軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十話:東部国境戦④ 皇王国軍の計略

※※※ 開戦一日目

「さて、今日は手酷くやられたが、本当の戦はこれからじゃ。この場には、信の置ける者たちに集まって貰った。先ずは、敵の防塞を攻略するための、議論を行いたい」

ハミッシュ辺境伯が、集まった一同を見回し、最初に言葉を発した。

「先陣を受け持った者たちには悪いが、先の戦いで我らの軍勢の難点がよく見えたな。

あれでは騎兵はいい的になってしまう。

長年かけて育てた精鋭が、あの様にやられては、たまったものではないわ」

王都騎士団第二軍を預かる、ホフマン軍団長が、苦々しい表情で発言した。

「そうですな。我らのクロスボウに遥かに勝るあの射程、我らは遠距離から一方的にしてやられる。

これでは抗いようもない」

王都騎士団第三軍を預かり、騎兵ながらクロスボウ部隊を率いるシュルツ軍団長も同意する。

「両軍団長の仰る通り、我らも以前、同様の手口で痛撃を受けました。

あのロングボウ部隊をなんとかしないうちは、打つ手がありませぬ」

ハミッシュ辺境伯軍の副将を務める、子爵のひとりが追随した。

この席には、彼らの他に、俺とヴァイス団長、そして、ハミッシュ辺境伯旗下の子爵が更に3名、加えてアレクシスの父であるバウナー男爵を始めとする4人の男爵が同席している。

しかし彼らは、議論に行き詰まり、具体的な対応策を見い出せず、沈黙していた。

「本日は奇策を用いて、多くの味方を救ったソリス男爵。卿には、何か策があるのではないか?」

辺境伯の言葉で、周囲の視線が一斉に注がれるのを、俺は感じた。

「若輩者に発言の機会を与えていただき、ありがとうございます。

皆さまのご懸念通り、正直申し上げて、戦場の地形を活用した敵の防御陣には、まともにやっても勝ち目はない、そう断言できると思います。

まぁ、まともにやっては……、ですけど」

「ほう、では、まともでない手を、是非聞きたいものだな。今日と同様に、是非我らを驚かしてくれんか」

「ホフマン軍団長、ありがとうございます。その前に、本日私が放った斥候の話を、皆さまにお伝えしたく思います。

この席に呼んでもよろしいでしょうか?」

「はははっ! あの間に物見まで放ったのか。面白い。御一同、宜しいかな?」

ホフマン軍団長の賛同と、全員の同意が得られたので、俺はラファールを招き入れた。

「彼も我が配下ながら、勅令魔法士の一人です。

その魔法を用いて、敵陣深くまで侵入して、先ほど戻ったばかりです。

ラファール、敵陣の状況をお伝えせよ」

「はっ! 主命により、僭越ながら失礼いたします。

共有されている情報では、敵陣に潜む兵は5千から6千、そう言われておりますが、実態は異なります。

本日敵陣を調査したところ、防塞に陣取る兵は確かにその通りです。

その殆どが弓箭兵で、左右は防塞の一面に展開し、前後10数列の縦列陣を敷いておりました。

ただそれは、飽くまでも、我らを誘う餌のようです。

危険なのは、密かに森に潜む者たち、左側の森だけでも、その数およそ3千名。

恐らく右側にも同数のロングボウ兵が潜んでおるように思われます」

「ラファール、それでは敵は、正面の防塞を餌に我らを引き込み、機を見て左右の森からもロングボウ兵が現れ、攻撃する手配をしている可能性が高い。

そういう事だな?」

「仰る通りです」

「敵の手に乗ったが最後、我らは敵の縦深陣に誘い込まれ、全滅させられる可能性がある訳だ?

