軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

英雄将軍は遠い存在でいられない【後】

パレード開始から、待つこと一時間。

ええ、一時間も待っています!

王都の西側から東側まで騎馬隊や行進の列が長~くできていて、私たちは終着点にいるのでなかなかアレンディオ様の姿は見えない。

お隣に座っていた老齢の夫人と歓談し、どこのケーキがおいしいとか、どこのドレスが斬新なデザインだとか、お孫さんが今度アカデミーに通ってなかなか会えなくなるから淋しいとか、とんでもなく平和な時間が過ぎて行く。

優しいおばあちゃんという雰囲気のご夫人と楽しく会話し、私は癒されていた。

アレンディオ様が帰ってきてこの3日間、怒涛の変化があって精神的な疲労が蓄積していたものね……。

聞けば王族に連なる侯爵家のご夫人だというから、没落成金妻の私とはえらい違いだったけれど、とても優しい人だった。もうこのまま何事もなく帰りたいなぁ、なんて思っていたけれどそれは無理なお願いだった。

「「「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

黄色い声援が上がり、男たちの雄たけびまで聞こえてくる。

そちらを見ると、グレーの大きな馬に跨ったアレンディオ様がようやく到着したところだった。

式典用の金色の飾りがついた軍服は、凛々しさが増して見える濃紺。帯剣して騎乗したその姿は、アレンディオ・ヒースラン将軍という私の知らない騎士の姿だった。

堂々とした風格のある姿に、思わず見惚れてしまう。

これは黄色い声援が飛ぶのもよくわかる。

逞しくて力強いのに、気品がある。さらさらの漆黒の髪が光を浴びて輝き、絵物語に出てくる王子様みたいだった。

うん、やっぱりこの距離がいいわ。

至近距離だと目がつぶれるから、20メートルくらいが適切な距離だと改めて思った。

「本当に、立派になったのね」

英雄。

アレンディオ様は、遠い存在なんだなと感じる。

そう、遠い存在……

遠い存在……

遠い存在……

あれ!?なんか彼がまっすぐこっちを見てない!?近づいてきている!?

周囲の人たちがざわつきはじめ、私は顔を引き攣らせる。

いやいや、こんなに人がいるのに私が見つけられるはずがない。

落ち着いて。落ち着くのよ私。

コルセットで締め付けたお腹に手を置き、ドキドキしながら動向を見守る。

来ないで、来ないで、来ないでぇぇぇ!!

しかし願いも虚しく、アレンディオ様は観覧席の近くでサッと馬から飛び降りると、迷いなくこちらへ向かって歩いてきた。

一段高くなっている観覧席。不幸にも、その最前列に座る私は長身の彼と目線がばっちり合う高さだった。

「ソアリス」

「ひっ!」

逃げようにも逃げられない。

何百人もの視線が私たちに集まっている。

彼は蕩けるような笑みを浮かべ、上着の胸ポケットに挿していた一輪の花を私に向けてスッと差し出した。

「???」

丸い花弁の白い花、鮮やかな黄緑色の茎。

ラッパみたいな花だな、と思ってじぃっとそれを見つめてしまう。

「生きて帰ってこられたのは、ソアリスのおかげだ。君がいてくれたから、今の俺がある」

「へ……?」

「遅くなってすまなかった。これからは俺のすべてを捧げ、ソアリスを幸せにする」

わぁっと人々の歓声が聞こえた。

ここで悲鳴を上げなかっただけ、私はがんばった!

ガクガクと震える指先で、おそるおそるその花を受け取る。

将軍に恥をかかせるわけにはいかない。

気絶しそうな意識を必死でもたせ、美形の微笑み光線にさらされながらも私はお役目を全うした。

しかしまだ惨劇は終わらない。

彼はそっと顔を寄せ、私の頬にキスをするふりをした。多分、気を遣ってくれたんだと思う。見事に寸止めだった。

けれど周りにはわからない。

「とても綺麗だ。このまま連れ去ってしまいたいくらい」

「っ……!」

そう囁かれ、一瞬にして頭が沸騰する。

何の言葉も返すことができず、かすかに口をパクパクする私は酸素不足の魚状態。

アレンディオ様は満足そうに目を細め、再びパレードの列へと戻って行った。

彼がいなくなってなお石像のように固まっている私に、お隣のご夫人がまるで自分のことのように頬を赤らめて言った。

「なんて素敵なお方なんでしょう。ご自身の栄誉を表す陛下から賜った花を、奥様に捧げるなんて」

「は、はい?」

「あら?ご存じない?昔から騎士が凱旋したときは、陛下から白い花を賜るって決まっているのよ。中でもそのカラーの花は、一部の選ばれた騎士にだけ贈られるの。アレンディオ将軍はいただけて当然だけれど、騎士の誇りでもあるその花を奥様に捧げるなんて本当に素敵だわ!」

「そ、そんな大層なものを私なんぞに……」

今すぐ返品はできるかしら!?

ガクガクと震えながらルードさんを見ると、彼もぽかんとして呆気に取られていた。

文官の私にはよくわからないけれど、妻が受け取っていいものではないと悟る。

「よほど奥様への愛情深い方なのね!あぁ、お二人のお話をもっと聞かせていただきたいわ。今度ぜひ、お茶をしましょう?ね?」

「あはははは、あはは……そうですね、光栄です」

二人の話?

「ある日親に結婚するって紹介されて、7回会ったら離れ離れになりました。以上」こんな短文で済んでしまう関係ですが、何がどうなってこうなったんでしょうね!?

やはり昨日のうちに、離婚申立書を見せておくべきだった……!

アレンディオ様が何を考えているのか、まったくわからない。

そこから先は記憶がなく、どうやって家に帰ったかも記憶が曖昧になるのだった。