軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十四話(カイル歴514年:21歳)第一回王都競技会① 大会前夜

俺は約10か月振りに、カイル王国の王都カイラールに来ていた。

俺は王都に到着した翌日、クラリス殿下一行に同道していたユーカと落合い、二人でこっそりカイラールを見て回ることにした。

前回は北への旅路の途中に立ち寄っただけなので、あまり気にも留めていなかったが、改めて見るとカイラールも大きく様変わりしていた。

まず第四区は戦勝景気とフェアラート国王歓迎の祝賀ムード、そして王都競技会の開催に伴い、王国各地より集まった人々でお祭り騒ぎだった。

街の人々の表情も明るく、皆がこの未曾有のイベントを心待ちにしていたのが見て取れた。

次に第三区画、ここは大きく区画整理が行われていた。

反乱に加担して取り潰された中級、下級貴族の屋敷が消え、新たな町割りが行われていた。

更に王都でも運用が進んでいる射的場が何か所も並び、今も多くの人々がそこに通っていた。

そして第二区画では、敵国側に加担した上級貴族たちの屋敷が没収され、王都騎士団の練兵場には専用の射的場が新設されていた。そこはどうやら競技会場も兼ねているようで、作りも規模もとても立派なものだった。

今射的場(競技場)では、各地の代表選手たちが競技用クロスボウの試射と、練習を行っていた。

「これは侮れないな。第三区だけでなく第二区も射的場か。前回の戦いを経て、王都でもますます領民の戦力化と射的場の運用を本格化させているか」

「はいっ、領民たちにとって、娯楽以上に射的で腕を認められることは一種のステータスになりつつあります。騎士団への士官の道も開け、それに前回の戦いで多額の褒賞が出たことも噂になっています」

