軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百九十九話(カイル歴515年:22歳)南部戦線⑮ 待ち望まれていたもの

未明の天変地異にも似た攻撃で大きく陣を乱したスーラ公国軍も、日が昇るころになるとやっと指揮系統を取り戻し、ビックブリッジ砦の南西に陣を引いて再布陣していた。

昨夜まで勝利を確信し、もはや戦勝気分に浸っていた彼らの表情は大きく変わっていた。

その状況を苦々しく思いつつも、戦場でスーラ公国軍を指揮する立場にあった二人の将軍は、この先をどう戦うべきかについて議論していた。

「どうだ? 兵たちの動揺は落ち着いたのか?」

「そうだな、あれは単なるこけ脅しに過ぎん。光と音は凄まじいが、光は夜しか効果を発揮せんだろうし、音は慣れてしまえばどうしたものでもないわっ」

「そうだな。騎馬は慣れるまでに時間がかかるだろうが、見た目は派手だが火もさほどではない。

直撃でもない限り多少の火傷を負う程度であり、投石機の攻撃よりも直接の被害は遥かに少ないのだからな」

彼らの言う通り、運用したタクヒール自身もこれが『初見殺し』に過ぎないことを分かっていた。

深夜の眠っている時間の奇襲だったからこそ、初見で大きな効果を出したに過ぎない。

「で、どうだ? 敵の状況は?」

「どうやら先に包囲網が解けた時点で、二千名程度の弓箭兵が密かに砦を出て隠れていたようだ。

奴らは攻撃ののち、再び砦に逃げ込んだようだ。その様子を確認した者がいるからな」

深夜で見通しが悪く、司令部すら混乱し兵たちは恐慌状態に陥っていたなか、彼らは正確な情報を掴むことはできなかった。

ただ、北側に伏兵の弓箭兵がいたこと。

夜が明けて現場に残されていた矢の数が二千本相当であったこと。

北側の隠し通路に明かりが灯され、敵軍がそれを使って砦に後退したこと。

事実として分かっているのは、ただそれだけだった。

「で、どうするのだ? 北側の兵は二千名以上が死傷して使い物にならんからな。多少の負傷兵を含めても八千がやっと、そんなところだが……」

「その多くが逃げ惑っている間に転倒し、勝手に負傷したというではないかっ! 腹立たしいことよ。

で、追撃に出た部隊からの連絡はないのか?」

「ああ、どこを夢中で追っているのか……、先ほど我らに合流するよう伝令を走らせたところだ。

二万の敵が立てこもる砦に対し我が軍は四万足らず。攻城戦では心もとないからな」

「確かに……、な。後は新手に主攻を命じ、我らは南と西に布陣して包囲を固めるとしようか。

孤立無援の籠城ゆえ、いずれ落ちることは分かっていても、じれったい話ではあるがな」

「ほう? 新手といいうと……、奴が出てくるのか?」

「ああ、先ほど出していた使者が帰って来たわ。奴め、我らが裏切り者を輪に加えた非を糾弾し、陣を引き新たな賠償を求めると言って脅した結果、大慌てでエンデを出立したようだ」

「ではその三万、働きに期待し我らは傍観するとしようか。そのうち派遣した一万の騎兵も戻るであろう」

そう語る二人の将の認識は、幾つかの部分で致命的にずれがあった。

第一に、彼らの放った追撃軍は既に手痛い被害を受け、敗残兵は南へと潰走していること。

第二に、あり得ない距離を密かに走破した、一万騎の援軍が到着していること。

第三に、討ったと思った第三皇子は健在で、五千騎と共に合流していること。

それらの結果、第三皇子側も大きく勢力を伸ばし、砦に立てこもる兵力は三万七千にもなっており、実のところ今の彼らに匹敵する数になっている。

だが、タクヒールらが巧妙に立ち回った結果、それは彼らの知るところではなかった。

一方ビックブリッジ砦でも、今後の対応を検討する軍議が行われていた。

前回と比べ帝国軍の幕僚たちの表情は明るく、気負った様子が一切なかった。

そこで幾つかの攻勢案が出されたが、タクヒールはそれらに否定的な様子だった。

「どうやらタクヒール殿は攻勢に反対のようだな? しばらくこのまま籠城し静観すべきと?」

「殿下、私は攻勢自体には反対しておりませんが、今しばらくは時期を待つべきだと考えています。

我らはギリギリのところを踏みとどまっているよう見せかけ、今少し敵軍を集める必要があるでしょう」

「それでは包囲が厚くなり我々は更に不利になる、そういった意見もあったが?」

「別に厚くなっても、それを破ればよいだけのこと。むしろ厚くさせるために待つべきだと。

そもそも敵軍にとってこの砦は、落ちそうで落ちない忌々しい存在です。ひとたび包囲を解けば蠢動を始め悪辣な行動に出てきますからね」

ジークハルトはその言葉をニヤニヤしながら聞いていた。

そもそも敵軍にとって『悪辣な行為』を行っている本人がそう言っているのだから。

「スーラ公国軍は勝利を確信し兵力を分散しました。それを我らに各個撃破された今、奴らには攻城戦を無理に推し進めるだけの兵が足りません。

であれば次はどうなります?」

タクヒールの問いかけに、ジークハルトが応じた。

「調子に乗った阿呆(第一皇子)を呼び寄せるでしょうね。なんせ阿呆は今エンデにおります。

あちら側でも、我らを討たねば戦は終わりませんから、遅かれ早かれ参戦してくるでしょうね」

「……」

(阿呆って……、第一皇子のことだよね。いいのか?)

