軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十五話(カイル歴509年:16歳)緊迫する東部国境

「おい! 聞いたか?

王国と帝国の休戦に業を煮やしたイストリア皇王国が、再びこちらを攻める準備をしているらしいぞ?」

学園内では、国の重要機密も、噂話として公然と生徒たちの会話に上る。

「ああ、ハミッシュ辺境伯と旗下の東部辺境の貴族たちには動員令が出るらしい」

「俺も聞いたぞ! 王都騎士団も先発部隊として1万騎、準備が整い次第、更に1万騎が派遣されるらしいぞ」

「それだけじゃない、他にも東部一帯の貴族に動員令が出るって噂だ」

こんな噂話が、ぼっちの俺にも耳にも入ってきた。

正直俺たちは、東部国境線の情報には疎い。

イストリア皇王国のことも、名前だけしか知らない。

だが、魔法士に関わる一件で、今の俺にとっては他人事で済まない状況となっている。

「皆、今回の出兵、俺たちも同行することになっている。

恐らく、後発の騎士団と共に出ることになるが、それまでの間、それぞれわかる範囲でいいから、東部国境とイストリア皇王国の情報を集めて欲しい。

なんか……、嫌な予感がするしね」

王都に滞在する者には直接、テイグーンにはアンや手紙も含め、これまでの経緯は皆に説明している。

誰もが真摯に、情報収集に努めてくれた。

暫くすると、情報は意外に簡単に集まった。

騎士養成コースにも、戦闘魔法士育成コースにも東辺境区域出身の者がいたからだ。

それに加え、ゴルドたちは、王都騎士団から情報を収集している。

〇東国境常設防衛兵力

ハミッシュ辺境伯 2,400名

旗下 子爵軍4家 2,400名

旗下 男爵軍4家 800名

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総計 5,600名

東の国境は、南を除けば、他の地域に比べ兵力は充実している。

だが、彼らは前回の戦役で、手痛い敗北を喫しており、その痛手から回復しきっていない。

現状はせいぜい4,000名前後の戦力となっているようだ。

そこに王都騎士団から2万騎が派遣され、守備兵力は約24,000名。

対するイストリア皇王国は3万前後の兵力で、攻めてくることが想定されているらしい。

以前俺たちが、サザンゲートで帝国と戦っていた時は、東側の国境線では睨み合いのまま、戦闘らしい戦闘は起こらなかったそうだ。

グリフォニア帝国の思惑に乗った、そう思われていたイストリア皇王国側でも、漁夫の利を得ようと、南の戦局の成り行きを見守っていたらしい。

だが、帝国が惨敗した報を聞くと、彼らは以前に王国から奪い取った国境の砦まで陣を引き、撤退していったそうだ。

そしてその後、王国と帝国の休戦協定締結を知り、今回は自らの手でカイル王国に侵攻する、そう方針を固め準備を進めて来た結果が、今回の出兵らしい。

「イストリア皇王国の兵は、騎兵こそ少ないものの、弓箭兵が充実しており、彼らのロングボウは王国の弓箭兵より、射程も威力も上です。

更に、その弓箭兵が集団で運用されると、王国の戦力より圧倒的に数で勝ります。

ハミッシュ辺境伯が以前、手痛い敗北を被ったのも、この弓箭兵にやられた様です」

ゴルドの調査報告を受け、俺は考え込んだ。

南の辺境一帯では、クロスボウの導入と、全兵士の弓箭兵化が進んでいるが、その他の地域では、旧来通りの編成のままだ。弓箭兵は歩兵の一部門でしかなく、全兵力に占める割合も少ない。

南部を除けば唯一の例外は、王都騎士団の第三軍だ。

南部の戦いと、テイグーンでクロスボウ部隊の成果を目の当たりにした、ゴウラス騎士団長の意向により、この部隊1万騎には、試験的にクロスボウを導入し、ちょうど今は弓騎兵として運用を研究している。