「それで彼らは必死に?」

「まぁ、それだけではありませんが……、王都で二番人気の英雄、クラリス殿下のお膝元で戦えたと、従軍していた人たちが声高に触れ回ったこともあって……」

「へぇー、さすがはお姫様効果ってことかな? ところでユーカ、殿下を抑えた一番人気って?」

「えっ?」

ここで一瞬、目を点にしたユーカが、その後笑い始めた。

「もちろん、私の旦那さまですわ! 四か国の侵攻を予知し、その悉くを退けた救国の英雄。

常勝将軍から今や、一国を預かる国王陛下にまで登り詰めたお方、王都の領民なら誰でも知っている英雄譚ですよ」

「!!!」

「それって、陛下と狸爺が良からぬ企みを抱いて流した噂じゃん!」

「でも事実は事実。論功行賞で陛下がタクヒールさまを、比類なき者として称えられたことも、王都に住まう者たちは皆、知っていますわ」

ちっ、あの恥ずかしくなるぐらいの褒め殺しの言葉か……

俺自身は、あの過大評価を誇大に吹聴されたくはなかったんだけどな。

単に俺は、家族を、仲間を、そして自分自身を守りたかったに過ぎない。

全部その延長線上でやったことだからな。

「ゴホン! ところでユーカ、大使館の件は進んでいるのかな?」

「はい、今回の反乱で断絶した4侯爵、彼らの領地だけでなく王都の居館も全て没収されました。

今は陛下直々の命を受け、改築が進んでいますが……、クラリス殿下からはそこにタクヒールさまとフェアラート公国の大使館と王都での屋敷を置く予定だと聞いています」

面倒だな……、大使館は別にして、王都での屋敷なんて必要ない。

テイグーンとクサナギ、そしてカイラールと三拠点生活なんてしたくはないな。

それに……、まぁそれは今言わずともいいか。

「それと、夕食前に王宮で行われる大会説明会って何か聞いてる?」

「いえ……、何でもこれまでの大会と違い、独自のルールを定めると聞いていますので」

「そっか、それは 面倒(たのしみ) だな。まぁ大したことはないだろうな。多分……。

にしても、説明会に参加するとなると、そろそろ切り上げないとね」

「もう少し、二人でお出かけできれば嬉しいのですが、私だけ我儘もいえませんし」

そう言ってユーカは名残惜しんでいたが、それはとても小さな我儘で、むしろ当然の思いともいえる。妻の中でも彼女一人が、終戦後も離れ離れになっていたからだ。

だが今回の王都訪問以降は、彼女も正式にウエストライツ公国内に席を移す。

大会終了後は、クラリス殿下のお付きは、今後公国に移り住む者たちに代わるため、ユーカもクリシアも側仕えから解放されるからだ。

「大会が終われば一緒に公国にも帰れるよ。ユーカにも頼みたいことが山のようにあるしね」

「まぁっ、『一緒に暮らしたい』ではなく、『頼みたいことが山のようにある』ですか?」

そう言った彼女の反応に、俺は一瞬青くなった。

兄から常々『デリカシーのない迂闊者』と注意されていたことを忘れていた。

つい、クレアやミザリーたちと同様に接してしまっていた。

元々配下であり、常日頃から一緒にいた彼女たちとは、言葉の受け取り方が全く異なる。

「あ、いや……、それは……」

「ふふふっ、楽しみにしています。というか、ごめんなさい。

ちょっとだけ拗ねて意地悪してしまいました」

そう言ってユーカは、微笑んだあときちんと頭を下げた。

「私も分かっています。タクヒールさまから信頼されている者しかできない仕事も多々あることを。

王都で殿下に仕える私に気を遣っていただき、色々と特別扱いしてくださっていることも。

もちろん私も、お国に戻れば皆様を見習って誠心誠意努めさせていただきますね。

なので……、王都にいらっしゃる時だけ……、世間知らずな貴族の我儘娘でいさせてくださいな」

そうだな……、義父から打ち明けられた彼女の生い立ちは、決して我儘など許されない厳しいものだった。そして彼女はそれを、懸命に勤めてきた。誰に甘えることもなく……

我儘な貴族の娘である筈もなかったのだ。

その後も学園入学から魔法騎士団結成、殿下の側仕えなど、気の休まる暇もなかっただろう。

そんな彼女の眼は、何かの決意に満ちていた。

その真意を知ったのは、俺が王都から戻った後のことだったが……

その日の夕刻、歓迎の晩餐前に行われる大会説明会のため、王宮のとある一室へと向かった。

それにしてもこの方角は……、昨年まで散々定例会議を行った、あの密室じゃん。

そう思いながら俺は、誘われて部屋に入り席に着いた。

あれ? 俺が一番最後? 皆揃っているし……

そこには、カイル国王陛下、クライン外務卿(狸爺)、内務卿、商務卿に返り咲いた元復権派のトールハスト侯爵、軍務卿を引き継いだクレイ伯爵、財務卿、ゴウラス王都騎士団長が居並び、対するように俺を中心に4人の辺境公が居並んでいた。

『何だこの物々しさは?』

呑気に大会説明会と構えていた俺は、大いに面食らった。

「さて、全ての辺境公、ウエストライツ魔境公国からも公王に臨席いただいたことじゃし、これより王都最高評議会として、辺境公会議を始めるといたしましょう」

『は? 王都最高評議会? 何だそれ』

「あの……、話の腰を折ってなんですが、大会説明会なのでは?」

(ってか狸爺め、俺を嵌めたな)

「それはあくまでも名目、話の最後のおまけみたいなもんじゃな。

折角公王に王都まで足を伸ばしていただいたのじゃ。この機会にすべき相談もあるじゃろう」

(だから常々脇が甘い、そう言っておるじゃろう。卒業しても儂の試験は終わりではないわ)

「なるほど、大会説明会なら面倒な手続きを踏まず、気軽に開催できる……、と?」

(形式上は臣下とはいえ、一国の王を会議で呼び出すともなれば、憚りがあるということか?

俺はそんなこと、全く気にしていないが)

