軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第66話:ペリクネン領

季節は巡り、春が来ました。

再び社交シーズンが、貴族たちが王都に集まる季節がやってきたのです。

それはつまりあの婚約破棄の、あの結婚の日から一年が近づいているということになります。

春先から、ペリクネン公爵家の馬車は人を雇って監視させていましたが、わたくし自身も、元両親、弟妹、そしてイーナ嬢が馬車に乗ってペリクネンの王都屋敷に入ったことを目視いたしました。

さて、ここはわたくしたちの家。そのエントランスホールから2階へと向かう階段を登ります。

隣にはレクシー、彼にエスコートされて途中の踊り場へ。そこで身を返し、手すりの向こう、ホールを見下ろします。

こほん、とレクシーが咳払いをひとつ。

「お集まりいただいた皆さん」

エントランスホールには使用人たち、オリヴェル・アールグレーン卿とそのお弟子さんたち、クレメッティ氏と彼の腹心の部下、レクシーが雇った彼同様に不遇をかこっていた平民の研究者や技師たち、そしてミルカ様たち親しい貴族の方々。

「ペルトラ家の、A&V社の、その出資者、協力者の皆さん」

大勢が熱の篭った視線でこちらを見上げています。

「我々は半年以上の間、魔石作成の技術を隠しつつ、この街で力を蓄え続けました。まずはこれまでの協力と、この重大な秘密が露見していないことに感謝したい」

レクシーが右手を胸に、左手を横にして腰を折る紳士の礼を取ります。

わたくしもその隣でスカートを摘みながら膝を折り、淑女の礼を取りました。

ふふ、顔をそちらに向けることはできませんので目の端で見ておりますけども、レクシーの所作が洗練されてきていることがわかります。

拍手が起こりました。

息の揃った動作で立ち上がり、レクシーが手を挙げるとそれは止まります。

「そして今日、お集まりいただいたのは、我々のこれからについて話すためだ。ヴィルヘルミーナ」

レクシーの声にわたくしは一歩前へ。

「皆さん。今こそわたくしたちの活動を花開かせるときです」

踊り場に置かれた机、その上の二つの装置を指し示します。

「夫、アレクシの開発したこの大気中魔素集積装置と高濃度魔素結晶化装置、つまりレクシー4号とミーナ13号。これらの量産に成功しました。これを用いてペリクネン公領において活動を始めます」

ペリクネン公の一家がこちらに来る、つまり向こうの異変が認識しづらくなり、対応に時間がかかるということですわ。

わたくしは右手を頭上に掲げます。

「戦いの刻は来たれり、ですわ」

はい、という声と、おう、と掛け声が合わさりました。

数日後。

ペリクネン公領領都エスポワ、冒険者ギルド依頼掲示板。

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■依 頼 名:ダンジョン研究の護衛

■依 頼 者:魔術学校講師プラッサ・クラー

■難 易 度:D(パーティー)以上

■優 先 度:低

■依頼期間:〜夏至まで、複数回可

■場 所:エスポワ北ダンジョン2階

■依 頼 品:なし

■報 酬:パーティー単位日当銀貨10枚で2日間

■条 件:ダンジョン内セーフティーエリアにて一泊

■備 考:ダンジョン探索時、こちらの調査したいスポットにて休息してもらいます。討伐したモンスター素材についてはお任せします。

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今日は掲示板に貼られた依頼票が妙に多い。そう思って覗き込んだ冒険者の男が見たのはこんな依頼だった。

「なんだぁ、この依頼。おーい、だれか受付」

「はーい」

一人の女性がカウンターからこちらへとやってくる。

「なんかいっぱいあるけど何だこれ」

壁には似たような内容の護衛依頼の掲示が数多く貼られている。よく見ると依頼者の名前と場所などの細部が異なっているが。

例えばダンジョンの3階であれば日当が銀貨15枚など。

「王都の方からやって来られた研究者のグループの方が、ダンジョンの研究を大々的に行いたいようで、その護衛を依頼されたんですよ」

「ふーん、何度でもいいの?」

「調査は一度では終わらないから、数ヶ月単位で何度も行きたいとのことですよ」

「へー、研究者ってのは良くわからんな」

「どうします?」

男はぺりっと依頼票を剥がす。

「受けるよ、そりゃあ。モンスターの魔石や素材はこちらで貰っていいなら報酬分ただ儲けに近いだろ」

「そうですね、美味しい依頼だと思いますよ。ありがとうございます!」

この年、ペリクネン領ではこの依頼が冒険者たちの懐を潤した。

依頼人たちはラッパの様な形状の検査機器をセーフゾーンに置いてみたり、魔素の濃い場所、冒険者たちが湧きポイントなどと呼ぶところに棒状の端子を突っ込んでみたりしていた。何をしているのかは誰もわからなかったが冒険者たちには好意的に受け入れられた。

彼らは魔術が使え、下手な冒険者以上に腕は立ったし金払いも良かったからである。

また領都の繁華街には『A&V簡易魔力鑑定所』がオープンし、王都のように人気となった。またこれに関してもこの地に多い冒険者たちは自らの魔力や属性が無料で知れるとあって列に並んだ。

ペリクネン領に残る代官や家令はその動きについて認識していたが、問題あるものとは感じておらず、王都の領主にも定期報告の手紙に一行書き加える程度の報告しか成さなかった。そしてペリクネン公は定期報告をいつも通り読み飛ばした。

そしてそれがペリクネン領の終わりの始まりだった。