軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

堕ちていく②

「何なの……!何なの何なのよ!!!」

ばん!とノートを机に叩きつける。

マナの行動を訝しげにクラスメイトは見つめていたが、関わりたくない生徒の方が多いのか、知らないふりをしている。

ルナリアが復学してからの行動、といっても朝と昼の二件しかないが、その二件でマナの評判は一気に悪くなっていた。

復学した矢先に、何もしていないルナリアを問い詰め、更にはやってもいない教科書破損の件を問い詰めた。

その行動は、あっという間に同じクラスの生徒にも知れ渡ったのだ。

「ねぇ……大丈夫なの、あの人…」

「ちょっとやばいよな…」

こそこそと話す生徒を睨むと、今まではそそくさと視線を逸らされていただけなのに、今向けられているのは心底軽蔑したような眼差し。

「アンタら、文句あるなら言いなさいよ!王太子殿下に言いつけるわよ!」

「言いたきゃ言えよ。俺らは平民なんだから、取り潰される家なんかねぇっつの」

「そうそう。最終手段は、国を出ていけば良いだけだし?」

「な、」

完全に馬鹿にしきったように言われ、思わずマナは怯んだ。

「この学園に入れただけでも、家の誉れなんだよ。俺ら平民はな」

「付いていくだけでも精一杯の授業だけど、成績は平均保ってるからな、誰かさんと違って」

「『聖女』っていう身分と、王太子殿下様のコイビトっていうのに守られて成績かさ増しされてるって噂のあるお前に、とやかく言われたくねぇわ」

「そもそも、婚約者がいる人に対して声かけまくってる時点で引くわよね」

「王太子様に言いつけるとか聞くと、噂も本当だったんだって思われても仕方ないよなー」

平民から貴族まで広く門戸を開いている学園。

入学さえしてしまえば、授業料は免除、カフェテリアでの食事代も免除、教科書代も免除される。

その代わり、落第して退学するとなれば話は別だ。

学ぶ意欲のあるものに対して門戸を開いているのだから、それを辞めるならばそれまでかかった授業料や食事代、教科書代を請求される。

平均クラスのCクラスでも、学園を卒業したという『成果』が残れば、その後の進路や就職先が大変有利になる。

それを目指して、平民でも勉強が出来るものは将来を少しでも明るいものにしようと必死になるのだ。

「ど、して…」

今までそんな事言われたことは無かった。

突きつけられる第三者からの現状の評価に、本当に泣き出しそうに目が潤むが、誰も心配しない。

「泣けば王太子様に庇ってもらえるんだもんねー。ほーんと、羨ましいわ」

「ルナリア様の方が可哀想よ!婚約者を奪われて、この人にも、王太子様の取り巻きにすらバカにされて冤罪までかけられて」

あまつさえ、マナの(一方通行だが)天敵であるルナリアを庇うような発言をするクラスメイト。

憎々しげに睨んでも、彼らから返ってくるのは白い目だけ。

学園に入学した頃は、『聖女様と同じクラスだなんて感激しました!』と持て囃してくれていたのだが、もうそんな雰囲気はどこにもない。

それが己の行動の結果だとは思いもしないマナは、泣きながらクラスを飛び出した。

グズグズと中庭で泣いていると、たまたま移動教室で通りかかったデイルが駆け寄ってきた。

「マナ!」

「デイル様ぁ…クラスのみんなが酷いんですぅ…」

泣き腫らした目は赤くなり、見ていると痛々しい。

デイルのクラスメイトはどうしたものかと少し止まるが、二人の関係性を理解している人達は、放置することを選び、さっさと移動していく。

残されたのは二人だけ。

「何があったんだ?まさか、またルナリアが…!」

「違うんです!あたしが悪いんです…っ」

言葉だけ聞くとその通りでしかないが、デイルにとっては今泣いているマナの方が大切なのだ。

デイルの中ではルナリアはマナをいじめるだけの『悪』。

マナが泣いている、それが今彼の前にある事実。

短絡的な思考とは分かっていても、愛しい相手が泣いていることに対して、疑いをかけるのはまず己の婚約者。血も涙もないつまらない公爵令嬢なぞ、気にかけすらしない。『悪』なのだから。

優しく抱きしめ、背中をとんとん、と叩きながら落ち着かせてやると、次第に涙も止まってきたらしい様子にホッとした。

「あた、あたしが…っ、身分をひけらかすような、こと…言ったから、皆に…叱られ、て…」

「だが、マナは立派な『聖女』なんだ。それは誇っても良いぞ、このデイルが保証する」

「デイル様…!」

感激した様子のマナを再び抱き締める。

いつまでもこうしていたいが、互いに授業のある身としては、サボってしまう訳にはいかない。

だが、マナはデイルの制服をそっと掴んだ。

「もう少しだけ…一緒にいてもらえませんか?そうしたら、あたし教室に戻る勇気が出ます…」

「もう少し、だけだからな」

苦笑いを浮かべつつも頼られている事が嬉しく、よしよしとマナの柔らかな髪を撫でる。

ルナリアは間違いなくこんな風に頼ってくれない。

だから、余計に気分が良かった。

そして、マナはじっくりと考え込む。

攻略キャラ達の好感度は大変高いが、マナから見た所謂『モブキャラ』達からは全く好かれていない。

愛される王妃様、を目指している彼女にとっては死活問題だ。

かつてのゲームのエンディングスチルのような、華々しい未来のために、平民からも好かれなければいけないのに。

でも、彼らが支持しているのは間違いなくルナリア。

マナのことも、王太子であるデイルのことも、悪い印象しか持たれていないのだ。

どうしてか考え込むも、これがゲームのストーリーと信じ込んでいるので、己の行動が単純にドン引きされているという事には気付かない。

だが、デイルに頭を撫でてもらったことですっかり気分を良くしたマナはそんな事もすっかりどうでも良くなり、にっこりと笑いかけてから少しだけ体を離した。

「デイル様、ありがとうございました!あたし、これからも頑張ります!」

「あぁ。しっかりな」

二人は立ち上がり、それぞれのクラスに歩いていく。

彼らは気付いていなかったし、知らなかった。

たまたま、本当に偶然お忍びで学園の視察に来ていた王妃が、カフェテリアでの一件を聞いてしまったこと。

そして、デイルが婚約者であるルナリアを差し置いてマナと大変親密な関係にあり、二人きりで居たまさにその瞬間も、しっかり王妃が見ていたことを。

誰にも見せたことのない、冷たく底冷えするような眼差しを王妃は息子であるデイルに向けていた。

また、デイルとマナの後ろ姿を見ていたのは王妃だけではない。

この視察に同行していた学園長も、彼らをまた、じっと見ていたのだ。