軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十三話:サザンゲート防衛戦②(開戦1日目)搦手の奇策

「あれがゴートがやられた弓箭兵か、なかなかやるではないか」

緒戦で手痛い敗北を負った第一皇子に動揺はなかった。

「では大軍の利を生かし、奴らを消耗させてやろう。

数の力、数の差というものを思い知らせてやる!」

グリフォニア帝国軍は新たな指示のもと動き出した。

「 団長(ヴァイス) 、次はどんな手で来ると思う?」

後退する敵を眺め、父と団長は次の策を講じている。

「そうですね、私であれば大軍の利を生かし、交代して夜通し夜襲を行い、守備兵を消耗させます。

それと、砦の左右に伏兵を置き、増援に来た援軍を各個撃破するでしょうね」

「その対策は?」

「交代の夜襲であれば、兵力も多くないでしょう。こちらも部隊を3つに分け、交代で休息します。

夜であれば、コーネル男爵家の地魔法士に仕込んでもらった仕掛けが役にたつことでしょう。

ただ、ダレクさまとクランは、2交代で頑張ってもらうため、少し負担を強いることになりますが……」

「二人には私から話しておく」

「援軍に関しては、王都方面に連絡兵を置き、援軍はこちらの指示で動いてもらう他ないように思います」

「その件は私から辺境伯にお伝えしておこう」

こうして日が暮れ、辺りが夜の帳に包まれていく。

「ガラガラガラッ!」

金属を底に置いた簡易警報機が闇の中で音を出す。

すかさず駆け付けた兄(又はクラン)が光魔法を発動、音が鳴ったと思われる場所を明るく照射する。

目が暗闇に慣れた敵兵は、突然目も眩む明るい光に視力を奪われ、戸惑い立ち尽くす。

「今だっ!各自、三連斉射!」

光と同時に、彼らの所に約300本の矢が飛んでくる。

しかも間髪入れず、2の矢、3の矢が彼らを襲う。

城壁の上では交代で休息している為、常にソリス男爵軍、第二子弟騎士団あわせ300名を超える当直兵が、臨戦態勢で待機している。

そして休息している兵の武器は、当直の兵がまとめて持っている。つまり、一人当たり3台のエストールボウ(又はクロスボウ)を使用していた。

夜襲部隊は、夜通し音の罠で発見され、まるでサーチライトを浴びるかのように照射され、間髪入れず3斉射、900本の矢の雨に見舞われた。

城壁の南側を襲うため、潜伏してきた兵たちは、何度も手痛い被害を被り、撤退を繰り返した。

この仕掛け、コーネル男爵家の地魔法士たちが砦を取り巻くように、3重に、細いが深い溝を作っていた。

溝の周りには小石がまかれ、暗闇で溝に気付かず足を取られる者、溝に落ちなくても、小石の落下で警報の音を出してしまう者が続出し、暗闇の中でも夜襲部隊の行動が露見してしまっている。

まぁ金属片が足らない部分は、緒戦で遺棄された楯や武具も流用させてもらい、罠を充実させていた。

驚くべきことに、夜襲の対応では、キリアス子爵軍、ゴーマン子爵軍、コーネル男爵軍も、南壁の守備軍ほどではないにしろ、それなりの戦果を上げていた。

ってか、彼らの部隊もみんなクロスボウを持っていた。

俺だけでなく、父も兄もそれに一番驚いていた。

サザンゲート殲滅戦後、無償供与したコーネル男爵は別として、子爵の2人は、第一回最上位大会に来賓としてソリス男爵領を訪れ、実物をつぶさに見分していた。

その時に感じるものがあったようで、見よう見真似で自領内で制作していたようだ。

ハストブルグ辺境伯の婿であるキリアス子爵は、辺境伯から技術供与されたんじゃないかと思う。

多分……。

しかも3人とも明るいうちから、音の罠がある地点に試射を行い、狙いにアタリを付けていたみたいだ。事前に俺たちが行っていた、試射の様子もしっかり見られていたからだと思う。

コーネル男爵の情報によれば、ゴーマン子爵は今回、音魔法士を2名従軍させ、その特化した耳で、音が鳴った場所を的確に把握、攻撃に繋げていた。

まるで潜水艦のソナーマンさながらの活用だ。

音魔法士が敵の位置を示す番号を告げ、兵たちはその場所が示す暗闇に、射撃を集中させていたそうだ。

単なる見よう見真似ではない、防衛戦に新しい発想を取り入れていたことに驚かされた。

にしても、ゴーマン子爵領に音魔法士って居たんだっけ?