射程外にいると安心していると、森を抜け、後方に回り込んだ敵兵が、突如左右から現れ、矢の十字砲火で我らを縦深陣に押し込み全滅する。

そんな意図が汲み取れる訳だな?」

「なんと!」

「なっ……」

「そんなっ!」

俺の指摘に、それぞれの参加者が絶句する。

「はい、その様に考えてよろしいかと思います。

今回の戦いでも、敵の防塞に近い森の中から、一部の者が街道側に進出し矢を射っておりました。

しかし大多数は森の中を前進し、機会を窺っておりましたので、その意図は明白かと」

「なるほど、話を聞いてよく分かった。

今回は攻め込んだ我らの数も少なかった。

なので、敵もまだその計略を使わなかった、そう考えておくべきだと言うことか……」

ラファールの説明を聞き、ホフマン軍団長も敵の計略の意図を悟り、この罠の恐ろしさを実感しているようだった。

「仰る通りです。

恐らく敵は我らを殲滅するため、敢えてあの位置に陣を構えていると思われます。

その目的を達成した後、陣地を前進させ、新たに防塞を設置して国境周辺の一帯を領域として確保する。

その様に考えていると思われます。

防塞の向こう側には、この先使用するであろう 逆茂木(さかもぎ) の類が、山のように積まれておりました。

恐らく、この先、陣地を前に進めるための準備かと思われます」

全員が沈黙している。

だが、俺の確認したいことはこの先の情報だった。

「ラファール、森の中の様子が知りたい。知りえた範囲で構わない」

「敵の防塞より500メル(≒m)以内の領域は、森の中といえど油断はできません。

ただ彼らも、計略の意図を悟られぬよう、警戒しているようです。基本的には防塞から200メル以内の辺りを中心に展開しています。

ただ、我らが進軍を始めると、彼らは密かに森を移動し、500メルを超えた先にも進出してくるでしょう」

「不用意に攻め込めば、12,000名ものロングボウ兵の矢の嵐を、まともに受けてしまうという事か……

しかも退路を断たれ、左右から攻撃を受ければ、全滅は必至だな」

そう言ったシュルツ軍団長は頭を抱えている。

「ラファール、敵陣より500メル、その手前、こちら側の森には今のところ敵の哨戒ラインはない。

そう考えて良いかな?」

「はい、仰る通りです。物見を出して来ることはあるかも知れませんが、現時点では敵部隊の展開はございません。ですが我々が敵の防塞に対し、射程外で軍を布陣する気配を見せれば、状況は変わるでしょう」

「ラファール、ご苦労だった。今後も引き続き森の中の警戒を怠らぬよう、頼む。

これらの情報を受け、私どもが考えた作戦案を提案させていただきます。

森の中に潜む敵軍を抑え、偽計を用い、敵軍を防塞から引きずりだすこと、ここが大事と考えました」

こうして、ヴァイス団長と共に検討した、作戦案を説明した。

幾つかの質問ややり取りはあったものの、参加者にも概ね了解を得ることができた。

「では、この囮役、我らが引き受けよう。皆も異存はないな?」

辺境伯は、配下の者たちを見据え、発言した。

「辺境伯らの手勢だけでは、餌が足るまい。我らも加わろう。せいぜい派手にすっ転ぶとするか」

ホフマン軍団長も笑った。

「我らのクロスボウ兵は、半数をお預けし、半数は……、撃ち合いに負けて醜態を晒すとするか」

シュルツ軍団長も先ほどとは打って変わった、明るい表情で申し出た。

「では、明日はこの作戦の準備を行うとして、全体にも図るとするか。面倒なことじゃが……

資材の調達など、できる準備は今から進めておく」

辺境伯の言葉で、内々の軍議は幕を閉じた。

その後、それぞれが明日に向けて準備に入った。

翌日になって、朝一番に軍を率いる主要な貴族たちが集められた。

その場で、ハミッシュ辺境伯旗下の子爵から、防塞攻略の手順が説明された。

もちろん、肝心な部分は秘匿したり、言葉を濁してはいるが……

「待たれよ!

今回の作戦案、我らとしては合点のいかぬ所がある。

そんな迂遠な策を弄せずとも、昨日の撤退時のように、風魔法士を騎馬の前面に押し出し、防御の盾とすれば、我らの進軍を阻む矢も防げよう。

それで事足りるのではないか?」

「!」

魔法士たちを一番危険な前面に晒すだと?

奴らの無謀な突進の盾にだと?

そんな事をすれば前方、左右から矢の嵐を受け、風魔法の盾でも防ぎきれない。

奴らはそんな事も理解できないのか?

俺は、自身の眉が吊り上がるのを自覚した。

そして発言した、今回援軍として参加している東部領域の子爵を睨みつけた。

「その通り! これこそ名案ではないか。

仮に風魔法士の1人や2人の犠牲で、数百の騎兵が救われるのであれば、魔法士たちも本望であろうよ」

それに追随する男がいた。

「そもそも、昨日の戦いで、この策を以てすれば、我々に要らぬ犠牲を出さずに済んだのではないか?

