軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五十五話(カイル歴516年:23歳)物騒な新婚旅行③ 五か国列強同盟

サラームでの夜を過ごした翌日、俺は朝から船上で半分死んだように横たわっていた。

なんせ昨日、というか今朝がたまで祝杯は続いたし、フラフラの状態で馬にしがみ付いて船着き場まで辿り着いた状態だったからね。

俺以外、各国のお歴々は割と平然としていたけどさ、あんたらどんだけ酒が強いんだよ!

思わずそんな愚痴をこぼしそうになった。

「暇を持て余させてしまって済まんな、下りは良いが上りは風次第でな。思うに任せないこともあって時間が掛かるからな」

いや、クリューゲル王よ、それは違う。

俺は暇を持て余しているのではなく、二日酔いと睡眠不足でやられて無気力でいるだけだ。

しかも往路は岸辺と一定距離を保ってほぼ真っすぐに進んでいたが、復路は何度も方向を変えてジグザグに進むもんだから揺れも多いし……。

「皆さんの肝臓の強さには驚かされますよ。肝が太いだけではなく酒にも強いのだと……」

「カンゾウ?」

あ、そうだった。向こうの世界では常識だが、こちらの世界では肝臓がアルコールを分解しているなんて知識は無いんだよな……。

「それは置いておくとして、目的地まではどれぐらい掛かるですか?」

「ははは、我が友は待ちきれないようだな。風次第だが……、三日から四日というところか?」

それも違うぞ。待ちきれないのではなく、どれだけ休めるかを気にしているだけだ。

ただ三日から四日となると所要時間は倍程度、軍が陸路を移動するのに近いか?

陸路と違いただ寝ていても到着できるのと、夜間の停止や定期的に休憩を取る手間はないしな。

「おや、もう次の作戦を練っているのか? 俺たちも是非加わりたいものだな」

そう言って話し掛けてきたのは帝国皇帝、そして彼の後ろにはクラージュ王が立っていた。

さっきまで二人は、グリフォニア帝国とリュート・ヴィレ=カイン王国、双方で国境を接する国の対応を話していたと思ったが……。

結局のところ往路と等しく、全員が同じ船に乗り込んでいるしさ。

唯一の違いはカイル王国を代表した兄は、王都にて報告があるらしく泣く泣くサラームからカイラール目指して戻って行ったことだけだ。

「国境の件は話がまとまったので?」

「いやな……。以前なら互いに領地を接していたので、共通の砦を築くこともできたのだが、連携には難点もあってな」

グラート皇帝は少し言い辛そうに言ったが、多分それは俺のせいだな。

本来なら両国が接していた領域は、旧カイン王国領の一部を割譲されたため今は魔境公国領となり、ファルムス辺境伯に与えているからな。

いや……、待てよ? そこに共通の防衛拠点を設けるのはどうだ?

各国が互いに軍を出して多国籍軍として駐留するのもアリだが、先ずはその前段の情報か?

「因みに議題となっているラコニア共和国ですが、脅威となる恐れがあるのですか?」

「基本的に帝国はこれまでがこれまでだからな。周辺国で敵と見ていなかったのはエラル騎士王国だけで他は全て侵略対象の仮想敵国だったからな」

確かに騎士王国は大部分の土地が農耕に適さず、唯一の主要産業が人(傭兵派遣)という特殊な傭兵国家だからな。国土を占領しても何の旨味もないため、却って友好関係が成立していたのだろう。

「我々の場合、旧カイン王国はそれなりに上手くやっていたようです。いざとなれば傭兵として兵を借りる条約もあったようですし。もっともそれは、王国が借りると言うよりは商人たちが、ですが」

なるほどな、今や三国は新しい王の下で統一されたし、カイン王国を牛耳っていた商人たちは冷や飯を食わされている。そうなると友好的であり得るはずがない。

「国力はどうなんですか?」

実のところ俺自身、新たに国境を接することとなったラコニア共和国については多少は調べている。

基本的にはカイル王国と同じ専守防衛を旨とはしているが、国の構成は大きく異なる。王はいるが貴族はおらず、傑出した力を持つ者が騎士に選出され『力の強いものが正義』という世界らしい。

「あの国はそもそも国民皆兵の国で、全ての国民に想像を絶する試練が課され、強き者だけが兵士に、弱者については市民権さえ与えられず奴隷階級に落とされる。そのため兵は、その中でも騎士となる者に至っては隔絶した強さを誇っているらしい」

戦士以外は市民でもないというのは、まるで俺の知る古代国家スパルタのようだな。

ならば兵個人の能力はずば抜けて高いと言わざるを得ない。

「私もグラート皇帝と同じような話を聞きました。騎士や市民としての称号も一代限りで、常に強い者が入れ替わり、出自が奴隷であっても強ければ騎士となって優遇されると」

やばいな、そこまで格付けが明確な国ならば、誰もが死に物狂いで武技を磨くだろう。

勝つためではない、ただ生きるために……。

「彼らの兵力は? どういった戦術で戦うのでしょうか?」

「私もカイン王国出身の兵に聞いたのですが、正式に兵士の身分を勝ち得た者は一万程度ですが、その地位を狙う予備軍は三倍程度いるそうです。そうなると総勢では四万は超えるかと。得意とする戦術は大楯と短槍を装備した重装歩兵による肉弾戦とのことです」

それってファランクス戦術か?

