軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

偽りの結婚式 2

「はあ……っはあ……」

ずっと部屋に篭っていたせいで体力が失われており、息が苦しくて肺が痛くて、足が重い。それでも止まってはいけないと自分に言い聞かせ、走り続ける。

開けた場所から少し先の森まで、あと二百メートルほどだろうか。木々が生い茂る森の中にさえ入ってしまえば、逃げ切れる可能性はかなり上がるはず。

「おい、待ちやがれ!」

すると後ろから見知らぬ男達が追いかけてくるのが見えて、息を呑む。

やはりジェラルドが簡単に逃がしてくれるはずなんてなかったのだと、嫌な汗が背中を伝う。

体力もなくウェディングドレスを着た私と玄人の彼らでは、すぐに追いつかれるのなんて目に見えている。

それでも諦めて立ち止まることなんて、できるはずがなかった。ここで捕まってしまえば、私だけでなくエリザもノーマンも入れ替わったまま、一生を過ごすことになるかもしれない。

必ず逃げ出して真実をみんなに伝え、メイベルから魔道具を奪わなければ。

「絶対に、捕まえろ! たとえ手足がなくなっても、生きてさえいればいい!」

「…………っ」

大聖堂からふらふらと出てきたジェラルドの言葉に、ぞっと背筋に冷たいものが走る。

彼は本気でそう思っているのが伝わってきて、その歪みきった愛情が恐ろしくなった。ジェラルドは本当に私の魂が入ってさえいれば、何でもいいのだ。

大切なエリザの身体を傷付けるわけにはいかないと、痛みや苦しさを堪えて走り続ける。

「あ、っ……!」

あと少しで森の中に逃げ込めるというところで、男の一人が放った魔法攻撃が足に当たり、激痛と共にバランスを崩した私は地面に倒れ込む。

「う、……っく……」

膝から下が火傷のようになっていて、もうこの状態では走ることなど不可能だと悟る。

そう分かっていても諦めたくなくて、痛みを堪え立ち上がろうと地面に両手をついた時だった。

「──セイディ!」

聞き間違えるはずのない声が耳に届き、顔を上げる。

縋るように向けた視線の先にはやはりルーファスの姿があって、視界が揺れた。

「……ど、して」

どうして、彼がここにいるんだろう。どうしてこの姿の私を「セイディ」と呼んでくれたんだろう。

分からないことばかりだけれど、ルーファスの顔を見た瞬間、心底安堵した私は、ずっと堪えていた涙が溢れて止まらなくなっていた。

「遅くなってすまない、大丈夫か?」

「……うー……っ……」

言いたいことは数え切れないくらいあるのに、言葉が出てこない。私に触れたルーファスの優しい手のひらの温もりから、これが夢や幻なんかではないと知る。

泣きながらルーファスの腕を縋るように掴めば、彼は何度も「すまない」と謝罪の言葉を繰り返し、私の背中を撫でてくれた。

「おい、その女を返してもらおうか」

けれど私を追っていた男達が側まで来ると、ルーファスの纏っていた空気が変わる。

「……少し待っていてくれ。すぐに終わる」

立ち上がるとルーファスは剣を抜き、向かってくる男達を一瞬にして斬り伏せた。

あまりの速さに私は何が起きたのかも分からず、呆然とその背中を見つめることしかできない。

やがて彼の視線は、大聖堂の前に立つジェラルドへと向けられた。まだ先程の花の効果が効いているらしく、顔色は悪く、立っているだけでやっとに見える。

花の効果で目が見えなくなっているのだと伝えれば、ルーファスは「そうか」とだけ呟く。

「──ふざけるな!」

そんな中、辺りにはジェラルドの声が響いた。

びくりと身体が跳ねた私に、ルーファスは大丈夫だと優しく声をかけてくれる。

けれど、ジェラルドを見つめる眼差しは今までに見たことがないくらい、冷え切っていた。

目は見えておらずとも、誰が私を助けに来てくれたのかを察したのだろう。

「邪魔をしやがって……セイディから離れろ!」

ジェラルドが手のひらをこちらへ向けた瞬間、刃のように鋭い風がこちらへ向かってくる。

「セイディ、下がっていろ」

私を背に隠したルーファスも風魔法で応戦し、耳をつんざく大きな音や激しい風が轟く。

目が見えない状態のジェラルドと騎士団長を務めるルーファスでは、勝負は見えている。

「ぐ、あっ!」

やがてジェラルドの身体が大聖堂の壁に激しく叩きつけられ、ずるずると地面に倒れ込んだ。

頭を打って意識を失ったらしく、動かなくなった。

「あの男を拘束してくる。少し待っていてくれ」

ルーファスはジェラルドの側へ行くと、取り出した道具で拘束した後、魔道具を使ってどこかへ連絡をする。

「すぐにケヴィンが来るはずだ。……本当に遅くなってすまなかった、辛い思いをしただろう」

「…………っ」

再びこちらへ戻ってきたルーファスに抱きしめられ、優しい声にまた涙が止まらなくなる。

ルーファスは怪我をした私を抱き上げてくれ、ひどく重たい身体を預けた私は、大好きな香りと体温に包まれたまま意識を手放した。