軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十七話(カイル歴514年:21歳)第一回王都競技会⑤ 団体戦予選

午前中の個人戦は、ひとまず満足のいく結果となったが、俺にとって本番は団体戦だ。

なんせ最も強敵であるゴーマン侯爵チームは、全てを団体戦に懸けている。

絶対に俺にターゲットを絞って、選手を固めてきているはずだ。

「それにしても 義父上(おちちうえ) は、気持ちのいいぐらい分かりやすいな。個人戦をああまでバッサリ切り捨てるとは、ある意味恐ろしい」

「父の性格でしょうね。今回も『もはやお前はタクヒール殿の妻デアル。我が領地の事には構わず、全力で公王をお支えしろ』と言って、何も教えてくれませんでしたから」

「ハハハ……、それでは情報は集まらなかったのかい?」

「それはそれ、これはこれですわ。

答えは教えてくれませんでしたが、質問した時のお顔を見れば……、娘の目は騙せませんわ」

「……」

軽快に笑うユーカを見て、俺は何も言えなくなった。

はい、俺も今後気を付けます。

『妻の目は誤魔化せませんわ』そんなことを言われないように……

「今回最も侮れないのは義父上だな。此方の取り組みや選手候補についても、アロガンツを経由して、 大凡(おおよそ) の話は聞いているだろうし……」

そう、イストリア皇王国出身者や帝国兵からも優秀な射手を登用していることなど、魔境騎士団の部隊長クラスなら知っていて当然だ。

「それはないかと。父もその辺の探りを入れたそうですが、アロガンツさんは一切何も話さなかったようです。

『公王への忠義と誠意、見事デアル』と、父は逆に喜んで褒めていたようですから……」

「そっか、なら義父上も……」

「はい、きっと驚くと思います!」

ユーカも満面の笑みで俺に答えた。

そう、まもなく団体戦出場選手が入場する。俺の参加選手は、真紅と白の縁取りをした、漆黒のローブで身を包み、フードを深く被って顔を隠していた。

動きやすさを優先した、皮や軽装の鎧に身を包んだ集団の中、それはむしろ異様な光景だった。

「ちっ、また何か企んでるな……」

そんな兄の呟きが聞こえたが、俺は聞こえない振りをした。

そして……

出場選手の紹介が始まると、各選手が貴賓席の正面に向き直り、両陛下に深く頭を下げる。

「……、続きまして、ウエストライツ魔境公国より公王陛下直轄領の代表選手をご紹介します。

ソルディア・フォン・カーリーン準男爵……」

「「「「おおおおっ!」」」」

貴賓席だけでなく、聴衆全員にどよめきが起こった。

名を呼ばれたと同時に、ローブを脱ぎ捨てて貴賓席に深く一礼したカーリーンに対して。

彼女の出たちは純白と真紅の上下、この世界にはない服装、まるで巫女服そっくりのものを身に纏っていたからだ。

まるで……、というかそのまま、敢えてそうしたんだけど。

続けて紹介されたリリアも同じ格好をしていたため、聴衆達は更に盛り上がる。

美少女、美女と巫女服……、何故か見事にはまっていたが、勿論! これは俺の特殊な趣味ではない。

以前にガイアの服飾工房に依頼し、ちょっとした悪戯心で作らせた物の評価が、意外なほど良かった。

妻を始め彼女たちはノリノリでそれを着てくれた。

日頃はメイド服しか着ない、アンですら……

そして、どうせなら王都の大会で着て参加しよう!

