軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十話(カイル歴506年:13歳)合同最上位大会② 査閲する者たち

5領地合同競技会の2日前、既に俺にとっての本番は始まっている。

大会関係の対応では、観客の受け入れや対応はミザリーを、大会の運営はクレアを、警備関係はクリストフと傭兵団のキーラさんを、それぞれ責任者として任せている。

兄と俺、 団長(ヴァイスさん) は、ハストブルグ辺境伯と各貴族家当主、王都騎士団長一行を連れて各所を回っている。

ブラッドリー侯爵軍を撃退した、魔境側の関門については、特に興味があった様で、そこの視察は一番に希望されていた。

正直、辺境伯以外には、あまり見せたくはないのだけれど……

「なるほど、隘路から出た敵を、関門の城壁上から一斉射撃で殲滅する訳か!

あれでは逃げ場がないな……」

「そうかっ!

この固定器具があれば、未熟な射手でも確実に、決められた標的に矢を飛ばせる。

クロスボウだからこそ、できる仕組みか!」

「なんと!

この見晴らし台からは、死角となった隘路側から、侵攻する敵軍が丸見えではないか!」

「橋を落とされ、隘路に孤立した所をクロスボウの一斉射撃で殲滅されるか。

敵のこととは言え、空恐ろしいな……」

彼らは関門の上や、見晴台に上り、それぞれの感想や感嘆の声を上げていた。

繰り返すようだが全て、本当は見せたくない。

彼らに悪意がなくても、彼らから悪意ある者に、情報が洩れる恐れも大いにある。

なんとか、回廊の下を走る隠し通路のことや、エランやクレアが対応した魔法を使った戦術、最終兵器の水路を使った水攻めだけは、隠し通せている。

「にしても、合点がいかん。どうやって橋を落とした? どうやって敵を死地に追い込んだ?

600の味方で3,000の敵を討つには、まだ何かが足らん気がしてならん」

この呟きに対して、俺は聞こえないふりをした。

「これ、キリアス! 何でも種明かしを要求するでない。防衛上の機密もあろうて」

「あ、これは、失礼した。余りにも見事な戦果だったので、つい……」

辺境伯の気遣いは非常に助かった。ほんとにいつもこの人に救われる。

「儂の投資を見事に活用して、今回の戦を勝利に導いてくれたのじゃ。わしらは感謝せねばならん。

さすがは、私が見込んだ知恵者じゃて」

辺境伯は微笑みながら満足そうだった。

その後、一行は会場とテイグーンの町を見て回った。

「あの、変わった服を着た一団は何ですかな? 他でも幾度となく見かけましたが」

コーネル男爵が、鮮やかな青地に白のストライプの入った 法被(はっぴ) を着た一団を指さし質問した。

「あれは、揉め事の対処や、案内などの役割を担う者です。

主に住民の自警団が任に当たっております」

そう、法被は幕末に活躍した、新選組の法被をイメージして用意した。

帯刀した兵士が巡回すれば威圧感がありすぎる。

十名一組で巡回する彼らは、傭兵団の精鋭2名を除き、敢えて帯刀していない。

ただ背にクロスボウを背負っているだけだ。

自警団は交代でこの任に当たり、町中だけでなく、関門から内側を、常に複数組が巡回している。

更に夜は、町中や競技会場内を、夜警として交代で巡回している。

もちろん、彼らには相応の臨時報酬を払っている。

法被は誰でも一目でわかるよう、目立つ工夫だ。

この法被、色は違うが似たような物を、今回はお土産としても売っている。

何故か人気で……、飛ぶように売れているらしい。

お土産で売っていると説明したら、ハストブルグ辺境伯の従者が、主人の命で一目散に駆けていった。

え? 辺境伯もお土産に買うのかな?

