軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十八話(カイル歴509年:16歳)学園生活2年目

秋になり、俺は特待生として2年に進級した。

新入生たちが続々と新たな学園生として門をくぐる。

「タクヒールさまっ、お久しゅうございます。

ずっとお会いしたかったです。

そして、今回の武勲と魔境伯への昇爵、本当におめでとうございますっ」

学園生として、新たに王都に移り住んで来たユーカさんは、そう言って微笑んだ。

俺が忙しかったためもあるが、彼女もゴーマン領内での事後処理や、入学準備などで内乱後もずっと会えていなかった。

ユーカさんは、内政を学ぶ文官育成の課程を履修しつつ、並行して飛び級で魔法戦術研究科にも所属している。

「ユーカさんこそ、ゴーマン伯爵の下で領地を守るため大層ご活躍されたと伺っています。

ご無事でなによりです。そして、私もお会いできて凄く嬉しいです」

そう、彼女は今や深窓のお嬢様ではない。

テイグーンでは、半年に渡る 団長(おに) の容赦ない指導を耐え抜き、魔法士としても超一流だ。

侵攻を受けたとき、クロスボウを持った領民たちとともに街を防衛し、その後集結したゴーマン兵とともに最前線に進出し、侵攻してきた反乱軍を押し返す戦果を上げている。

その実績は、俺たちとは別に後日に行われた追加論功行賞でも評価され、彼女は準男爵に叙されていた。

学園でも魔法士としての能力と実績が認められ、魔法戦術研究科に飛び級待遇で迎えられたそうだ。

ゴーマン伯爵領の領民や、特に精強を誇るゴーマン兵たちからも絶大な人気を得ているらしい。

なんか俺の周りって、兄といい、団長といい、ユーカさんといい、物凄い人気のカリスマな方たちばかりで、ちょっと肩身が狭いような……

彼女が学園に来てからというもの、俺の学園内ボッチ生活にも大きな変化があった。

一番大きい理由はユーカさんだった。

昼食時や休憩中など、俺は彼女と時間を共にすることが増えた。

そのオマケとして、ユーカさんの友人たちと共に過ごす(勿論彼女がいる時に)こともあった。

また女性たちに囲まれて……

周囲の視線が痛かったのは言うまでもないが。

それに加えて、もう一人。

東部戦線で共に従軍したアレクシス・フォン・バウナー、彼も俺たちの輪の中に加わった。

彼は魔法士戦闘育成課程を修了し、元々所属していた騎士育成課程に戻り、今度は俺と同学年になった。

更に、魔法戦術研究科にも所属している。

「いや~、ちょっと前と違って、私からも遠い高みに上られてしまったので……

ちょっと気が引けるんですけどね」

そんな事を言いつつ、彼の態度は変わらなかった。

もともと男爵家の次男坊で、無爵位の彼は準貴族や平民出身の生徒たちとも仲良く、気さくな性格で人気もあった。

そんな彼と俺が仲良く過ごしているのを見た、彼の友人たちも、徐々に俺との壁が無くなっていった。

他に目立った変化と言えば……

時折、今回の戦いで子弟騎士団として従軍した者たちに捕まり、取り囲まれることだ。

「団長の戦いぶりの話をお聞かせくだされ」

「傭兵団に入るための秘訣とは何ですか?」

「辺境騎士団支部へ入隊希望です。何卒、団長へのお取次ぎを!」

「………」

『将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ』

確かに、そんな 諺(ことわざ) もある。

盲目的に団長を信奉する彼らにとって、どうやら俺は……、馬だったようだ。

暑苦しいまでの脳筋集団に取り囲まれ、閉口することが度々あった。

まぁ……、良いんだけどね。

実際、この秋卒業した者たちは、団長麾下の兵として、辺境騎士団支部に召し抱えられる者も多くいた。

俺にとっては、少しでも実戦経験のある兵が集まることは幸いだ。

そう思うことにしている。

後は……

「2人の美少女に加え、伯爵家の可憐なご令嬢までっ! 羨ましすぎるぞ、爆ぜよっ!」

魔境伯となって、面と向かって言われることは無くなったが、そういった怨嗟の声を陰ながら上げている集団がいることを、シグルから聞いた。

どおりで……

ここ最近、騎士育成課程の実戦演習で一部の生徒からの当たりが特に激しい訳だ。

なんとなく納得した。

戦闘訓練なら、激しい打ち込みで負傷するなど普通にあるし、むしろ手を抜くと叱責される。

彼らは思いっきり真面目に、かつ情熱を持って訓練に取り組んでいたという訳か。

まぁ色々あったしがらみから解放されたこともあり、俺もただやられていた訳でもない。

剣術訓練では本来の力をセーブせずに出し、想いのこもった彼らの打ち込みも、受け流したり、叩き返したり、しっかり反撃……、いや、打ち倒していたけど。

「畜生っ!

地位もあって、女にもてて、更に金持ちで……

そんな卑怯な奴に俺は負けるのか?

世の中は不公平だ、不条理だらけだっ!

いつか俺は、きっといつか……、正義は必ず勝つ!」

涙を流して、そんな事を言わないで欲しい。

まるで俺が悪役やん!

こっちだって、10歳になる前からずっと、鬼にしごかれて毎日ボロボロだったんだから……

君たち、あの地獄、知らないでしょ?

