軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十三話:東部国境戦⑦ 秘策対秘策

※※※ 開戦三日目

「勇敢なる兵士諸君、敵軍のまやかし等に動揺する必要はない。

我らは常に、神と共にある。そして諸君らの傍らには、神の御使いが降臨している!」

「おおっ!」

「枢機卿が前線に……」

「御使いが降臨したぞっ!」

カストロ枢機卿と、神の御使い(風魔法士)が前線に出てきた事で、混乱していたイストリア皇王国軍の士気は一気に回復した。

「昨日の様に、あ奴等の良いようにはさせぬわっ! 其方等の手で、奴らに思い知らせてやれっ!」

枢機卿は、周りの兵に聞こえないように呟いた。

昨日はカイル王国軍の騎馬隊が行った、人を喰ったような小馬鹿にした行動、そして森の中での防壁構築、今回の一夜城構築など、我慢の限界に達していた。

彼にとって、ここで一矢報いること、味方の士気を鼓舞することが、絶対に必要なことだと考えていた。

枢機卿が初戦から防塞正面に展開させていたのは、ロングボウ兵の中でも特別な選りすぐりである。

従軍したロングボウ兵18,000人のうち、上位2,000人の優秀な射手たちで、初戦でも彼らは枢機卿の期待通りの活躍をしていた。

彼らの得意とする、強弓を使用した超長射程射撃で、カイル王国軍兵の多くを射倒していた。

そして今回、その中でも特に秀でた者、皇王国軍きっての腕利き、そう評判の高いロングボウ兵10人を招集した。

その彼らが、風魔法士との連携攻撃のため、敵の小城に向かって矢を番えた。

「皆の者、刮目して見よ! これが神の思し召しだ」

その言葉と同時に、10人のロングボウ兵は矢を放つ。600メルも離れている標的を狙うとは思えない、水平に近い角度で。

そして、放たれた矢は激しい突風に乗り、あり得ない距離を飛翔すると、カイル王国軍が設置した小城の壁に勢いよく突き刺さる。

矢の威力も凄まじく、見かけ倒しであろう小城、その壁面を構成する板が盛大に砕かれ、宙に舞うのが皇王国軍の防塞からも見えた。

「見よ! 形だけの防塞など、我らの敵ではないっ!

諸君、恐れるな!

神の加護を受けた我らの矢は、あの距離の敵をも打ち砕く!」

「おおっ!」

「神の御技だっ!」

「我らも神と共にっ」

イストリア皇王国軍の陣営から、大歓声が沸き起こった。

ちょうどその頃、逆にカイル王国の陣営は静まり返っていた。

イストリア皇王国軍が放った矢は、小城だけでなく、兵士たちの心にも深く突き刺さったからだ。

「おい! この距離で当ててくるか?」

「無理だ……、絶対無理だ。こんなの、出たら殺される」

「どうやって……、攻めるというんだ?」

特に小城の後方に布陣する、一部の兵たちは激しく動揺し始めた。

「団長、風魔法士が前線に出てきたみたいですね。

今日の作戦、第二案に変えた方が良いかも知れませんね?」

「そうですね。この飛距離と威力、侮れないものがありますね。

でも奴ら、敢えて前面に張った板に気付かず、恐らくは見かけ倒しの急造品、そう思ったでしょうな」

蒼白になった兵とは異なり、この状態でも俺たちは平常運転だった。

敵軍に風魔法士が居ることは、予め予想されたことのひとつだ。

そして、たった一射だが、なんとなく俺達にはその特性も推測できた。

恐らく、飛距離と威力の特化型だ。

ソリス魔法兵団では、クリストフが最もそれに近い。

広範囲の対応は苦手だが、限られた範囲なら特筆すべき威力と飛距離を出す。

昔、クリストフも、広範囲の支援ができるようになるため、相当苦労していた。

散々修練を積んだ結果、今は、他の風魔法士同様、広範囲の支援もできるようになったが、時間と本人の努力を相当要していた。

「では団長、こちらも返礼を用意しますか?

左右とも発射用意! 照準、敵防塞中央。

騎手、森に潜む味方にも、赤旗を立てて作戦開始の合図を送れっ!」

「お前たち! 敵の射撃に驚いているだけじゃなく、我らがこれから行う攻撃を目に焼き付けろっ!