辺境伯はその責任を、どう考えておられる!」

「持てる戦力を出し惜しみ、余計な犠牲を出した。

たかが魔法士と、我らが軍勢、攻略に於いてどちらが大事なのか考えても見られよ!」

昨日、自ら先陣を望んだ貴族達が、次々と発言する。

この後も続けられた彼らの身勝手な言葉は、正直頭に血が上り、俺は良く覚えていない。

そして、とうとう俺の中で、何かが切れることを自覚した。

「うるさい……、お前ら、黙れっ!」

「……、小僧! 無礼な発言、聞き捨てならんぞ!」

「何度も言わせるな! 黙れっ!」

俺は怒りに震え、全身の殺気を込めて、奴らを睨み付けた。

昨年末から、奴らを含む、復権派の者たちに、いいようにしてやられたストレスが爆発した。

そして、直接関与はしていなかったかも知れないが、奴らも復権派の一員だ。

「無礼を承知で申し上げる!

そもそも辺境伯が、策を講じられておられるのを差し置き、先陣を望まれたのは卿らであろう!

また、卿らの無謀な突進に際し、降り注ぐ矢の雨のなか、卿らを救ったのは、魔法士たちではないのか!

卿らは、その命の恩人たる魔法士を、次は自身を守る盾として敵陣の前に晒す、恩知らずで恥知らずの愚か者かっ!」

彼らは静まりかえった。

ハミッシュ辺境伯は俺を止めなかった。逆にホフマン軍団長と2人で、興味深そうに俺を見ていた。

シュルツ軍団長は腕を組み、目を閉じている。

そして、俺の怒りはまだ収まらない。

「無礼といった卿らに申し上げる。

卿らが盾に、といった魔法士たちは、勅令魔法士であり、王都騎士団と同様、陛下直属の兵であるぞっ!

勝利の為、陛下の兵を自身の盾として使い潰しました。卿らは、陛下の御前でそう言えるのかっ!

どちらが無礼であるか、よくよく考えられよっ!」

「……」

やってしまった……

無暗に敵を作るな、そう言われていたにも関わらず……、でも許せないものは許せない。

そう思っていた時、ひとりの男がよろめきながら立ち上がった。

彼は昨日の戦傷で、本来なら病床に伏しているところを、たっての願いでこの軍議に参加していた。

「ソリス男爵よ、代わって彼らの非礼を詫びよう。

そして、どうか彼らを許してやって欲しい。

我らは昨日、自身の軽率な行動で大事な兵を失った。

中には肉親を失った者もおる。悲しみの余り、口惜しさからの暴言となったこと、許してやってくれ」

彼は昨日、自ら先陣を申し出て出陣したあの伯爵だ。戦場で幾多の矢傷を負い倒れていた所を、俺たちが救い、マリアンヌの治療で命を取り留めていた。

そして彼の言葉が俺を冷静にさせた。

「こちらこそ、大変失礼いたしました。

私の方こそ、冷静を失っての失言、皆さまへの失礼の段、改めて謝罪いたします。

お見苦しい所をお見せし、大変失礼しました」

「いやな、本来であれば、昨日で儂は死んでおった。

例え救い出されたとしても、其方の配下、優秀な聖魔法士がおらなんだら、寿命が数日伸びた程度であったと思う。

救われて儂は思ったのじゃ。新たに命を与えられ、今少し謙虚になる機会を貰ったとな。

此度の戦、儂は改めて辺境伯の指示に従い、存分に働こうと思っておる。

共に先陣を務めた者よ、其方たちの無念は分かる。

だが、その責は儂が背負うもので、兵たちの恩人である男爵と魔法士に対して、相応の礼を取らねば、貴族として、いや人としても、大事なものを失うぞ」

俺は、非常に驚くとともに、この伯爵を見直した。

上流貴族と呼ばれ、階級の上位にどっぷり浸かった人間が、目下の者にそうそうできる発言ではない。

恐らく、驚いていたのは俺だけではないだろう。

彼の言葉で、張り詰めた雰囲気の空気が一気に和らいだ、そんな気がした。

「お互いに思う所を吐き出した。それで良かろう。

後は一丸となって、敵を駆逐し、王国の領土を取り戻すとしようではないか」

「応っ!」

ハミッシュ辺境伯の言葉で、最後は丸く収まった。

こうして、カイル王国の東部国境戦は、当初予期された以上の団結とまとまりを以て、この先の戦いを進めていくこととなる。