ならば弱点もあるはずだし、史実として無敵を誇った最強のスパルタ軍ですら敗れているぞ。

「過去の戦いでは専守防衛を旨とし、彼らの戦いに有利な戦場を選んで戦ったそうだ。帝国でも数代前の皇位継承候補が攻め込んだが、数に劣る彼らにこっぴどく敗退したそうだ。それによって帝国の外征先は他国へと移ったらしい」

「専守防衛ならば、此方から手を出さなければ安泰ではないですか?」

「それよ、先ほどもクラージュ王とも話していたのだが、どうやら気になることが二点あってな」

「というと?」

「帝国内での反乱で、グロリアス親派の一部勢力がどうやらラコニア共和国に逃げ込んだらしい。

兵数については不明だが、実際問題として帝国内から一万に近い兵が消えている。全てが向かったとは思えぬが……」

「カイン王国もそうです。イストリア正統教国軍に王都を落とされた際に助けを求めて落ち延びた者、その後の三か国統一を良しとしない者など、それらの者が率いる兵ごと消えております。それを合計すると五千前後、今も彼らは所在不明となっております」

ちっ、戦後のどさくさに紛れて最大で一万五千もの兵が消えた訳か?

その半数でもラコニア共和国に逃げ込んでいたとすると侮れない数だよな。その数だけでも国境を守るファルムス辺境伯軍だけでは対処しきれない。

「因みに二点目の懸念点とは?」

「はい、最近になって我が国で実施された入札で、情報を商品の付加価値に提供してきた商人が居たのですが、彼らによると大量のクロスボウを国を挙げて増産体制に入っており、国民全員にその浸透を図っていると……」

げっ! 俺のやったことを丸パクリかよ!

しかも国民皆兵、力こそ正義の国家が、国を挙げて取り組んでいるとなると……、末恐ろしいな。

四万もの弓箭兵から一斉射撃を受けるなど、考えただけでも寒気がするぞ。

「どうやら彼らは、北部戦線と南部戦線で比類なき強さを見せ、諸国連合軍に圧倒的勝利を収めた英傑のいる国の軍に倣ったらしいな」

それって俺のせいか?

同じく帝国の脅威を受け続けた国として、その事例を積極的に取り入れたとか?

まさか俺の行動が新たな脅威を生んだとは皮肉としか言いようがないが……。

「もう一度話は戻りますが、様々な脅威はあったとしても、彼の国は専守防衛を旨としているんですよね?」

「公王の指摘は正しい。先代の王までは、であるが」

先代だと? 俺の知る情報から代替わりしたのか?

そんな話は聞いていないが……。

「実はこの機会にグラート陛下と話をさせていただいたのも、サラームを出る前にゴルパ将軍が送った早馬の知らせが届いたからです」

「それには何と?」

「ラコニア共和国で王が代替わりしたようです。それを告げる使者が訪れた際、『カイン王国は兼ねてより我が国と友誼を結び盟約関係にあった国である。カイン王国では我らを支持する者たちも多く、王国の再建は我らにお任せ願いたい。後の二国はお任せする故、早々に退去されたし』と告げて行ったと」

何だそれは? そもそもが無茶苦茶な理論じゃねぇか!

旧カイン王国王家の血を引くアリシア女王が統一王国の女王として即位しているというのに何を言っているんだ?

それに支持する者たちって……、悪辣な大商人たちのことじゃないのか?

奴らもまだ諦めていないのか? ストーカー並みに 性質(たち) が悪いぞ!

「なら我らも相応の準備と警戒をすべきですね。俺も彼らが返還を要求する当事者のひとりですし」

かかる事態であればファルムス辺境伯だけでは荷が重いよな。

俺は最初に浮かんだ案を更に発展させ、実現に向けて動くと心に決めた。

「私からの提案があります。賛否はともかく、先ずは皆さんの忌憚のない意見をお聞かせ願いたい。

内容は主に二つ」

「おおっ、機略縦横の我が友は何か良案を思い付いたようだな?」

いや……、さっきから敢えてスルーしていたけどさ、英傑とか機略縦横とか。言われた方が恥ずかしくなる話だからな。

それはさておき。

「ひとつ、魔境公国内、かつてはジャーク伯爵領だった一角に新たな防御拠点を構築します。もちろん仮想敵国の戦術に対応したものを。そしてここからが重要ですが、そこに多国籍軍の駐屯地を作ります」

そう、先ずはファランクス戦術には、地形を弄って障害物やアップダウンを作って弱点を露呈させるよう対処すればいい。

弓箭兵の対策もしっかりとした防壁と狭間などを備えた反撃手段を用意し、長射程のバリスタをハリネズミのように配備する。今もソリス辺境伯領に配備するものを増産中だし、取り急ぎ流用させてもらう。

