軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五十二話(カイル歴516年:23歳)華燭の典⑤ 似たもの同士

思った以上の強敵の出現に対し、宴席の参加者の反応は様々だった。

割と落ち着いて前向きに話していたのは二組。

「ジークハルト、今回は魔法士を何人連れてきているのだ? 水魔法士と雷魔法士は必須だと思うが?」

「そうですね。因みに今回は全員連れてきていますよ。なんせ魔境で初めての立ち回りです、公王陛下の魔法士の動きを学ばせる良い機会と思っていましたからね」

ってかさ、そんな企みも抱いていたのか?

相変わらず抜け目がないというか何というか……。

「剣は一切通じないとのことだが、魔境での戦闘経験が豊富なダレク卿はどう思われる?」

「そうですね、剣は無理でも戦斧なら……、これまでも公国では狩って数を抑えていたことも事実です。

きっとどこかに急所はあるように思えます」

「なるほどな、我らは今回、最新の移動式のバリスタを十基ほど持って来ているのだが、至近距離なら戦斧以上の攻撃力がある。俊敏な赤虎にも一斉攻撃で逃げ場を無くせば……」

「ははは、それは面白いですね。それにここには、毎回何か面白いことを考え付く人もいますしね」

いや……、面白くはないよ。

ってかさ、クラージュ王はいつの間にそんな物騒な物を準備して来たんだ? やる気満々じゃないか!

兄は兄で俺頼りかよ! そんなもの考えて来なかったぞ。

そして真っ青になって震えていたのは対面の二人……。

「ダメだ……、そんな危険な目に姫様を……、あれほど陛下に言い含められていたと言うのに……」

「どうしてこの方々は……、ここまで申し上げても……」

ゴウラス騎士団長とフレイム侯爵は、ただブツブツと呟きながら頭を抱えていた。

その時だった。

「では新たなお酒をお注ぎいたしますね」

「!!!」

俺は対面側に座り真っ青な顔になって酒を一気に飲み干していたゴウラス騎士団長、その傍らで給仕に付いていた女性を見て固まった。

『なんでここに居るんだよ!』

俺が唖然として無言の抗議を上げようとした際、彼女はそっと口元に指を立てた。

嫌な予感がしたので周囲を改めて見渡すと、無言で酒を注いで回ろうとしている、妙に体格の良い給仕も……。

『アンタもかよ!』

俺は以前に一度、初めて特使としてフェアラート公国を訪れたとき、フェアリーで最後の夜に身内だけで行われた宴に、給仕として紛れ込んでいた男のことを思い出した。

「くっ、何としてもお止めせねば……、あの じ(・) ゃ(・) じ(・) ゃ(・) 馬(・) はもう一国の王女という軽い身分ではないのだ。

両国の友好を結ぶ絆となる公妃、なのに……。いや、酒は結構だ! 酒どころではないわ!」

「仰る通りですね。毎度のことながら陛下の酔狂にも困ったものです。少しは自重いただきたいですな。

我が国の未来を担うお二方だけに留まらず、皇帝陛下や公王陛下に国王陛下、万が一のことがあれば近隣諸国の未来、やっと訪れた平和すら失われてしま……、これ、私は酒などいらぬわ! 控えておれ!」

ははは、隣同士で座る家臣の二人がフラグを立てちゃったよ。

俺もちょっと先ほど『弄られた』件もあるし、彼らの悪ノリに乗ってみようかな。

「所で今回は兄さんにもまんまとしてやられましたよ。大方あの『じゃじゃ馬』に丸め込まれて、国王陛下と狸爺の前で一芝居打ったでしょう? 俺に悪役を押し付けるとは酷いじゃないですか」

もちろんこれは新年の宴で聞いた、『俺たちがじゃじゃ馬を魔境の狩りに招待した』という事実無根の出来事だ。

どうせ『狩りに行きたい者同士』が、裏で手を握ったに違いない。

そういう意味では兄もまた自由人なんだけどさ。

「いやな……、ここだけの席だから言うけど、『アレ』は相当なタマだぞ。あそこまで酷いとは思ってもみなかったよ」

そう言って苦笑したあと、兄は更に小声で言葉を続けた。

「国境で合流して以降、サラームでは花嫁行列の途中にも関わらず勝手に鎧を着て抜け出し、魔境に行くと言って騒ぎ出したしな。それだけじゃないぞ、止めた俺には『実力を見せて安心させてあげますわ』と言っては、何度も剣の対戦を挑んでくる始末でな……」

