軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百一話(カイル歴511年:18歳)予想外の招待状

夏になり間もなく俺は学園を卒業することになる。

考えてみると、召集令状が来てからというもの、あっという間に日々が過ぎた気がする。

この日は、所用のため珍しく王都に出てきた兄と共に、学園で狸爺に面会することになっていた。

「タクヒール、すまんな。

毎度のこととはいえ、狸爺に面会して頼み事をするのは、ちょっと気が重たくてな」

「ふふふ、そうなんですか?

3年前に初めて学園長を紹介してくれた時は、なんか余裕で対応してるようで、ずっと羨ましかったんですけどね。

まぁ、俺も未だに苦手なのは一緒です。だから今回も、最強の盾に同行をお願いしましたので……」

「まぁっ! 最強の盾って、酷いですわ……」

「あ、ごめんユーカさん!

盾じゃなくて、狸撃退用の最終兵器……」

「……」

「タクヒール、フォローになってないぞ!」

兄は密かにそう言って、俺をこづいた。

いや……、なら、どうしろと?

実際、学園長はユーカさんの前だと、 好々爺(こうこうや) さながらに、めちゃくちゃ甘い。

なので、特に一人で来いと言われない限り、狸爺と会うときはいつも彼女を伴っていた。

俺にとっては、いつも通りの流れだから、あまり深く考えていなかったのだけれど……

暫く歩き、俺たち3人は学園長の執務室へと足を踏み入れた。

今は学園長としての職務だけでなく、復権派の辞任に伴い、もう一つの業務を兼務している。

以前と打って変わり、日々それなりに忙しそうだった。

「ほう、其方ら兄弟が揃って来るとは、何やら企んでおるようじゃな?」

開口一番、そう言って学園長は笑った。

「閣下、ご無沙汰しております。

この度、外務卿にも就任されたこと、誠におめでとうございます」

「私は、まもなく卒業なのでお世話になったため、ご挨拶に参りました。

今はお忙しいなかと思い、たまたま兄が訪問する機会に同行させていただきました」

「閣下、私は今回……、閣下に何かお願いをしたい方々に、盾として連れて来られたみたいです」

「!!!」

俺と兄さんの血の気が引いた。

ヤバい! ユーカさん怒ってる。

「ユ、ユーカさん、それは……」

「知りませんっ!」

「バカかお前はっ! だから女心を全くわかってない。いつもそう言ってるだろっ!」

「ふぉっふぉっふぉっ。

口は災いの元、そういうことじゃな。魔境伯はまたひとつ、学園で学びを深めたということかの。

良薬口に苦し、よい機会じゃ」

「いや、それは……」

「ほれ、また引っかかったの。

其方の兄と妻を見るが良いわ。何を言っているか分からず、ポカーンとしておろう。

3年前と同じで、いやいや、懐かしいのう。

今の言葉は、初代カイル王が王族にのみ、戒めとして遺した言葉のひとつじゃな」

そっか……

動揺してる時にまたやられた。

ここまでくれば、学園長も確信犯なのだろう。

俺は慌てて場を取り繕った。

「醜態をお見せし、失礼いたしました。

今回は、国境守備を担う魔境伯として、お願いに上がりました」

「ふむ、儂にできることかの?」

「はい、この秋で私も学園を卒業し、魔法士たちの訓練や遠征を担う二年の契約も終わります。

ですが今後、魔法戦闘育成課程の生徒を、魔境内での拠点構築にお借りしたく考えています。

今日はそのお願いに上がりました」

「私からも補足させていただきます。

地魔法士を中心とした派遣部隊の指揮や護衛、一切を辺境騎士団の我らが責任をもって対応します。

魔境伯や配下の魔法士たち、コーネル子爵旗下の地魔法士たちは、既に別件があり動員が掛けられません。それゆえ、学園の魔法士たちの力を借りたく、お願いに参上いたしました」

「よかろう。国境の安泰あっての王国、そしてこの学園じゃからの。

魔境伯からの正式な依頼とあれば、それはもう王国の責務となろう。派遣を認める」

意外とあっさり話が決まり、俺と兄は安堵のため息をついていた。

学園長の次の言葉までは……

「これも丁度良い機会じゃて。実は儂からも魔境伯に話とお願いがあっての」

……、ですよね?

なんかあっさり引き受けてくれたのには、当然理由がありますよね。

「ここからは学園長ではなく、王国の外務卿として話を進めるが……、よろしいか?」

「承知しました、閣下」

仕方ない。職責を以て依頼した以上、相手も職責を以て依頼されれば、話を聞くしかない。

「この王国の国境、南と東は常に脅威に晒されておるが、残る西と北はどうじゃな?