競技場は、立ち見を含め最大で3,000人を収容できる広さに作った。

空間を有効に使い、貴賓席と有料の席以外は、土を階段状に盛り固め、座る部分に竹材を敷いただけの簡単なものだが。

これまでどおり、基本的に競技会の観覧は無料だが、今回は警備上の観点から、貴賓席に近い場所、見晴らしの良い場所は、それぞれ有料席にした。

しかも貴賓席近くは全て、身元が確認できる者以外には販売しない、これも徹底した。

「道の分岐点で、彼らは何をしているのだ?」

ゴーマン子爵が、ちょうど町に入る道と、競技場(宿場町)側に進む道の分岐点、そこに設けられた臨時受付所と、臨時警備兵詰所、そこに並ぶ人々を指して質問した。

「あちらで、テイグーンの町に入れる者、そうでない者を振り分けています。

今回はご来賓も多く、町の治安も考慮し、町の中の宿を利用できる者も制限しています」

そう、町に入った後で、町では泊まれないと知らされれば、無用のトラブルも起こる。

なので、入る前に振り分けている。

「受付所では、町に入れない者の宿の案内、割り振りなどを行っています。

それと、勝者投票券の発売場所、飲食店の場所を記載した地図を渡したり、テイグーンに移住を希望する方への見学会の受付も行っています。

資格のない方は、町への入場を制限していますが、見学会に参加すれば、町の中を見る事ができます」

「ははは、なるほどな、この競技会を通じて、入植者も募集するわけか。さすが抜け目ないのう」

ゴーマン子爵が笑みを浮かべ、心地よさげに笑った。

「なっ! あのゴーマン卿が……」

それを見て、辺境伯やその他貴族たちが驚いている。

実は……、俺は個人的にゴーマン子爵とかなり仲良くなっていた。

発端は、先の戦役で彼に助けられたことから始まる。

後日、そのお礼を述べに、俺はひとりゴーマン子爵の陣幕を訪ねた。

その際、ゴーマン子爵とは色々と話をした。

傭兵団の件に話が及んだ時、俺は正直に、ゴーマン子爵領で彼らが受けた扱いについて、話した。

武を尊び、強兵で鳴る子爵軍を見て、傭兵団の扱いが不自然過ぎたからだ。

それを受け、後日、傭兵団への対応の件で、ゴーマン子爵はヴァイス団長を訪れ、直接謝罪していた。

「儂の知らぬ所で、卿には大変な迷惑を掛けたと聞いた。改めて謝罪したい」

どうやら、傭兵団の件だけでなく、蕪や難民対応などの件、それら全てが彼の配下、暴走したゴーマン家の家宰や一部の者の独断だったらしい。

特に家宰は、後見となる、どこかの伯爵家から送り込まれていたため、子爵自身が手を焼いていたそうだ。

彼らに端を発する悪政や悪い噂と、ゴーマン子爵自身が自他ともに認める、仏頂面と、そのとっつきにくい性格と不器用さで、彼はいつも孤独だった。

水害の際、子爵の指示を無視した結果、村に被害を出した家宰を更迭できたこと、それがゴーマン子爵家にとって、大いなる転機になったそうだ。

その時の俺の情報は、二重の意味で子爵にとって有難かったらしい。

王都で論功行賞の際、今回の5領地合同競技会が決まり、俺はゴーマン子爵にあるお願いをしていた。

彼が発掘した音魔法士を、可能なら今回の大会に連れて来て欲しい、そして音魔法を活用した運営に協力して欲しい、そう願っていた。

そして子爵は約束通り、彼女達を連れ、この大会に参加してくれていた。

正直いって、未だに父を始め、各貴族の当主たちはゴーマン子爵が苦手な様子だった。

ゴーマン子爵自身、彼らに対してはいつも通りの平常運転、仏頂面と不器用からくる傲然とした態度は変わらなかった。

その中で唯一、俺とは仲が良く、会話も自然だった。

まだ開催前だが、至る所で露店が立ち並び、過去の大会を遥かに凌ぐ、賑わいをみせていた。

俺は、今回の開催にあたって、テイグーンの領民にもいくつか布告を出した。

商才のある者は商機として、そうでない者も臨時収入の機会として、協力を依頼していた。

・運営に携わる臨時要員の募集

・領民であれば誰でも露店を開設することが可能

・露店開設は申請と場所代の支払いが必要

・特例として、有償で捕虜を人手として募集可能

(※要行政府の審査)

そのため、運営要員として働くもの、露店を開設するもの、その人手として捕虜の求人を出すものなど、それぞれが大会開催の恩恵を享受している。

捕虜達も、臨時の求人窓口が設けられ、希望者は有償で働く事が許可された。

多くの捕虜たちが、この臨時求人で、自らも参加し、お祭りを体験することになった。

こうして、競技会は始まる前から大いに賑わい、関門などの防御施設だけでなく、町の取り組みなどでも、視察に訪れた者たちを驚かせることになった。

一仕事終えて安堵した俺は、次の日から、新しい騒動の種に、振り回されることになる。

新しいフラグというものは、油断した時に立つのは何故だろうか……