軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十四話(カイル歴512年:19歳)第3回王都定例会議

カイル王国王都、カイラールの王宮では、第三回目となる定例会議が開かれていた。

この会議にはタクヒールの事前要請で、ハストブルグ辺境伯、ハミッシュ辺境伯の両名も招かれていた。

「さて、皆も揃ったことだし、今回はまず使者として帝国を訪れた、魔境伯の話を聞こうかの。

彼が両辺境伯を招請したのも、それに絡んでのことじゃろうて。

何か成果があったのであろう?」

外務卿であるクライン公爵の要請を受け、俺はジークハルトから得た情報を共有した。

「はい、外務卿を通じ陛下のご裁可をいただき、帝国のケンプファー子爵との対談の機会を持ちました。

それには十分な成果があったと思っています。

もちろん、手放しで喜べる内容ではございませんが……

第一のことは結論から申し上げます。

恐らく来年あたりに、帝国が侵攻してくることは間違いないと思われます。

休戦協定の延長も、その終了を伝える使者も参りません。先方はその任を非公式に私に与えました」

「やはりか……

予想通りとはいえ、嫌な知らせではあるな」

ハストブルグ辺境伯は大きくため息をついた。

「帝国とスーラ公国の戦いは終わったようです。

もちろん、帝国の勝利という形で。

この話はまだ公になっておりませんが、いずれ我らの知るところとなりましょう。

今年中には、領土の割譲や諸条件などの含め、講和がまとまりそうだとのことです。

これで、帝国はその牙を全力で我らに向けてきます」

「それは、第三皇子の皇位継承がほぼ固まったというのにですかな?」

「ハミッシュ辺境伯、その通りです。

ある程度決まったからこそ、両陣営が兵力を連ね、大軍勢で侵攻してくることでしょう。

そして、第一皇子陣営はここで、既定路線を覆すため乾坤一擲の作戦に出てくると思われます」

「それは……、現皇帝が即位した時の状況に、瓜二つではないか?

あの時は、我らは大きな痛手を被ることとなってしまったが……

いや、割り込んですまんな魔境伯、話を続けてくれ。なにやら嫌な予感がしてきたわ」

「はい、クライン閣下の仰る通りです。

以前から閣下は、帝国の侵攻に関して、対帝国と対公国及び復権派の2正面作戦の警鐘を鳴らしておられましたが、現実はもっと不愉快だと考えています。

帝国の侵攻に合わせて、イストリア皇王国が侵攻してくること、ほぼ間違いないようです」

「なっ!」

「何じゃと!」

「そんな筈……」

「ハミッシュ辺境伯に申し上げます。敢えて、意地の悪い質問をご容赦ください。

辺境伯は、イストリア皇王国の皇王が代替わりしたこと、ご存じでしょうか?」

「……、いや、初耳ですな」

無理もない。

ハミッシュ辺境伯は苦渋に満ちた表情をしていた。

「辺境伯の名誉のため申し上げますが、これは何の落ち度もありません。

皇王国内でも情報が統制され、極力その話が表に出ないよう対処されているようです。

帝国のケンプファー子爵は、恐らく砂糖に関わる利権で、皇王国の中央教会と関わりのある商人などから、皇王暗殺の噂を入手していたと考えています。

そして彼がそれに確信を持ったのは、失脚していた筈のカストロ枢機卿、先の戦いで我らが直接矛を交えた者から、第三皇子に宛てた親書のようなものが出された結果、彼の復権や前後の事情を確信した。

私はそのように推察しています」

「魔境伯のお話を否定する訳ではござらんが、その話自体が偽計である可能性は如何ですか?」

「はい、商務卿のご指摘ももっともなことです。

私自身、これが偽計である可能性も検討しましたが、3つの理由でその考えを排除しました。

一点目は、仮に偽計なら話が稚拙すぎます。

偽計なら、わざわざ皇王を殺し、失脚した者を復活させる必要がありますか?

