軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十二話(カイル歴515年:22歳)反抗の始まり

ゴルパ将軍から献策された反抗作戦の第一段階は『敵戦力の 漸減(ぜんげん) 』だった。

その意図は明白だった。

偵察によって少なくとも二万以上と確認された敵軍に対し遠征軍は一万七千と数の不利は拭えない。

野戦ならまだしも攻城戦となると圧倒的に不利となってしまう。

まして守備で真価を発揮するロングボウ兵に対し、力攻めは下策であり甚大な被害を被ってしまう。

そのため将軍は、まずは少数の軍が囮となって敵軍を王都から釣り出し、有利な地形で待ち伏せた部隊による奇襲で各個撃破を目論んでいた。

作戦に則り俺たちも合流地点に到着した翌日、誘い出した敵軍を罠に嵌めるための準備に掛かっていた。

作戦の前提に沿いつつ『俺たち流』の追加要素を加えるためだ。

その間にも将軍が放った元カイン王国兵の間諜からの情報が続々と入って来た。

その中で聞いた見慣れぬ部隊名に、俺は事情を知るであろうグレンに尋ねた。

「俺はよく知らないのだけどは、イストリア皇王国(正統教国)の聖教騎士団って聞いたことがあるかい?」

元は皇王国軍ロングボウ兵部隊の大隊長であった彼なら、何か知っているかと考えたからだ。

これまで俺たちは幾度も皇王国の軍勢と対峙していたが、聞きなれない軍団の名に頭を傾げていた。

そもそもイストリア皇王国(正統教国)の兵はロングボウ兵と重装歩兵が中心で、騎兵も全て軽装騎兵だったはずだ。

だが、カイン王国を占拠した部隊には相当数の重装騎兵がおり、彼らは聖教騎士団と名乗っているとの報告を受けたからだ。

この質問に対し、グレンは明らかに表情を変えた。

「はい……、奴らのことなら良く知っております。いや、我らの中では知らぬ者はいないでしょう。

彼の国では唯一の重装騎兵部隊ですが、奴らは前線に出ることがまず有りません。皇王直属の護衛軍として常にイスラに留まっておりましたので……」

「となると王都騎士団に似た、皇王国の精鋭部隊ってこと?」

その質問にグレンは大きく首を振った。

そして吐き捨てるように言葉を続けた。

「弱者に対しては精強です。教会の権威を笠に着た狂信者で構成され、残忍で高圧的な者たちばかりです。

飢えた獣のような奴らですが前線で戦った経験もなく、猛り狂うだけの猪武者ばかりです」

「なら戦うにあたって遠慮する必要はないと?」

そう言うとグレンは、明らかに意味ありげな笑みを浮かべて大きく頷いた。

「我らロングボウ兵部隊で奴らに良い感情を抱いている者は一人もおりません。これだけは断言できます」

なるほど、そういうことか……。

上がってきた報告と一致するな。

「報告によると奴らは仕える主を変えたらしい。カイン王国に侵攻した正統教国軍のなかに、そういった者たちが混じっており、今も占領した王都で白昼堂々と略奪や暴行などを行い、暴虐の限りを尽くしているそうだ」

言葉は抑えたが、カイン王国の王都では聞くに堪えないような非道も行われているらしい。

そんな俺の言葉に対しグレンは『さもあらん』とばかりに顔を歪めていた。

「お願い申し上げます、同胞の恥は是非我らの手で!」

「分かった。数に劣る俺達にはあまり余裕がない。味方の犠牲を抑えるためにも、彼らに関しては捕らえるより殲滅を優先して対処するつもりなので、力を貸してほしい」

そう言った俺の言葉に、グレンは力強く何度も頷いていた。

そして翌日……。

俺と団長は国境を抜ける山越えの街道、その山頂部分に生い茂る木々の合間に偽装して設けた指揮所に上り、作戦の成り行きを見守っていた。

この街道を下ってカイン王国の王都までは直線距離にして約十キル程度だが、勾配のきつい坂道の街道は荷駄の輸送に不向きとされ、利用価値も低く平素からあまり使われていない間道だと説明を受けていた。

そのためか敵の哨戒網からも外れていたらしく、ゴルパ将軍はこの街道を決戦場に選んでいた。

「敵軍が動き出しました! 王都から重装騎兵が出てきます!」

その声に応じ、俺は携帯していた望遠鏡を覗き込んだ。

ゴルパ将軍が予想した通り、挑発のためこちらが出した騎兵に対し正統教国側も騎兵を出して来た。

しかも追撃して来たのは重装騎兵のようで、おそらくあれが聖教騎士団だろう。

「味方は予定の行動に入りました! 敵軍、およそ六千前後が追撃しております!」

「では待機している味方にだけ見えるよう、戦闘準備の黄旗を揚げよ!」

ゴルパ将軍が直々に率いた軽装騎兵部隊二千は、三倍以上の敵軍に怯えるように慌てふためいた様子で後退を始めた。

「ははは、慌てて後退して混乱する演技も堂に入っているな。あれでは敵も騙されるだろうな」

推移を見て思わず俺は笑ってしまった。

これまでの戦場で団長が敵軍を誘導する様を見てきたが、将軍の動きもそれに通じるものがあった。

ギリギリ届きそうで届かない距離を保ちつつ、本来なら脚の速さで勝るはずの味方が混乱しているため同じ速度で逃げ惑っていた。

敵の重装騎兵は目の前で逃げ惑う獲物を前に、猛り狂って追撃を継続している。

そしてその追撃は……、国境を越える街道に差し掛かり始めていた。

「味方にZ旗を揚げよ! まもなく会敵だ、一兵残らず殲滅する!」

国境の低い山並みを縫って広がる街道は、山頂を超えてヴィレ王国側に入ると急な下り坂となる。

追撃する者からすれば一気に視界が開け、逆落としにも近い下り坂に入ると道幅は大きく左右に広がるように見えるだろう。

「敵軍が左右に展開! 道幅いっぱいに広がり追撃しています!

