軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第69話 自己紹介

「ひっ……」

無能な豚でも、今の俺から放たれる殺気を感じ取れた様だ。

奴は顔を真っ青に染め、怯えながら後ずさる。

「わ、私は悪くない。そう、私は悪くないんだ。全部……全部ハミゲルが悪いんだ!」

「……」

ハミゲル・コーガス。

品行方正だったコーガス家に生まれた問題児であり、30年前に大きな問題を起こしコーガス侯爵家を没落させた男である。

……どうやら伯爵は、彼に悪感情を持っている様だな。

「あ、あいつはいつも私を見下していた。ことある毎に私を馬鹿にし、皆の前で恥をかかせて来たのだ。お前に……お前にこの屈辱が分かるか!」

恥をかかされた事による恨みか……

普通ならば、高位貴族に分類される伯爵家の子息が人前で馬鹿にされる様な事は起きない。

そのランクの相手を堂々と敵に回すなど愚の骨頂だからな。

だが没落前のコーガス侯爵家は違った。

絶対的な権勢を誇った家を後ろ盾に持ってさえいれば、やりたい放題出来る。

その代表的な存在が、ハミゲルだ。

『力には常に品格が求められる』

この言葉は、コーガス侯爵家の家訓である。

もしハミゲルが家訓を少しでも尊ぶ気があったなら、レイミー達の両親が死ぬ事はなかっただろう。

いや、それ以前に侯爵家が没落する事だってなかったはずだ。

そう考えると、ハミゲルという男をぶん殴りたくて仕方なくなってくる。

まあ絶対に無理な訳だが。

「ハミゲルは30年以上前に処刑されているだろう」

彼だけは30年前に処刑されてしまっている。

王家が恩赦を施したとはいえ、流石に当事者は無罪放免とはいかないからな。

レイミー達はその後家督を継いだ次男の血筋だ。

「そんな事で……そんな事で……私の怒りが収まる訳がないだろう!」

本人が死んでいる以上、その親族に恨みを抱くなど――まあこいつも、そもそも親類な訳だが――ただの八つ当たりでしかない。

だが時にその矛先が、親族へと向けられる事があるのもまた事実。

その消えぬ恨みを原動力に、伯爵は見張りの様な者をコーガス侯爵家に寄越した。

惨めな生活を確認する為。

そして、相手を苦しめるための材料を探すために。

自分の手で直接何かをしてこなかったのは良心……な訳はないので、落ちた侯爵家に手を出すのはプライドが許さなかったって所だろう。

「収まろうが収まるまいが、お前のそれは只の八つ当たりだ。何もしていない人間を死に追いやる理由にはならん」

「ぐぬぅ……だが、だが……私の怒りはどうしろというのだ」

「相手が間抜けに処刑された時点で飲み込めばよかっただけだ。そしてそれが出来なかったお前は……ここで死ぬ」

「ふ、ふざけるな!私は侯爵家の情報を流しただけだ!手を下してなどいない!!その私が何故殺されねばならん!!」

「それは……お前が侯爵家を敵に回し、俺を怒らせたからだ」

俺は目出し帽を脱ぎ捨て顔を晒す。

「お、お前は!?侯爵家の執事!」

伯爵が俺の顔を見て、驚きの声を上げる。

質問の内容から俺がコーガス侯爵家関連の人間だろう事に気づいてはいただろうが、まさか執事がその正体とは思わなかっただろう。

「なんで……執事如きが……どうやって我が屋敷の防備を……」

「俺は只の執事じゃないんでね。100年前には勇者とも呼ばれていたんだ。この程度の屋敷に侵入する事など容易い事だ」

「ひゃ、百年前?勇者?」

「お前も聞いた事があるだろう?100年前、魔王を倒し……そして大魔王を倒すため魔界へ旅立った勇者。タケル・コーガスの名を。それが俺だ」

別に名乗る必要などなかったが、これから自分を殺す人間の事ぐらい教えておいてやる。

手向けという奴だ。

まあ相手が信じるかどうかはしらんが。

「俺はコーガス家の守護者として、お前を断罪する」

「勇者……断罪……ふざけるな!暗殺などこの国では許されん!犯罪だ!お前が本当に勇者なら、そんな真似をして良い訳がない!!」

自分は他人を暗殺する様働きかけて置いて、よくそんな台詞が吐ける物である。

自分勝手極まれりだ。

「確かに、真っ当な勇者のする事ではないな……」

「そ、そうだ!真っ当な勇者はそんな真似はしない!!」

希望を見出したのか、伯爵が俺の言葉に食いついた。

「だが、真っ当な勇者じゃ大魔王は倒せなかった。悪いが、俺は目的の為なら手段は択ばないタイプでな」

が、その希望を速攻で叩き落してやる。

「何か言い残す事はあるか?」

「た、助けてくれ……」

「それが最後の言葉でいいのか?それじゃあ――」

「い、いやだぁ!死にたくない!誰か助けてくれ!!」

伯爵が必死に逃げようとするが、俺はその後頭部を片手で掴んで吊り上げる。

「いぎぃぃぃぃ……」

そしてそのままその頭部を――

「っと、忘れてた。そういやまだ一つ聞いておく事があったんだった」

――握りつぶそうとして、確かめる事がまだ残ってる事を思い出して寸前で留まる。

やれやれ、頭に血が上ってそのまま殺してしまう所だった。

「お前に最後の質問だ。その答えしだいでお前の一族の未来が決まるから、しっかりと答えろよ」

「た、助けてくれるのか!?」

頭を離すと、何を勘違いしたのか寝言をほざく。

俺が言ったのは一族の末路であって、その中にこいつの命は含まれてどないない。

そもそも顔を見せているのに、生かしておく訳がないだろうに。

「そうだな……いいだろう」

が、それは告げずにあえて嘘をつく。

別に意地悪という訳ではない。

告げたら聞き出すのに余計な手間が増えそうだからだ。

「ほ、本当か!なら何でも聞いてくれ!なんでも答えるぞ!!」

「一族の中にお前の目的を知っていて、それに加担した者はいるか?」

伯爵は罪を犯したが、その親族を手にかけるつもりはなかった。

八つ当たりをする気はないからな。

なので先程の言葉は単なる脅しだ。

だが目的を知って手伝っていた者が居るなら、当然処罰対象だ。

そいつも始末する。