軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十六話(カイル歴509年:16歳)領主貴族と新たな疑問

家宰やミザリーたちと打ち合わせをした翌日、俺は王宮で父たちと共に任命式に参加した。

「ソリス魔境伯、こちらへどうぞ」

順番に呼び出され、俺は国王陛下の御前で宣誓後に、領主貴族たる事を記した任命書に、貸し与えられた印綬を手に取り押印した。

これが!

初代カイル王の遺した魔道具か。

魔の民、いや氏族の血に働きかけて、魔法を活性化させるという。

前回も含め、手にするのは2度目だが、今回は色々と裏の事情を知っている。

凄く感慨深いものがあった。

印綬を手にした瞬間、全身に鳥肌が立ったが、これは印綬の影響なのか、それとも自身の想いに因るものなのかは分からなかった。

そして、一瞬何かが身体の中を駆け巡る気がした。

ただそれ以外、体感できる変化は他になかった。

これで俺は血統魔法に目覚めるのだろうか?

この辺はよく分からないと言うのが、実際体験してみた結果だった。

その日の午後、俺は学園へと足を運んだ。

色々礼を言わなければならない、そう思ったからだ。

「男爵、いや失礼、既に魔境伯じゃったな。

この度の戦功、誠に見事としか言いようがない活躍じゃったの。儂からも礼を言うため、其方の屋敷に向おうと思っていたところじゃった」

「いえいえ、私のほうこそ、此度の東部戦線でのお気遣い、偽の親書の対応など、公爵閣下のお力添えには感謝することばかりです」

実際には、あくまでも結果論だが、俺はこの人に感謝しなくてはならないと思っている。

ひとつは、

王都に行く事になったからこそ、ローザも王都に出てくることになった。

それが疫病の解明に繋がり、家族を始め多くの命を救う結果に繋がった。

ひとつは、

学園に通っているからこそ、勅令魔法士に関わる相談ができ、その結果として仲間の魔法士を守ることができた。

ひとつは、

勅令魔法士の制度があったからこそ、東の戦いでは思い切った魔法士の動員ができた。

本来なら魔法士を秘匿をするため、あそこまで動員はできなかったと思う。

そうすると、東での戦いでここまで有利な展開にはならなかっただろう。

そして、ローザの教会での立場も、冷遇されたままで、疫病の伝承は発見できなかっただろう。

ひとつは、

偽の親書に関し、騎士団長を通じ陰で動いてくれたからこそ、俺は拘束されずに南へ行けた。

この人と知己ができ、頼むに足ると思ったからこそ、秘事を打ち明け、偽物である証拠を出せた。

結果として、王都に出てきたこと全てが、今回は全て良い方の結果に繋がっている。

全てが綱渡りであったことは否めないし、穿って見れば、俺は全て掌で踊っていただけ、とも言えるが……

もし、王都に出ていなかった場合を考えると、俺の未来は決して明るいものではなかっただろう。

最悪、20歳を前に南部辺境一帯は、帝国に攻め滅ぼされた可能性もあったし、その場合、俺自身もこの世界から別れを告げていただろう。

「いやいや、それにしても其方の用意周到さには驚いたぞ。

あの証拠を見せた際の、復権派の連中の呆け顔、悔しそうな顔は、其方にも見せてやりたかったわ」

後で聞いた所によると、当時ソリス男爵を捕縛するよう声高に叫んでいた復権派相手に、学園長は彼らと舌戦を繰り広げたらしい。

