軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十九話(カイル歴505年:12歳)テイグーン争乱:襲撃

夏が過ぎ、テイグーンの町に実りの秋が訪れた。

まだ空き地や建設中の場所も多いが、それなりに町の体裁は整いつつある。

これまでと違い、試験農場や空地を利用した農地からも、それなりに収穫もあったため、テイグーンの町では収穫祭が行われる事となった。

今日は前夜祭、町はちょっとしたお祭り気分に包まれていた。

「今テイグーンの町はお祭り騒ぎだな。俺たちの仲間が町の中に紛れ込んでも、誰も気付きやしないさ」

関門を超え、荷駄の人足に扮した怪しげな一団の中、ひときわ体躯のいい、獰猛な目をした男が呟いた。

「最も手強い傭兵団の連中も、殆どが魔境に出払っている今こそ狙い時だ」

隣にいた男も舌なめずりをしながら、徐々に見えてきた町の入り口を眺めている。

「なんでも、祭りの最終日に、魔境で狩った魔物を捧げ、ここは今後も安全だと示すらしいですぜ。

奴ら、今頃は魔境で魔物の相手で夢中でしょうよ」

先行して町に潜入していた者が合流して報告する。

「ここら辺で最も景気のいい町だ、きっと宝の山だ」

最初につぶやいた、首領格の男が、彼らを鼓舞する。

バルトが不在の間、備蓄自体は十分にあったが、急遽決まった収穫祭に使用する食料、大量の酒などは、フランの町から仕入れていた。

そのため、今は荷馬車や荷駄の隊列が続々とテイグーンの町へと続いている。

期間労働者の割合が非常に高く、しかもその多くが力自慢の工事人足の為、テイグーンの町では、こういった物騒な輩が紛れ込んでも目立たない。

魔境に入る狩人達も、一般の狩人とは異なり、自らの命を危険に晒してまで狩りに出る連中だ。

見た目の印象は荒くれ者と大差ない、そんな人々もここテイグーンには多い。

そのため、荷駄を押しているこの一行も、簡単なチェックの後、無事町の正門を通過し中に侵入できた。

「にしても、この酒樽の一部に武器が入ってることなど、気付きもしなかったな」

「奴らも祭りで浮かれていやがる、酒がなけりゃ祭りも盛り上がらねぇってもんよ」

「今、町にいるのは兵隊や警備兵、傭兵も含めてせいぜい50人程度、数では俺たちは倍の人数だ、きっと簡単な仕事に違いねぇ」

彼らは仕事前から、今回の襲撃成功を確信していた。

「ほう、まだ建設途中だが、それなりに豊かそうだな」

「奪う物が沢山あって最高ですなっ」

「夜になれば前夜祭で人も集まり住民は浮かれ出す」

「祭りに人が集まれば、他はガラ空きになる」

「楽な仕事でさぁ」

「狙いは先ずは領主の館だ、先ずはそこを襲い、たんまり金貨をいただき火をかける」

「奴らが慌てた隙に手薄になった商品取引所を襲う」

「取り合えず頂くものを頂いたら、さっさとヒヨリミ領に入り、こことはおさらばだ」

「俺たち全員が何年掛かっても使い切れないほどの金貨が間もなく手に入るんだぜ」

「あーっ!夜まで待ち遠しいや。娼館でも行くか」

「馬鹿野郎っ!足がついたらどうするんだ」

「女なんざ帰りがけの駄賃で、かっ 攫(さら) えばいいんだ」

物騒な会話をする怪しい一団が、ギラついた目で町を物色する姿も、祭り前の喧騒にかき消されていった。

そして夜になった。

町の中央広場では、前夜祭がちょうど始まり賑やかな喧騒が領主館分館まで届いてくる。

その音と闇にまぎれ、密かに駐屯兵詰所に近づく一団があった。

「ここは人目に付く、右手の奥の空き地から進め」

大通り沿いに進むと、通りの左手に駐屯兵詰所、その奥に練兵所、右手は駐屯兵の宿泊施設、その更に右奥は、今後増設できる余地として現在は空き地だ。

空き地は町の区画から一段上った所にあり、臨時で土を盛った土壁がある。彼らはこの土壁を上り、さらに先、一段上の農業試験場まで登っていく。