そう言い返したかった……

因みに、多くの生徒に誤解されているみたいだったが、決して俺は学園での生活を日々楽しんでいる訳ではない。

ユーカさん、メアリーやサシャと共にいる時は、常に領地の内政、彼女たちが学んだ改善点、今後の都市計画の議論をしている。

テイグーンにいる時は、立場上領主であり執務室に居ることが多く、彼女たちも遠慮していたが、学園という独特の雰囲気が、彼女たちから変な遠慮や気遣いを感じさせなくしていたようだ。

昔、エストの街の領主館で学んでいた時のように、気さくに議論ができるようになっていた。

それが周りから見ると、いつも美少女たちを 侍(はべ) らせ、楽しげに談笑しているように見えるらしい。

話してる内容聞いてから文句言え!

と、言いたくなったが、我慢した。

アレクシスについても同様だった。

彼は兄と同様に、その性格や振る舞いで、元から学園ではモテ男だった。

その彼も輪に加わり、益々華やかな一団に見えてしまうらしい。

美男美女の輪の中に、金と権力にモノを言わせたフツメンが混じっている。

一部では、そんな風に受け止められているらしい。

もう……

途中からいちいち気にするのはやめたけど。

そんなアレクシスも、追加論功行賞にて、今回の戦功と俺の推薦により準男爵に叙されており、一代限りで領地もない俸給だけの準貴族とはいえ、晴れて貴族の当主となっていた。

実家は兄が健在で、受け継ぐ領地もない彼に対し、俺は卒業後にテイグーンにて指揮官の一人として招きたい意向を伝えている。

彼は快諾してくれ、実家の了承も得ているそうだ。

こういった経緯もあり、彼との会話も、常に防衛力の強化、戦術の議論、目ぼしい人材の発掘などが中心である。

決して、浮ついた話などしている訳ではない。

正確には、ユーカさんたちの手前できる訳がない、の方が正しい。

卒業後は、風魔法士である彼に、元イストリア皇王国兵のロングボウ部隊を率いる隊長として、その役割を任せたいとも考えている。

更に、今後彼の活躍次第で魔境伯領の一部を、男爵領として彼に任せても良い。

そんなことも考えている。

ユーカさん、アレクシスが加わり、王都の学園で過ごす時間も、ボッチの時間は無くなり、一気に有意義な時間へと変わっていた。

また、南部辺境地域の疫病対応で、比類なき活躍をしたローザも、今は王都に戻ってきている。

彼女は王都中央教会の名誉司教に任じられていた。

テイグーンのグレース神父ですら、以前は地方教会の司祭であり、役職的には彼女の数段下である。

彼女は、疫病に対する教会の貢献を確定付けたこと、将来に渡る教会の価値と利益をもたらしたことが、非常に高く評価され、更に聖魔法士としての活躍などもあり、この栄誉を受けたそうだ。

教会の人間でもなく、貴族ですらない者が、この栄誉を受けるのは異例中の異例らしい。

今や医術学校でも中央教会でも、彼女の勉学を妨げるものは何もないため、彼女もこの秋から、医術学校に籍を置く傍ら、魔法戦術研究科にも所属している。

ローザ、いつの間にか、凄い人になってませんか?

俺は本人からこの報告を受けたとき、かなり驚き一瞬固まってしまったが、彼女が評価されたことが、凄く嬉しかったのは言うまでもない。

余談だが、グレース神父は今回の活躍が大きく評価され、任地は 南部辺境域(テイグーン) だが、役職は中央教会の司教となり、大出世を遂げている。

今回の疫病では、彼と彼に同調した南部辺境の教会は、疫病の治療に使う聖水の制作費以外、清めの儀式に関わる費用を一切取らなかった。

「誰もに等しく降りかかる疫病で、教会は収益を得るべきではない。こういった事態にこそ、教会の価値と教義の意義を示すべきだ」

そう言って自ら範を垂れたそうだ。

彼の言葉に一番驚き、困惑したミザリーが、態々(わざわざ)その件について報告してきた。

うん……、多分、彼の周りには、ローザに付き従ってきた中央教会のスパイもいたもんね。

収益として受け取れば、その分ごっそり中央に吸い上げられる。

どうせ奪われる臨時収入なら、無くても構わなくね?

そんな判断で、実より名を取る選択をしたのでは?

通常、黄金色の お菓子(きんか) が大好物であるグレース神父のとった想定外の行動を、俺はそう推察した。

あの人も、優秀な狸だしね。

まぁ、揺さぶるとすぐ尻尾が出るのはご愛嬌だけど。

新学期が始まり、魔法戦術研究科には現在7名の仲間が所属している。

既に1年コースを卒業した、マルス、リリア、アストールは講座の応援要員、兼、従者として王都に滞在しているが、アストールは近いうちに建設作業でテイグーンに戻すつもりだ。

これで10名が公に約束された履修を実施していることになった。

残りの16名は、領地の状況を見ながら交代要員として王都に来てもらうように考えている。

「新学期も落ち付けば、テイグーンに戻れますね」

「そうだね、アン。収穫が終わった頃に一度戻ろうと思っている。色々、気になることもあるしね」

そう、災厄はまだ終わっていない。

そして、回避してきた分、その規模も大きくなって再び襲ってくる気がするからだ。

歴史との戦いに、俺は思いを新たにした。

〜学園での魔法戦術研究科履修状況〜

(並行履修)

メアリー (地魔法士)

サシャ (水魔法士)

ローザ (聖魔法士)

※他領地

ユーカ (風魔法士)

アレクシス(風魔法士)

(新規履修)

ゴルド (風魔法士)

ダンケ (火魔法士)

ウォルス (水魔法士)

アラル (風魔法士)

(応援対応)

マルス (火魔法士)

リリア (風魔法士)

アストール(地魔法士)