後日分かって驚愕したのは、彼らは俺が思いもよらぬ手法で、音魔法に適性が有る者を割り出していた。ただ、その時の俺には、まだ知る由もなかったが。

翌朝になり、第一皇子は朝から不愉快な報告を受けることとなった。

「夜襲部隊が1,000名近い損害を出しただと! 一体どういうことだっ!」

第一皇子は怒りに震えていた。

「南側を攻撃した部隊は特に、そして西側の城壁を襲った部隊でも、大きな損害が出ております。東側でもそれなりに……」

恐縮しながら参謀は答えた。

「忌々しい奴らめっ! これでは当初の予定通り例の案を発動するしかないではないかっ!」

彼は3倍を超える兵力で、敵を蹂躙できなかったことに激しい怒りを覚えたが、それならばじっくり構え、予定通りの作戦を実施し、敵軍を動揺させた上で存分に叩きのめそう、そう気を取り直した。

「ブラッドリー侯爵と、アストレイ伯爵を呼べっ」

第一皇子の怒りのとばっちりを受けないよう、従卒は急いで天幕から飛び出していった。

急遽呼び出された侯爵と伯爵は、急ぎ第一皇子のもとに参じた。

「例の作戦、それぞれの担当地域でこれより開始する。穴倉に潜む忌々しい奴らの留守を荒らせ」

「はっ!」

「ブラッドリー侯爵は貴下3,000を率い、左から攻めあがり、奴らの巣を蹂躙しろっ!」

「畏まりましてございます」

「アストレイ伯爵、旗下の2,000を以て、国境周辺の農村を荒らせ。それで奴らは浮足立つ」

「承知しました。奴らに目にもの見せてやります」

「ブラッドリー、貴様の軍は危険地帯を長駆することになる。騎馬部隊を中心に軽装歩兵での対応、心しておけよ」

「はっ! 編成は既に済ませておりますゆえ」

「我々には不慣れな危険地帯だ。案内人も用意してある。途中で合流し対処せよ。

では直ちに出立せよ。それぞれの地域では両名の切り取り放題とする。捕虜はいらん。

存分にやれ!」

「はっ!」

「御意っ!」

二人は早速出陣の準備を整えるため、戻っていった。

「砦に籠り首を潜めている間に、自らの妻子が暮らす領地を荒らされ、奴らはどう対処するであろうな」

第一皇子は不敵な笑みを浮かべ、彼らの狼狽する姿を想像し顔に笑みを浮かべていた。

「伏兵として、砦の西側に伏せているゴート辺境伯にも使いを出せ。いよいよ始まる、とな。

そして、旗下の戦力で砦を出入りする奴らを血祭りにあげよ。そう伝えるがよい」

奴も積年の恨みをこれで晴らせるであろう。

そうすれば奴も失地回復し、帝国内での彼我の勢力も再び逆転する。

「これからが戦の本番だ! 奴らは軍を引こうにも引けず、砦に釘付けとなり我らの餌となる。

国境一帯を私が押さえ、その戦果で以て、目障りな第三皇子を蹴落とせば、次は帝国軍全軍でカイル王国を征服してやる。私は征服者として帝国の歴史に名を残す皇帝となるだろうて」

第一皇子は想像の中で、皇帝として君臨する未来の自身の姿を思い描き、上機嫌で杯を掲げた。

そして、帝国軍の陣営から、密かに5,000の軍勢が消えた。

サザンゲートの砦からは、その様子を把握することもできずにいた。

こうして、開戦2日目が始まった。