「ははは、気にしないでくれ。 この男(ジークハルト) は口が悪くてな。皇族でもお構いなしに阿呆を阿呆と呼んで憚らん無礼者だからな」

「殿下、酷い仰りようではないですか。グロリアス皇子は帝国に叛意を示した大逆の罪人です。

だからこそ僕はそう呼んだのです。それ以前は殿下の前でしか阿呆と呼んでいませんよ」

「……」

(いや、それも余り変わらない気もするが……)

「どころで公王陛下、先程はどれだけ包囲が厚くなっても、いとも簡単に打ち破ってみせると仰いましたが、それはどういった戦術で以て対処されるのでしょうか?」

ジークハルトは目を輝かせてそこに喰いついて来た。

昨日見せたタクヒールの戦術も、この会議の前に詳しく話を聞こうとしたが、それはグラートからたしなめられていた。

『殿下は簡単に言質を取られすぎです。今後は僕の知的好奇心の邪魔をしないでくださいね』

そういってグラートをなじったらしいと、苦笑するグラートからタクヒールも聞かされていた。

「まぁ……、我らは長年帝国軍の侵攻に備え、攻城戦での反撃手段は常に準備して来ましたからね。

その時の状況によって、戦術は色々と……」

そこまで言うとジークハルトは再び目を輝かせた。

だが、タクヒール自身もこんな軍議の場で手の内を晒すようなことはしない。

話の流れが悪いと感じたグラートは話題を変えた。

「ところでタクヒール殿、秘匿すべき兵器の話は一旦封印するとして、アイギスで阿呆が腰を抜かし、フェアリーで反乱軍の意図を挫いたと言われるあの兵器は、今回も持参されているのだろうか?」

グラートが指していたのは魔境公国が誇る殲滅兵器、拡散魔導砲と呼ばれた攻撃手段であった。

こちらも詳しい情報こそ公開されていないが、その威力ともたらされた戦果は各国でも語り草となる程度には認知されていた。

「今回もあるにはありますよ。ただ……、使いどころは慎重に考えたいと思ってはいますが。

調子に乗ってアレを使えば、それこそ俺は虐殺者、魔王と呼ばれても仕方ないですからね」

『もう既に、幾つかの国で俺をそう呼ぶ輩はいるけどね』

最後に小さな声で、タクヒールは残念そうに呟いていて更に言葉を続けた。

「俺はアレを撃たれるに値する者、同様の殺戮を行った者にしか使うつもりはありません。

撃った者は、撃たれる覚悟があって然り。

そう俺は考えています。あの兵器の最大の意味は戦意を挫くためのもの、言ってみれば恫喝ですからね」

「ははは、我ら持たざる者にとっては、心地よい響きの言葉だな。

俺もそうだ。あの兵器を機を見て使うことで、調子に乗った阿呆を恫喝して兵たちの戦意を挫き、やむを得ず従った将兵たちの命を、少しでも多く救いたいと考えている」

「確かに、アレがここに在ると分かれば、一度アイギスで痛い目にあった第一皇子はかなり驚くでしょうね。

殿下のお申し出は承知しました」

「では殿下と公王陛下の意見がまとまりましたので、アレは北側の壁面に設置をお願いします。

僕の予想では、彼らは北から来ます」

「ジークハルト、その根拠は?」

「そもそも阿呆が居るのはここより北のエンデです。加えて北にある隠し通路の存在も、そろそろ周知のものとなったでしょう。僕なら攻略時にそれを使用するか、拡張して進入路を確保しますからね。

まして北壁には城門もありますし」

『確かにそうだろうな。俺だったら時間はかかるが攻城戦の前にこの砦の周囲を埋め立てて、まる裸にする。堀程度ではなく周囲一帯だから時間はかかるだろうけど……』

タクヒールもそう考え、ジークハルトの言葉に大きく頷いた。

それを見たジークハルトも、にっこり笑ってタクヒールに向きなおった。

「では会議が終わったのち、もう少し『悪辣な小細工』について公王陛下に相談したく思います。

よろしいでしょうか?」

「承知した」

この後二人は、それぞれの抱える兵器の情報をすり合わせ、万全の迎撃態勢を整えるべく準備にはいった。

そして翌日、彼らの期待通り北の方角から新たな軍勢が出現した。

本来であれば味方である三万名にも及ぶ帝国軍が、スーラ公国軍の援軍として参戦して来た……。