軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.世話役の交代

学院のサロンでは、今日も令嬢たちが優雅にランチを楽しんでいた。ふわりと漂う香り高い紅茶。銀のカトラリーが静かに重なり、陶器の皿が音を立てることもなく配される。

「フェリが言った、“どうか、ご自身のお立場を大切になさって”って台詞——ちょっと優しすぎない?」

ヴィアが紅茶を口にしながら、問いかける。

「そうですわね。でも、“婚約者のいる殿下にちょっかいを出したら、精霊姫の立場を失うわよ”という牽制にも聞こえますわ。さすがはフェリシア様」

「そう言われると、確かにそうね。ねえ、ベス様は、これでおとなしくなると思う?」

ヴィアが、紅茶のカップを揺らしながらいたずらっぽく微笑んだ。

「オリヴィア様、残念ながら、ヒロインが繊細なのは物語の中だけですわ」

ライラは涼しい顔でそう返す。ふふ、二人とも楽しそうね。

「そういえばクラリスたちから、また新しい噂を聞いたの」

ヴィアは声を落とし、周囲に聞こえぬようそっと囁いた。

「私に関する噂かしら?」

問い返しながら、私はフォークを静かに皿に置いた。

「ええ。フェリが、ベス様に嫉妬して、王太子殿下と一緒にいるのをわざと邪魔しているって」

ヴィアは芝居じみた口調で言い、眉をひそめる。

「フェリシア様は婚約者なのですから、むしろ邪魔しているのは向こうでは?」

ライラが少し語気を強める。

それにしても、昨日の今日で、誰がそんな噂を流しているのかしらね。

「ふふ。じゃあ、私——もっと“邪魔”してくることにするわ」

中庭の東屋では、ベス様がルキウス様と並んで腰かけ、何やら楽しげに話しかけていた。頬をほんのり染めて見上げるその表情は、まるで恋する乙女そのもの。その周りには、ベス様のご友人方。

ルキウス様の護衛兼従者のカイエンは、愛想笑いがいつもより浅い……退屈していますわね。内心では「王太子殿下、お疲れさまです」と思っているのではないかしら、ふふ。

私は静かに歩み寄り、あくまで笑顔を崩さず声をかけた。

「ルキウス様、こんなところにいらしたのですね」

「やあ、フェリ。一人で珍しいね」

その声に、ベス様が振り向く。

「まあ、フェリシア様。近頃、よくルキウス殿下に、付き纏ーーいえ、何か殿下にご用事ですか?」

周囲の令嬢たちが、ささやき合う。

「やっぱり、付き纏っているのですわね」

「焦っているのですわね、ベス様に王太子殿下を取られるのが怖くて」

「もっと高潔な方かと……がっかりですわ」

聞こえるように、けれど直接は言わない——それが彼女たち。

私は、にこりと微笑んだまま答える。

「王子妃としての教育が一段落いたしましたの。時間ができましたので、婚約者として共に過ごす時間を増やそうかと」

その言葉にもまた、ざわざわとささやきが返る。

「言い訳ですわ。わざわざベス様が一緒にいるところに来なくたっていいのに」

「“時間ができた”から殿下の跡をつけてるのね」

すると、一人の令嬢が声を上げる。

「でも、殿下は、お忙しい中、貴族社会に疎い精霊姫をお守りしているんです。あまりお時間を奪うのは、殿下のご負担かと存じますわ」

……伯爵家の方ですわよね。殿下の負担を代弁できる立場ではないでしょうに。

「ベス様。貴方はどう思われます?」

視線をベス様へと向ける。突然の問いかけに、ベス様が目をぱちぱちとさせた。

「え、ええと……私はまだ分からないことが多くて、殿下に教えていただきたいことがあるのです。それでもっと一緒にいたくて……フェリシア様にも許していただけたらと……」

一生懸命につむがれる言葉に、数人の令嬢が「まあ……なんて健気な」と口元を手で隠す。

「教えていただきたいこと? どんなことかしら?」

興味深そうに身を乗り出す。

「貴族のことや、マナーとか、いろいろです」

「そうなのですね」

私はふわりと笑った。

「それは、これまで通り、ルキウス様とご一緒が、よろしいのかしら?」

「ええ、もちろんです。許していただけるのですか? ありがとうございます」

まだ何も言っていませんけど?

私は一歩ベス様へと、にじり寄る。

「でも、そちらのご令嬢がおっしゃったように、忙しいルキウス様のお時間を奪うのは、“ご負担” よね。そうだわ! 今後は私が、ベス様をお世話いたしますわ」

「……え?」

「そちらのご令嬢方よりも令嬢教育は完璧に仕上げておりますの。次期王太子妃ですもの。私が懇切丁寧にお教えいたします。ルキウス様は殿方。令嬢としてのマナーや所作に関しては、私の方がふさわしい内容をご指導できるかと存じますわ」

ベス様は目を泳がせながら、それでも口を開いた。

「で、でも私が知りたいのは、ルキウス殿下が知っていること、でして……」

「まあ、具体的には?」

私は問い返す。

「えっと……もうすぐ披露のパーティーがありますから、王族や他国の方に会うときの立ち居振る舞いなど。それに、殿下に教えていただくのは国王陛下のーー」

「それでしたら、お任せくださいませ」

私は一歩進み、殿下に視線を送りながら堂々と宣言した。

「私も未来の王族。立ち居振る舞いなど得意分野ですわ。あっ! 国王陛下への許可取りもお任せを」

やりとりを見ていた、ルキウス様が微笑みながら口を開いた。

「そうだね。フェリに任せておけば安心だ。私も心強いよ」

その一言に、私の口元が自然とほころぶ。ナイスアシストですわ、ルキウス様。

私、これから丁寧に“お世話”させていただきますわね。