軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十九話(カイル歴515年:22歳)北部戦線⑦ 新たな盟友の到来

愛するローザを、その彼女が救おうとしている民たちを守る決意の元、眦を上げたドゥルール子爵率いる1,000騎が、ヴィレ国王率いる軍馬の列に突入した。

彼らの中には、テイグーンにてローザたちに命を救われ、今や帝国軍の中級指揮官となった者たちも多い。

彼らは怒りに燃え、そして命の恩人を救うため奮起して猛然と敵兵に斬り掛かった。

「ひぃっ!」

その勢いは凄まじく、数で圧倒的に勝っていたはずのヴィレ国王は思わず情けない悲鳴を漏らしたほどだった。

そして同じく、これまでは狩猟のように狩る者の立場で魔境公国兵を追い詰めていたヴィレ王国軍も、同じく一斉に浮足だった。

「迎撃っ、陣形を再編しろっ」

「ひっ、引け!」

「ど、どっちにだよ!」

彼らは今、林を抜ける狭い街道から、草原の広がる十字路に出て軍を大きく展開させていたが、今度は逆に身動きが取れなくなっていたからだ。

一旦広い十字路に出てしまった以上、南への退路は道幅も狭く、再び軍勢が通り抜けようとすると時間を要する。

まして全体が混乱し、我先にと狭い街道に押し掛けたため、その入り口は過密状態となって身動きが取れなくなっていた。

圧倒的に寡兵ながら、戦意旺盛なドゥルール子爵軍は楔型の陣形で敵軍中央を突破して分断した。

然る後に、南と北に馬首を転じて分断されたヴィレ王国軍を圧迫し始めた。

「南は任せる! 私は北に展開する敵軍を殲滅し友軍を救うぞ! 全軍、死兵となって突撃せよ!」

ドゥルール子爵軍の半数は、まるで錐で穴をこじ開けるが如く北側に突進し、北側に伸びる街道を制圧していった。

彼自身、陣頭に立ち血刀を振るいながら。

その猛攻は尋常ではなく、遂には友軍がなんとか支えていた地点まで押し進んだ。

「ご助力感謝いたします」

「なに、当然のことよ。それで……、 避難民(ローザどの) は無事か?」

「はいっ、我らに先行し北へと急いでおります。ローザ様が200名に及ぶ子供たちを連れて……」

「うむ……、間に合ったか……、良かった」

この会話を交わしているなかでも、ドゥルール子爵とローザの護衛を担っていた指揮官は互いに剣を振るい敵軍と対峙している。

「ここは我らが引き受けた。

お主らは北へと進み、 子供たち(ローザどの) を守ってやってくれ」

「ありがたく……、御礼はまたいずれ」

そう言うと彼は、残った騎兵たちをまとめ街道を北へと急いでいった。

戦いはまだまだ続くが、満身創痍で戦い疲弊していた彼らは、あといくばくも持たないだろう。

だが女神の癒しを使う彼女に合流できれば……、きっと彼らを救える。かつて自身が救われたように。

ドゥルール子爵は、そんな思いで彼らを先に行かせた。

「我こそは帝国軍ドゥルール、ここから先は 何人(なんびと) たりとも通さん!」

そう叫ぶと雑兵たちを引き付け、街道に立ちはだかった。

そのお陰で護衛部隊は戦場を離脱することができたが、彼にとっては不運をもたらした。

混戦の中、いまだ林に潜んでいた弓箭兵たちは、目の前に敵軍の大将首があることを知ると、子爵目掛けて一斉に矢を放ち始めた。

同時に敵兵たちも一斉に群がり始めた。

それでも……、阿修羅の如く奮戦する子爵と彼の率いる者たちにより、ほぼほぼ敵軍が街道から一掃された時だった。

「ぐっ……」

短い言葉を漏らした子爵の胸には、一本の矢が突き刺さっていた。

「なんの、まだまだ私は死ねん!」

鎧を貫いて突き立った矢を折ると、子爵は馬具に備え付けていたタクヒールより送られた改良型クロスボウを構えた。

そして林の中で矢を番える敵の弓箭兵と向き合い、互いに矢を放った。

その刹那……、子爵の頬を矢が掠めて血を滴らすと同時に、彼を狙った弓箭兵は眉間に矢を受けて崩れ落ちた。

「林の中に潜む伏兵に注意せよ! 一隊はここに残り街道を確保しつつ伏兵を掃討、それ以外の全軍は南に転じて敵軍を撃つ!」

そう指示を出すと、子爵は分断したもう一方の敵軍と対峙すべく馬を進めていった。

予想外の敵軍の出現、そして彼らの旺盛な戦意により混乱したヴィレ王国軍は、数で圧倒的に優位に立っていながら、既に1,000名を超える味方を失っており、正に潰走寸前の状態だった。

「何故南には進めんのだ! 余の退路を雑兵共が塞いでおるではないかっ!」

ヴィレ国王が叫ぶが、これまで通って来たローレライ方面に通じる街道は完全に塞がれており、そちらに抜けることは至難の業だった。

落ち着けば50人以上が並走できる道幅があるが、そこに千人規模の人馬が殺到すれば、互いに邪魔となって寿司詰め状態となり、最早全く身動きが取れない状態に陥っていたからだ。

「陛下、今は御身が大切です。東側へと通じる街道に転進され、ゴルパ将軍の軍に合流されるのが最善かと思われます。将軍もこちらの右側を固めるべく動いているとの報告もあります故……」

