軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十話(カイル歴504年:11歳)テイグーン開拓地での作戦①

「こんにちは~またおじゃまします」

俺は久しぶりにエストの街の工房を訪ねていた。

「あ、タクヒールさまっ!」

「全員!直ちに手を止めろっ!タクヒールさまに礼っ!」

カールさんが工房全体に響き渡る声で叫ぶとともに、全員が立ち上がり丁寧なお辞儀をしてくる。

「あ、そのまま作業を続けてください。お構いなく……」

ってか、めっちゃ恥ずかしいんですけど……

カールさんも偉くなって、いつの間にかゲルドさんと同様のバリバリ体育会系になってるし……

工房は以前よりもさらに大きく、働く人も増えていた。

カールさんも今じゃ親方の一人としてゲルドさんを支えているようだ。

工房長ゲルドさん、親方カールさんアンを交えて別室で、今ではちゃんとした調度品も備え付けられた、応接室で打ち合わせを始めた。

「実はハストブルグ辺境伯の依頼で、新たに100台のクロスボウを発注したくてお邪魔しました」

「タクヒールさまの依頼を、うちで断るやつなんて居ませんよ!すぐにでも取り掛からせてください」

「ゲルドさん、ありがとうございます。ずうずうしいお願いで申し訳ないんですが、その際技術開示も求められていて、先方の職人に制作工程を見せてやって欲しいんです。なので先方の準備ができ次第で」

「そりゃ、そもそもクロスボウはタクヒールさまの発案と資金で開発したものですから、我々には異存はありませんが……」

「はい、でも見せるのはクロスボウの製造工程だけで、その間、エストールボウや水車など、その他の技術は隠していただきたく……」

「まぁ、その間だけ部品を含め、その他の製造は止めても、問題なく回せると思いますよ」

「カールさんありがとうございます。あともうひとつ、冬までに作っていただけるか相談なのですが……」

俺は、養蜂に使う予定の重箱式養蜂箱のスケッチを見せながら説明した。

「この真ん中に十字の線が入った重箱を200個、一番下段の箱と天井、スノコをそれぞれ50個から100個、年が明ける頃までに作れますか?」

「構造も簡単なので、半年もあれば大丈夫でしょう」

カール親方の心強い言葉に一安心した。

「これは技術開示と並行して制作しても大丈夫です」

「それなら問題なく納品できます」

そう、春には分蜂が始まる。それまでに巣箱は設置まで進めなければいけないので、今がおそらく発注の限界だと思っていた。

養蜂については経験はないが、【前々回】のニシダタカヒロだったころ、定年後には田舎でスローライフを夢見ていた。

その一環として、簡単にできる養蜂について動画を何度も見ていた。

その時の記憶を思い出して……、3歳の頃からそういった役に立ちそうな記憶は全て書き出していた。

年を取ると絶対忘れそうだったから。

養蜂についてもその記憶のひとつだった。

この世界でも蜂蜜は存在する。でも野山のハチの巣を探し、巣ごと回収して採取するので非常に効率も悪く、作業は面倒だ。

そのため蜂蜜は高級品で、一部の貴族や裕福な人間の嗜好品でしかない。俺はそこに目を付けた。

50〜100セット必要なのは、蜂が見つけ利用してくれるか、それはあくまでも確率であって蜂頼みだから。

数を用意し、少しでも当たれば…そんな思いだった。

にしても……

こちらの世界でも分蜂は春なのかなぁ?

此方の蜂は日本蜜蜂、西洋蜜蜂、どっちだろう?

重箱式で大丈夫かなぁ?

確か西洋蜜蜂は重箱式はおすすめできない、そんな事を書いてあった様な気もしたが……

そんな疑問も多々有ったが、そこは取り敢えず深く考えないことにした。

工房の帰りには、商人のお店に立ち寄り、事前に依頼していた蜜蝋の蝋燭も買って帰る予定だ。

もちろん巣箱に使うために。

2つの用件が無事発注まで整い、安心して席を立とうとした時に、ゲルドさんから呼び止められた。

「カールから、試作品完成のご報告がございます」

それは、ずっと以前、もう3年近く前の話で、当の俺自身忘れていた開発商品の話だった。

「男爵家の皆様から色々発注もいただき、開発もなかなか進まず、申し訳ありませんでした。やっとこちらの試作品が取り急ぎ五台完成しました」

おおっ、【諸葛弩弓】だっ!

