軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十五話(カイル歴508年:15歳)学園長の誘い:教会の秘密

「さて、冒頭にも触れた、教会についての話じゃ。

これも、王国の秘密に関わる話での、心して聞くことじゃな」

俺は既に学園長から、この国も教会も、初代カイル王が創設したものだと聞いていた。

それにも隠された秘密があるということか。

「其方は、教会でしか魔法士の適性確認ができないことを、疑問に思った事はないか?

唯一教会だけが、触媒を用いて、魔法適性を確認……と言うよりは、本来、適性のある者に対し、魔法が行使できるようにさせる、不思議なことであろう?」

確かに、触媒を用意し、適性者と共に見様見真似で儀式をやっても、魔法士として目覚めることはない。

教会で無ければ魔法士の適性を確認できない事、これは周知の事実であり、いわば常識として捉えていた。

「適性のある者が、魔法士としての力を得るには、教会でなければならない理由があるのじゃ。

適性のある魔法士候補者、触媒、儀式の秘技、それに加えて、大事な要素がひとつ足らんのじゃ。

其方は儀式の際使用される、宝玉を見た事があるであろう?」

俺は過去に幾度となく立ち会った、魔法士の適性確認儀式を思い出した。

確かにその場には、青白い色をした宝玉が傍にあり、大切に祀られていたのを覚えている。

「印綬と同じく、あれがないと儀式は効果を成さず、適性があっても魔法士として目覚める事はない。

あの宝玉は儀式の際、魔物の核(触媒)から、核が持つ属性の魔の力を吸い上げ、適性のある者の血に働きかける。

その結果、適性者の【血】は覚醒し、魔法士として目覚める訳じゃな」

「驚きです! そんな裏があったとは……

どうりで、教会の介在が欠かせない訳ですね」

「そうじゃな、だがこれは、秘匿された歴史のまだ入り口じゃの。

初代カイル王は、王国から魔の民の持つ力、魔法士が失われるのを恐れた。

そのため、【印綬】と同様に【宝珠】を作られた。

本来、魔の民にとって、氏族の持つ魔法は使えて当然のもの、むしろ使えない方が異端であったらしい。

もちろん、儀式なども必要なかったそうじゃ」

「だが、氏族は純血を失い、魔の民の血は混じっていった。そういう事ですか……」

「そうじゃな。王国の成立と繁栄に伴い、氏族ごとの混血は進んだ。その当時は、国力の強化が最優先じゃったからの、無理もないことじゃ。

更に後日になって流入した、圧倒的に多数を占める人界の民とも交わった結果、純血の氏族は失われた。

そして、五百年の年月は残酷での。

当初は、異なる氏族の混血であっても、魔の民の血を受け継ぐ者、強く残す者はたくさんいたそうじゃ。

だが、時の流れと共に、そういった魔の民の血も、薄れていってしまった。

何世代も交配を繰り返した結果、この国には、儀式や印綬の補助なしに、魔法に目覚める者は既におらん」

「では、教会はこの秘事をずっと受け継いで来た、そういうことでしょうか?」

「秘事を受け継ぐ教会にも、ことの始まりまで知る者は、恐らくもうおらんじゃろうな。

彼らは、ただ伝統として儀式の秘密を秘匿し、その手段を代々継承しておるに過ぎん。

教会という、ある意味閉鎖的な組織は、この継承にうってつけの存在だったからの」

「未来を見越した、初代カイル王の英断だったという訳ですか?」

