軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第79話:教皇・後

教皇猊下はご自身のことを愚禿などと謙遜なさいますが、これを即座に刺激的な話と返すあたり、愚かでもなければ頭脳が老いてもいませんわね。

「なるほど、少々夜で見えづらいですが“世界の涙“と同じ色合いに見えますな。その手にされた箱を用いて創られましたか」

「はい、ただ当然のことながら巨大なものを作り上げるのは容易ではありませんが」

猊下は頷かれます。

「これは我が夫アレクシが発明した体内の魔力を抽出、結晶化する技術でございます。さきほど、創造との猊下の御言葉にわたくしは肯定致しましたが、厳密には創造ではありません。それは至尊なる神の御業ゆえに」

猊下は重々しく頷かれます。ここは大切なことですからね。

「なるほど。その箱を使えば誰の魔力でも結晶化できるのかね?」

「はい」

「例えば愚禿でも魔石を作れると?」

「私でも魔石を作ることができます。ただ、体内の魔力容量によってその大きさが異なるので、私ではほんの小さなものしか作ることができません」

とレクシーが説明します。

魔力を消費してしまう旨をお伝えすると、軽く試してみたいと仰ったので猊下の前にミーナ13号を置きます。

猊下は癒しの奇跡などを行使されるので魔力を使われているはずですから。

「ふむ」

おもむろに猊下はミーナ13号に手を翳すと、その手が仄白く輝きました。奇跡の力……!

光は直ぐに収まり、猊下は自ら引き出しを開けて小さい石を取り出します。

それはわたくしが作って見せたよりもずっと小ぶりな石ですが、自ら淡く光を放つようでした。

「なるほど、経典にある聖石はやはり聖属性の魔石であったかな」

猊下はわたくしを手招きすると、掌に聖石を置かれました。

「どうぞ」

「……よろしいのですか!」

聖石は経典にはしばしば登場すれど、自然界のダンジョンでは産出せず、現世で得られる手段は聖獣の遺骸より僅か。浄化や治癒の力の込められた特別に貴重なものの筈です。

「ええ、貴重な経験でした。記念になるでしょうし、研究に使っていただいても構いませんよ」

ふとオリヴェル氏の顔が浮かびます。これを研究用に持ち帰った時、彼はこの場に立ち会えなかったことを悔しがり、またわたくしたちでは作れない聖石にぐぬぬと頭を抱えるのでしょうと。

「それとあなた方の事業がただの慈善活動ではないと愚禿は気づきましたぞ」

わたくしは微笑みを浮かべます。

もちろん、A&V社について教会が調べているでしょう。そして今ミーナ13号での魔石作成を見せたことで、『無料魔力鑑定所』の真の意味を明かしたと言えます。

「高魔力保持者でない者からは1カラットにも満たない極小の石しか取れません。それでも魔石灯などの燃料には十分使えますわ」

「然り然り、たいしたものです。あなたは最上級の一点ものの魔石も作ることができ、また質ではなく量を作ることもできると愚禿に示しました。そして逆説的ですがあなたは手の内にまだ秘された札を持っている」

わたくしは肯定も否定もしません。別に全てを晒す必要がない。それは開示した札があまりにも強力だからです。ゆえに大気中の魔素集積についてはここで語る必要はないでしょう。

「ナマドリウスⅣ世猊下、わたくしは魔力鑑定を教会に委託しても良いと考えていますの」

「ほう……? 興味深い提案ですがなぜでしょう」

「猊下の手が届く範囲の全ての地の教会で、救貧院の炊き出しの食事の代価にこれで魔石を出してもらいましょう。炊き出しの回数も増やせますし、孤児院の薪がわりにもなりますわ」

猊下は一瞬面食らったような顔をされ、呵呵と笑われました。

「面白い。建前にしろ本音にしろ、法螺にしろ誠にしろ、そこまで言える者はついぞ居ませんな。それが成った暁にはあなたたちの名には 聖(セイント) が冠されるでしょう」

わたくしは頭を下げようとしましたが、それは猊下の手が肩に置かれることで止められした。

「しかしてその道程には苦難があり、愚禿の庇護が欲しいと」

猊下の視線は優しく、それでもわたくしの心の奥まで覗き込むが如き深淵を感じさせるものでした。

「……はい、その通りです。不遜なることにございますが」

猊下はにやりと笑みを見せ、髪のない頭をつるりと撫でました。

「なに、この禿頭にも使い道があるということを見せてしんぜましょう。楽しい一夜でした。またパトリカイネン王国で会えることを楽しみにしていますよ」

猊下は立ち上がると、部屋を後にされます。

「ご厚意感謝いたします」

「ご尊顔拝謁できたこと、心より感謝いたします」

レクシーとわたくしは言葉と共に跪きました。

数日後。王国への帰途、滞在先のホテルで新聞を読んでいたわたくしは思わず笑みを浮かべます。

「ミーナ、新聞を手ににやにやしてどうしたんだい?」

「わたしたちの魔石を猊下が宝冠に使われているのよ」

新聞には、教皇猊下がその正装を身に纏って民衆に向けて手を振る様子が掲載されていました。

そして記事には猊下の被る冠が数百年ぶりに新たになったと。その土台は変えることなく、冠の中央にそれは見事な水の魔石が飾られたと記されていました。

「それはとても名誉なこと……ということだな」

「それもありますし、猊下の使ったものを異端の技術によるものとはできないということですわ」

猊下はわたくしたちへの庇護をそのお姿で示されたのです。