「矢を10本まで連射可能で、いただいた通りこの引き棒を引けば、装填、引き絞り、発射までが一連の動作で可能です。連射も問題なくできます」

昔から欲しかった【諸葛弩弓】が俺の目の前にある!

もうたまらなかった。

「実は……、開発に思わぬ時間を要したのも、仕組み自体はすぐにできたんです。でも、矢詰まりで自動装填がうまく機能しなかったり、真っすぐ飛ばなかったりで、いきづまっておりました」

「で、コイツがこれを思いつきまして」

カールさんの言葉に、ゲルド工房長が紙の筒を取り出した。

そうか、スリーブを入れるのか!

「まぁその後、今度は発射後にこの紙が逆に詰まり、色々改善したんですけとね」

照れて笑うカールさんに、思わず俺は尊敬の眼差しを向けた。

【ニシダ】の生きていた時代、昔の技術や製法など、【当時の現代科学】では再現不能な過去の製法や技術もある、そんな風なことを思い出した。

この時代の【職人技】にも、その一端に触れるものがあるのかも、改めて感心した。

早速試作品5台と専用の矢200本をその場で購入。

実際に使用した上で、改善点や要望などを洗い出し、その後に正式に発注する旨を伝えた。

早速館に戻り、兄を誘って実証実験……、大はしゃぎで遊んだのは言うまでもない。

素人レベルでは十分有用性も確認できたので、その日のうちに父に報告、実戦運用については、ヴァイス団長や傭兵団に試験運用してもらう事となった。

ヴァイス団長に見せるといつもの如く驚かれた。

「タクヒールさまにはいつも驚かされます。面白い!実に面白い兵器ですね。

ただ、運用にはいくつか課題もあると思います」

ヴァイス団長の意見はざっとこんな感じだった。

<利点>

・弓と比較しても連射性などでは大いに利点がある

・クロスボウと違い、非力な人間でも運用可能

・連射性をいかし、短距離の相手に対する攻撃が有効

<課題>

・装填から発射が簡単な分、威力と射程距離に欠ける

・鎧を着用した兵士相手には通用しない可能性がある

・有効射程が短い分、射手自身の安全が確保できない

・機構が複雑で故障や不具合の不安がある

<考察>

・仕組みをもっと大型化した固定式の物は、拠点防御などで十分活用できる可能性がある

・相手が兵士でない場合、例えば辺境の農村で盗賊などを相手にする場合は、使い勝手もよく有用である

ヴァイス団長の意見も利点欠点含め、ある程度満足のいくものだった。

要は使い方を限定すれば、十分役にたつ兵器だ。

3台を預け、暫くは欠陥や故障などの不具合や、耐久性などを確認してもらう事になった。

2台は俺が管理し、クレアを始め魔法士、実行委員会、受付などの女性たちに何度も使ってもらった。

そう、いざとなった際、女性でも身を守れる兵器として、この諸葛弩弓を活用しようと考えていた。

女性の立場で、使用する上での改善点などの声を拾い、改善項目に反映していった。

そして後日、工房には急ぎでない事を念押しした上、要望のあった改善点、改良事項を伝え発注した。

携行用諸葛弩弓:100台、専用弓矢10,000本

拠点用大型弩弓:10台、専用弓矢200本

大型化した物は、実際バリスタに近いもので、装填するのは矢というよりは槍に近いものだったが。

この兵器は後日、思わぬ所で活躍することになった。

その結果、本人がこの世界に存在していないにも関わらず、諸葛孔明の名は知れ渡ることになる。

諸葛弩弓を考案した稀代の人物として……

蕪といいこの諸葛弩弓といい、若い頃から繰り返し繰り返し何度も読んだ、三國志の受け売りではあるが……