軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

繋がり

「教皇様が、亡くなった……?」

「先程、知らせが来てね。国中大騒ぎらしい」

エリザの誕生日パーティーの翌朝、身支度を整えて食堂へとやってきた私は、両親から教皇様の訃報を知らされた。

大した知識のない私でも、それがどれだけ大変なことなのか、どれだけの影響を及ぼすことなのか、ある程度は想像がつく。両親もまた、かなり戸惑っている様子だった。

「だって、教皇様って建国当初からいるって……」

「ああ。だからこそ、国の勢力図が一気に変わるだろうな」

「アークライト家は大丈夫なんですか……?」

「中立派閥だからね、特に影響はないだろう。そもそも、既に我が家の評判は落ちきっているんだ。今更さ」

そう言って、お父様は苦笑いを浮かべた。なにもかも、 私(・) のせいだ。とにかく、この訃報によって我が家に悪い影響がないのなら良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。

「だが、ラングリッジ侯爵家なんかは大変だよ」

「えっ?」

「侯爵家は代々、教会派閥なんだ。教皇を失った教会など、何の力も持たないからね。後ろ盾が無くなったことで、今後侯爵家の立場はかなり悪くなるだろうな」

「そんな……」

ルーファスは大丈夫なのだろうかと、心配になる。

先程までは空腹感を感じていたのに、目の前に並ぶ美味しそうな朝食を見ても、さっぱり手を付ける気にはなれない。

「それに、教皇の体調について何か耳にしたからこそ、あのタイミングで婚約破棄をしたのかもしれないね」

教会派閥の筆頭であるラングリッジ侯爵家が、教皇の体調について何も知らないはずがない。

だからこそ、教皇様に何かあった場合立場が悪くなることを危惧し、少しでも不安要素を取り除くため私との婚約をあんな形で破棄したのだろうと、お父様は言った。

そんな大変な中で、陰ながら私を気遣ってくれていたルーファスのことを思うと、余計に胸が締め付けられた。何も知らず、たまに話をしたいなんて馬鹿なことを言ってしまった昨日の自分が恥ずかしくなる。

何か助けになりたいけれど、今の私が彼のために出来ることなんて、何もないだろう。むしろ私が関われば、余計に状況を悪化させてしまうに違いない。

やるせなさを感じながら食べた朝食は、大好きなメニューにも関わらず、ひどく味気なく感じられたのだった。

◇◇◇

それから数日後、ジェラルドが突然我が家を訪ねてきた。すぐに自室へと通し、向かい合って座る。

「急にどうしたの? 何かあった……?」

「突然ごめんね。実はノーマンの身体を乗っ取っていた男から、新たな情報を聞いたんだ」

彼の表情を見る限り、とても吉報だとは思えない。心の準備をしながら、彼の次の言葉を待つ。

「実は連れ帰った当初から早くここから出してくれ、殺される、と騒いでいてね。けれどそれ以上は何も言わないから、逃げたいが為の虚言かと思っていたんだけど」

「殺される……?」

「うん。だけど昨日いよいよ、本当にまずい状況だと悟ったのか、自分から色々と話してくれたんだ。俺達があんな場所で生かされていた理由なんかも、ようやく分かったよ」

ジェラルドは小さく溜息をつくと、続けた。

「入れ替わっている片方が死ぬと、もう一方も死ぬらしい」

「えっ」

思わず、口からは戸惑いの声が漏れた。けれど身体を奪った後、用無しであるはずの私達が殺されずにあの場所に閉じ込められていたことにも、納得がいく。

人の目に触れさせず監視するという面では、あの場所は最適だったのだろう。私達にあんな労働をさせていたのは、ついでに自分達の食い扶持を稼がせようとしたのだろうか。

それと同時に、気付いてしまった。あの男が殺されるかもしれないということは、つまり。

「ノーマンが、危ないってこと……?」

「男の話が本当ならね。半年に一度、必ず顔を合わせる日があって、それが来週らしい。その日に顔を出さないと裏切り行為だと思われる、処分されると言っていたんだ」

「そんな……」

「制約魔法をかけていると言えど、余計なことを漏らされては困るだろうしね。あの場所にいるノーマンの方を殺せばいいだけなら、男の居場所が分からなくても簡単に殺せる」

そんな恐ろしい話に、心臓が嫌な音を立てていく。

それにしても、たった一度顔を出さないだけで殺されてしまうなんて、彼らの間には信頼も情も何もないらしい。仲間というよりも、かなりの上下関係があるようだった。

あの男は『あいつは俺達を駒だとしか思っていないんだ』『本当に殺される』と泣き叫んでいたという。ノーマンの身体を奪い、私を殺そうとしたのだ。自業自得だと思えるけれど、ノーマンの命がかかっているとなれば話は別だ。

「とはいえ、それなら仕方ないと言って君を殺そうとしたあの男を解放する訳にもいかない。とにかく、今はあの場所を探し出して、ノーマンを助け出すことに専念しよう。最悪、間に合いそうにない場合は何か対策をして解放も考えるよ」

「うん、分かった」

「お願いだから、セイディは無理をしないで。また先日みたいに何かあっては困るから。俺がなんとかする」

「……うん」

「ありがとう。いい子だね」

ジェラルドは手を伸ばし、私の頭をそっと撫でてくれた。ちなみに彼の家は昔から王派閥で、教皇様の死によって立場が悪くなることはないらしい。少しだけ、安心した。

そして状況が状況なだけに、ゆっくりしている時間は無いからと、彼はすぐに帰って行った。ジェラルドばかりに負担を強いてしまい、申し訳なくなってしまう。

「ノーマンが、無事でいますように……」

私の記憶が間違っていたのか、草木や動植物を組み合わせて場所を特定しようとしても、なぜか全てが揃うような場所は見つからなかったのだ。

そして今できることを必死に考えた結果、私はふと、ある人物のことを思い出していた。 私(・) が好きだったという、ロイド様は何か知らないだろうか。今はどんな些細なことでもいいから、情報が欲しい。

そう思った私は少し話をしたいという内容の手紙を認め、彼に送ることにしたのだった。