軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第63話:交渉

年が明けました。

使用人には年末年始で交代に休みを取らせ、わたくしたちは屋敷でゆっくりと過ごします。サーラスティ家のミルカ様はじめ友人たちの幾人かはオフシーズンに自領に戻ることなく、王都に滞在されていたためお会いしています。

しかし全体としては王都の貴族街は閑散としていると言えるでしょう。静かな年明けを迎えたと言えます。

レクシーは研究室に篭りがち。それもお身体に障りがあるので、適度に街を散策するのに連れ出したりもしていました。

簡易魔力鑑定所の方は相変わらず盛況です。平民たちは冬だからといって王都を離れることはありませんからね。

特に子供たちの比率が増えたでしょうか。お菓子が貰えますからね。

そして今日、3番事務所の応接室にわたくしはいます。

目の前の魔力鑑定器、要はミーナ12号ですが、そこからカランと音がしました。

「どうだね!」

そう仰るのはオリヴェル・アールグレーン卿。

この冬も魔術学校に留まり、毎週ここに来ては鑑定を行われるのでした。

「少々お待ちください」

侍女が鑑定士の下へ。ちらと覗きましたができていた魔石は強い青。

しばらくして戻ってきた侍女の持ってきたカードに目を通し、それを机の上に置いて示します。

「おめでとうございます、魔力量A+の氷属性という鑑定結果ですわ」

アールグレーン卿は満足そうに頷かれました。

「雷属性の吸収術式を開発した僕にとって、他の属性を付与することは児戯のようなものだよ!」

彼は前回、無属性の鑑定結果が出せるようになり、今回はそこに火と氷の属性を付与できるようになっておられました。

放出される魔力から属性を抜く術式と付与する術式、それら魔術の使用を隠匿する術式でおそらく3種の魔術を同時に発動されているのでしょう。

魔力放出を途中で終えられたため、3カラット程度の大きさですが、紅の魔石と蒼の魔石を作成されたのです。

わたくしは笑みを浮かべました。

「それでは今回で終わりでしょうか。わたくしたちとしてもこういった偽装方法があると教えていただき、たいへん勉強になりましたわ」

「とぼけるのは無しにしてくれたまえよ、レディ」

「あら」

「君の言うところの、僕がその魔力鑑定器に土をつけられたこと。それに対する雪辱は今日で果たしたと言えよう」

「ええ、故に先ほどおめでとうございますと」

彼はソファーからずいっと身を乗り出します。

「であれば、初めに言った通りだよ。その技術を僕に開示したまえ!」

「以前お伝えした通りです。どんな対価を積まれても安過ぎますわ」

「この僕が望んで、君は断れると思っているのかね?」

彼は魔術学校のみならず王宮魔術師やそれこそ王侯貴族にも広く伝手のあるはずの方です。隠したいと言って隠せるようなものではないことはわかっていますわ。

わたくしは息を吐き、ゆっくりと首を横に振ります。

「尋常の手段でお断りできるとは思っていませんわ」

「ふむ、それなら」

わたくしは彼の言葉に言葉を被せます。

「ですから決闘をいたしませんか?」

「……何?」

「平民であるわたくしが意志を通せるとするならば、それしかないでしょう」

「僕に女性に手をあげろと言うのか?」

アールグレーン卿が眉を顰めます。

魔女(ウィッチ) という言い方があるくらいですから、魔術士には女性も多いのです。しかし彼は女性に攻撃するようなことはできないという、紳士や貴族的な考えをお持ちのようでした。

「もちろんまともな決闘でわたくしに勝ち目などございませんわ」

彼は頷きます。

「ですのでこういうのはどうでしょう。この場で卿がわたくしに読心の術式を一度使う。それで心を読み取れれば貴方の勝ち。その読み取れた情報を差し上げますわ。読み取れなければわたくしの勝ち。その場合はもう技術開示の話は終わり、これでいかがです?」

彼は鼻で笑います。

「僕の魔術は素人が抵抗できるほど甘いものではないぞ」

「実のところ法に触れるとは言え、アールグレーン卿のような高位の魔術士に読心の魔術をこっそり使われていたら情報を抜かれてしまっていた筈です。ですのでこうして正面から話してくださる卿には、わたくしたち一同、とても感謝していますの」

彼は目元を赤らめてそっぽを向きます。

「ふん……騙し討ちのような真似は好まないだけだ」

「素晴らしいお振る舞いですわ」

わたくしは緩く首を傾げ、いかがでしょうと問います。

そして今思いついたかのように付け加えました。

「ああ、もしわたくしが勝利して、それでもなお卿が知りたいというのであれば、秘密を守ると誓いを立てていただいた上でわたくしに雇われるなら教えて差し上げても構いませんわ」

「ヴィルヘルミーナ・ペルトラ」

「なんでしょうか」

彼の片眼鏡の奥、金の瞳が細められます。

「君は僕を話にのせるのが上手い。君は……危険だ。危険な女性だよ」

わたくしはただ、笑みを以て返します。

「いいだろう、では勝負といこうか」