軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真実 2

「これで一生楽しく気楽に過ごせると思っていたのに、突然元の身体に戻ってしまったんだもの。最悪よ」

タバサはそう言うと、深い溜め息をついた。罵ってしまいたくなる気持ちをぐっと押さえつけ、私は唇を噛んだ。まだ彼女に聞くべきことはあるのだから。

けれど私以上に、隣に立つルーファスが動揺しているようだった。やはり神殿と家の関わりが深い彼にとって、大司教の話はショックだったのだろう。

「使いようによっては、国ひとつ奪えるような代物でしょうね。けれど私たちは、そんなことなんて望んでいなかった」

そもそも、そんなことをやってのけるような頭脳なんて私達には無かったんだけど、と彼女は自嘲するように笑った。

「ただ貴族に生まれたってだけで、一生幸せそうに呑気に暮らしている人間達が憎くて妬ましくて、仕方なかった」

「…………っ」

「だから貰うことにしたの、全部」

それだけよ、と言うと再び大きな欠伸をした彼女は、恵まれた環境に生まれてきた私達が、自分達の代わりに不幸になるのも当然だと本気で思っているようだった。

そんな世の理を変えてしまうような物が存在することも、それが彼女達のような人間の手に渡ってしまったことも、あってはならないことだ。

「けれどそんな魔道具の存在を、長年隠しておけるものなのかな……魔法省ですら把握していなかったようだし」

思わずそう呟いた私に対し、ルーファスは「あり得るだろうな」と言い切った。

「王家とも対立するほどの力を持つ神殿なら、隠し通す事だって可能だろう。そもそも、教皇が建国当初からずっと生きているだなんて話、おかしいと思わないか?」

「うん」

「もしもその魔道具で生き長らえていたとしたら、急死の原因にも納得がいく。大方、大司教が欲に目が眩んで、魔道具を教皇の元から盗んだんだろう」

彼はそう言うと、口元を手で覆った。

「こんなこと、許されるはずがない。教皇の長寿の裏には、犠牲になった大勢の人間がいるということになる」

「…………っ」

間違いなく、この話はもう私たちだけの問題ではなくなっている。国や世界を揺るがすようなものだろう。

そんな私達の会話を聞いていたらしいタバサは「私、もう寝ていいかしら」と、呑気に両腕を伸ばしていた。

「どうしたら、元に戻れるの」

「さあ? 私達だって説明を受けたわけじゃないもの。それに戻る必要もなかったから、考えたことすらなかったわ。こうして元に戻っちゃった理由だって分からないくらいだし」

彼女達にも分からないとなると、その魔道具をもう一度使うしか方法はない。

「その道具は今どこに?」

「メイベルが持っていると思うけど、まあ簡単に手放すはずがないでしょうね」

悔しいけれど、タバサの言う通りだ。メイベルという女は間違いなく、一筋縄ではいかない相手だった。

とにかく今日はもう時間も遅いことだし、ここまでにしようとケヴィン様に声を掛けられ、私は頷いた。

……私自身この一日の間に色んなことがありすぎて、疲れ果てていた。無事にノーマンとエリザを助け出すことが出来たのだ、これ以上無理をする必要はないだろう。

二人と共に出口へ向かっていると、不意に背中越しに声を掛けられ振り向けば、タバサがじっとこちらを見ていた。

「ねえ、私も一つだけ聞きたいんだけど」

「なに?」

「どうして、お前達にあの場所が分かったの?」

「……ロイド様に聞いたの」

そう告げれば、タバサは一瞬だけ泣きそうな顔をして。私はそんな彼女に再び背を向けると、地下牢を後にした。

◇◇◇

「ケヴィン様、遅くまで申し訳ありませんでした。タバサのことも、よろしくお願いします」

「お気になさらないでください。とにかくご友人も救い出せたことですし、貴女も無理はしすぎないでくださいね」

「はい、ありがとうございます」

例の魔道具が手元になければ、何処かに訴えたところで信じてもらえる可能性はまだ低いだろう。とにかくエリザの中にいるメイベルという女から、例の魔道具を奪えさえすれば全ての解決が見えてくるに違いない。

……とにかく、今日はもう何も考えずに眠ろう。そう決めて、伯爵家を後にしようとした時だった。

「俺に送らせてくれないか」

「えっ? ティムもいるし大丈夫だよ」

「……話が、したいんだ」

その縋るような声に、私はすぐに首を縦に振った。ルーファスには間違いなく一生分の恩があるのだ。いくらでも彼の望みならば聞くつもりだった。

やがて私は彼が待たせていた馬車に乗り込み、ティムには後ろからついてきてもらうことにした。

向かい合って座り馬車は動き始めてすぐ、ルーファスは私に向かって深く頭を下げた。

「……すまなかった」

「えっ?」

「10年間辛い思いをしていた君に気が付くこともなく、その上、元に戻ったばかりの君にあんなことを……勿論、謝って済むことではないと分かっている」

「ル、ルーファスは悪くないよ! 両親だって気付かなかったくらいだもの、そもそも身体を入れ替える方法が存在することすら知らないのに、気が付けるはずがないし」

私の中にいたタバサが彼に対して、それ相応のことをしてきたのだ。彼もまた被害者なのだ、責められるはずがない。

とにかく顔を上げるよう言い、私は悲痛な表情を浮かべるルーファスの手を取った。

「それに、ルーファスのお蔭で大切な友人二人を助けられたんだもの。本当にありがとう」

「……ああ」

「そういえば、友人を救った後にまた聞いてくれって話は一体なんだったの?」

二人を助けにいく前に、何かを言いかけていたのだ。私に出来ることなら、何でもしたい。

けれどルーファスは何か言いたげな様子だったものの、何でもないと言って教えてはくれなかった。

「ケヴィンの元を尋ねる時にはまた、声をかけて欲しい」

「ありがとう。ルーファスは本当に優しいね」

「……俺は、優しいわけじゃない」

そう言って、ルーファスは何故か困ったように笑った。

やがて屋敷に到着した後、ノーマンとエリザの様子に変わりがないことを確認し、大急ぎで寝る支度をしてベッドに倒れ込み、一瞬で眠りについた。

そして泥のように眠り続けていた私は翌朝、ジェラルドの来訪を知らされるのと同時に、目を覚ますことになる。