軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十一話(カイル歴508年:15歳)王国建国史

学園での生活が始まり、当初はあまり期待していなかった授業にも、興味深いものがいくつかあった。

その一つが歴史の授業だ。

講義の内容は、辺境(ソリス子爵領)に居ては、絶対に入手できない情報も多く含まれていた。

今日の講義、カイル王国の成立に関わる内容も、俺がこれまで読み漁った書物には、一切触れられてなかった。そのため、もの凄く興味があった。

「今日の講義では、カイル王国成立に関わる歴史、敢えて書物として残す事を禁じられ、伝承のみで語られている王国成立の経緯を、諸君に伝えるものとする。

先人たちの辛苦を知り、その偉業に感謝する機会として欲しい。

なお注意事項として、授業の内容を記録すること、聞いた内容を誰かに伝えたり、書物として残すことは、固く禁じられている。

違反者は、王国の法によって裁かれるので、その点、留意して欲しい」

この前置きで講義は始まった。

冒頭の前置きで、既に俺は違和感を感じた。

何故、歴史を中途半端な秘匿事項とするのだろう?

カイル王国の建国には、何か裏があるのだろうか?

この時点で、俺はまだ何も知らない。

〇カイル王国成立前

500年以上前、現在のカイル王国が占める領域、今の王国の版図の全てに、広大な魔境が広がり、カイル王国そのものが魔境であったといわれる。

魔境により、人の住まう世界と隔絶されたこの地域(王土)は、人外の地とも呼ばれ、危険地帯として恐れられていたそうだ。

その当時、カイル王国の領域外、それぞれ東西南北にあった国々は、それぞれ現在の国境を【魔境の境】として、厳重に警戒し、自国へ侵入する魔物や、自国を侵食しようとする、魔境を全力で阻んでいたという。

彼らがその出口を封印し、恐れた今の王国領域の広大な魔境には、数多くの危険な魔物が生息していた。

そして驚くべきことに、魔物以外だけでなく、人界の地とは交わりを絶った、【魔の民】と呼ばれる、魔境の暮らしに適応した民が、魔境の中に部族ごとの集落を築き、細々と暮らしていたという。

〇魔の民

魔の民は、魔境の中で命の危険を伴う、厳しい暮らしを営んでいたが、彼らには、魔境を生き抜くだけの知恵と力があった、そう言われている。

彼らは固有の魔法を使い、永年の生活を通し、魔法やそれ以外にも魔物に対抗する術を持っていたそうだ。

魔の民は【氏族】といわれる、共通の魔法を行使する部族単位で、集落を築いて生活し、他氏族とは互いに交わることが無かったといわれる。

それぞれの氏族が血統を守ることにより、各氏族が持つ固有の魔法は引き継がれ、魔の民は誰もが、属する氏族の固有魔法を行使することができた。

魔法は、血統により異なる種類に分類され、行使できる魔法の種類により、氏族が分かれていたという。

当時の魔の民には、大きく12の血統があったことから、それらは【12氏族】と呼ばれていた。

各氏族がそれぞれ得意とする、12属性の魔法は、 今日(こんにち) の魔法の原点となり、今の魔法士もこの12種に分類されている。

12氏族を合わせた、魔の民の総人口は約6,000人ともそれ以上とも言われたが、その実数は定かではない。

ただ、氏族によって若干の差があるものの、一氏族で300から600人前後の人口を抱えていたといわれる。

「因みに今現在でも、この古の氏族が集落を築いていた名残があるのを、諸君らは知っておるかな?

丁度良いことに、この教室にはエストール領を治める、ソリス子爵に関係する者もいる。

君たちは、何故、エストール領をソリス領と呼ばないか、疑問に感じたことはないかね?」

答える者は誰もいなかった。

もちろん、俺も疑問には感じたことはあったが、特に理由を調べたことはなかった。

「かの地には、 古(いにしえ) より風魔法を司る氏族が住んでいたと言われている。彼ら自身が住まうその地を、古い彼らの言葉で『風に助けられるもの』、そんな意味の言葉で『エストール』、そう呼んでいたそうだ。

我々は彼らに敬意を示し、その足跡を忘れないため、古の土地の名称は、今日も受け継がれておる。

王国内には、エストール領以外にも、他に3か所ほど、 古(いにしえ) の地名が残る場所がある。

諸君への課題は、まずこれを調べること、次回の授業までに、他の3箇所と、可能であればその意味を調べて来るように。

まぁ意味は……、無理な話とは思うが」

うん、恐らく……、両方無理な気がする。

エストール領に住んでいた俺たちでさえ、その意味を知らなかったのだから……

これも学園の存在価値を認識させる一環だろうか?