「ふふふ、まぁそうじゃな。

さすがの初代カイル王も、誤算は幾つかあったがな。

一つ目は触媒の価値の変化じゃの。

王国内が魔境だらけだった当時は、触媒も簡単に入手できた。魔物の討伐が可能な強き者、魔法を行使できる魔法士も、今と比べられないほど居たでの。

だが、王国全土の魔境は焼き払われ、今は南と東の辺境地区、そこにしか魔境は残っておらん。

そのため、触媒の価値は高騰し、しかも限られた者しか入手できんようになってしまった」

「触媒は、ここ10年で更に高額になった、そう聞いています。私もその責任の一端を負っている、という事ですか?」

「まぁ……、それは大した事はなかろう。

ここ数年、どうやら大量に触媒をかき集めている者がおるようじゃ。正規の手段ではなく、闇ルートのようで、なかなか尻尾を掴むことができておらんがな」

俺以外に魔法士を大量に発掘している者がいる。

そう言うことか。

しかも足が付いていないと言う事は、巧妙な手段で。

「話を戻そうかの。

二つ目は、教会そのものの変化じゃ。

教会自体、その設立目的からある程度閉鎖された組織じゃった。

その組織が時の流れとともに、教会だけが持つ利権として、儀式の扱いを変化させていったからの。

何百年か前は、触媒を含め今の1回分の費用以下で、全属性の適性確認が可能じゃったそうじゃ。

だが、今や触媒と儀式の対価は、1属性の確認だけで大変なものになってしまった」

確かに、今の魔法士適性の確認は、よほど裕福な者か、スポンサーでもいない限り不可能だ。

「それで、初代カイル王が遺した言葉、

『教会により、魔の民が持つ魔法の確保に努めよ』

この遂行も、今や困難になってしまった、そう言う事ですか?」

「そこが、3つ目の誤算じゃ。

特に力のある貴族には、時代の流れとともに、その言葉が歪んで伝わってしまってな。

多くの魔法士を確保することが、貴族の権威の象徴と考えるバカ者が現れはじめ、今や既にそれが主流となってしまっておる。

目的なく、ただ数集めのため、好待遇で迎えられる魔法士自体、王国を守る盾であり鉾でもある、本来の役割を忘れ、自己の研鑽に勤しむこともない。

更に上位貴族達は、魔法は貴族の特権、12氏族の血統の象徴と思うようになってしまった。

魔の民の血統を守る彼らにとって、下賤な混じり物、市井から生まれる魔法士達を、そう見下す風潮が生まれた。

かつては、同族であった証というのにな……

上が腐れば、下も腐る。

その風潮は貴族全体に広がったのじゃ。

貴族の中で、市井の魔法士は見下され、自身の権威を高める引き立て役、いわば見せ物として扱い、高い報酬を与える代わりに、いわば飼い殺しにした。

こうして、魔法士の価値は下がり、本来の役目は忘れ去られ、そして、王国の力は失われていった」

「その対策として、魔法士戦闘育成課程ですか?」

「それも、対策のひとつかの。まぁそれについてはいずれな……

授業で貴族の子弟に魔の民のこと、カイル王国の歴史を教えるのも、その風潮に歯止めを掛け、魔法士の力と、同族の末裔に対する見解を変えたい、そんな思いもあるのじゃ。

なかなか上手くは行かんがな。

歴史の公開を望んでおらん貴族達が多い中、貴族子弟のための教育の一環、そう誤魔化しておるが……

あれが限界かの」

「ところで、教会にそのような秘密があるのでしたら、その、大丈夫でしょうか?