そして、見た後は、安心して配置に付け」

俺と団長は、それぞれ指示を出す。

「森の左翼、確認の旗が立ちました。続いて右翼も」

「後方の本隊にも赤旗が立っています。作戦第二案の発動を確認した模様」

そう、団長が密かにバルトに持たせた2番目の物、それは魔境で建設中の砦や、新関門に配備するため、カール親方の元で量産されていた 魔導砲(カタパルト) だ。

完成し、試射済の未配備品2基を今回持参している。

ヨルティアが不在なので、金属球を使用した最強モードの拡散魔導砲は使用できないが、重量の軽い石礫を使い、風魔法士が後押しと誘導を行えば、600メル程度なら十分な威力を発する。

更に、カーリーンに次いで、魔導砲の誘導が上手いリリアもここにいる。

「号令と共に、1番、2番と連続発射。発射後は、防塞左右に照準を変え直ちに次弾装填。

1番、用意……、撃てっ! 続いて2番、用意……撃てっ!」

俺の指示に応じて、カタパルトが起動し、石礫が勢いよく風を切って飛翔する。

歓声に沸きかえる、イストリア皇王国軍の陣地を粉砕するために。

「俺達には神のご加護がある。王国軍なんか目じゃねぇや」

「イストリア皇王国、万歳!」

ロングボウ兵の神技に、まだ余韻の冷めやらぬ皇王国軍の陣地に、突然、不気味な風を切る音が響く。

「何だ? どうしっ、ぐわっ!」

「おい、あれは? がっ!」

先ほど神を称えていた2人は、不幸にも顔面に石礫の直撃を受け絶命する。

ゆるい弧を描き、飛翔してきた多くの石礫が、防塞の中央部、V字型に構築された部分を叩きつけたからだ。

不幸にも、ロングボウの神技を見るため、密集していた兵士たちは、次々と石礫、いや最早、石弾と言ってよいそれに薙ぎ払われる。

「な、な、何だ? ど、どうなっておるっ!」

カストロ枢機卿は、予想だにしなかった攻撃を受け、衝撃と轟音にへたり込む。

彼自身は奇跡的にかすり傷ひとつ無かったが、周囲には、血を流し倒れるもの、うめき声を上げてのたうつ者など、凄惨な光景が広がっていた。

「第二射、それぞれ準備ができ次第報告っ!

お前達、次は我らが勝利する番だ! 配置に付けっ!」

団長の叱咤で、騎士団から選抜し塹壕配備のクロスボウ兵、約3,000名が3人1組となって、走りながら次々とトンネルに消えていく。

その頃になってやっと、それまで呆然としていたカイル王国軍の兵士たちから歓声が立ち始める。

最初はさざ波のような歓声が、徐々に大きく広がって行く。

「いやはや、あの者たちが敵でなくて良かったわ!」

ハミッシュ辺境伯は驚きの余り、最早呆れ顔に近い表情になっていた。

「本当ですな。ゴウラス閣下の指示で、我らもカタパルトは実戦配備を進めているが、こうはいかん」

ホフマン軍団長もため息交じりに、感嘆の声を上げた。

「いやいや、あれは風魔法士と高度に連携した妙技でしょう。よっぽど修練を積んでると見える。

我らでは、真似しようにも到底無理な話です。

所で、そろそろ第二案に応じ、我らも配置に付く必要があるのでは?」

僚友の指摘に、ホフマン軍団長は我に返り、作戦指示を思い出した。

「おっと、そうだったな。第二軍! 味方陣地の後方から左右に別れて、森の待機位置まで移動開始!」

「第三軍! クロスボウを持ち、カタパルト後方へ移動開始! 作戦の手筈を各自再確認して進め!」

「1番、第二射準備できました!」

「2番、間もなく完了します!」

「では、第二射斉射後も、準備でき次第、各個の判断で連続発射を継続せよ。敵に考える時間を与えるな。

予定通り1番は敵右翼を、2番は左翼を担当」

「1番了解!」

「2番了解! 2番の発射準備も整いました」

「1番、2番連続発射! 用意! ……、撃てっ!」

団長の指示で次々と発射される石弾により、イストリア皇王国の陣地は大混乱に陥った。

今度は右端と左端の、V字型に構築された陣地、ロングボウ兵たちが集結している場所目掛けて、石弾が襲ってきた。

ロングボウ兵たちは、弓の取り扱いやすさを優先し、敵の射程外から戦うため、一様に防具は軽装だ。

しかし、今回はそれが仇となった。

直撃を受け、運悪く絶命する者、骨を砕かれ戦闘不能になる者、悶絶して倒れこむ者が続出した。

直撃を受けなくても、バウンドした石弾で、深手を負う者も多い。

「密集するなっ! 散開しろっ!」

もはや、混乱して逃げ惑う兵の多くの者の手には、反撃時に使用する筈のロングボウがない。

彼らは弓を捨て、両手で顔や頭を覆いながら、算を乱して逃げ惑う。

「森に潜む兵に伝令を走らせろっ! あの忌々しい小城を、操作している兵共を射殺せっ!」

混乱する状況で、指揮系統の乱れた彼らが、やっとカストロ枢機卿の了解を取り、その命令を出せた頃には、既に第4射を受けた後だった。

「森の見晴らし台より連絡! 黄色の旗が振られています。敵軍に動きがある模様!」

「後続より前進した、シュルツ閣下とクロスボウ兵、配置完了しています」

「塹壕部隊、配置完了しました。風魔法士も所定の位置についています。

また、伝達用の鐘は、いつでも行けます!」

俺と団長は、全ての準備が整った旨の報告を受けた。

「団長、次の段階に入りますか?」

「ええ、大芝居の始まりですな」

俺達には、この短いやり取りで十分だった。