いつの間にか、そんな流れになっていた。

繰り返すが……、俺は誘導も強制もしていない。

確かに、服装でも王都の聴衆の度肝を抜きたい、そんな事は言った気がするが……

彼女たちの忖度ではない……、と信じたい。

因みに本日から、カイラールにあるアンテナショップでも、この巫女服が絶賛販売中となる。

この日に備え、ガイアの縫製ラインをフル稼働させて大量に用意してもらっていた。

そしてアナウンスは続く。

次に前大会の団体戦で大将を務めたアウラが紹介され、そして前大会個人戦優勝者のアルテナ……

「お……、おおっ?」

「まさか……、それはないよな?」

「いや……、しかし……」

相変わらずの歓声だが、一部の者たちからは疑問の声が上がり始めた。

「ふふふ、もう直ぐだ」

俺は思わず、悪人顔になって言葉を漏らした。

そして……

「なぁっ!」

「なんと!」

「そんなっ!」

「デアルカ……」

「やりやがったな!」

「やりましたわね!」

会場に居並んだ巫女服の女性たちで大盛り上がりする観衆とは別に、貴賓席からは絶句する言葉が漏れていた。

最後の選手、クリストフが推薦した3人のうちもうひとり、ディアナが紹介されて、5人揃って貴賓席に一礼したからだ。

特に騎士団長始め、王都騎士団の軍団長たちは、顔面蒼白となって震えていた。

彼らの読みは大きく外れ、得体の知れぬ恐ろしさを感じたのだろう。

俺が今回の競技会に参加した理由と目的がここにあった。

競技会の個人戦と団体戦で勝利し、女性選手の活躍を王国中に見せつけることだ。

その目的は、王都周辺で埋もれている人材を発掘するためだ。

テイグーン一帯を始め、魔境公国全体としても、人口比は男性に大きく偏っている。

それだけが理由ではないが、逆に女性たちの活躍の場は多い。

今回の大会を通じて王国中に、女性たちが活躍できる場が魔境公国にはあることを周知し、志のある女性たちをそれこそ根こそぎ勧誘しようと思っている。

カイラールの男性達には恨まれるけど……

学園でも俺は男子生徒に不人気だったし、そんなことはもう慣れっこだ。

この世界でも、要職に就き活躍する女性の割合は非常に低い。ウエストライツ魔境公国を除いては……

人口の半分である女性の力を活用しないのは、そもそもナンセンスだし、俺の領地では働く女性を支える施策を常に方々から意見を採り入れて、即実行に移している。

今回、アンテナショップには移住者募集の案内と、別途女性移住者専用の相談窓口を設けているのも、このための対応だ。

それはさておき……

「公王よ、なかなかあからさまで楽しませてくれるな」

「はい、私は王都の学園在学中も、ハーレム男爵と異名をいただいたぐらいですからね」

苦笑しながら言ったこれも、周知の事実だ。

学園では常にメアリーとサシャが側に居たし、魔法士育成コースでも女性の仲間が目立った。

翌年からは更にユーカにそのご学友たち……

『ハーレム男爵』、『好色男爵』、『エロ男爵』……、云々

そんな異名をたくさん頂いていた。全くありがたくない話だが……

俺はそんな陰口も、超然として受け止めるしかなかった。

「で、腕の方はどうじゃ? ゴウラスらは、話が違うと焦っておるようじゃぞ」

「其方も我が国の腕利きを連れてきたつもりです」

事実、団体戦参加者は全員がトップクラス、ゲイルやゴルドたちより遥かに強い。

「そうか……、人の輪……、そういうことじゃな。かつての敵も今は強力な味方という訳か?

試合が楽しみじゃの」

「御意。では私も競技場に失礼致します」

そう言って俺は、彼女たちの待つ試合会場に降りていった。

競技場に降り立つと、見る景色が一変した。

大観衆による歓声と、優に一万は超える観戦者の前では、言いようのない物凄い圧を感じた。

「凄いな……、まるで周りの壁が押し迫って来るようだな。みんな、気負って勝ちに行こうとか考えなくていい。御前試合に参加できた土産話はできた。後は楽しむだけだ」

「「「「「はいっ」」」」」

「幸い 最も強敵(ゴーマンチーム) は、今日の予選では別のグループだしね。今日は三試合、カーリーン、リリア、アルテナに先鋒を任せる。思いっきりやっちゃって!」

「「「はいっ」」」

勢いよく答える3人と他の2人にも、俺は妻たちがそれぞれ作った 襷(たすき) を渡した。

やっぱり和装には襷がないとね……

掛けると何となく凛々しい感じがするし。

カーリーンはエストから共に一緒だったアンが

リリアは公私共に仲の良い親友のクレアが

アルテナは人材発掘で最初に声を掛けたミザリーが

アウラは移住後に相談に乗っていたヨルティアが

ディアナは同じ風魔法士で面倒を見ていたユーカが

それぞれの選手に関わりのある妻たちがそれを作ってくれた。

◯予選第一グループ

・ウエストライツ魔境公国 公王直轄領

・モーデル辺境公

・コーネル伯爵

・王都騎士団

◯予選第二グループ

・ハストブルグ辺境公

・ハミッシュ辺境公

・ゴーマン侯爵

・ソリス侯爵

初戦の対戦相手はモーデル辺境公だったので、リリアを送り出した。

そして、彼女ひとりで五人抜きの完全勝利で見せつけてくれた!