そして、決め手として俺が仕組んでおいた証拠を突きつけ、完全に無実と事実無根を押し通したらしい。

「公文書に署名だけでなく印を用い、印に細工をしているとは、我らも思わぬ発想であったわ」

学園長はそう言って大きく笑った。

俺自身はちょっと複雑だった。

史実かどうかは分からないが、安土桃山時代の伊達政宗、彼の逸話から丸パクリなんで……

俺が使用する印には、文字だけではなく鳥や木々をあしらった意匠を独自に採用していた。

そして、印に描かれた小さな鳥、その更に小さな目には針で穴を通していた。

男爵になって以降、俺が発行する公文書全てに。

「奴ら、一つ目で押し黙りよったので、二つ目の秘事はまだ知らぬわ。

こちらはこの先も、何かの際には有効じゃろうて」

「ありがとうございます。

二つ目をご存じな方は他にはいらっしゃいますか?」

「伝言してきたゴウラス殿も実物は見ておらんでの。儂ひとりだけ、そう考えて良かろう」

そう、公文書に仕掛けた秘策は、1つだけではない。2つ目は、子供のころにやった遊びの延長だった。

柑橘類の皮を絞った汁を使い、筆で書面に 印(しるし) を付けること。ただそれだけだ。

後日、燭台の火を用いて書面をあぶれば、 印(しるし) が浮き出る。

このあぶり出しの件は、領内でも妻の4人とユーカさんしか知らないことだ。

「其方の用意周到さが、其方を救ったのだ。それに関して礼には及ぶまい。

儂は王族の端くれゆえ、公爵などと大層な身分で呼ばれておるが、固有の領地も兵も持っておらん、いわば俸給だけの役人と同様よ。

ゴウラス殿も同様じゃの。

伯爵の立場も、王都騎士団長の立場ゆえの身分じゃ。彼は本来、伯爵家の次男に過ぎんでな。

固有の領地と兵を持つ、領主貴族ではない」

確かに……

片や復権派は、広大な領地と兵力、伝統ある12氏族の家系と、王国内でも重要な大臣職を占めていた。

彼ら4人を頂点とする、力やその影響力、発言権の強さは、陛下ですら蔑ろにできなかっただろう。

「それゆえ大掃除も、言ってみれば小さな埃取りから始めておった。公職の要じゃが、奴らが気にせぬ程度の中間職、そういった役人をこちら側に入れ替えていく作業をな。

これには時間と手間がかかり、其方にも十分な支援を行うことができんかった。

だが今回、其方のお陰で奴らを一気にまとめて公職から追放し、中央からも遠ざけることができた。

この事は非常に大きい。

もう奴らは、利権という甘い汁を使い、人を動かすことはできんようになったからの。

頼まれていた大掃除も、結局は其方の力を借りて、やっとできた。そんなところじゃて

儂やゴウラス殿に誇るものは何もない」

「では復権派はもう?」

俺は既に自身で理解していることを、敢えて気付かぬ振りをして質問した。

「ああ、この先数十年という単位で大人しくなろう。奴らがかつての職に返り咲いて来ない限りはな。

南のハストブルグ殿は旗下の者たちと共に、大きな力を得ることになった。

東もハミッシュ殿はモーデル伯爵という仲間を新たに得た。これも大きい」

「そうですね、最前線の安定はこの国の安全保障に関わる重大事ですし、足を引っ張られないこと、それだけでも、大きな援軍となります」

「そうじゃな。

まぁ以前に儂が、其方と兄を比べ、失礼なことを言ったのを覚えてあるかの?

