軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十四話(カイル歴509年:16歳)ソリス家の方針

王宮での会議も終わり、俺たちは王都の第二区、上級貴族の屋敷が並ぶ一角に戻った。

今回、父が伯爵、俺も魔境伯となったことで、第二区に屋敷を賜ることとなったからだ。

といっても、国防が主任務である俺たちが、王宮詰めする訳でもない。そのため、それぞれが居館を持っていても仕方ないので、ソリス家の住まいとして、一つの屋敷を父と共同で使用することとなった。

因みに兄は……、ハストブルグ辺境伯の居館が住まいとなる。正式に後継者として婿入りが決定したので。

俺たちは新しく宛がわれた居館にて、父と 家宰(レイモンド) 、俺と団長、ミザリーで今後の相談を始めた。

因みに家宰も今回の戦後処理も含めて、父に同行し王都まで来ていた。

「それにしても、陛下のご厚意といい、辺境伯の期待といい、凄いものだな。

まぁ……、これから色々大変なことだし、自慢の息子たちと喜んでいるだけでは済まなくなったが……」

「そうですね。

私としては、やっかみなどから政治絡みで、足を引っ張る者が、出て来ないことを祈るばかりですが。

復権派のような存在はもうこりごりなんで……」

「確かにな。それにしても今回の彼らへの仕置き……

タクヒール、其方はどう思っている?