攻撃開始を伝えますか?」

既に敵の中軍までが坂道の頂点を超えていたが、なんせ六千近い数だ。まだ半数近くは街道の上り坂を上っている。

「不要だ、最初の攻撃は団長に一任してあるし、今動き出せば敵の後続を取り逃がす。

俺たちも我慢のしどころだ。長槍部隊は射撃準備のまま待機!」

そして……、敵軍の最後尾が下り坂に差し掛かったころ、先頭では一気に変化が起きた。

下り坂に入っても隊列を広げず、むしろ整然と縦列を維持したまま逃げるゴルパ将軍の部隊に対し、両翼を広げて追撃していた聖教騎士団の重装騎兵部隊は一気に空を舞った。

「左右から挟み込み押し潰せっぇぇぇぇえ?」

「んなぁっっっっ!」

「罠だぁぁぁっ!」

敵軍が逃げる街道の中央以外に大きく広がっていた聖教騎士団たちの前から、一気に地面が失われたからだ。

人馬は一瞬だけ宙を駆けたのち、密かに掘り下げられていた空堀に落下し、激しく大地と抱擁した。

「とっ、止まれっっっっ!」

「く、来るなっ!」

「ちゅ、中央にっ、がぁっっ!」

横幅で百メル近く広がった街道は、中央の三十メル部分を除き左右には深い空堀が掘られていた。

しかも落ち込んだ部分の手前は少し盛り上がる形で巧みに段差をつけられていたため、追撃していた者たちは近くに進むまで、そこに空堀があることに気付かなかった。

まして街道は数千の騎馬が走り抜け、濛々たる砂塵に包まれていたから猶更だ。

そして、気付いたとしても逆落としで下ってきた勢いはそう簡単には止められない。

追撃に疲れた騎馬も無理な制動に対し転倒するものが相次ぎ、それが更に後続を巻き込む凄惨な光景が繰り返されていった。

運良く難を逃れ空堀のある危険地帯で停滞していた聖教騎士団に更なる手が襲った。

街道の両脇には塹壕が掘られており、その中に二千名の兵たちがエストールボウを構えて待ち受けていたからだ。

「てっ、敵の伏兵がぁっ!」

「後退! 後退しろっ!」

「下がれっ! 下がらんかっ!」

射程百メルの距離から二千本もの矢で一斉射撃を受けた彼らは大混乱に陥った。

唯一残された安全な退路には後続からも兵が殺到しており、引くに引けない状態で密集していた彼らは、ただの的になるだけだった。

一方、幸いにもゴルパ将軍の部隊の真後ろを追撃していた者たちは、最初の難は逃れることができた。

だが……、彼らにも等しく不幸は襲った。

「敵の誘い込みは成った! これより反撃に移る。

祖国を蹂躙された思い、ここにて晴らすぞ!

全軍、突撃っ!」

ゴルパ将軍率いる二千名の囮部隊は左右に展開し、各々が円を描いて彼らに殺到した。

味方の多くが空堀によって遮断され、今度は圧倒的に少数となった聖教騎士団の追撃部隊は、狭い退路も後続によって塞がれ、突出した者たちが次々と討たれていった……。

俺は指揮所より戦場の推移を見て、更に畳み掛けるべく指示を出した。

「左右の森に潜むロングボウ兵(千八百)と残りの弓箭兵(八千)に下命! 攻撃に参加して奴らを殲滅しろ!

山頂部分には逃げれないように綱を張れ!」

何が起こったか訳も分からず坂道の途中で留まっていた、聖教騎士団の中軍と後続にも森の中から一斉に矢の嵐が襲った。

このタイミングで街道がヴィレ王国側に下り始めた場所には、予め地中に埋まっていた幾本もの綱が引き絞られ、その両端が木々に結びつけられて後方への撤退を塞いだ。

「長槍部隊だけは所定の作戦通り、カイン王国側に逃げる敵兵を左右から殲滅せよ。先ずは最後尾で戦況を確認していた部隊に一斉射撃用意、撃て!」

俺の指示で鐘がかき鳴らされると、未だカイン王国側の上り坂で距離を取って戦況を確認していた部隊を、風魔法士との連携で射程六百メルを誇る長槍の攻撃が襲った。

飛翔する槍の如く猛烈な勢いの弓矢が彼らを襲い、左右からの十字砲火を受けて人馬もろとも吹き飛んだ。

「以後、長槍部隊はカイン王国側へ逃亡する敵軍の掃討に専念せよ、一兵たりとも逃がすな!」

その後も街道のヴィレ王国側とカイン王国側、双方で激しい矢の攻撃は続き、僅かな時間で出撃してきた六千騎の聖教騎士団は壊滅した。

この日、ヴィレ王国側の街道は彼らの流した血で赤く染まった……。