軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35.国の未来

すでに会場の視線は、宙を舞う小さな光――精霊たちの動きに釘付けになっていた。

人々の視線は、浮遊する光の粒を追い、その流れに導かれるようにして、私へと――

国王陛下は、驚きを隠せぬ様子で侍従に何やら指示を飛ばしていた。

その目は、鋭く状況を見極めようとする支配者のものだったが、どこか楽しそうでもあった。

「ウィンチェスター公爵令嬢。申し訳ありませんが、こちらに来て、アクルム石に触れていただけますか?」

やっぱり、そうなるわよね……。

わずかにざわめく会場。

私はゆっくりと立ち上がる。ルキウス様を見て、一つ頷いた後、小さく息を吸い、深く礼をしてから、足元を確かめるように歩み出した。

ベス様は、石から手を離すことを拒み続けていたが、ついに侍従たちの説得に応じ、その場を離れた。

ほんの少しだけ、全身の力が抜けたような――それが、諦めにも見えた。

私は壇上の中央へと進み、祈るような静けさに包まれながら、アクルム石の前に立つ。

両手をそっと伸ばした。冷たい光沢を帯びた石に指先が触れた、その瞬間――

私の周りが光に包まれた。

ふわりと花が開くように、ひとつ、またひとつ、光の粒が舞い上がる。その中に、はっきりと輪郭を持った“存在”が浮かび上がっていく。

透明な羽、きらきらと瞬く瞳、色とりどりの衣をまとった小さな精霊たち。

「あっ! 見えた? ねえ、ぼくたちが見えた?」

「嬉しい! 私、ミリーっていうの!」

「まあ、ミリー? かわいらしいお名前ね。私はフェリシアですわ。“フェリ”。そう呼んでください」

次々と名乗りを上げてくる精霊たちは、花の蜜に集まる蝶のように、私のまわりをふわふわと舞っている。

小さな手が頬に触れたり、髪に潜り込んでくすぐったく揺れたり、肩にちょこんと腰掛けたり。

「すごい、精霊たちが、自ら名前を教えてる……!」

「選ばれし証だ」

「精霊姫は、ウィンチェスター公爵令嬢だったのか!」

観衆の中から、驚愕と納得が入り混じった声が上がる。

深く息を吸い込み、精霊たちに微笑みかけた。

ふぅ、これが運命というものならば。私は、逃げも否定もせず、ただ受け入れるしかないわね。

「これからよろしくね」

小さな精霊たちが一斉にぱたぱたと羽を鳴らし、喜びを表す。その様子に、会場からは、ため息のような歓声が漏れた。

客席の一角、私はふと視線を向けた。感極まったように口元をそっと押さえているライラの姿が目に映る。瞳には涙がにじみ、その表情は溢れ出る感情を抑えているかのようだった。

その隣にいるヴィアの目元は柔らかく細められていて、どこか楽しげな光を湛えている。

一方、壇上では精霊庁の庁官長が緊張した面持ちで、ゆっくりと前へ歩み出る。

周囲の注目が彼に集中する中で、庁官長は深く一礼し、声を震わせながら慎重に問いかけた。

「せ、精霊様……お話しても、よろしいでしょうか?」

その問いに答えたのは、私の髪の隙間からひょっこりと顔を出した、小さな精霊だった。ほのかな光をまといながら、くすくすと楽しげに笑い、その無邪気な様子が場の緊張をやわらげていく。

彼の声はまるで微風のささやきのように軽やかで、会場に温かな空気を漂わせた。

「いいよー!」

陽気な子どものような声。場の緊張がふっと緩んだ。

「では……その、精霊姫様は、そちらの方で、間違いないでしょうか?」

庁官長の震える声に、今度は複数の精霊たちが一斉に応じた。

「間違いないよー!」

「フェリが、ぼくたちの姫!」

「うん! 姫はフェリだよ!」

舞い上がる羽音とともに、歓声のような声が響く。

おばあさまになっても“姫”って呼ばれ続けるのかしら?

ふと、そんな考えがよぎって――我ながら妙なことを思いつくものだと、笑いがこみあげてくる。

予定された式次第は、すべて崩れ去ったというのに、不思議と誰も慌ててはいない。

人々はただ、息をのんで、次に起こる“奇跡”を待っていた。

国王陛下が立ち上がり、ゆっくりと壇上に歩み寄る。その手には、淡い光を宿す、美しいアクルム石のついたネックレスがあった。

「では、ウィンチェスター公爵令嬢。あなたに、精霊たちから選ばれし“精霊姫”であることの証を授けよう」

私は深く、敬意を込めて頭を垂れ、両手でその証を受け取る。その瞬間、またひときわ大きな光が舞い上がり、祝福の風が吹き抜けた。

そして――

「フェリ。私が、つけてあげよう」

隣に立つルキウス様の声は、落ち着いた暖かさを帯びていた。彼は、視線を私に向けたまま慎重に金具に手をかける。

「この国を背負う王太子の隣に、精霊に選ばれし婚約者がいる。……国の未来は、明るいな。なあ、庁官長?」

「そ、その通りでございます!」

庁官長が、慌てて頭を下げる。

その言葉に呼応するように、会場のあちこちから拍手が湧き上がり、歓声が重なっていった。