儂は不敬とは思いつつ、いささか甘いと見ておるが」

「正直に申し上げても?」

そう言って俺は周りを見渡した。

まぁこの面子なら、本心を言っても問題なかろう。

「私個人としては、父上もそう感じられたのなら、陛下も学園長も相当な狸だと改めて思いました。

罪を受ける者も、なんとか妥協できる限界、その辺をうまく取り繕われたと思っています。

ただ私自身は、彼ら4侯爵は処刑に等しい仕置きを受けたのではないか、そう感じています。

よほど事態が動かぬ限り、彼らはもう貴族社会で死んだも同然です」

「ふむ……、と言うと?」

「ダレンさま、恐らくタクヒールさまは各侯爵が大臣職を退いたことを指していらっしゃると思います」

やはり 家宰(レイモンド) は気付いていたか。昔王都の学園に学び官僚を志していたことはあるな。

流石だと思う。

「この国は、国王陛下の中央集権体制となってはいますが、行政の実務は各大臣に委ねられております。

各部門の人事登用権も含めて。

そうなれば陛下の御意も、彼らを介した結果、徐々に歪められ、末端に届く時には全く違ったものになる場合もあるでしょう」

「それで?」

「彼らが拝命していた大臣職は、本来世襲ではありません。ただ、ここ数代はずっと同一の家が世襲の如く大臣の地位を受け継いでいます。

彼らにとっては、それがむしろ当然のこと、そう受け止めていたでしょう。

失うまで、その力を持つ意味、もたらされる権力の大きさ、それらを理解していなかったと思います。

彼らはそれらも含めて、家の力、すなわち現当主である自分たちの力と勘違いしています」

父はまだ不思議そうな顔をしていた。

数年前まで、中央や政治に無関係だった、いち辺境の男爵だったので、これは仕方ないと思う。

「4侯爵が世襲していたのは、外務卿、軍務卿、商務卿、財務卿です。

これでは王権派がどれだけ頑張ろうと、この国の命綱は彼らに握られたまま、不利な立場を覆せません」

俺自身、特に王都に来てからというもの、自分なりに敵(復権派)について調べていた。

彼らの権力基盤についてもそれに含まれる。

「外務卿は他国との折衝や外交情報を一手にします。

万が一、情報がそこで止まれば、陛下は外交戦略で丸裸になってしまいます。

今現在、二カ国の敵と揉めている状態で、外務卿の権限は大きいと言わざるを得ません。

また近年、外交情報の質が落ち、他国からの対応に遅れを取ったのも、ここに災いしたと考えています」

実際、帝国侵攻時にイストリア皇王国との2正面作戦を許すなど、平和ボケした外務を預かる部門の怠慢としか言いようがない。

更に、帝国との休戦協定の場に、ゴーヨク元伯爵が強引に送り込まれたのも、彼らの意思が働いていた。

「軍務卿は、平時なら事実上名誉職ですが、それでも各貴族の兵備を知り、査閲の権限を持ちます。

公務で誰憚ることなく、各貴族の軍の状況を探り、その気になれば不備を突き弾劾することもできます。

まして戦時には、派遣する貴族を指名し、意のままに軍団を編成させることができます」

彼らは自分の意に沿う者や、逆に意に沿わない者を戦場へ送り出すことができる。

前回の南の戦役で、役にも立たない第一、第四連合軍の貴族を派遣してきたのも、むろん彼らの意思だ。

「商務卿は、王家に関わる物品購入や商人選定を行うこと、陛下の直轄領の農産物を商人に取り次ぎます。

更に王都での開業認可や商取引の認可など、商務卿配下の組織が判定します。

それ故に、商人に対して強い権限を持ちます。

王都での商売や、大きな商いを行っている者ほど、こぞって、情報と金、このふたつを彼らに提供していることでしょう」

正直、国境を越えて商いを行う商人たちが、今、 帝国側(ジークハルト) に囲われているのも、大量の魔石が皇王国に闇で流れていたのも、彼らの怠慢だ。

何もしなくても、甘い汁を吸える立場に甘んじていたから、結果そうなったと考えている。

若しくは、目を瞑る代わりに対価を得ていたかだ。

そっちの方がもっとタチが悪い。

「財務卿は、王国の行政予算を分配します。各大臣や行政に関わる者は全て、その顔色を窺います。

故に、そこには甘い汁が集まります」

そう、最後にとどめが財務卿。4人が担っていた大臣職以外にも、王国には他の大臣職や部局もある。

その全てが、予算という人質を握られており、表立ってその意に逆らった行動を取ることができない。

正直言って、学園長たち王権派はこの状況下で、よく彼らと鍔迫り合いができたと思っている。

大掃除が上手く進まなかったのもこれらが理由だ。

逆に言うと、それだから復権派は権勢を振るうことができていた。

「繰り返しますが、彼らは、それぞれの家に生まれた時から、この権力を持つことが決まっていました。

それは彼らにとって、あって当然のもの、故に、それらを自らの力、家の力と勘違いしています。

ですが、彼らはその力を一気に失った」

「それで、彼らが一気に没落するということか?」

「はい、彼らの配下、同様に甘い蜜を吸っていた復権派の連中も、彼らに倣い職を辞した者もいます。

今後新しい大臣に更迭される者も出てくるでしょう。

彼らを支えていた権力の基盤は既に崩壊しました。

歓心を買うため集まってくる人も、裏で動く金貨も、全てが一気に無くなります。

この先何かを企んでも、今後彼らは自身の力、所領の収益、それだけで動かなくてはなりません。

また、彼らは今の暮らし振りすら、変えなければならないでしょう。裏の収入が一気になくなるのです。

まずは利に聡い商人たちが、真っ先に掌を返してくるでしょうね」

彼らはまず、この変化に愕然とする筈だ。

そして、この変化についていく事ができないだろう。

大貴族の権勢家であったが故に……

「報奨金の供出により、彼らの当座の資金は奪われましたが、彼らは恐らく、それぐらいなら数年で、再び取り戻せると思ったでしょう。

確かに今までであれば……

ですが、彼らはその力の源泉を失いました。

そして、長年身についた習慣は変えれません。

更に彼らは、この変化を謙虚に受け止めることもできないでしょう。

結果として彼らは、じわじわとその命脈を絶たれる事になり、それは王法で裁かれたものではなく、自らの行いで自滅する形となります。

この先、彼らの自尊心が彼ら自身を貶めるのです。

その行く末は2つしかありません。

狸たちはそれを見越して、今回の処分だと思います」

「暴発して不逞の企みや乱を起こすか、浪費で家格を保てなくなり完全に没落するか、そういうことか?

彼らはそこまで阿呆なのか?」

「はい、生まれながらに当たり前に持っていた権力というものは、時に持つ者を歪めることにもなります。

挙国一致が必要な時に、最前線の足を引っ張る権力闘争を行っていたのも、彼らが阿呆だからです。

彼らは、何事も自分たちに都合よく運ぶものと、役職で得た経験を、戦場でも同様だと考えたのでしょう」

「タクヒールよ、まるで見てきたような言いっぷりだな?」

「既得権益、利権は、その蜜を吸う者を狂わせます。

常識と非常識の境目が分からなくなるぐらいにね。

彼らは、当たり前と思っていた力を失いました。

この先地獄を見るのは、既に決まっているようなものです」

俺は胸を張って答えた。

ラノベや小説だけの知識ではない。

ニシダが日本人として働いていた時も、似たようなことはあった。既得権益や利権にしがみついていたのは、貴族ではなく企業や個人であったが……

新聞で暴露された話、関係者しか知らない話、あげればキリがない。

「今後彼らが、また不穏な企みをしたり、タクヒールさまを貶める、そんな心配はないのでしょうか?」

「うん、ミザリーの懸念はもっともだけど、それは多分ないと思うよ。

今回の事で全ての貴族は思い知ったと思う。

ゴーヨクに騙され、彼に従った貴族たちの末路を。

当然、企みに誘われても二の足を踏むだろうね。

まぁ、こちらも油断しないで警戒は続けるし、今回の人事で王権派も十分に力を持ったしね」

「戦場を知らぬ者、 徒(いたずら) に兵を弄ぶ主君に仕えること、負けが決まっている主君、それらは我ら傭兵も死活問題ですからね。

ごめん被りたいお話ですし、慎重に調べますよ。

兵としても、彼らに仕えたいと思う者はいないでしょうね」

そう、もう彼らは貴族を糾合することも、利権で脅したり釣ったりと、他家を支配することもできない。

何もしなくても、惨めにじわじわ滅びるだけだ。

そして彼らに付き従う者もいなくなる。誰もが泥船に乗りたいとは思わないだろうから。

今回の彼らの処分、表向きの罪なら下せる処分にも限界がある。

だが、彼らは裏では復権派の領袖として、陛下に逆らい国政を 壟断(ろうだん) しようとしていた。

この罪は非常に大きいが、それを以って断罪するには証拠と相応の理由がいる。

一見、本人達にも重い処罰とは思わせず、だが、その先の展開を見越した悪辣さ、自らの手を汚さず、彼らを 嵌(は) める点に、この処分のエゲツなさを、そして恐らくこれを考えた狸爺に、エゲツなさを感じていた。

