軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百十五話(カイル歴515年:22歳)整った条件

全体共有会議のあと、俺たちは捕虜引見に臨んだ。

ちなみに引見に参加しているのは、現時点で子爵相当以上の爵位を持つ者に限らせてもらった。

なので引見会場には俺を中心に左側にはゴーマン侯爵、ソリス侯爵、ファルムス伯爵、ボールド子爵が順に座り、右側にはシュルツ軍団長(子爵相当待遇)、ヴァイス団長(子爵)、 ソリス子爵(アレクシス) が座った。

「では引見を始めようか」

俺の言葉で先ずは二人の降将が護衛の兵によって会場内に導かれてきた。

彼らは捕虜といっても自らの意思で降った者、名誉を尊重して対応すべき将であり、待遇も礼節に則った形で案内されていた。

そしてアレクシスが立ち上がると、彼らを紹介した。

「公王陛下に申し上げます、先にご案内した方がリュート王国第一王子のクラージユ殿下、そしてヴィレ王国のゴルパ将軍にございます」

紹介された二人は落ち着いた様子で深々と頭を下げた。

なるほどね……。

卑屈になることなく堂々とし、しかも既に覚悟を決めた面構えだ。

二人とも立ち振る舞いだけで、ひとかどの人物と思える雰囲気を漂わせていた。

リュート王国第一王子は王族というよりは偉丈夫で威厳のある風格を備えた武人の雰囲気を漂わせており、なんとなくだが雰囲気はフェアラート公国のクリューゲル陛下に通ずるものがあった。

片やヴィレ王国ゴルパ将軍は、既に壮年から老境に入った年齢にもかかわらず背筋は伸び、未だ衰えを見せない立派な体躯を保った歴戦の老将と言った感じで、風格すら感じる。

「先ずはお二人に礼を申し上げたい。

お二人の勇気ある決断により貴国と我が国の将兵、失われるはずだった多くの命が救われたこと、私も感謝している」

そう言って俺は頭を下げた。

正直言って戦力を保持したまま、兵士たちの命を 慮(おもんばか) って降伏するなんて簡単にできることではない。

「なんと!」

「いえ、我らは……」

もちろん本来なら詫びる側の立場にあった二人は言葉を詰まらせ、一様に驚いた様子だった。

まぁ……、そりゃぁ驚くよね。いきなり冒頭で勝利者側の王が頭を下げたのだから。

もちろん俺は王といっても、言ってみれば『なんちゃって』の王に過ぎないし、体面とか形式とかには無頓着だし気にもかけていないからね。

それになんとなく、彼らを一目見ただけで礼を以て対応すべき、そう思わせる雰囲気があったからだ。

「取り乱して失礼いたしました。我らこそ敗残の身を公王陛下にお預けいたします。我らの処罰は存分に、ですが兵たちにはどうか寛大な処分をお願いいたします」

事前にアレクシスから話は聞いていたが、そう言った第一王子も言ってみれば王族として『らしくない』感じだな。

もちろんいい意味で、だけど。なんとなく親近感を感じる。

「此方こそ改めてお礼申し上げます。

我らに対し過分なお気遣いを賜われたことで、先に逝った仲間たちにも良い土産話ができました。

この首では足らぬとは思いますが、どうか兵たちは身の立つように寛大な処分をお願い申し上げます」

清々しく笑うゴルパ将軍も覚悟を決めている感じだな。

二人とも武人として尊敬できる有能な敵手、かつてジークハルトに感じた思いとは方向性は異なるが、敵でありながら何かを感じさせる者たちであった。

『クリューゲル陛下の参戦がなければ、最終局面で二人が構築した戦術により、我々は敗北していたでしょう』

事前の打ち合わせでアレクシスはそう言い切っていたが、それも分かる気がした。

優秀な将というのはどの国にも居るものだ。

その者たちが『持てる力』を発揮できる場を与えられるかどうか、それは別の話だけどね。

「ははは、既に我らの 留守部隊総司令官(アレクシス) よりも聞かれていることと思いますが、その様な気遣いは無用です。

お二方には立場に相応しい名誉ある対応をさせていただきます。将兵たちも復興には協力してもらいますが、虐げるつもりはありません。

いずれは捕虜返還などで故国へ帰れる道も探っていきましょう」

俺がそう言うと二人は再び頭を深く下げた。

そして顔を上げると初めて、媚びる様子のない清々しい笑顔を見せた。

「公王陛下のご温情には感謝に堪えません。

リュート王国にも『マツヤマ』の噂は届いておりましたが、我らも今、日々驚きと共に身を以て体験しております」

「感謝を、心より感謝申し上げます。公王陛下のご恩情に縋らせていただき、我らは命を長らえておりますが、改めて兵たちに代わりお礼申し上げます」

「では挨拶も終わったことだし、本題に移りたいと思う。

お二方にも席を用意してもらえるかい?」

「「???」」

再び二人は驚いた様子だったが、俺にとってはここからが本題だ。

これから俺の話す言葉に、彼らがどう反応するかが『前段となる条件』に響いてくるからね。

戸惑いながらも勧められた席に座った二人を、俺は改めて見つめた。

「これからお二人には酷なお話をしなくてはならない。そのため覚悟を持って聞いてほしい。

諸国を扇動し戦乱の元凶となった 暴軍(イストリア) が、今はお二人の故国を蹂躙し両国の王都は陥落したとの報告が入った」

「く……」

「なんと……」

二人とも苦悶の表情を浮かべ下を向いた。

言いたいことはあっても必死に耐えているようだ。

「これについてはお二人には思うところも多々あるだろう。私はこの事実を隠すこともできたが、後日を考え敢えてお伝えすることにした。話したいことがあれば遠慮なく言ってほしい」

