軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一条の光明

「セイディ、あーん」

「あ、あーん……?」

躊躇いがちに口を小さく開ければ、アイスクリームが乗ったスプーンが滑り込んできて。口内には爽やかな甘さが広がり、思わず「美味しい」と呟いてしまった。

そんな私を見たニールは満足気に微笑み、すぐにまたスプーンで手元のアイスクリームを掬っている。

「かわいい。でもまた痩せたでしょ、ちゃんと食べないと」

「そんなものじゃ、何の栄養にならないと思うけど」

「まあ、そうだけどさあ。はい、あーん」

冷静なジェラルドの言葉を軽く流し、ニールは再びスプーンを差し出してきた。

……今日はニールが滞在しているホテルのカフェにて、ジェラルドと三人で集まっている。たまには気分転換をした方がいいと、ジェラルドが連れ出してくれたのだ。

「結局、全員何の成果もなしか」

「でも実際キツイよね。誰よりも世の中を知らない俺達だけで何とかしようとするの、まず無理があるし」

あの場所が何処なのか、あの男が怯えている相手が誰なのか、何一つ分からないままだった。

兎にも角にも、情報が足りなすぎる。そもそも、何について調べていいのかすら、分からないのだから。

こうしている間にも、ノーマンは辛い思いをしていると思うと、焦りだけが大きくなっていく。そのせいで、最近では食欲もなくなってしまっていて。そんな私に、ニールが先程からスイーツを色々と食べさせようとしてくれていたのだ。

「予定の日まで、あと4日か。もう、あいつを解放する方向で対策を考えた方が賢明かもしれないね」

「……うん」

「大丈夫だよ、セイディは僕が絶対に守るから」

先日あの男に殺されかけたことを思い出し、少し恐ろしくなっていると、すぐにジェラルドが私の手を握ってくれた。

お礼を言えば、彼は今日も「当たり前だよ」と微笑んだ。

「あーあ、さくっと全部解決して可愛いお嫁さんもらって、皆とたまに集まったりして、幸せに暮らしたいよ俺は」

ニールは溜め息混じりにそう言うと、身体を思い切り椅子の背もたれに預けた。彼がそんなことを思っていたなんて、なんだか意外で驚いてしまう。

「ニール、結婚したいの?」

「それはもう。子供だって欲しいし」

「そ、そうなんだ……!」

「セイディは? 結婚したくないの?」

「いまいち、よく分からなくて」

そんなことを考える余裕なんて、今の私にはなかった。それでも、いつまでも未婚のまま家のお荷物でいる訳にはいかないことも分かっている。

とは言え、こんな悪評まみれの私を貰ってくれるような人なんていないだろう。そう、思っていたのに。

「それなら、僕と結婚しようよ」

「えっ?」

「こう見えて、優良物件だと思うけどな」

突然、ジェラルドがそんなことを言い出したのだ。向かいではニールが「攻めるねえ」なんて呟いている。

「どうかな? オススメだよ」

冗談のような口ぶりだったけれど、彼の気持ちを知っている今、どう反応していいか分からなくて。

私は「ありがとう」と小さな声で言うのが精一杯だった。

◇◇◇

あの後、ノーマンの身体を奪った男に関しては複数の信頼出来る見張りをつけ、制約魔法を掛けた上で予定日の前日に解放する、という方向で決まったけれど。

諦めきれなかった私は、翌日お父様にお願いをして伝手を頼って貰い、許可制である王城内の第一図書館へと足を踏み入れていた。王城内には第三図書館まであり、数が大きくなるほど貴重な文献が多くなるのだとか。第一でも、王立図書館にはないようなものがあるらしい。

そうして何冊か気になる本を手に取り、近くにあったテーブル席に腰掛けた時だった。

「セイディ様?」

「あ、こんにちは」

名前を呼ばれ、振り返った先にいたのはロイド様だった。彼は丁度仕事が終わり、自室に戻るところだったらしい。

貴女がここにいるのは珍しいですねと、微笑むと、彼は開いたままだった私のノートに視線を落とした。

「……これは?」

「ええと、落書きみたいなもので」

忘れないようにするために、記憶にある動植物の絵をささっと書いたものだった。なんだか恥ずかしくなり、慌てて隠そうとしたのだけれど。

ふと彼は、農作業をして育ったと話していたことを思い出したのだ。少し、話を聞いてみてもいいかもしれない。

「とてもお上手ですよ。それに、とても懐かしい物が多いです。少し見てみても?」

「は、はい。ぜひ」

「ありがとうございます」

そう思った私は恥ずかしいという気持ちを押さえ付け、ノートをロイド様に差し出した。

そうしてぱらぱらとページを捲っていくうちに、彼の表情は驚きのものへと変わっていく。

「どうして貴女が、田舎の畑にしかいないような生き物をこんなにもご存知なんですか?」

「その、色々ありまして……」

やがて彼はぴたりと、ノートを捲る手を止めた。

「……隣国に、行ったことは?」

「えっ? ありませんが……」

「では、どうしてこの虫をご存知で?」

彼の指は私の大嫌いな、虹色芋虫の絵を指していた。

「ロイド様も、ご存知なんですか……?」

「ええ。染料に使われるので、意外と高く売れるんですよ。子供の頃はよく捕まえて、本代にしていました」

そんな言葉に、心臓が早鐘を打ち始める。

「三年に一度、それも一週間だけしか現れない上に、僕の地元である村の近くにしかいないはずです。ですからセイディ様が知っているのが不思議で、」

「っ詳しく、教えてください!」

どうして、その可能性を考えていなかったんだろう。あの場所は国内だと、勝手に思い込んでいたのだ。

気が付けばロイド様の両腕をきつく、握りしめていた。