これはユーカ殿に聞いてみようかの?」

「はい、私の拙い知識ですが……

北の国境線には、国境を流れる川以外、何も遮るものがなく、防衛という面ではかなり脆弱です。

ただ、脅威という面では低い、そう考えます。

北の国、ピエット通商連合は小国同士が経済的な結び付きでできた、寄り合い国家です。

それぞれ一国の戦力は低く、しかも商人たちの力が強いため、挙国一致で攻めてくることは難しい、そう考えられていると思いますが」

「そうじゃな、それが正しい現状認識じゃろう。

して、西はどうじゃな?」

「西は、南や東と同様に山脈に挟まれた狭い国境しか、通じる道がないと聞いております。

そして、その先にあるフェアラート公国は、代々王家や上級貴族との交わりも深く、ここ数百年の間に王家を始め、上級貴族の令嬢方が嫁いでいるため、非常に関わりの深い国だと聞いています」

「その通りじゃ。そして今、その西がキナ臭い。

ソリス子爵、現在魔境が現存しているのは、どこじゃな?」

「はい、カイル王国では、南部と東部の辺境一帯、それに連なる大山脈が現存する魔境です。

国外では唯一、フェアラート公国に魔境があると聞き及んでいます」

「そうじゃな。

まぁ200年ほど前までは、今のグリフォニア帝国の北西部にも、今は消え去った魔境があったがな。

今や魔境は、カイル王国とフェアラート公国にしか存在しておらん。

かの国には、今もなお広大な魔境があり、魔物が生息しておる。そしてこの国と同じ教会がある。

魔境伯にはそれが、どういうことか分かるか?」

「魔法士ですか……」

「かの国がなぜ好んで、王族や上級貴族の子女を妻にと望むと思う?

友好の絆を深めたい、そう思うのは勝手じゃが、彼らが欲しいのは、より純粋な魔の民の血統じゃ。

そう考えても不思議ではあるまい。

かの国では、王族も貴族も、世子となれるのは魔法士のみ。これが数百年続いた伝統じゃった。

じゃが今回、永きに渡って続いた慣例を破り、魔法士でない者が王位を継いだ」

「国が割れている、ということですね?」

「その通りじゃな。

新国王は即位前、優秀じゃが魔法士としての適性がなく、王位を望める立場ではなかった。

所が隣国で、魔法を使えぬ貴族の一人が、剣聖と呼ばれる剣の腕を振るい、配下の魔法士たちを見事に使いこなした結果、南と東、二か国の侵攻をそれぞれ撃退し、大規模な内乱まで平らげた。

その話を聞き大いに勇気づけられた結果、慣例を破り反対を押し切って、実に数百年振りに魔法士でない者が玉座を得た」

「学園長、それって……」

「ああ、お主ら2人の話が、ごっちゃになっとるわ。

同じソリス、しかも2人とも当時は男爵じゃった。そんな者が2人もいようとは誰も思うまいて」

「クライン閣下、それが弟と私に何の関係があるのでしょうか?」

「ああ、大有りじゃの。

新国王は、その英雄に是非会いたいと、正式に国を通じで招待状を出して来たからの」

はぁっ? 何だそれっ!

俺は思わず言葉に出しそうになったのを、何とか堪えた。

「過去200年以上友好関係にあった国同士、今も使者のやり取りは頻繁にある。双方の有力貴族については、それぞれの国王が即位する際、特使として即位式にも立ち会っておるわ。

そのため、形式上は唐突でも不自然でもない。

そして厄介なのは、反対派、新国王とは逆の立場の者たちの中に、あの4人の領袖たちの親類縁者や血縁者がおるということじゃ。

彼らの家はここ何世代にも渡って、王国の最有力貴族として、その子女を隣国に嫁がせておる」

復権派……

おとなしくなったと思ったら、こんな事でも災いするのか。

思わず心の中で舌打ちした。

「私と兄は、どうすればよろしいのでしょうか?」

「招待を受けるも受けぬも、何の因果関係もない其方らに強要はできぬ、そう陛下は仰っておる。

じゃが……、ことは外交に関わることじゃ。

この先、かの国が乱れ、帝国の侵攻時に二正面作戦を取らせぬためにも、魔境伯にご足労願いたい。

これは、陛下の御意ではない。儂が外務卿の職責により、そう願っていることじゃ」

歴史改変に関するバタフライ効果が、そこまで及んでいるのか?

それともこれも、歴史の悪意の一環なのだろうか?

「ソリス魔境伯、王国の臣として行かせていただきます」

「すまん、大事な時に。

この国は、もうこれ以上敵を増やすことはできん。どうか許して欲しい」

そういって学園長は、深く、そして長く頭を下げた。

また、やむをえない事情とはいえ、領地を離れることになりそうだ。

なんか毎回、領地を離れるたびに嫌なフラグが発動する気がするし、今回も不安で仕方ないが……