当時は、隙だらけにも関わらず、頑なだった其方を導くつもりじゃったが、それも愚かなことだったと、改めて詫びねばならん」

あ、あの話ね。

兄には器と将才があり、人が集まるけど、俺はボッチだという……

今でも事実として、身に染みてるんですが……

「其方ら兄弟は、それぞれお互いに、得難いものを持っていること、それは事実じゃ。

其方の兄は、将として兵の心を惹き付ける力があり、弟の其方は、将自体を懐に取り込む力があると思う。

今回のことで、其方の嫌疑を晴らすため、一番精力的に動いておったのは、モーデル伯爵じゃ。

彼が堂々と其方の無実を説き、復権派の領袖共に絶縁を言い渡す様など、誠に見ものじゃったぞ。

ハミッシュ辺境伯も、論功行賞で其方が魔境伯となる前は、全軍の参謀として麾下に欲しいと、ハストブルグ辺境伯に申し入れておったらしいしの。

王都騎士団のホフマン軍団長、シュルツ軍団長の両名も、相当其方に入れ込んでおる。

辺境騎士団支部に旗下の精鋭を送りたい、そう息巻いてゴウラス殿を辟易させておるでの」

モーデル伯爵が! それは知らなかった。

後できちんとお礼に行かねばなるまい。

ハミッシュ辺境伯のことも知らなかった。

2人の軍団長とも、戦場や凱旋軍を離脱する時にも色々お世話になったこと、今でも感謝している。

全てがありがたい話だった。

もちろんこれらも、俺が王都に来ていなければ起こっていない、前回の歴史には無かった新しい流れだ。

歴史の流れ、それが織りなす人と人との関りなど、些細なことで大きく変わってしまう。

良くも悪くも、その起点に学園長がいたこと、王都に居たからこそ生まれた流れなのは言うまでもない。

「所で、話は全く変わりますが、幾つかお教えいただきたいことがあります。

私は本日、王宮での任命式で、初代カイル王が遺した印綬に初めて触れました。

これにより、私にも権限、血統魔法が目覚めることになるのでしょうか?

また、その力が目覚める際には、何かの知らせや自覚できるものはあるのでしょうか?」

そう、確かに印綬に触れた瞬間、鳥肌のようなものは立ち、何かが身体を駆け抜けた感覚があった。

それと、何か大事なことを忘れている気がする……

そんな思いが頭をよぎった。

言葉では難しいが、忘れている事を思い出した感じ。何を忘れているかは思い出せないが……

そんな、あやふやな感覚に見舞われた。

「ふむ、印綬の効果は様々、そう言われておる。

直ぐに血統魔法が発現する者もおれば、数年後に発現する者。そして死ぬまで発現しない者もおるでな。

まぁ其方はまだ若い。焦る必要もなかろう。

それと、儂自身が体験したことではないがの。

権限や血統魔法は目覚めると突然、そんな気がする。実際にはその程度の感覚らしいぞ。

其方は剣の腕もそれなりじゃろう?

階位が上がった際に、何か知らせなどあったかの?」

「いえ、剣を握った際に、新しい階位に進んだ。なんとなくそんな自覚があった程度です」

「そうじゃろうな。本人の自覚はそんなものらしい。

傍からその者が持つ特性を鑑定できる、そんな便利な能力が有れば、非常にわかりやすい話じゃが。

だが、この鑑定自体は非常に稀有な才能でな。

初代カイル王はその才能をお持ちで、人外の民から魔法士を復活させた。これは周知のことじゃな」

確かにこの話は歴史の授業で習ったことだ。

「だが、貴族でも知らされてないこともある。

初代カイル王が持っていた力は、今なお王族にのみ、才能として受け継がれておる。

最も、その鑑定の力も今はあやふやで漠然としたもの、発動されて初めて気付く程度らしいがな。

王族の中でも、この鑑定の才を持つ者だけが王たる資格を持ち、資格を持つものが次代の王として立つ。

こうすることで、その才能を未来永劫受け継いでいくこと、これが王族の定めじゃ。

もちろん、儂にはそんな才能はなかったでの。そのため今の立場におるという訳じゃ」

そう言って学園長は笑った。

ってか、またなし崩し的に、逃げれない秘密を共有されてしまった気がする……

「閣下、その情報は私には重すぎます!

知ってはいけない情報を、今お話しされているような気がしますが……」

「ほっほっほ、まぁ良かろう。

陛下からは其方に、王族に準じた知識と情報を与えよ。そう言われておるでな」

前回の最後で俺が得たもの、領地鑑定もその鑑定スキルのひとつなのだろうか?

今回の世界でも、俺の権限や血統魔法の発動は、20歳のあの時に至るまで発現しないのだろうか?

あの時、確かに俺はお知らせに似た声を聴いた。あれは一体何だったのだろうか?

この世界には、まだ俺の知らない疑問が多く残されている。

だが、少しずつ、固く絡まって 捩(よじ) れた糸がほぐれつつあることを、感覚では理解した。

「そうじゃ、もう一つ。

其方には大切なことを伝えねばならん。これも其方以外、口外せんようにして欲しい」

先ほどの和やかな雰囲気とは打って変わり、余りの学園長の真剣な表情と声色の変化に俺は身構えた。

そして学園長は、この国が持つもうひとつの秘密について語り始めた。