「今更のお話ですが……、私もゴルパ将軍も平時に乱を起こすような今回の出兵には反対の立場にありました。

ですが結果的に我らも他国を侵し踏みにじった身です。これも因果応報なのでしょう」

「誠に口惜しい話ではありますがクラージユ殿下のお言葉通り、我らにそれを 謗(そし) ることはできません。

ただ……、兵たちには酷な話ではありますが、これも我ら二人がこの先で背負うべき業なのでしょう」

「意地の悪い話ではあるが、『あの時降伏しなければ』とは思われなかったのかな?」

「正直申し上げると、無理に撤退を進めたとしても我らは全滅に近い被害を受け、仮に撤退できたとしても、二万の敵に抗するだけの兵力は残らず、結果として祖国は踏みにじられたでしょう」

「クラージュ殿下の仰る通りです。ただ我らは、将たる者の責任として、兵たちに改めて詫びねばならんと思います。公王陛下より預けていただいた我ら両名の首を以て……」

これは満足すべき、いや……、想像した以上の回答だな。

俺は自信を持って次の段階に踏み込むことにした。

「立派なご見識と覚悟かと。そう言っていただいたお二方には私も本心でお話ししたい。

本来なら他国の出来事、まして交戦中の敵国、今回の顛末も我らにとっては与り知らぬことです。

この機に乗じ、我らが立場を返し復讐戦を挑み侵攻することも、我が国の流儀に反します」

これは事実であり事実ではない。

本来なら自業自得、又は対岸の火事で済む話だが、これに『闇の使徒』が関わっているとなると事は単純ではなくなる。

俺たちにも責任の一端はあるし、奴らを掃討する動機はある。

「ですが我らは戦後を見据え、新に盟友となる国を支援することは可能だと思います。

敢えて失礼な表現をすれば、戦争責任を負うべき二国の王家は滅んだと言って差し支えないでしょう。こうしている間にカイン王国もおそらく……」

俺たちにとって最悪のストーリーは、三国がイストリア正統教国に併合されることだ。

強大な敵国が新たに誕生することだけは絶対に避けたい。

帝国の意向は不明だが、第三皇子の考えは南部戦線でも明らかであり、誅伐のため帝国軍が逆侵攻して完全併合する意思は無いと考えて良いだろう。

俺も第三皇子も、この時点で荒廃した国を新たに併合しても、支える余力・人材・兵力にも事欠くことになる。

「帝国の意向もあるため、今は口約束でしかない前提の話だけどさ、お二人に故国を解放する意思があるかな?

それを望まれるなら、我々が支援することは可能だと考えています」

「それは! もちろんですが……」

「我らにとって願ってもない話ですが……」

二人は俺の言葉が突拍子過ぎて、信じられないといった表情で戸惑いを隠せない様子だった。

まぁ……、それも当然だとは思うけどね。

「ただそれも茨の道だと言わざるを得ない話ですよ。

第一に、前提として国を代表する者から正式に『国土を解放するための助力』を要請されることが必要です。

第二に、仮に首尾よく国土を解放できたとしても、各国は領土の割譲などで旧領を維持することは不可能です。

第三に、国を解放した後には、戦後賠償や国土解放に対する対価の支払いを背負うことになる」

そう、捕虜を返還するにも『対価』を支払う国が存在していなければ絵空事になってしまう。

俺たちの助力によって解放された国は、その後は敗戦国としての負債を背負うことになるのだから。

「私たちが手を差し伸べたとしても、それは決して善意だけに拠るものではありません。国として責任を果たしてもらうために支援する。形としてはそうなるでしょうね。ただそれでも……」

「お話はよく分かります。ただそれでも……、イストリア正統教国の暴虐な支配から故国を救える。

そうなると思います。彼らの占領地でのやり方を見ていれば、祖国の民たちがどういった扱いを受けるかは火を見るより明らかです」

うん、この第一王子の言葉で、最初の関門はクリアしたみたいだな。

では次に第二関門の話題に移るか。

「それではクラージユ殿下、王族に生まれた者として、その業を背負われる覚悟はありますか?

ゴルパ将軍、将として殿下を最後まで支え続ける覚悟はありますか?」

「公王陛下、こんな申し出が許されるのであれば、一時的に捕虜となった将兵をお預けいただけますか?

もちろん奴らを掃討したのち、再び我らは捕虜として舞い戻り、罪を償わせていただきます」

「私は既に死を覚悟した者です。老い先短いこの命、叶うのであればクラージユ殿下を支え、共に業を背負っていきたいと思っています」

その言葉を受け、俺は居並ぶ諸将を見渡した。

誰もが俺の意見に賛成してくれているようで、全員が黙って頷いてくれた。

「では議論は決した! 我らはお二人を支援する兵を出し、イストリア正統教国を三国から蹴散らす!

これによって奴らに苦しめられている民たちを解放する!」

「「「「「応っ!」」」」」

予想外の果断即決で事態が展開したことに、二人は呆然とした様子だったが、我に帰ると跪き、深く頭を下げ続けていた。

「このご恩、終生我が身に刻み付けます……」

「感謝を、深く感謝申し上げます……」

「ではお二人はそのまま私の右側の列に加わっていただく。さて、改めて捕虜の引見を行う!

奴を引き立てろっ!」

ここで俺は、初めて捕虜という言葉を使った。

予めアレクシスからは報告を受けていたが、どうやら次は不快な面会となることだろう。

俺はその覚悟を固めるためにも、自身の中でスイッチを切り替えていた。

もちろん二人の降将は、俺の言葉と態度の変化に少し驚きの表情を浮かべていたけどね。

俺たちにとって必要な前提条件は満たしたし、この先は俺にとっても余録に過ぎない。

俺は着座のまま足を組み、轟然と胸を逸らして引き連れられる者を見下ろしていた。