軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再会

「……っエリザ、」

あの日のままのエリザがいるということは、彼女もやはり元の身体に戻れていなかったことになる。今もこうして以前と変わらずに働かされていることが、何よりの証拠で。

すぐに駆け寄って抱きつこうとしたけれど、首を傾げている彼女を見て、冷静になった。

この姿で会うのは初めてなのだ。いきなりこんな場所に貴族令嬢が現れるなんて、戸惑うに違いない。私はまずは落ち着こうと小さく深呼吸をすると、口を開いた。

「私だよ、エリザ。セイディだよ。元の身体に戻ったの。迎えに来たから、一緒に帰ろう」

そう告げれば、彼女の瞳が大きく見開かれた。信じられないといった表情を浮かべ、口元を両手で覆っている。

「本当に、あの、セイディなの……?」

「うん。エリザがたまにこっそり作ってくれる、固すぎるクッキーもどきが一番好きだった、セイディだよ」

「……あと、木の実をすり潰した酸っぱいジュースね」

どちらも、お世辞にも美味しいとは言えない。むしろ美味しくないけれど、私はそれらも、それらを「内緒よ」とこっそり作ってくれるエリザも、大好きだった。

今にも泣き出しそうな顔をしている彼女と、顔を見合わせて笑う。きっと今の私も、同じような顔をしているに違いない。ああ、本当に、本物のエリザだ。

「会いたかった……!」

私は今度こそそんな彼女に駆け寄ると、きつくきつく、その細い身体を抱きしめたのだった。

◇◇◇

「ノーマンも元気よ、いつもセイディの心配をしていたわ」

あの後すぐに小屋を出て、私達は三人でケヴィン様との待ち合わせ場所へと向かっていた。一番の問題だった首輪も、ルーファスの魔法で外すことができ、安堵した。

それからは彼女のペースに合わせて早足で歩きながら、話を聞いていたけれど。どうやらあの日の夜、ジェラルドもニールも、そして私も突然様子が変わったらしい。

「どうして元の身体に、って叫んで暴れる彼らを見て、すぐにみんなが元に戻ったんだって、気が付いたの」

三人だけでも元に戻れて良かったと言う彼女に、再び涙腺が緩んだ。エリザも、あまりにも優しすぎる。

「絶対に、エリザも元の身体に戻れるようにするから」

「ありがとう、セイディ。元の暮らしに戻れたというのに、こうして危険を犯して助けに来てくれるなんて……」

ルーファスのお蔭だよ、と彼について話せば、エリザは彼へと視線を向けて。こっそりと私の耳元に口を寄せた。

「もしかして、セイディの恋人?」

「えっ」

「とてもお似合いだもの」

そんな言葉を受け、ちらりと彼へと視線を向けてみたけれど、相変わらずその顔色はひどく悪い。

ここで暮らしていた話をして以来、彼はずっとこの調子だった。きっと、罪悪感を感じ続けているのだろう。自国に戻った後、改めて気にしないで欲しいと伝えなければ。

先程と同じ道を通り、無事に約束の地点まで戻ると、そこにはケヴィン様ともう一人、背の高い男性の姿があって。

「……セイディ、なのか?」

「っノーマン……!」

彼に名前を呼ばれた途端、私は思わず駆け寄り、その大きな身体に抱きついていた。

「本当に、よかった……」

「話は彼から聞いたよ。セイディが無事でよかった。ジェラルドやニールも無事なんだろう?」

「うん、うん。皆も二人のことを心配してたよ」

本当に、本当に良かった。ニールの話を聞いてからというもの、ずっと不安で仕方なかったのだ。

私はそっとその身体から離れると、まずはルーファスに首輪を外してもらい、急いで脱出しようということになった。

「これから駐屯地へと戻るつもりですが、馬は二頭しかいないんです。5人での移動は流石に厳しいかと」

「あの、馬ならここに一頭だけいます」

「それは良かった。急いで拝借してきましょう」

そしてすぐに荷運び用の馬の元へ、ケヴィン様とノーマンが向かい、私達三人はこの場に残ることになった。

それにしても、警備があまりにも手薄だった。私達がこの場所を突き止めるとは、思っていなかったのだろう。間違いなく、ロイド様のお蔭だ。彼がいなければ、いつまでもこの場所に辿り着けなかったに違いない。

エリザに聞きたいことや話したいことも、沢山あったけれど。まずは一番気になっていたことを、尋ねることにした。

「そうだ、エリザ。エリザの名前って、なんて言うの?」

「私の名前? エリザ・ヘインズよ」

「…………え、」

何気なく返ってきた言葉に、心臓が大きく跳ねた。隣にいたルーファスもまた、切れ長の瞳を見開いている。

「っやっぱり、あのエリザが……」

怒りと共に、言いようのない恐怖が込み上げてくる。あんなにもエリザ本人になりきっていた彼女が、恐ろしくて仕方ない。震え出す指先を、ぎゅっと握り締めた時だった。

「それよりも、気を付けて。ここにはまだセイディの、」

エリザがそう言いかけたのと同時に、ザリッと砂を踏む音がしたのだ。突然の人の気配に、私達は慌てて振り返る。

けれどそこにいたのは、ケヴィン様でもノーマンでも、見張りの男達でもなくて。

心臓が、時間が、止まったような錯覚を覚えた。どうして彼女がまだ、此処にいるのだろうか。

「……セイディ・アークライト……?」

10年間慣れ親しんだ身体が、じっと私を見つめていた。