印綬と違い、宝珠が市井に出てしまっていることに不安を感じますが」

「そうじゃな。まずこの宝珠じゃが、作られたのは250ほどじゃ。

これは古より定められた、領主貴族の上限数と同じじゃな」

「魔法士の適性が確認ができる教会は、一領地にひとつ、それがこの理由という訳ですね?」

そう、俺もグレース神父に言われていた事がある。

テイグーンの教会が開かれる前は、エストの街で適性の確認ができたが、今はテイグーンの教会でしか、適性の確認ができないと。

「そうじゃ、領主貴族の上限が後付けで決まった、そう言っても差し支えないがな。

先の戦で目覚ましい戦功を上げた其方を、新たに家名を興させ領主貴族に、そういった声も実はあった。

じゃが、既に領主貴族の数が上限に達しておるでの。

代々受け継がれてきた、決まり事を反故にするだけの、理由もなかった。

【権限なし】の領主貴族から領地を召し上げ、それを其方に、そんな声もあったが、優秀な者を最前線から動かすこと、これこそ本末転倒じゃ。

そして大事な事じゃが……、今は宝珠が足らん」

「少し疑問に思ったのですが、魔法士の適性確認は、他国でも、一部の教会では可能と聞いたことがあります。もしかして、これとも関係がありますか?」

「そうじゃな……

印綬と宝珠の秘密を守り、この国での氏族の血と魔の民の血、そして教会を維持していくこと。

王家は、この守り人として、代々カイル王国の屋台骨を支えておる。

教会は宝珠を活用すること、及びその手順を代々秘匿してそれらを守っておった。

だが、この500年間、公式に3個、非公式に7個の宝珠が王国から消えておる。

なので実際は……、この王国でも宝珠のない領地が既に10か所ほどある。

公式に失われた3個は、隣国に嫁いだ王族と共に、当時の王が不用意にも教会ごと出してしまったのじゃ。

其方の言った、他国での適性確認ができる教会とは、これに当たるの。

そして7個は、過去に教会が盗賊の類に襲撃され、その際に失われてから、未だにその行方は知れん。

一応、昔からそういった対策は行っていたようじゃが、配慮が足らんかったようでの。

今は、どこの教会でも細心の注意を払い、巧みに偽装され、誰も気付かぬよう工夫されておるがな。

因みに其方が見た宝珠は、見せ掛けの偽物、本物は其方にも分からぬよう、巧みに偽装されておるわ」

「では他国でも宝珠を使って、魔法士を目覚めさせていると?」

「その通りじゃ。だが、他国の場合はそもそも、魔の民の末裔がおっても、その血は薄くなり過ぎておる。

古より他国では、魔の民を人外の者と呼び、忌み嫌われておったでな。

カイル王国が成立する以前に、迫害されて滅び、血脈が途絶えたり、ひっそりと市井に貧しく埋もれて暮らし、消えていったりしてな。

例え魔の民の血を引く者がおっても、血が薄すぎて、種は芽吹かん。いくら適性確認を正しく行ってもな。

それは、この国の多くの民と同様じゃな。

この国の民の多くは、何かしら魔の民の血を引いてあるが、その血は薄く魔法士としては目覚めん。

この国のそういった民でさえ、ひとたび他国に行けば最も色濃く魔の民の他の血を引く者、そういった評価になる。

これが、この王国が突出した魔法士を抱えている要因じゃな」

「なるほど。お話を伺い、もの凄く納得できる部分が沢山ありました。ありがとうございます」

「そうじゃ、そなたはもう一つ質問しておったの。

市井の者で、魔法適性があると言われる者達は、たまたま、先祖の氏族の血が少しだけ色濃く出た。

そういう事に過ぎんのじゃ。両親が同じで、血を分けた兄弟でも差異があるのは、たまたまじゃの。

もちろん、神の思し召しなのではない。

だが、こうした偶然に支えられて!今も辛うじてこの国は、魔法士というものを維持できておる」

「ありがとうございます。

これまでのお話で、実に多くの謎が解けました。学園長のご厚意に感謝しております。

私も学園長のご信頼にお応えさせていただきたく思います。頂いたご質問には誠意を以てお答えします」

「ほっほっほっ、聞きたいことは、確認できたでの。

今日はこれまでとしよう。下がってよいぞ」

「……、いろいろご教示ありがとうございました。

今日学んだこと、心しておきます」

俺は何も答えてはいないが、既にこの人は3つの事を確認済ということか。

・【伯楽】の件を含め、俺に隠された秘密があること

・問われれば、俺はそれを答える用意があること

・本来知ってはならない(他言できない)秘密を知り、もう後戻りはできないと、俺が自覚したこと

俺は、お茶会での件を含め、色々と思い知らされ、学園長の部屋を後にした。

タクヒールとの対談の後、自室に残った学園長は淡々と執務を再開した。

「今回は、これで良かろうて。憎まれ役の狸爺……、儂にはぴったりの役回りじゃの。

探究心だけで不用意に、この国の根幹に首を突っ込むことも、なくなるじゃろう。

下手に興味を持ったと思われれば、あ奴等に、早々に潰されてしまうでな。

『あの者に対し本人には悟られぬよう、王族に準ずる知識の力を与え、陰ながらその行いを庇護せよ』

とは……

陛下も無理難題を仰る。

王となった者、いや、王たる能力の証で、テイグーンにて何を見て来られたのか……

まぁこれで陛下のご意向も、少しは満たせたかの?」

学園長はひとり呟いた。