「それで? 王国でも随一の腕前を持ち、剣聖である兄さんは『じゃじゃ馬』に身の程を教えてあげたのですか?」

「そんなことできるかよ! 倒すのはいいが、対戦で花嫁に傷でも付けたら飛んでもない話だからな、断るのに苦労したよ。お前ぐらいしか御すことができない相当な『じゃじゃ馬』だと改めて思い知らされたよ。ホント、生まれてくる性別を間違えたんじゃないか?」

ご愁傷さまです。これまでも色々と苦労したんですね。

そしてこの後も含めて……。

そろそろ止めた方がいいかな? 酒のせいで兄も若干声が大きくなっており、じゃじゃ馬にもしっかり聞こえているようだしね。

これ以上苦労話が進むと、以前の俺みたいに大変なことになるからね。

「そういうことです。家臣の皆さんは心配されていますよ。酒が喉を通らないほどに、ね。

って言うか、なんでここに居るんですか! お二人にとって大事な『初夜』でしょうが!」

俺は敢えて前半は冷静に、後半は声を荒げて二人に言い放った。

「「「「「「!!!」」」」」」

俺以外の六人は全員が固まっていたけどさ、俺が帰った時にミザリーが何か困った顔をしていたのも、ヨルティアが何かを伝えようとしていたのも、ユーカのサロン……、と言った言葉も、これで全て納得がいった。

どうせ二人は彼女たちに口止めでもしていたのだろう。

「なぁぁぁぁっ!」

「そ……、そんな、またですか!」

「タ、タク……、公王陛下、知って(いたな)!」

まんまと騙されていた三人は、もちろん大きな声を上げて今度は違う意味で震えていた。

いつもなら国王の無茶に血相を変えて随行していた筈のフレイム侯爵も、今回は俺たちに付きっ切りだったしね。

ゴウラス騎士団長や兄は、じゃじゃ馬が学園で俺にやった『あの事』を知る由もないしさ。

「知りませんよ、俺もさっき気付いたばかりですからね。そもそも俺自身もお二人から、過去に各々違う場面で同様のことがあり、酷く驚かされた経験がありますので」

ホント、二人は互いに出会う前から似たようなことをしてくれた、言わば似た者同士だからね。

本人はちょっとした好奇心や悪戯心、感謝の気持ちだったようだけどさ、受けた方はたまったものではない。

「フフフ、私たち抜きで魔境の話で盛り上がると聞いて、黙っていられませんわ」

「私も帝都では皇帝より酒を給仕してもらったからな、せめてこの場はそのお礼にと……」

「「「「「「……」」」」」」

「それにしても騎士団長、私の注いだお酒が要らないのですね?」

「あっ、いや、それは……、ありがたく……」

「も、申し訳ありませんでしたぁ!」

「ふふふ、やはりご兄弟ですね。兄も弟と同じく……、色々とご迷惑をお掛けしたようで、私も反省しているところです。本当ですよ」

「にしてもフレイム、今は酒どころではないのか? 折角楽しんでもらおうと思ったのだがな」

「い、いえ……、そんなことは……」

「さて、酒の席での趣向もこれで終わりですよ。ここからは本来の参加者を交え、真剣に作戦を練らないとダメですからね。『初夜』の件はもう恨みごとを言われても受け付けませんよ」

俺の言葉を受けても、二人は平然と笑っていたけどさ……。

ある意味で二人とも『戦闘狂』だから、そっちが優先なのか?

それとも二人はまさか、既に『昨日はお楽しみでしたね』イベントを……?

「タク……、公王陛下! 仰りたいことは分かりますが、顔に出ていますよ!」

俺は兄から言われて気付いた。

晴れて今日で公妃となったクラリス殿下が、俺をジト目で見ていることに……。

それからはもちろん、二人も加わり九人で対応策を議論することになった。

もちろん、酒を交えて……。

実のところ各国の王や皇帝が長期間国を離れられないこともあり、二か所の魔境を回るという強行軍もあってスケジュールはかなり厳しい。

・明日の朝にはフェアリーを出発して北のサラームへ船で移動(船中泊)

・翌日は 北東(みず) の魔境へ日帰りで出たのちにサラームで一泊

・そして今度は二日掛けて陸路をフェアリーへと移動し、そこで一泊

・その翌日には早朝より南東の魔境に向かい、一泊二日で狩りを行う

予定を並べただけでも分かる、飛んでもない強行軍だからだ。

時間の制約があるからこそ二人も今日、この場にやって来たと言うのが本当の理由かもしれない。

そして翌日……、二日酔いのなかで俺たちは船でサラームへと旅立った。