「見事なご賢察ですね。

では我々も安心して内政に勤しみ、力を蓄えるとしましょう。特にソリス家は今後の課題も多いですし」

そうだった。本来この話をしなきゃならなかった。

脱線した話を 家宰(レイモンド) が軌道修正してくれたお陰で、父も俺も本来の目的を思い出した。

「先ず、目先の懸念事項として、旧ヒヨリミ領からの難民の対応ですが、いかがしますか?

今後、コーネル子爵が統治される地域でもあり、このままという訳にはいかないと思います」

家宰の発言に対し、ミザリーが手を挙げた。

「補足させてください。

私共で調べたところ、現在テイグーンに滞在している難民は、フランからの流入を含めおよそ1,700名です。

彼らの多くは、旧ヒヨリミ領南部から来ています。

今後タクヒールさまの領民となる者たちですが、その殆どがテイグーンへの移住を望んでおります。

悪政や魔物の氾濫などにより、南部辺境一帯は相当荒れていましたので……」

「そうですね。テイグーンで抱えている難民たちは、基本的に移住も許可する方向で良いと思います。

中央と北部から来た難民は、安易に受け入れることもできないかもね。

レイモンドさん、彼らは主にエストに流れていった、そういうことで間違いないですか?」

「タクヒールさまは既に他家のご当主です。

今後はご遠慮なくレイモンドとお呼びください。

仰る通り、我々もエストの難民を調査しました。

以前にタクヒールさまの残してくださった、難民受け入れの仕組みが今も機能しておりますので。

受付所の集計によると、彼らの多くが北部から中央の一帯に広がる町、農村から流れて来た者達でした」

「まあ、コーネル子爵に対しては、私から話を通しておこう。彼も領地が倍以上になったとはいえ、飢えた民を支える余裕もないだろう」

父(母)とコーネル子爵の関係なら、筋を通しておけば大丈夫だろう。そこは任せる事にした。

「了解しました。

相手がある事ですが、方針として難民のうち希望者は新規領民として受け入れる、そういうことで、ダレンさま、タクヒールさま、よろしいでしょうか?」

「うむ」

「異存ありません」

「では、次の議題ですが、魔境伯領と伯爵領、この領境をどう設定しますか?」

「父上さえ問題なければ、フラン側に設置している新関門の周囲に、開拓地を作ろうと考えています。

今はただの草原ですが、そこまでを領境として認めていただけますか?」

「儂は異存ないが、タクヒール、それで良いのか? そなたの領地の一番の課題は人口であろう?

それで立ち行くのか?」

「構いません。南西の鉱山とフランは父上の領地として、私にはフランより南東の辺境、農村五箇所とディモスの町をいただけますか?

そうすれば、魔境側を経由せずともテイグーンと旧ヒヨリミ領北部が繋がりますので」

「それは問題ないが……、それで良いのか?」

「タクヒールさまの仰る通り、防衛面を考えればその選択が正しいと思います。

我ら辺境騎士団支部も、増員は決まりましたが兵はまだ増えていません。

現状で治安維持や守る領域だけが増えるのは、かえって下策となってしまいます」

団長も同意してくれたが、父は唖然としていた。

確かにもう少し領地があっても良いかも知れないが、実際にはいきなり増えても手が回らない。

そして、事が起こった際に守りやすいこと、この前提も考慮する必要がある。

あと、父もゴーマン伯爵もコーネル子爵も、領地自体は倍以上になったが、それは面積だけであって収益や兵力などが倍になった訳ではない。

むしろ彼らの元の領地は豊かであり優良物件だが、増えた領地の方は言ってみれば並以下だ。

だからこそ、反乱に加担した者たちは豊かな領地を得ようと蠢動し、今回の結果に至った。

そんな理由もあり、収益の見込めるフランの町や元々父の管理下だった鉱山は、そのまま伯爵領とした。

俺にはテイグーンの鉱山、そして新たに得た旧ヒヨリミ領の鉱山(金山)があれば十分だった。

もう一つ、辺境伯から言われた兵力配分も、父にとっては相当苦しいだろう。

兵力面でも、テイグーンと傭兵団はエストール領で突出していたのだから。

更に、これまではエストール領内に分散していた、受付所やそれに関わる人員も、別の領地となれば移住を望む者が出てくる。

父の領地からはそれなりの人材流出も出てしまう。

なので、できる限り負担はかけたくなかった。

こうして俺たちの領地の大枠は定まった。

だが、まだ肝心の自分達の領地運営、これで議論しなくてはならない事は山積していた。

席を移し、ミザリーたちとの議論はこれからだ。