軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百一話(カイル歴515年:22歳)南部戦線⑰ 二人の皇子

俺の指示で各員が所定の位置に付き、準備完了の旗がそれぞれの魔導砲から挙がった。

それを受け俺は、本陣から発射待機を告げる旗を三旗 掲(かか) げさせた。

それを見た第三皇子は、大きな漏斗状のものを幾つも結わえた拡声器のような物の前に立ち、傍らの女性に目配せした。

「なかなか趣向を凝らした見世物ではあったが、どうやら貴様では役不足のようだな。

そうは思わんか?」

第三皇子から発せられた言葉は音魔法士によって拡声され、砦に立てこもる兵たちは一斉に応じて鬨の声を上げた。

その声の大きさと士気の高さに、使者は一瞬たじろいだ。

「なっ、なんだと! どこが見世物だというのだ!」

「先ほど自身が言い放った口上に対し、沸き起こった笑い声は聞こえていたであろう?

それとも自身の声が大き過ぎて、使者殿は耳が遠くなっているのか?」

「ぶっ、無礼なっ!」

「役者の演技が余りにも酷過ぎて、本来であれば畏まるところが笑いとなるのだ。いや、そもそもこの脚本が酷すぎると言わざるを得ないな」

「何だと! 次期皇帝陛下となられるお方の仰せに対し、拠るべき主もない捨て犬風情が何を言うか!」

口上を述べに来た使者は顔を真っ赤にして激高しているようだった。

なんか……、面白くなってきたな。

このやり取りを受けて、口上を述べた使者以外にも激高している者がいた。

「おいっ! どういうことだ!

あ奴の口上が一方的に愚弄されているではないかっ! なぜ無礼者の言葉が我が陣まで届くのだ!」

このとき 第一皇子(グロリアス) は、砦から600メル離れた距離に布陣した自軍の最前列で陣取っていた。

自ら策を弄し送った使者に対する、砦側の反応を見定めるために……。

だがそれは、予期せぬ方向に進みだしていた。

本来ならば僅か二万で頑強に抵抗する第三皇子の臣下に手を焼く状況に対し、ハーリーの献策を容れて七万の圧倒的大軍で包囲し、砦を丸裸にできる力を見せつけた上で、帝国の権威を見せつけて降伏を勧告する心積もりだった。

そのために偽の勅命まで用意していたのだ。

「どうやら奴らには、音魔法士が随伴しているようで……。敵側の声が届く理由はそこにあるかと」

「くっ、この私を愚弄するかっ、帝国で至尊の存在となる私を……」

そう言っている間にも、砦からの言葉は彼の陣営にも響き渡っていた。

『先ほど貴様が言っておった勅命も偽物であろう? 皇帝陛下の威を借るグロリアスの妄想は、いささか度が過ぎて腹にもたれるとは思わんか?』

「おいっ、どういうことだ! こうも一方的に声が響けば、奴に理があるように聞こえるではないか!

あの無礼者をなんとかしろっ、軍を進めて矢を放ち無礼な口を縫い付けてやれ!」

「殿下、それは無理です。ここから砦までは600メルもあります。我らの矢は……、届きません」

「では兵を前進させよ! 魔法士どもを前に出せっ、さっさとあの無礼者の口を封じて参れっ!」

この言葉に応じ、第一皇子率いる帝国軍は少しだけ前進した。あくまでも砦からの射程ぎりぎりの距離まで……。

「ははは、俺の声が分からぬ程度の使いっ走りだからこそ、恥ずかしげもなく馬鹿げた口上を堂々と言えたのだ。俺には到底そんな恥ずかしい真似はできんな」

「降伏を勧告する使者に対し、貴様は礼すら弁えんのか!」

「貴様程度の小物に対する礼など俺は知らん。

グロリアスよ、言いたいことがあるなら兵たちの陰に隠れておらず自身で堂々と口上を述べに来たらどうだ? 俺たちはお前と違い使者に対して攻撃を加えるような阿呆ではないぞ」

「貴様こそどの口で殿下を蔑ろにするのだ! 分を弁えぬか!」

「はっはっは、貴様の言う『分』とは何だ? そう言えば先ほど貴様は中々面白い事を言っていたな。

いつ俺は、戦場の露となったのだ? 全く覚えがないぞ」

「なんだとっ! まさか貴様、そんな……」

「先ほど貴様は皇族に対する無礼を咎めておったが、振り返って自身はどうなのだ?

皇族であり帝位継承者の俺と対等に話ができると思っているのか? 無礼者が!

貴様程度では役不足ゆえ出なおして来い!」

「おいっ、どういうことだ!

