軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十二話(カイル歴513年:20歳)不吉な前兆

春も盛りのある日、タクヒールたちはイシュタルでの訓練も総仕上げに掛かっていた。

半年間にも渡る厳しい訓練を経て、魔法騎士団は集団としての力を発揮し、戦力として見違える様になりつつあった。

同様に2,000名の弓箭兵についても、戦闘指揮に従い、一矢乱れぬ統制射撃を行えるまでになっていた。

「団長、そろそろ彼らを一度王都に帰そうと思っていますが、如何ですか?」

「そうですね。ここまで来れば、まぁなんとかなるでしょう。彼らを王都に?」

「はい、魔法騎士団の構成員のうち、半数は学園の学生です。秋まで一旦戻す必要もあります。

ただ、魔法戦闘育成課程及び、魔法戦術研究科の人員は、強い希望が無い限りすぐに再招集して留めおきます。こちらでの訓練がそのまま、学園の授業に代替できますからね。

それ以外の一般課程を履修している者、北部方面に派遣する者たちは、基本王都に帰します」

「弓箭兵はどうされます?」

「ひと月ほど全軍に休暇を与え、ガイアにて再集結させます。一般課程の学生以外と共に。

そして魔法騎士団、弓箭兵とも帰路はエスト側から旧コーネル男爵領を抜け、王都には西側から入ります」

「なるほど! 帰路に想定される戦場を見せる訳ですね」

「はい、クラリス殿下ら少数の人間を派遣する目論見は、失敗しましたからね。

護衛の面でも、反対する意見ももっともな話でしたし。今回は私が引率します」

「それは……、面倒なお話しですね。留守はしっかりお預かりさせていただきます」

「その後、王都にて定例会議に参加し、こちらに戻る予定です」

団長との会話の10日後、遠征訓練は全ての予定を終え、総勢2,350名の軍勢は王都への帰路に就く為、一度テイグーンに戻った。

ここから街道を真っすぐ北に下り、王国西部を巡回しつつ王都に入るために。

その時、テイグーンで留守を預かっていた、ミザリーがテイグーンの正門前で待ち構えていた。

「タクヒールさま、ご出発の前にティア商会からの報告が入っております。こちらに立ち寄られるご予定と伺っておりましたので、ハリム殿にはこちらに留まっていただいております」

「うん、了解した。早速会おう。今から話せるかい?」

「はい、そう仰ると思い、第四区画の傭兵団詰所にて、待機いただいております」

俺はミザリー、ヨルティアを伴い、ハリムと会った。

最初にハリムをテイグーンに伴ったとき、俺とヨルティアは、ティア商会と別の取引も成立させていた。

ひとつ、公国の情報を収集し、交易で訪れる度に報告してもらうこと。

ひとつ、不平貴族の動向を探り、動きがあるときは交易とは別に、最優先で報告してもらうこと。

これにより俺たちはフェアラート公国内に、目と耳を持つことができている。

通常入ってくる外務卿からの情報は、カイラールを経由してくるので、どうしても遅くなる。

ハリムたちなら直行便で情報が入るので、3日から5日早く、隣国の情報を入手できる。

「ハリム、直接会うのは半年振りか?

その後の交易など色々と頑張ってくれていると聞いている。今日は大事な話があると聞いたが?」

「はい、魔境伯様、ヨルティア様、こちらの皆様のお陰を持ちまして、いい商売をさせていただいております。先ずはお礼申し上げます。

ご報告したかったのは、フェアラート公国内で不穏な動きがあることです」

「よく知らせてくれた。ハリム、具体的にはどういう事か詳しく教えて欲しい」

「現国王に対し、多数の有力貴族が怪しい動きを始めています。

具体的には、各貴族の領地で密かに募兵を進め、食料を買い集めています。

我らは街を裏で牛耳る元締めや、表に出ない商いを行う商人、人手の斡旋なども行っている者たちとも、商売を通じて繋がりがあります。

そこからの情報を総合すると、それなりの数の貴族たちが、密かに戦支度を始めているようです」

「それはどれぐらいの数だ?

有力貴族の割合、そして公国全貴族に占める割合は?

彼らの兵力数に換算してどのくらいだ?」

「私も詳しい訳ではありませんが、明確に動いているのは伯爵以上の者たちで、30家相当と思われます。

末端については把握しきれておりませんが、総兵力は……、恐らく4万前後にはなると思います……」

伯爵以上で30家といえば、上位貴族の8割程度か? そうなると総兵力は恐らくもっと増えるな。

最悪の想定で総兵力5万、そうなると此方に回してくるのは、味方の敵も含めて優に2万を超えることになるか……

「ハリム、申し訳ないがこれよりサラームに戻り、今後も情報を集約してくれないか?