「ちっ、奴のところか……」

口煩い老将のところに逃げるのは気分が悪いが、事態はそれどころではない。

やむを得ず決断を下し、混乱する味方を置いて戦場から離脱を始めた時だった。

東へと進む街道から、ヴィレ王国の軍旗を掲げた騎馬隊が現れた。

「ゴルパ! 何故直ぐに助けに来んかったか! 其方はあの軍と対峙しておったではないかっ!」

ヴィレ国王は、ゴルパ将軍が率いた騎馬隊と合流し一息つくと、いきなり将軍を面罵した。

それを見た側近たちは青い顔で震え、ゴルパの側近は逆に怒りで顔を赤くした。

「陛下、敵の4倍以上の軍でありながら、些か不味い戦をなされましたな」

淡々とそれだけ答えたゴルパにも事情があった。

彼自身、対峙していた敵軍から1,000騎近い軍勢が抜け出したのは確認していた。

そして、事前連絡もなく敵地深くに踏み込んだ主君の動きも……

これに応じ、万が一に備え軍を東に動かそうとしたが、対峙していた7,000の軍勢も一筋縄ではいかなかった。

巧妙に軍を動かし、彼らの動きを妨害し続けた。

そこでゴルパは独断で対処を進めた。

「止むを得んな、アレを使うとするか」

「その……、よろしいのでしょうか? あれは攻城兵器でクサナギを攻略するまで秘匿せよと……」

「そんなもの、もはや気にするまでもないわ。

カイン王国軍が無様にやられた際、敵に鹵獲されているじゃろうな。

ならば今更、秘匿しても意味などあるまい? まして……」

そこで言葉を区切ったゴルパには分かっていた。

遠征軍の誰一人として、魔王と呼ばれた公王と彼の率いる軍の真価を知らない。

この戦、おそらくクサナギ攻略どころではなく、途中で無様に敗退するだろう……。

ゴルパはその予測のもと、味方の犠牲を出来る限り少なくする、それを意図して動いていた。

「バリスタの部隊に下命! 通常の(・・・) 最大射程にて我らを牽制する敵軍が次に動く地点を撃て!

敵を殲滅できんでも良い、私が率いる騎馬隊が通過できる隙を作れればな」

その命令は、彼の率いる騎馬隊の出発に合わせて遂行された。

500基を優に超えるバリスタの一斉射撃は、ドレメンツが牽制のため軍を動かそうとしていた地点の大地を抉り、一帯を槍の雨で蹂躙した。

かつて帝国軍の前第一皇子がリュート・ヴィレ・カイン王国によって退けられた時を彷彿とさせるかのように……

少数ではあったが、移動先に先行していた兵たちを殲滅されたドレメンツは、慌てて軍を引いた。

かくも一方的に行われる遠距離攻撃に対し、有効な反撃手段がなかったからだ。

その隙をいかし、ゴルパもまた1,000騎を率いて敵軍の後を追った。

だが……、ドレメンツが巧みに妨害に徹して稼いだ時間、それが結果としてローザや護衛の兵たちを救う時を与えており、ゴルパが遅れた理由でもあった。

「では陛下、これより真の戦いというものをご覧にいれる所存です。どうかこちらでごゆるりと……」

「う……、うむ」

老将は凄みのある笑みを浮かべると、国王の前を辞して戦場へと駆けていった。

ドゥルール子爵の奮戦は留まることなく続き、もはや誰の目にも彼らの勝利は確実と思われた時だった。

ヴィレ王国軍はこの方面に侵攻した4,200名のうち既に1,500名近くを失い、その損害は時間の経過とともに大きくなりつつあった。

だがここで、再び戦局は一変する。

「閣下! 新たな敵軍が我らに向かい突撃して参ります!」

「ぐ……、一旦後退っ! 北へと通じる街道を背に斜線陣を敷いて敵の圧力を受け流せ!」

負傷に耐えながら、ドゥルール子爵は的確に指示を出した。

だが……、

勝ちに乗じ敵軍を一方的に追い込んでいた彼の軍は、思うように陣を再編し新たな敵を受け流すことができなかった。

「いかんっ、来ますっ!」

「くっ!」

自身の指示が間に合わないと悟った子爵は、短く苦悶の声を漏らした。

両軍は正面から激突すると、馬と馬、人と人とが激しく激突し跳ね飛ばされていったが、その多くがドゥルール子爵率いる帝国軍だった。

これにも理由がある。

後退して勢いを殺してしまった帝国軍と、勢いに乗ったまま突進したヴィレ王国軍、そして更に、帝国軍はこれまでの戦いで疲弊していたが、新たに参戦したヴィレ王国軍は全く疲弊していない。

「くそっ! だが……、まだ負けはせん」

子爵軍は最初の一撃で各所を寸断されながらも、街道に通じる部分だけは頑強に守り通していた。

だが……、子爵自身も全身に傷を負い、敵兵よりも自身の流した血で全身が赤く染まり、その命の灯も消えつつあった。

『ローザ殿は無事逃げおおせたであろうか? 一度は彼女に救われた命、愛する彼女を守り死んでいくのも悪くはないな……』

そんなことを考えながら、彼は愛馬から崩れ落ちた。

「閣下ぁっ!」

側近たちが悲鳴のような絶叫を上げるなか、街道の西側から馬蹄を轟かせて突進する一軍があった。

その先頭には、ボッタクリナ商会……、いや、カーミーン子爵の旗印が掲げられていた。

戦局は再び新たな方向へと変わる。