先ほどから違和感があったが、あれは 奴(グラート) の声ではないかっ! 奴は何故生きているのだ!」

「我々もスーラ公国からは確かに討ち取ったと……」

「あの場に居るではないか!」

ここに至り 第一皇子(グロリアス) は大いに焦った。 第三皇子(グラート) が生きているとなると、そもそもの前提が大きく狂ってしまう。

そんななか、使者では役不足とされたのか、 第三皇子(グラート) の声は直接自身に向けられ始めていた。

「グロリアスよ、聞いているのであろう?

お前には俺が誰であるか分かるだろう。この声を忘れたとは言わせんぞ。

ハーリー始め幕僚共や親衛軍の中でも俺の声に聞き覚えのある者はいるだろう?

言いたいことがあれば、兵たちの後ろに隠れてばかりおらず、堂々と前に出てきたらどうだ?」

「くっ……」

「そういえば妄想癖以外に、お前は小心者だったな。

俺は対話に出てきた相手を討つような卑怯者ではないぞ。攻撃はせんので安心して前に出てくるがよかろう。俺がその気なら、お前たちなどとうに死んでおるわ」

「はったりだ! そんなことができる訳がない!」

いくら大声で否定しようと、人が本来持つ声量には限界がある。

グロリアスの声は空しく周りだけに響き、三万人もの兵士たちの殆どが 第三皇子(グラート) の声しか届いていなかった。

「どうせお前のことだ。『はったりだ』とでも言って虚勢を張っているのだろうな。

だが現実はお前の考えているほど生易しくはないぞ」

「……」

見事に言い当てられた 第一皇子(グロリアス) は押し黙るしかなかった。

そして……、更に追い打ちするかのように声が響き渡った。

「今グロリアスの元に集った帝国兵に告げる。貴様らの中には帝国防衛のためと聞かされてここまで来た者もいるだろう。だが現実はどうだ?」

確かに一部の帝国兵たちは疑念を感じていた。

そもそも国土防衛の大義名分で招集されていたが、ここに来て明らかに状況は異なっている。

「予め兵たちには自分たちの罪状を知る権利があるだろう。

グロリアスは帝国領を売り渡すことで、既に定まった皇位継承を覆そうと企む売国の徒であり反逆者だ」

「な……、何を言うか! 痴れ者めが」

もはや第一皇子は、短くそう反論するしかできなくなっていた。

第三皇子の語る言葉が、すべて事実であるからだ。

「この話を聞いたお前は、怒りに顔を赤くして、いや、真実を告げられ青くなって焦っているだろうな。

そうでない者が何故ここで侵略してきたスーラ公国軍と協調し、同じ帝国軍を攻めようとするのだ?

何故俺の治めるエンデを攻撃し奪い取るのだ?

次期皇帝に反旗を翻したグロリアスに同調する者は、全てが反逆者として処断されるであろう」

「ええいっ、奴の世迷言など聞くなっ! 我らはここで勝利し、余が皇帝となるのだ!

それで全ての決着が着く」

そう言って第一皇子は騎馬を走らせながら兵士たちに対し叫んで回った。

だが兵士たちの中にも、それを冷ややかな目で見つめていた者たちもいた。

その者たちは、誤った事実を聞かされていたからだ。

・第三皇子は戦いに敗れて戦死し、第一皇子が皇位継承者となった

・帝国はスーラ公国と和睦を結ぶと決したにも関わらず、第三皇子の残党は命令を聞かず暴挙に及んでいる

・皇帝陛下の勅命により決まった和議を蔑ろにする反逆者を処断せねばならない

「今俺は苦渋の決断をせねばならない。

兵士たちよ、俺は次期皇帝の立場にある者として、反逆者とその一党を処断せねばならない。

今の俺には諸君ら反乱軍を全滅させるだけの力がある。

だが、偽りの情報を聞き反逆者の軍に参加した者たちには、道を正す機会を与えたい」

そう言って第三皇子は一拍の間を取ると、右手を大きく掲げた。

それを見た俺は、直ちに反応した。

「魔導砲、一番より順次発射用意!」

俺の言葉に応じ、掲げていた全ての旗の色が変わった。

「これは俺の言葉を示すもの、帝国皇帝たる身の威を示すための警告だ。

帝国に変わらぬ忠誠を誓う者は恩赦を与え、今回の罪を無かったことにしてやる。

その意を示す者たちは、その場で武器を捨てて無防備のまま前進せよ」

第三皇子はそう言った直後、大きく手を振り下ろした。

「今だっ! 魔導砲一番、用意……、撃て! 続いて二番、用意……、撃て! 次三番、用意……、撃て!」

俺の号令に従い、数百の金属球が風を切って飛翔していった。

全てを薙ぎ払い、そして大地に深い爪痕を残すために……。