隣を見ると……、ミリアだったかな? ゴーマン侯爵の女性選手が、兄の用意したチームに五人抜きで勝利していた。

二戦目はコーネル伯爵だったが、今度はアルテナが見事に五人抜きの完全勝利をやってのけた。

方やゴーマン侯爵側も、過去の最上位大会で優勝した選手が、五人抜きで勝ち進んでいた。

三戦目……、この時点で直接対峙こそしていないが、最早俺とゴーマン侯爵の勝負なのは明らかだった。

以前より更に腕を上げたカーリーンが、王都騎士団より選抜された猛者を危なげなく5人抜きし、ゴーマン侯爵側もアロガンツが、父ソリス侯爵領の選手を五人抜きで制した。

会場の観衆の目にも、互いに譲らぬ双方の快進撃と、それを支える選手たちに大歓声を送っていた。

「私は……、私たちには……、まだこんなにも高い壁が立ちはだかっているのか……」

そう呟き、涙目になったゴウラス騎士団長は崩れ落ちていた。

観客席では、ホフマン軍団長、シュルツ軍団長も項垂れていた。

「ちぇっ、弟に美味しいところを全部持っていかれた俺は……、兄としての立場が……」

兄はそう言って下を向いていた。

でも……、兄さんに勝ったのは俺じゃないですよ?

ゴーマン侯爵ですからね。

「何故だ? 儂とゴーマンで何が違うと言うのだ?

頼む……、誰か教えてくれ」

父さま、答えは簡単です。

義父上は最初からずっと真摯に、ご本人やご 令嬢(ユーカ) も関わって、領民たちと共に歩み続けて来た蓄積があるからね。

国内で反乱が起きた時も、領民を守るため領主の娘が自らクロスボウを手に、領民たちを率いて最前線で戦った逸話もあるし、このことはゴーマン領で語り草ともなっている。

領民たちのクロスボウにかける思いが、父の領地とは全く違うのだ。

まぁ、それだけではないかな?

ソリス領で弓の才ある者たちは、悉く俺が掻っ攫ったせいも……、少しはあるかな?

まぁ新たな所領については全く手を出してないし、そこは俺のせいではないですよ。

「ははは、モーデル公よ、ここまではっきり負けると、むしろ清々しくもあるな」

「ハミッシュ公の仰る通りですな。 我らの師(タクヒール) 殿は、未だに届かぬ高みにある。

そう言うことですな」

「我らはゴーマン卿を目標に取り組んでいましたが、まだまだ至りませんな。

視察部隊を派遣し、改めることがないか、徹底して取り組む必要を感じましたよ」

ハミッシュ公、モーデル公、コーネル伯爵の陣営は、むしろここまで圧倒されて、清々しく状況を受け止めているようだった。

「ふふふ、流石に余が見込んだ男は違うのう。

それともここは、ゴーマン卿を褒めるべきかな?」

「ほっほっほ、陛下、それは明日の決勝の結果を見てからでもよろしいでしょう。

まことに、結構なことですな」

「どうだ? 我が国でもクロスボウを採り入れ、領民たちの戦力化を図るか?」

「陛下、それは宜しゅうございますわ。

幸いですが、サラームは既に公王の指導のもと、街を挙げて取り組み始めていると聞き及んでいます」

「そうか! では早速帰路はサラームに立ち寄り、相談がてら飲み仲間たちと盃を交わすとしようぞ!」

いや……、飲み仲間ってそれは、ザハークたちですよね?

俺にはまた、青い顔をして震えながら酒を飲む彼らの姿が目に浮かんだ。

こうして、思惑通り駒を進めた者たち、思惑が外れて燃え尽きた者たち、対照的だった団体戦の予選は幕を閉じた。