軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話:来客

さて、取り急ぎ出かけることになりました。

わたくしとしては父からの手切金として渡された小切手や宝飾品の現金化を先に行いたいところですが、日用品も無いのは困ったところです。

とは言え、あまり治安が良くないというこの家に宝石類を置いて出かけるのも不安ですわね。

そのようなことを思っていたとき、コンコンと扉が叩かれました。

「はい、どなたです?」

アレクシ様は扉を開けずに誰何されます。

「わたし、ヒルッカ・ヘンニ・ハカラと申します。先日までヴィルヘルミーナお嬢様の侍女を務めていた者です」

まあ、ヒルッカ!

アレクシ様がこちらに振り向かれたので、肯定の頷きを返します。

彼が扉を開けると、黒白の下級使用人服姿の彼女が飛び込むように入ってきます。

「お嬢様!」

「ヒルッカ、良くこちらに来られたわね!」

わたくしは彼女を抱きしめます。ヒルッカもまたぎゅっとわたくしを抱き返しました。

「はい、お嬢様がどこに連れ去られたか分からなかったため、こちらのペルトラ氏を尾行させていただきました」

アレクシ様を見ると驚かれた表情。全く気付いていなかったのですね。

ああ、なるほど。だからアレクシ様が帰ってきてすぐに来たのですか。

「ペリクネンのお屋敷での仕事は?」

「ご当主様には気付かれないよう、執事のタルヴォさんに仕事を外してもらっています。使用人の皆もお嬢様がご無事か心配しておりますので」

「彼が差配してくれているの? わたくし付きの使用人たちは不当な目には遭っていない?」

タルヴォはわたくし付きの執事でした。わたくしが勘当されたことで、使用人たちにも迷惑がかかってしまったというのに。

「ええ、昨日の今日ですし、即座に解雇などということにはなっていません。それでもタルヴォさんは下級使用人のための紹介状をいつでも渡せるように用意を始めてくださっています」

彼に任せておけば良く計らってくれるでしょう。

僅かなりとも心が軽くなります。

「ヒルッカはわたくしたちのことを報告するのかしら?」

「タルヴォさんには報告させていただきます。他の方にはご無事だとだけ。……まあ快適な生活とは言い難いみたいですが」

ヒルッカは家の惨状に目をやりました。書物と書類は整理しましたが、他はまだ手付かずですからね。

「それはそうよ、昨日の夜にわたくしたちここに放り込まれたばかりなんだもの。これから不足しているものを買いに行こうとしていたところだったのだけど」

ヒルッカは改めてわたくしの姿を見ます。はちきれんばかりの胸元、縛ったシャツの裾から覗いているお腹と視線が移動し、彼女の顔が赤く染まります。

「お、お嬢様! なんと破廉恥な格好を!」

彼女はわたくしから目を逸らし、キッとアレクシ様を睨みました。

「し、仕方ないだろう! 彼女は着ていたドレス以外何も持たずに追い出されたのだ。

俺だって女物の服なんて持っていないし!」

ヒルッカはため息をつきます。

「確かにこの辺りをドレス姿で歩いたら犯罪者の良い的ですが、そのような破廉恥な格好で歩いても同じですよ」

なるほど、ヒルッカも普段の侍女としてのドレスではなく、使用人のお仕着せを着てきたのもそういった配慮なのね。

「ペルトラさん、ヴィルヘルミーナ様と衣装を交換してもよろしいでしょうか。わたしとお嬢様であれば体格は近いですし。使用人の服であればまだ……お嬢様の美貌は隠せないにしても、多少は目立たないでしょう。

そしてあなたとヴィルヘルミーナ様がお出かけされている間、わたしがこの家で留守番して掃除でもしていて構わないでしょうか?」

「うむ……こちらにとってはありがたい話ではあるが?」

アレクシ様がこちらに視線を送られました。

「彼女に裏切られるくらいなら諦めて死を選びます」

「ヴィルヘルミーナ様!」

「それくらいには信用しているということよ」

「わかった。ありがとう、あー、ハカラさん。よろしくお願いします」

アレクシ様が頭を下げました。

「いえ、ヴィルヘルミーナ様の旦那様であれば、わたしにとってもご主人様のようなものです。お気になさらず。

着替えてくるのでお待ちくださいね」

そう言うと彼女は立ち上がり、わたくしの手を取って2階へと 誘(いざな) いました。

衣装を交換しながら話をします。

「ヴィルヘルミーナ様、ペルトラ氏はいかなる人物ですか? あまり冴えない容貌の殿方ですが」

「身なりに気を遣ってもらえれば、冴えないという評価は無くなると思うのですけど。研究者としては優秀で熱心なのではなくて? それ故に貴族たちから疎まれてわたくしを押し付けられたのでしょうけど」

「つまり世界で最も幸運な男ということですね。で、抱かれましたか?」

「ななな、何を言うのよ!」

ヒルッカがにやりと笑みを浮かべます。

「そりゃあお嬢様は魅力的ですし? 夫婦ですし? ベッドが1つしかないですし?」

「昨夜、彼は紳士的にもわたくしにベッドを譲り、下で寝てくださいましたわ」

「ふむ、紳士かへたれかは保留としておきましょう」

そうして着替え終えると下へと戻りました。