「そんなとこじゃな。先の知らせにもあった件、この場で共有してもらえるかの?」

『そのことか、確かに第一報は各所に送ったが、続報はまだだったな』

「皆様に共有したいのは二点、ですがそれは結果的に最後の一点に集約されます。

我らはまだ、安穏として日々を過ごすことはできないようで」

「イストリア皇王国以外に何かあると?」

「そうですね、ハミッシュ辺境公の仰る通りです。皇王国のそれは始まりに過ぎません。

先ずはそちらから現状の報告をさせていただきます」

そう言って俺は、皇王国に潜入したハンドラーからの報告を共有した。

彼は今、収穫祭に合わせて続報を持参し、再び皇王国に入っている。

・カストロ大司教が生きていたこと

・彼を仰ぐ一派が、帝国との国境に近い皇王国領を占拠し、その勢力を広げつつあること

「ここまでは以前に報告した通りです。

付け加えると、帝国内に彼らの後ろ盾となっている一派が存在し、それは第三皇子の陣営ではありません」

「となると、もう一方の奴らか。諦めの悪い奴らだな」

「はい、 ハストブルグ辺境公(にいさん) の言う通り、彼らはまだ詰んではいません。

むしろこれからは、形振り構わず反撃に出てくることでしょうね」

「彼方にとっても、我らにとってもその方が厄介な話ですな。我らの心構えとして、公王はどう予想されているのだろうか?」

「ハミッシュ辺境公、ことは帝国の更に向こうの国々の事情です。我らにも窺い知ることはできません。

ですが奴らは、ひとつ失態を犯しました。我らに『時』を知らせるという」

「というと?」

「皇王国の動向は時を映す鏡です。カストロ一派が皇王国をある程度掌握し、兵を他国に差し向ける体制の整ったとき、彼らが先ず動くでしょう。

第三皇子らの目が北に行った時、彼らの罠は次々と発動していくことになるでしょうね。まぁこれは、あくまでも私の予想でしかありませんが」

このあたりの話は、幸いにも収穫祭の時に帝国側の当事者とゆっくり話すことができた。

だからこそ、俺も自信を以て言える。

「ちなみに東辺境には、皇王国側から万が一の際には、派兵の依頼が来ているが、其方はどう思う」

「外務卿はどうお考えで?」

「ふむ……、できるとしても食料支援、そんなところだと言っておるが」

「それで良いかと思います。ただ、その食料は対価と交換で対応されるが良いかと思います」

「その理由を聞いても?」

「はい、私が聞くところに依れば、皇王国はいずれ滅ぶか圧倒的勢力と小勢力に分断されるでしょうね。負ける方の空手形を引き受けるほど、愚かな話はありません。

とは言っても、早々に倒れてもらっても困ります。延命できる程度には、手を差し伸べるべきかと」

「負けると言い切った根拠は?」

「皇王国に出入りする商人、我らに転向した御使いと呼ばれた者たち、彼らの話からの推察です。

かの国の教会は腐敗しきっており、圧制に民は苦しい生活を余儀なくされています。

そこに住まう者にとって、カストロは反乱者ではなく救世主なのです」

「なるほど、いみじくも我らがその土壌を作ってしまったか……」

ハミッシュ辺境伯は苦々しげに自嘲した。

皇王国は多額の賠償金を支払うために困窮した。そして、外貨を得るために国内の作物を搔き集めて、カイル王国に売り捌いていた。

それが皇王国に住まう民たちの生活を圧迫することになったからだ。

「商人や御使いたちは口を揃えて言っておりました。野心はあっても、教会側で唯一まともだったのがカストロ大司教だったと……。今も彼は、帝国側から大量の食糧を仕入れ、困窮した民に分配しております」

「なるほどな……、では公王は我らはどう対応すべきと思われる?」

「そうですね……、なにも皇王国の民まで反乱勢力にくれてやることはないと思いますよ。

せっかく広大な辺境公領があるのです。難民を受け入れる一時的措置として、開拓地への入植を進めれば良いのです」

「それでは皇王国が黙っていまい?」

「内戦の間だけ預かる、そう明言し協定を結ばれてはどうですか?

皇王国が国内を平定する間だけ預かり、国土を回復させた後には返還する。それまで、食料援助の一環として食うに困った民を無償で預かるとでも言えば、皇王国も助かるでしょう」

「あくまでも皇王国と、ですな?」

「そうです、反徒共には一切支援しない。そう明文化すればよいのです。

そしてせめてもの罪滅ぼしに、難民たちを優遇する。そうすればその先の選択は彼ら自身が行うでしょう」

「では我らは今のうちに、難民たちが安心して暮らせる防衛ラインを敷くことに注力すれば良い訳ですな」

「はい、現在皇王国北部地域には、第二陣として信の置ける者を潜入させています。

我らも彼らからの報告を睨みつつ、準備を進めている段階ですので」

「で、公王は我らの出番はどう用意してくださるのでしょうか?」

「今回、クリューゲル陛下がいらっしゃったこと、これがひとつの契機ともなりましょう。

対外的には西は一番安定していますからね。ただ……、領地としての成熟はまだまだ予断を許さないと思いますが、どうですか?」

「ぐっ……、確かに」

ダレク兄さんも、戦端が開かれた際には参戦したそうだったが、そうもいかない。

兄さんの領地は、反乱に加担し取り潰された者たちの領地であり、先ずは人心の掌握が必要だと思う。

「いずれにしろ南は今、いずれ火が付く火薬庫です。慎重に様子を見て準備を……」

「「「「カヤクコ?」」」」

俺は話しながら気付いた。火薬そのものが存在しない世界で、この表現は不味かった。

まぁ……、俺のところにはあるんだけど、最重要秘匿事項だし……

唯一外部でこれを知る、クラリス殿下ならニヤニヤ笑うだろうけど。

「ともあれ、そういうことです!」

俺は強引に説明を打ち切った。

まぁ、ちょっと頭にあったことで、つい例えに使ってしまったのは仕方ない。

その後も、ジークハルトから聞いた予測、その対応などを会議に参加した面々に共有し、各々からの質疑に応答して会議は終わった。

いや……、あれ?

大会説明会は?

何も聞いていないんですけど……