「公王陛下の仰る多国籍軍とは?」

「クラージュ王、その名の通りですよ。差し当たりグリフォニア帝国軍とリュート・ヴィレ=カイン王国軍、魔境公国が兵を出し、合同で作戦行動を行う軍です。三か国で兵を持ち寄れば一国当たりの負担も少なく、逆に敵からは脅威となります」

「ふむ、帝国としては願ってもない話だな」

「ちなみに箱は我が国で用意しますので、兵士や駐留経費は各国の負担としていただけると……」

「その案には一つだけ問題があるな」

え? フェアラート公国として何が問題あるのだ。

「三か国軍ではなく四か国軍だ。近衛師団からも出させてもらうぞ。願ってもない交流の場となるし、兵たちにも良い刺激となるだろう。それに戦いともなれば魔法兵団は役に立つのではないか?」

いや、それは願ってもない話だけどさ。

公国としてそれで良いのか?

「わ、私もからも言わせてください! まだ問題があります!」

ってかこのじゃじゃ馬め。話が軍事に及んだ途端、いつの間にか参加しているじゃないか!

さっき迄はアリシア女王と仲良く話していたと思ったのに……。

「今の私からすれば越権行為になりますが、カイル王国も是非それに参加さてください。このままでは益々出遅れてしまいます」

だけどさ、それで良いのか?

事前に王国側の判断を仰ぐ必要があるのではないか?

「分かりました。それでは帰国後に私から王国には確認を取ります。ひとたび公国に嫁がれた以上、クラリス公妃は王国の政治判断と無関係でいるのが筋でしょうからね」

「分かりました……」

「で友よ、二つ目は何だ?」

「これまでは身内の中での友誼でしたが、そろそろ五か国同盟として諸外国にも公式発表するべきかと。

主に内容は、同盟国同士の間で結ぶのは、防衛戦に限定した安全保障、経済協力、権益承認、災害時の相互扶助など項目ごとに内容を精査し、それらを明記した条約を締結し、諸外国に向けて発表するのです」

「ははは、それでは他国は迂闊に我らに手出しできなくなるな」

「クリューゲル王の仰る通りです。それに加え経済面では共同開発や関税面での相互優遇などが盛り込まれ、建設中が進む新国境の特区における権益も同盟国間で有する形になります」

そう、特区の街の権益だけではない。あのルートを通る通行料も同盟国が認定したそれぞれの商人であれば無料だが、認定を受けていない商人や、それ以外の国に属する商人は有償とするなど、ね。

しかも共同で資金を供出し、研究機関や災害支援部隊を維持することも面白いと思う。もちろん災害時の物資融通や支援金なども事前に投資して積み立てる……、いや、それすらファンドにしてしまうのも面白いか?

その後も質疑応答は続いたが、基本ラインは維持されたまま船中にて草案はまとまった。

これが後に、諸外国から『五か国列強同盟』と呼ばれるものとなるのだが、その記念すべき第一歩だった。

「では折角各国の元首が集まっているのだ。この場で取りまとめた同盟締結書は、フェアリーにて用意させるとしよう。それを各国で調印するのはどうだ?」

「帝国は依存ない。むしろ願ってもない話だな」

「我らも是非!」

ここで俺に対し縋るような視線が送られていたが、もちろん分かっているさ。

俺は彼女に笑顔を向けて頷いた。

「大丈夫ですよ。カイル王国には私が行って調印してもらいますから。それで五か国全部揃うことになりますしね。ただ……、ことは急いだ方が良いでしょう。今回は南東の魔境での狩りは延期……」

「ふむ、そちらも急いで片付けるしかないな」

「そのために我らは来たのだからな。帝国では手に入らない貴重な素材だ、この機会を逃す手はなかろう」

「我らもゴルパ将軍が目を光らせております。幸い正統教国は北へと矛先を向けており、我らも防備を整えた上で主力は南に回しておりますので……」

「それはもちろん別腹ですわ。このような機会、滅多にありませんもの」

ちっ、そっちはそっちで行くのかよ!

仕方のない方々だよな……。

一通り話を終えた後、俺は戦々恐々としたラファールを呼び出し、彼に特命を与えた。

別に酒の相伴を命じるすもりじゃなかったからね。

彼には先行してクサナギに戻ってもらい、途中の国境ではエランと合流して現地調査に向かってもらう。

現地ではファルムス辺境伯に俺の内意を伝える役目も担ってもらい、同時に団長には同地域の警戒態勢の発令と魔境騎士団の部隊派遣を、団長はそのままクサナギで推移を見守ってもらいよう手配した。

カイル王国への対応はちょっと手間だが、今や魔境公国は国土の規模では王国と同等近くになったけど、根っこは同じだからね。俺自身が対応するのが筋だろう。

にしてもさ、いつになったら俺は落ち着けるんだ?

そう考えて俺は大きなため息を吐いた。

だがこの時の俺は何も知らなかった。

情勢の変化はそれ以外にも起きていたことを、そしてカイル王国側の深刻な悩みも……。

事態は俺の予想を超えて、再び動き始めようとしていた。