だが、歴史知識として俺は知っている。

ヨーロッパの歴史で、イングランドのロングボウ部隊が、百年戦争前半でクロスボウを装備したフランス軍を圧倒したことを。

ロングボウは、射程と連射性でクロスボウに勝る。

しかも、圧倒的多数で運用されれば、俺たちにもまず勝ち目はない。

南の戦域で、ソリス軍を始めとした弓箭兵が活躍できたのは、クロスボウ(エストールボウ)の数を揃えたこと、風魔法士による防御と攻撃の補助があったからだ。

「仮に敵軍が3万としても、弓箭兵はその半数以上と言われております。1万五千の弓箭兵が運用されれば、戦場では大変なことになります」

ゴルドの言葉は、俺の危惧のひとつを正確に指摘していた。

「我々は、その燃え盛る炎の中で、はぜた栗を拾わねばならない。そういうことですね。

何よりも、我らの力を知る王国上層部が、私たちを矢面に立たせる可能性も十分にありますね」

アンの指摘が、俺の最も恐れていることだ。

きっと復権派の連中は、勅令魔法士という制度で守られた魔法士をもれなく利用し、すり潰して弱体化を図る。そんな事を考えているはずだ。

『王国の窮地に、男爵の実績を期待している』

危急の際、そんな事を言われるのは目に見えていた。そしてその時、俺に断る余地は恐らくない。

「リリア、風魔法士ひとり当たり、何人ぐらいの弓箭兵の面倒を見ることが可能かな?」

「うーん、ソリス軍の風魔法士なら……、

防御なら密集隊形で、横幅50人から100人の射撃部隊ならなんとか大丈夫と思います。

実際は、縦列に3人以上並ぶので、合計200人から300人ぐらいは行けると思います。

攻撃だけで、的を絞った一斉射撃の射程延長ならもっと可能です。

サザンゲートの時は横幅150人、5人縦列で、一人当たり800人弱は担当しましたから。

でも、学園の生徒は多分、頑張って10人幅、30人から50人を受け持つのが精いっぱいとだと思います」

ということは、王都騎士団1万の場合、効果的な運用には、リリア級の優秀な風魔法士でも、少なくとも33人も必要か……

現実的ではないな。

今、俺に同行し王都にいる風魔法士は3名、その数は圧倒的に足らない。念のため、あと数人を呼び寄せる段取りは必要ということか。

そして、今王都で学んでいる学生の風魔法士は、戦力として期待できないことがよく分かった。

引き続き、情報を収集すること、出兵に備え準備を整えること、この2点を確認し、早速俺は何通かの手紙をしたため、早馬を手配した。

ハストブルグ辺境伯と父には、ことの経緯と、参戦を命じられるであろうこと、その際には、俺の旗下にあるテイグーンの兵力を動かす許可を求めた。

加えて父には、予備を含め、領内のクロスボウをかき集め、バルトに託し王都まで運ぶ許可も求めた。

そしてテイグーンに残る仲間たちに、託す内容についても……

テイグーン山の頂では雪解けが始まり、春の訪れを告げる柔らかな陽光が差し込むある日、テイグーンの街に急使としてダンケが、王都より馬を乗り継ぎ戻って来た。

それを受け、留守を守るミザリーとクレアは、急遽主要メンバーを招集した。

程なくして、辺境騎士団支部よりヴァイス団長が、傭兵団よりキーラさんが、関門防御指揮官のクリストフ、駐留兵指揮官ゲイル、要塞建設指揮官エラン、救護部隊指揮官マリアンヌ、兵站部隊指揮官のバルト、諜報部隊指揮官のラファールが、ミザリー、クレア、ヨルティアの元に集まった。

先ずは集まった全員に、タクヒールから託された書簡が読み上げられ、ダンケよりことの経緯が補足として説明された。

「王都の奴らめ、早速、タクヒールさまを利用するつもりか!」

早速ゲイルが怒りを露わにした。

「相手が弓箭兵主力の軍であれば、私でもソリス男爵の力を借りようとするでしょう。

これまでの実績、実情を知る者ほど、その価値を正確に理解している筈です」

ヴァイス団長の言葉は、誰もが認めざるを得なかった。

「それで、対応はどうしますか? 文にはテイグーンの守りを十分に固めて欲しい、そうありましたが」

「エラン、恐らく……、我らが主君をお守りする為に、テイグーンを留守にする。

そうすれば留守を狙い蠢動する者が出るだろう。

そう懸念されているということだ」

「恐らく、クリストフのいう通りでしょう。

タクヒールさまの懸念に対し、わたしたちはこれまでも準備と対策を行ってきました。

それによって救われてきたことを考えると、今回も十分用心する必要があると思います」

「クレアさんの言葉が、今の私たちには最も大事なことだと思います。

留守を預かる者として、皆さんにお願いです。誰もがタクヒールさまの側に馳せ参じたい。

この気持ちは同じです。ですが、前回と同様、主要な任務を預かる方々には、残留をお願いします」

ミザリーが全員に頭を下げた。

「ダンケの話では、風魔法士の助力は必要だな。

テイグーンの護りも考え、あと2名、できれば3名を増援としてお送りする必要があるだろう。

今回は敵軍の情報も少ない。俺も諜報面でお役に立とうと思っている」

「そうだな。諜報はラファールに任せ、兵站はバルトが担当する形でよいと思う。

風魔法士は、私とブラントが行くのが最善だろう。どちらも勅令魔法士でもあるしな。

私はそれに加え、駐留軍100騎を率いて、向かうこととしたい」

「ゲイル司令官、人員補充中の駐留軍では、新兵や兼業兵だった者も多く、不安も残るのではないか?

率いる兵についての対応は、私に一任して貰えないか?」

「そうですな。その点については団長のご指摘どおりだと思う。お任せしてよろしいか?」

「ありがたい。それでは私は、筋を通しておく必要もあるので早速準備にかかりたいが、念のため聖魔法士は何人か連れていきたいと思っている。恐らく、我々以外の負傷者対応もあるだろう。宜しいか?」

団長の言葉に、全員がマリアンヌを見た。

聖魔法士たちは今、疫病対策で一杯一杯のはずだ。誰もがそう思っていた。

「はい、タクヒールさまのご指示で、私ともうひとり、2名を参戦させる準備を整えております。

既にその前提で動いていますので、問題ありません」

マリアンヌの回答に、周囲の者は驚いた。

この忙しい中にも関わらず、彼女たちは並行して戦地に出る準備を進めていたということになる。

「因みに、ゲイルさんも駐留軍をまとめる、主要な人間の一人ですから、此方に残留ですよ」

ミザリーから指摘され、ゲイルは残念そうに頷いた。

こうして、テイグーンに残された者たちの方針は固まった。

王都に向かう者で、風魔法士はイリナと、ブラントに加え、直近の儀式で新規加入したフォルクの3名。

時空魔法士のバルトは兵站を担当し、ラファールは闇魔法士として、諜報を担当する。

聖魔法士は、マリアンヌとラナトリアが向かい、王都でローザと合流することが決まった。

テイグーンから率いる兵は、ヴァイス団長が選抜することになった。

こうして、増援に関する対応は決まり、急ぎ準備が進められるなか、ダンケはその情報を携え、先行して王都に戻っていった。

向かう者、残る者、この先彼らに降りかかる最大級の試練を、まだ予感する者はいない。