俺は少し斜に構えて、この教師が与えた宿題の意味を受け取った。

〇人外の民

当時の他国(カイル王国の領域以外)でも、広くはないが、一部の辺境域に魔境が点在していたそうだ。

だが、その限られた領域も、開拓が進み、遠くない先には、全てが失われることが予見されていたらしい。

そのためかつては、それらの魔境に住んでいた魔の民は、既に数世代前には人界へと移り住み、世代を経るごとに、氏族間の混血や、人界の民との混血も進み、各氏族が持つ固有魔法も、失われていったという。

そして彼らは、人界に住まう者たちから【人外の民】と呼ばれ、その多くが忌避、迫害されていた。

そのため、人外の民は皆、貧しく、厳しい暮らしを強いられ、複数の氏族が寄り添いながら、辺境の奥地で細々と暮らしていたそうだ。

〇長征

今より遡ること約530年前、現在のグリフォニア帝国北西の辺境、そこにあった人外の民が暮らす里に、カイルと呼ばれた青年が現れる。

彼は、滅びに瀕した人外の民を救い、歴史の表舞台に登場することとなる。

彼は、里に住まう人外の民にとって、既に失われた魔法(を行使できる力)を復活させ、彼らの暮らしを豊かにすることで、生き延びる力を与えた。

伝承ではそう言われている。

所がある時、魔法を復活させた人外の民を脅威と思った当時の王国が、彼らを滅ぼさんとして、人外の民が住まう里に大軍を派遣した。

この危機を察知したカイルと人外の民、そして彼を慕う人界の民たちなど、300余名の人々は、それまで住んでいた里を放棄し、安住の地を求めて辺境を点々としながら逃避行を始めた。

この長く苦しい旅は【長征】と呼ばれ、彼らは苦しい旅の末、広大な魔境が広がる危険地帯、今のカイル王国の領域に逃げ込むことになる。

〇魔境への旅

カイルによって率いられた一行は、復活させた魔法を持つ者たちの力に支えられながら、王国が派遣した軍の追撃を逃れ、より深く、魔境の奥地へと逃げ進んでいったという。

彼らが幸運だったのは、共に旅する人外の民が、元々は複数の氏族の集まりであったことだ。

カイルにより、複数の氏族が持っていた固有の魔法が復活し、それらを活用できた事は非常に大きかった。

様々な属性の魔法士たちの活躍により、次々襲い来る魔物の襲撃を撃退し、不便な地であっても、魔法によって生活が助けられたという。

そして彼らは、ついに魔境の中心部まで到達した。

なお、彼らを追跡した軍勢は、その目的も果たせず、魔境の禁忌に触れ、たちどころに全滅したそうだ。

カイル率いる一行だけが、現在のカイラールの地まで辿り着くと、そこを拠点として定め、新しい生活を始めた。

カイルは先ず地魔法士に依頼し、安全な住処を確保するため、広大な防壁を構築させた。

そして、火魔法士には、辺り一面に広がる魔の森を、焼き払うよう依頼した。

さらに、風魔法士に対し、その炎を風で操るよう依頼し、火は更に先の魔境へと導かれ、広大な地域が焼き払われた。

その後、水魔法士により、その焼き払われた大地は潤され、多くの実りをもたらす、肥沃な大地へと変わっていった。

そこに、時空魔法士により持ち込まれた、種子や農具が分配され、瞬く間に大地は畑になった。

こうして、人の立ち入りを拒む魔境の奥地に、彼らは独自の生活圏を切り開き、拡大した結果、彼らは安住の地といえる、安全で広大な領域を確保したそうだ。

〇カイル王国の誕生

伝承によると、彼らが魔境の最深部に移り住んで数年後、魔境に住む魔の民、最初の氏族と接触を持ったと言われている。

接触したのは、最も戦いに向いていない氏族、聖魔法を司る者たちであったらしい。

彼らは、魔境の厳しい暮らしよりは、カイルたちが築いた安全地帯で、氏族の命脈を保つことを選んだという。

ひとつの氏族が合流したことを契機に、彼等が移住して10年の間に、少数派で苦しい生活をしていた氏族たちが、魔境での暮らしを捨て、次々とカイルたちに合流していったそうだ。

その時点で、カイル率いる一団の人口は2,000名を超え、魔境に住まう者のなかで、いつの間にか最大勢力にまで成長していた。

そして、カイルたちの移住より12年後、一気に情勢は変化することになる。

魔の民の中でも最大勢力を誇り、攻撃力に長けた火魔法を行使する氏族が、カイルたちと合流した。

それ以降、それを知った他の氏族も、雪崩を打って合流を始めることとなった。

最終的に、合流しなかったのは、古よりの各氏族を束ねることで、その勢力を誇った、闇を司る氏族のみであったといわれる。

この時点で、カイル率いる勢力は5,000名を優に超え、ここに至りカイルは王国の建国を宣言した。

これがカイル王国の誕生である。

王国の誕生後も魔境の開拓は進み、カイラールを起点に東西南北に広がる魔境は、次々と焼き払われ、肥沃な農地へと変わっていった。

こうして、まだ小国ながら、周辺には広大な緩衝地帯、踏破不能といわれた魔境が広がり、魔法という力を持つカイル王国は、人知れず、だが一気に勢力を拡大し、力をつけていくこととなる。