当面の間サラームに留まり、公国で反乱が発生したとき、そして、反乱軍の兵が王国に向かう恐れのあるとき、それぞれで早馬を出して欲しい。

今回の情報の礼と、今後の費用を預けるので、費用は惜しまず、好きに使って構わない」

「はっ! 畏まりました」

「面倒をかけるが知らせは二か所、王都の外務卿であるクライン公爵と、テイグーンに走らせてくれるか?

王都に入るため、そしてクライン公爵に面会するのに必要な割符は、こちらから事前に預けておく。

ヨルティアはその手配と、活動費をハリムに渡してやって欲しい」

「はい、すぐに手配します」

これで有事の際は、対処の準備ができるだろう。

それがいつかになるかが問題だが、恐らく最悪のタイミングで仕掛けてくるに違いない。

それはこれまでの歴史でも、ずっとそうだった。

「さて、これから共に西部戦線の視察に向かうお姫様にも、事態を共有しないといけないな。

指揮官として預けるゴルド、工事担当のエランなど、一部の者は先行させて、想定される戦場と迎撃箇所を見定めさせよう。

時間的な猶予は、あまりなさそうだしね」

急ぎ公国に戻ったハリムと同じタイミングで、ゴルドが指揮する先遣隊も出発した。

俺たちは翌日、軍勢を率いてテイグーンを出て、王国西部を巡回しながら王都に向けて出発した。

その後俺たちは魔法騎士団を引率し、カイル王国西部、王都から西の国境に通じる街道を2日ほど進んだ地点まで来ていた。

ここで先行させていたゴルド、エランたちに合流した。

「みんな、先行し周辺調査の任、ありがとう。

ゴルド、エラン、この辺りという事かな?」

「はい、このクレイラットの地は、それなりに大きな河が流れ、水深もあります。

渡河地点は限られており、この橋の手前に陣を敷けば、兵力差があっても十分持ち堪えることが可能でしょう」

そう答えたゴルドにエランも続いた。

「ここであれば、幾つか仕掛けも事前に対処できます。そして河の水も……

一番の利点は、周囲に農地もなく、街道の王都側には町もあり、後方に兵站基地を設けることもできます。

そして何より、ここのご領主はタクヒールさまともご縁があります」

そう、この地を治めるクレイ伯爵の娘は、王都の学園でユーカの友人であり、はちみつ販売開始時のアドバイザーのひとりだった。

そして当主の伯爵も、最上位大会でテイグーンを訪れており、こちらの陣営として、大量の改良版クロスボウを購入し、配備と訓練を進めており、伯爵自身は軍務卿と共に、対北方面の軍に参加する予定だ。

そして何より、伯爵の愛娘がユーカと同様に魔法騎士団に志願しており、殿下と共にある。

地の利、人の和、この二つが両立している場所なのだから。

「クレイ伯爵には俺から話を通しておくよ。

エランは災害に備えた護岸工事、その名目で事前にできる細工は仕込んでおいてくれるかな?」

「承知しました。それと……、もうひとつこちらの領主様にお願いしたいことがあります」

「ん? どうした」

「実は、ひとつ作戦案があるのですが……」

エランの提案は、兵法として理にかなっていた。

エラン自身の過去に受けた苦渋の経験、それを元にした作戦ということか。

ただ、他人の領地でこれを行うのは気が引ける。

だが……

「分かった、俺よりそれもお願いしてみる。

ゴルド、殿下たちの身に危険が及ばぬよう、くれぐれも頼むぞ。必要なら越権行為もどんどんやってくれ。

責任は全て此方で負うから、発動する場合はタイミングを見誤らないようにな。

エランは地魔法士を預けておくので、引き続きここに残り、対応を行ってくれ。

くれぐれも罠であると悟られないようにな」

「承知いたしました」

この先の戦いでは何が起こるか分からない。

そしてこの地では、絶対に負けるわけにはいかない。打てる手は全て打っておく必要があった。

魔法騎士団がクレイラットの地を拠点に、現地視察を行っているなか、俺は急ぎ領主のクレイ伯爵を訪ねて面会し、諸々の許可を取り付けた。

幸いにも、愛娘のこともあり伯爵も非常に協力的で、翌日には『地魔法士の力を借りた大規模な治水工事』が行われることの布告が出され、人足や領兵たちが工事に徴発され、エランたちは堂々と動くことができた。

一部の者たち以外、本来の目的を隠して。

これで西の防衛の目途はたった。

王都での定例会でも、最低限の進捗は報告できるだろう。

俺たちは、エランやゴルド、地魔法士を中心に魔法士たちの一部を残し、一路王都へと歩みを進めた。