軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第81話:特許

短い国外旅行を終えて王都へと戻りますとすぐに、わたくしはレクシーと共に商業ギルドへ。

貴族の屋敷にも見紛う巨大な建物。ですがそこを出入りするのは数多くの商人たちであり、荷馬車です。

「さて、行きましょうか」

「ええ」

レクシーとわたくしは建物の前で深呼吸を一つ。向かうのはギルドの三階の隅。活気あるギルドの中で、静かな一角です。

各国王都の商業ギルドには必ず特許部門があります。

レクシーの腕に手を添え、二人でその受付へと向かいました。

「A&V社のアレクシです。本日は特許申請に伺いました」

わたくしたちの影のように後ろをついてきた侍女のヒルッカが手にした鞄から書類を差し出しました。

事前に取り寄せておいた特許申請の書類に記載したものです。

「はい、ありがとうございます……えっ」

受付嬢が驚きの声を上げました。

提出された書類が数百枚もあるレポートの束であったからでしょう。

「申請する特許としてはこの一枚目にある通り、魔石の作製装置です」

「魔石の……作製……はぁっ!?」

彼女の目が大きく見開かれ、慌てたようにタイトルを見ます。

声に驚いたのか受付の奥から別の職員も様子を窺っていますわ。

ヒルッカと同様に付き従っていた執事のタルヴォがトランクから装置を取り出しました。

「置いておくと、およそ三日で0.1カラットの魔石ができるような機構です」

扇を広げ、その陰でくすりと笑みを漏らします。

今タルヴォが出したのはレクシー1号とミーナ1号の機関部を連結させて作ったもの。

破壊しないと分解できず、その性能も今わたくしたちが使っているものとは比べ物にならないほど低いものです。

「す、凄い発明ですね! あの、上の者とお話しいただいても?」

そう、それですら画期的なことなのですから。

応接室へと連れていかれ、商業ギルド長、ギルドの特許部門長に向けての説明ですわ。

「……と言うわけでこの機構は大気中の魔素を取集し、結晶化させているのです」

わたくしはお茶をいただきながら部屋の内装に視線をやります。流石に王都の商業ギルド、華美な内装ですが資産を誇示するようなわかりやすく価値のあるものばかりで品は良くありませんね。

特許部門長が計算を始めました。ギルド長が尋ねます。

「どうだね」

「素晴らしい発明ですが、採算は取れませんな。使っている素材に対して魔石の産出量が不足しすぎています。これは今後の研究に大いに期待というところでしょうか」

「なるほど、ペルトラ氏。改良型の作成に向けての資金援助をお求めだろうか?」

レクシーは首を横に振ります。

「いいえ。これの改良型は既に出来ていて、我々A&V社は既に大規模な魔石の生産を始めています」

「……なっ!」

「その改良型は!」

ふふ、と笑みが漏れます。レクシーは机の上に置かれた特許申請用紙の束を叩きました。

「この特許申請には魔石作製装置の機構を作るための素材の組み合わせとして数万パターンほど用意してありますので、それの1つですよ。そちらで調べていただければと」

魔素吸収と結晶化を組み合わせてますからね。100パターン×100パターンでも一万になりますから。

「そんな無法が通ると思っているのか!」

彼らが激昂して立ち上がりました。

パチリ、と扇を鳴らします。彼らの動きが止まり、わたくしに視線が集まりました。

別に平民の妻であるわたくしに注目する必要などない。ですが、これは王侯貴族の令夫人たちが不快を表す仕草です。間違いなく彼女たちと商いをしている彼らが注目しないはずもありません。

「……その発明、本当に公開しても宜しいのかしら?」

「と、言いますと?」

わたくしが扇の先で机を叩くと、彼らは気まずそうに椅子に腰を下ろします。

「いえね、今わたくしたちが魔石を作製している全ての技術を開示しても構いませんのよ。極端な話ですが、全てを公開した方がわたくしにとっても楽ですの」

「ほう?」

「だって 世界中(・・・) でこれを作ってもらえば、その莫大な 特許料(パテント) だけで一生遊んで暮らせますもの。違うかしら?」

「……その通りですな」

「それをしないのはあなたたち商業ギルドへの思いやりですけど、……もう一度お尋ねしますわ。公開しても宜しくて?」

わたくしは供された紅茶を口にします。彼らに考えさせるために。

「……世界か」

ギルド長の口から言葉が漏れました。

そう、特許として公開すると言うのはこの国、このギルドのみの話ではありませんもの。

「我々を利するという訳ではないということか……」

「むしろ害されるかもしれませんわね」

「現時点で大きな資本を有する国がより大々的に魔石を生産できてしまう、そういうことですか」

わたくしは笑みを浮かべます。

「南の教皇庁か東の帝国。どちらが世界を牛耳るでしょうね?」

ぞっと寒気がしたかのように彼らは身震いしました。

「もちろん、遅かれ早かれそういった未来は起こり得ますわ。その時計の針をここで進めても良いと仰るなら。わたくしたち、今持つ技術を全て公開してもよろしくてよ?」