軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

すれ違いの先に

「……ルーファス?」

何故か石像のように固まってしまった彼の名を呼び、顔を覗き込めばルーファスは「すまない」「何でもない」と言って片手で口元を覆った。その顔は、少し赤いように見える。

一方、ケヴィン様はじっと何かを考え込むような表情を浮かべていたけれど、「あの」と口を開いた時だった。

コンコン、というノック音が室内に響いて。ケヴィン様に断りを入れて声を掛ければ、ハーラが「失礼いたします」とすぐに側へとやって来た。

「お嬢様、ジェラルド様がいらっしゃいました」

「えっ?」

突然のジェラルドの来訪に、驚いてしまう。今日は彼と何の約束もしていなかったはずだ。むしろ昨日も会ったばかりだというのに、何かあったのだろうか。

来客を知り気を遣ってくれたようで、ケヴィン様はティーカップを置くと、上着を手に取った。

「私たちはそろそろお暇しましょうか」

「あ、ああ」

先程言いかけていたことについて尋ねても、大丈夫ですと笑顔で返されてしまった。戸惑ったような様子のルーファスは、慌てて立ち上がったことでテーブルに足を思い切りぶつけていた。かなり痛そうだったけれど、大丈夫だろうか。

私はそのまま二人を外まで見送った後、ジェラルドの元へと向かうことにしたのだけれど。

「……ラングリッジ様と一緒だったんだ」

「う、うん」

玄関へと向かう途中、メイドに応接間へと案内されている途中のジェラルドに出会した。ジェラルドとルーファスはお互いに挨拶をしたものの、気まずい空気が流れている。

「ああ、そうだ。あの女の身柄を預かってくださり、ありがとうございます。近々、引き取らせていただきますね」

「はい、分かりました」

そうして、ケヴィン様が頷いた時だった。にこにことした笑顔を浮かべ、やけに機嫌の良さそうなお父様が「おお、セイディ」と言ってこちらへとやって来るのが見えた。

今日は昼前から古い友人が訪ねて来ていたのは知っていたけれど、既にお酒が入っていて酔っているのか顔が赤い。そして私とジェラルドを見比べると、嬉しそうに微笑んだ。

「セイディ、どうして話してくれなかったんだ」

「えっ?」

「ジェラルド様に求婚していただいたんだろう?」

その瞬間、視界の端でルーファスの表情が変わったのが分かった。どうやらお父様はかなり酔っているらしく、ルーファスとケヴィン様の存在には気がついていないらしい。

「お、お父様! そのお話はまた後でにしてください。私はお客様をお見送りして来ますから!」

お父様もようやく、ルーファス達の存在に気がついたようで。気まずそうな表情を浮かべ、慌てて挨拶をしている。

ルーファスは低い声で「はい」と呟いただけだった。

「とにかく、二人は応接間に行っていてください」

あちらから破棄されたとは言え、元婚約者の前でする話ではない。私はお父様の背中を軽く押し、二人の姿が廊下から見えなくなるのを確認すると、ルーファスに向き直った。

「その、なんだかごめんね」

「……婚約を、申し込まれたのか」

「えっと、うん」

こくりと頷けば、ルーファスは傷付いたような、今にも泣きそうな表情を浮かべた。

「受けるつもりなのか」

「それは、その……」

なんと答えるべきなのか、分からない。彼と結婚をするつもりはないけれど、まだジェラルド本人に断りを入れていないというのに、先にルーファスに言うのも違う気がした。

まだ分からないと曖昧に答えれば、彼は「そうか」とだけ呟き、長い睫毛を伏せる。

そしてそれから、ルーファスは一言も発さないまま、屋敷を後にした。

◇◇◇

「どうしたらいいんだ」

帰りの馬車の中で、俺の向かいに座るルーファスは頭を抱えていた。なんとか酒に関しての誤解は解けたものの、今度は彼女が求婚されたという事実を知ってしまったのだ。

その上、相手は歓迎されているようで、彼女とも親しい間柄であることは間違いない。家柄も容姿も十分すぎる上に、辛い経験を共にした相手なのだ。これ以上ない相手だろう。

「……終わった」

「まだ分かりませんよ」

「いや、セイディは絶対に受けるだろう」

ルーファスは完全に終わったと思っているようだが、先程の様子を見る限り、可能性はまだあると俺は思っていた。

『ルーファスが他の女性にも好きだと言っているのを想像すると、すごく嫌だったんです。だから、ほっとして』

あの言葉は、嫉妬から来るものではないのだろうか。『女の人がいる場所では酒を飲まないで欲しい』と言っていたらしいことにも納得がいく。

「そんなはずはない。俺に、好かれる要素なんてない」

「そうでしょうか」

けれどそれをルーファスに言ってみたところ、あり得ないと一蹴されてしまった。先程は彼も一瞬、期待したらしいものの、冷静になるとあり得ないと判断したらしい。

日頃、誰よりも堂々としている彼がこんなにも弱気で自信を喪失している姿は、本当に珍しい。

とにかく元気を出すよう言い「飲みにでも行こう」と誘ったところ、二度と酒は飲まない、これ以上セイディに嫌われたくないと言い、ルーファスは再び頭を抱えた。