「なんだ、これは!」

農業試験場と領主館分館を区切る位置には、幅10メル(≒m)の深い空堀があった。辺りは暗闇に包まれ、その深さは全くわからない。

「縄梯子を下ろせっ、こんな面倒くさいもの作りやがって」

やっとの事で空堀を降りると、今度は堀を上るだけでなく、立派な石造りの城壁がそびえたっている。

空堀の底から見れば、堀の深さも足して15メルにもなる城壁が、果てしなく高く見える。

「この下からだと、上まで縄も梯子も届きませんぜ」

「この堀を伝って、正面の門まで移動する、そこから橋をよじ登れば上に出られる」

一行は、闇を縫って空堀を移動し、正門にある橋の袂まで来ると、橋をよじ登り正門付近で身を隠す。

その後、巡回する警備の合間を縫って、持ってきた梯子や縄を使って正門脇から、壁をよじ登り始めた。

通常であれば、正門前には常時警備の者がいる。

ただ、今夜は可能な限り祭りに参加させること、祭りの警備で人手が割かれていたため常駐する者はなく、定期的に警備兵が巡回するだけだった。

先頭で壁をよじ登っていた盗賊のひとりが、城壁の頂上に手をかけた瞬間……

「うわあぁぁぁっ!」

大きな叫び声と、石が崩れる轟音とともに落下した。

彼らの不運の始まりだった。

実は城壁の最上部、壁の一番外側の部分には、賊対策の仕掛けが施してあった。

人の体重程度の大きな力がかかれば、その部分だけは簡単に崩れ落ちるように工夫されていた。

不幸な一番乗りは、その仕掛けに見事に引っかかった。

「敵襲!」

大きな掛け声と、響き渡る笛の音、領主館分館から兵士と魔法士が、巡回していた警備兵が慌ただしく集まり、駐屯兵詰所からも人が駆け付け始めた。

「仕方ねぇ、気づかれてもこっちが人数は多いんだ、血祭りにあげてゆっくりお宝を頂くとしようや!」

首領らしき者の一喝で、盗賊たちは我に返り、集団で兵士たちに襲い掛かり始めた。

最初の段階で駐屯兵詰め所から駆けつけることができた兵士は15名程度。領主館分館の正門には5名の警備が集まったに過ぎない。

「打ち減らされるなっ、左右の者と連携し防御しつつ受け流せっ」

多勢に無勢を悟った指揮官は、じりじりと後退しつつ全員が防御に徹する。

彼らは他の駐屯兵、傭兵団が駆けつける時間を稼ぐことに専念した。

ただ、盗賊たちに周囲を取り囲まれつつある現状で、このまま全滅するのも時間の問題と思われた。

「不埒者っ! タクヒールさまの治めるテイグーンの町で狼藉は許しませんっ」

良く通る若い女性の声が、城壁の上から発せられた。

「火炎障壁!」

火魔法士(クレア) が、魔法士戦闘訓練で磨き上げた、火炎の障壁を警備兵と盗賊たちの間に展開させた。

目的は警備兵を守ることだったが、不運な盗賊の一部は足元から出現した火の壁に包まれ、絶叫し火だるまになりながら転げまわる。

またある者は、勢い余って火の障壁に突っ込み、大火傷を負い、戦闘不能になっていった。

クレアの凄まじい怒りっぷりは半端ではない。

展開される火の壁は一分の容赦もなかった。

「火魔法だと? 何故こんな所に魔法士が……」

盗賊たちは突然の魔法士の出現に狼狽した。

彼らが知る由もない。ソリス男爵家が抱える魔法士は地魔法士と風魔法士以外は当然秘匿されていた。

「我らはテイグーンの町を守護するもの。貴様らのような者が土足で踏み込んで良い場所ではない」

火の障壁であたりが明るくなったことで、寸分違わぬ正確な射撃が飛んでくる。

城壁上からの打ち下ろしで、この距離ならクリストフの弓から逃れる術はない。

領主館分館では、バルト、クラン、ローザ、ミアを除く6名が交代で居残り、警備にあたっていた。

にしても……、一番火力の高い二人がいる時に襲ってくるとは……、彼らも運がなかった。