もしそれが事実であれば、ハミッシュ辺境伯もいずれこの一端を知ることになりましょう。

稚拙な嘘はいずれ暴かれます」

「確かにそうだな。

我々も東側には常に諜報網を張り巡らしているゆえ、いずれ不審な点に気付く可能性がある」

ハミッシュ辺境伯は、魔石の輸出も細かく設定し、諜報も兼ねて年に数回の使者を送っている。

切れ者の彼なら、いずれ不審な点に気付くだろう。

「二点目は、帝国、その中でも第三皇子陣営の利益です。

確かに、事前に知っていれば、我々は一部の兵力を割き、南に回すべき戦力が低下する可能性もあります。

ですが、侵攻する側にとって、この情報を我々が知らないほうが有利に働きます。

我々が受ける衝撃は大きく、体制を整えるため混乱することは間違いないですから」

この点については、誰もが頷いていた。

二正面作戦が、防衛に自信のある東側であったとしても、三正面ともなれば少なからず動揺はある。

「三点目は、敢えて最後にご説明させていただきます。

唯一、私自身で納得の行かないことは、ケンプファー子爵はこれを大きな脅威と見ていることです。

私自身も少しばかり関わりましたが、東国境の防衛は以前に比べ格段に強化されました。

仮に、1万や2万程度の戦力で侵攻されても、十分持ちこたえることでしょう。

我々の意表を突く、何らかの作戦でもない限り……」

こう話して俺は沈黙した。

他の参加者もみな、腕を組んで瞑目している。

何か見落としていることはないだろうか?

遠き帝国から、ジークハルトは一体何を見ている?

俺は何気なく、この会議室の壁を見た。

そこには、カイル王国全土と、それぞれの国境近辺を描いた、大きな地図が貼ってあった。

そう言えば……

ジークハルトの執務室にも大きな地図があったな。

『僕は暇さえあれば、地図ばかり見てるんですよね。

知らない土地でも、行った気分になるし、地図の街道を辿って各国を巡るのが好きなんですよね』

彼はそう言って笑っていたが……

ん……?

いや、そんなことあり得ない……

だが……、まさかこんな手が……

俺は突然立ち上がって移動し、その地図の前でかぶりつく様に凝視すると、全身から一気に汗が出て服を濡らし始めたことを感じた。

そんな事態、あり得るのか?

誰もが俺の行動を訝しんでいる。

「私の思い違いであればいいのですが……、我らはまだ慢心していたのかも知れません。

我らは4正面作戦、いや、包囲殲滅戦の危機にあると申し上げても過言ではないのかも知れません」

「何ですとっ?」

「そ、そんな……」

「な、何故じゃ?」

全員が驚きの声を上げた。

だが、その理由に気付いてない者が多く、殆どは疑念の声に聞こえた。

「外務卿にお尋ねします。

北の、ピエット通商連合の一国、この国に関する情報を教えていただけますか?

兵力、隣接する国との関係など、わかる範囲で」

俺は地図の一点を指し示し、クライン公爵に質問した。

ピエット通商連合は、小国が集まり連合国家の体を成しているが、一国当たりの国力は決して大きくなく、小さい。

「ふむ……、なるほどな。

かの国は、兵力だけならせいぜい5千から1万未満というところじゃろうな。

我が国と皇王国、双方に境を接しておるが、商取引などの多くは皇王国を頼っておるらしいの。

翻って我が国は、同じく北側の国境を接する、他の小国との方が関係が深く、密接な関係を持っておる。

一番関係の浅いこの国の抑えとして、北の辺境伯が配置されて……、ま、まさかっ!」

外務卿も俺の懸念に気付いた。

皇王国と友好関係にあり、我々とは最も疎遠な国。

北の辺境伯も、西に同じく復権派に所属しており、その手前には氷の侯爵の領地が広がっている。

「皇王国が北から侵攻してくる可能性か……

しかも見せ掛けの軍勢を囮として東に配置し、油断させた上で今度は北側からやって来るという訳か……」

ハミッシュ辺境伯がポツリと言った。

「やれやれ、どこの誰かは分らぬが、面倒なことを考えてくれるもんじゃ。

じゃが、それが今の時点で分かれば、此方でも対処のしようもあるかの?

