とユンさんも言っていた。

アレンは私の肩を抱き、部下にいらぬ心配はするなと告げる。

「こんなに愛らしいソアリスを手放せるわけがないだろう」

うっ!

蕩けるような笑みが眩しい!そして恥ずかしい!

「なぜこれほどまでにソアリスは愛らしいんだ。心配で片時も離れたくない」

「アレン、近すぎるわ……」

限界がきて、両手で彼を制して思わず顔を逸らしてしまった。

どう見たって夫の方が美人なのに、次々と褒め言葉を繰り出されるものだから居たたまれなくなる。

いかに自分が愛されているか毎日のように実感するけれど、人前で口説かれ続けるのは恥ずかしすぎるのだ。

「アレン様、今って正気ですよね?」

騎士の人もやや引いている。ここでも「普段と違いすぎる……!」と呟きが。

アレンはどうやら、将軍職をまっとうしている時間はとても厳しく恐ろしい存在らしい。私には想像もつかない。

部下たちの反応などお構いなしで、アレンは私を見つめて微笑む。

周囲にはまったく関係のない人たちも集まっていて、私たちの様子は逐一見られていた。

「やっぱりヒースラン将軍の噂は本当だったのね……!あんなに奥様のことを」

若いご令嬢たちが、少しだけがっかりした様子を見せる。

もしも夫婦仲が良くなかったら、自分がアレンとダンスを踊りたいと思っていたのかもしれない。

アレンを一人にしたら、次々と声がかかるんだろうな。

私は気を引き締め直し、できるだけ堂々として見えるよう背筋を正す。

「ソアリス、そろそろだ」

きた。

ついにダンスの時間がやってきた。

目を見合わせると、互いの緊張を感じ取る。

「いよいよ、なのね」

「あぁ、いよいよだ」

ホールの中央へ、私たちは手を取り合って進んでいく。

王族に縁の深い大貴族の人たちに紛れ、私たちも音楽に合わせてダンスを始めた。

気を抜くと泣きそうな顔になってしまうから、アレンの顔を見上げてできるだけ口角を上げる。

社交界デビューもしなかった私が、こんな風に迎賓館で夫とダンスをするなんて未だに信じられない。

「アレン」

「ん?」

「まさか二人で踊る日が来るなんて思ってもみなかったわ」

腰に優しく添えられた大きな手。

包み込むように握られた手は、足運びしやすいよう導いてくれる。

動くたびにふわりと揺れるドレスの裾は、シャンデリアの煌めきを受けてキラキラと輝いている。

「そうだな。だが、ソアリスの初めてのダンスの相手を務められて、それは心底ホッとしている」

本当に安堵しているのが声で伝わってきて、私は思わずクスリと笑ってしまった。

社交界デビューしていたら、お父様が私の相手を務めただろう。12歳で結婚していたし、もし独身でも極貧だったからデビューどころじゃなかったけれど。

「私もうれしいわ。苦手なダンスをがんばろうって思えるくらいには、楽しみにしていたの」

「そうか」

幸せそうに目を細めるアレンは、気づいていないだろうな。

私が何を思っているのか。

こんな風に注目されるのは戸惑うけれど、仲のいいところを見せておけばアレンのことを諦めてくれる人がいるんじゃないかって期待していることを。

アレンは私を見せたくないって、ほかの男と踊らないでって言う。でも私だって同じようなことを思っているのだ。

「ねぇ、アレン」

ゆっくりとした音楽に合わせ、なるべく優雅にステップを踏む。

「これからパーティーや夜会に出ることがあると思うんだけれど」

「あぁ、あるだろうな」

「そこでほかの人と踊ってもいいけれど、私のことも忘れないでね?」

何気なくそう言ってみると、彼は驚いて目を丸くした。

手を握る力がぎゅっと強くなり、アレンはさらに熱の篭った目で私を見た。

「約束する。死ぬまでソアリス以外とは踊らない」

「死ぬまで!?」

いや、そこまで拘束しようとは思わないんですが!?

思わず躓いてしまい、前のめりになった私を彼の腕がしっかりと支えてくれる。

「ごめんなさい、私……!」

ドがつく素人に、お喋りしながら踊る余裕なんてなかった。

うっかり失敗した私は、頬が熱くなってくる。

こんなに注目されているのに、躓くって情けない……!

アレンが自慢できるような立派な妻になろうって決めたのに、もう次のステップがよくわからないくらい動揺してしまった。

「ソアリス、落ち着いて」

「っ!」

突然ふわりと浮き上がる身体。

アレンが私の腰に手を添え、軽く持ち上げるようにしたことで、二人の目線は私の方が高くなる。

「きゃっ」

小さな悲鳴を漏らすと、アレンはうれしそうに笑った。

「いっそこうしてしまえば、踊らなくて済む」

「アレン!?」

ふわっと半回転させられて、優しく下ろされたときには、周囲から穏やかな笑いが漏れた。

「ヒースラン将軍は遊び心がおありなのね」

「奥様がかわいくて仕方がないみたいよ、素敵だわ」

おほほほと上品なご夫人方が、生温かい目で見守ってくれている。

ますます頬を赤らめた私を見て、アレンはもう一度私の手を取った。

「あと少しだが、最後までお付き合いいただけますか?」

わざとそんなセリフみたいな言い回しをする彼に、私は笑顔で答える。

たった数分のファーストダンスは、練習の成果は発揮できなかったけれどとても楽しく終えることができたのだった。