軍務卿、王国内の各貴族、現時点では正面戦力とならない中央部を中心に、1万程度の軍団を卿の職責を以て編成してくれるかの?

その数の兵力が駐屯しておれば、北の辺境伯も氷も身動きできんじゃろう。

皇王国の戦術を知る、其方が軍の采配を行ってくれると助かる」

「承知いたしました。

事前に分かっているのといないのでは、雲泥の差ですな。

今のうちから編成を進め、更に皇王国が得意とする陣形を展開しそうな場所も、予め調査しておきます。

それにしてもケンプファー子爵という男、これに気付いておったということは、末恐ろしい男ですな」

「モーデル伯爵の仰る通りです。

そして南は、その男と対峙せねばなりません。

ここからは、先ほどの三点目の理由、その大前提となるお話をさせていただきますが、ハストブルグ辺境伯、当面ここからのお話は南部諸侯にも内密に願えますか?」

「ああ、勿論じゃ。

これまでの話も、おちおち味方に伝えることはできんじゃろうな。

後ろを心配していては、正面の敵に対し全力で戦うことも叶わなくなるでな」

「これは、ケンプファー子爵を通じて聞いた話ですが……

そもそも第三皇子にはカイル王国を侵略する目的も、その意思もありません。

皇位継承を確定し、自身の保全を図るという理由があるだけです。

スーラ公国との戦いも、元々侵略を受けた帝国側の防衛戦に端を発しています。

そのためか、彼は南進して国土の安全が保障される場所まで軍を進めると、矛を収めました。

要は彼自身、我々との戦いでは勝たなくても良いのです。

第一皇子の軍勢が破れ、第三皇子の軍勢が健在であれば、それで最終的に彼らの問題は決着しますので」

「いやいや、ありがたいが、迷惑な話でもあるな」

「ホフマン軍団長の仰る通りです。

彼らは恐らく、侵攻してきた際もしばらくはお茶を濁して、様子見を決め込むつもりでしょう。

第一皇子の軍勢が苦戦している限り。

我らの基本方針は、第一皇子側の軍勢に集中し、これを徹底的に叩き潰すこと。

それが見えれば、第三皇子の軍勢は戦わず軍を引く、ケンプファー子爵はそう申しておりました」

これは、以前にテイグーンにてジークハルトが、内々と告げて話していた事のひとつだ。

「正直言って、王国軍と帝国軍が総力戦で戦えば、双方とも相当な被害が出るでしょう。

そしてその場合、我々には次がありませんが、帝国側がその気になれば、この先は国力の違いによる物量戦となります。こうなっては我々の状況は最悪です」

「我々は、第三皇子の軍勢に対して、戦わずして引くということか……

それは王都騎士団の援軍を待つという意味では、既定の路線ではあったが、その程度が問題じゃの」

「はい、恐らくですが、第三皇子は中央または右翼から来るでしょう。

その方が王都への進軍が難しい代わりに、途中でお茶を濁しやすいという利点があります」

「王都騎士団としても、見極めが難しいですな。

更に、領地を帝国軍に席捲された領主たちの心は、穏やかではないでしょうしね」

「シュルツ軍団長の仰るところが、最も課題です。

そしてこの前提を知れば、迎撃に向かう者の心に油断と期待が生まれてしまいます。

最悪のケースは、これが帝国側の策略であった場合、我々は迎撃の機会を失いかねません。

なので当面は、全力で迎撃する前提で、臨機応変に後退するということになります」

「やれやれ、それも楽ではないの?

また、一番の重責を若者に押し付けることになってしまい、誠に申し訳ない話じゃがな」

ハストブルグ辺境伯はそう言って、俺の方を見た。

その後も、この話題に関し、議論を進め、第三回定例会議は終了した。

「最後になるが、以前に魔境伯と相談を進めておった、公国の魔法兵団対策じゃが、一応の進捗があるので会議終了後に残ってくれるかの」

クライン公爵が笑っていた。

何かまた、押し付けられるかも知れない。

俺にはそんな嫌な予感しかしなかった。