軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ついに犯人とご対面ですわ!!

「どういうことですの?」

キッティは、顔馴染みの最高級宿の一室で、むむむ、と頬を膨らませた。

ペルシの予想通りに学者の街に来たのだけれど、全く手応えがなかったのである。

そもそも、高価本の取り扱いが出来る店は多くない。

本の価値が正確に分かる店主が、それを買い上げるだけの潤沢な資金を持っているか、買い上げ資金を提供するパトロンが存在している場合にのみ、高く売れるものなのだ。

二束三文で売り払ったところで、一生を遊んで暮らせるだけのお金にはならないし、その程度のことが分からないティル様ではない筈である。

なのに、ペルシや案内人の情報を元に足を運んでも、誰もそれを知らない。

「どこかの店主がグルで、買い上げたことを隠している可能性があるかしら?」

「ないことはないと思いますが、可能性は低いかと」

「何でですの?」

「まともに高価本を買う人物は、本の出所を気にされます。どこの誰の蔵書であったか、どういう経路で入手したか。そうした話は多く聞くでしょう」

「ああ、確かにそうね」

『誰々伯爵の秘蔵本は、散逸を防ぐ為に誰々子爵とどこそこの学者で形見分けをした』とか『あの高価本の持ち主は今このような経緯であの方のところにある』など、本の来歴の話はよく聞く。

「もし大量の高価本がいきなり店頭に現れたら、必ず不審に思う方が現れます。その時に盗まれたものをごっそり買い上げた、となれば、言い訳がききません。必ずどこかで苦しくなり、ボロが出るかと」

「ええ」

「信用を失えば後々の商売に差し障りも出ますし、パトロンにバレたら手を引かれることもあるでしょう。だからといって、寝かせていれば資産ではありますが、それはそれで資金繰りに困る可能性が高いです。何せ、お嬢様のお持ちであった高価本ですから」

確かに、そんな危険を冒してまで大量に買うことは、ほぼあり得ない。

「なら、何でここに来ましたの?」

高価本が売れないと思っていたのなら、探す場所として学者の街が適切ではないことくらい、提案した時点でわかっていそうだけれど。

しかしキッティが不審に思ってペルシを見ても、彼女はごく普段通り、淡々と答える。

「全て売れば、足がつきます。ですが、一冊ずつ売ればそうそう足はつきません。多少目立ちはしますが、一冊だけなら譲り受けることもございますし、比較的安価なものであれば、そこまで不審には思われないでしょう」

「そうね」

「であれば、当面の生活費を作るために一冊を売り、場所を借りて高価本の保管を考える……そして、少しずつ売り払うのに適した場所と言えば」

「学者の街か王都、なのね!」

「はい。ですから、私は店主に必ず『若い男が、最近本を売りに来なかったか』といった旨の問いかけを致しました」

「誰も来てない、って言ってたわね。売りにきた人は大体身元が分かってる人だったり、ご高齢の学者だったり……」

店主への問いかけはペルシに任せて、キッティは彼らの語り口や態度にどこか不審な様子がないかを見ていたのである。

結果、受け答えに不自然な点はなかったのだ。

「なので、結論を述べますと」

「ええ」

「これはあくまで確認の範囲になります。本命は、ティル様が逃げた訳ではないと、いう可能性と、持参金を使って既に家などを借りている、という可能性です。後者は屋敷を建てるだけのお金ですから、十分にそれで生活出来ますし」

「最初にそれをお言いなさいな!!」

キッティは思わずペルシを睨みつけるが、彼女は全く動じなかった。

「ご安心を。御当主様は、最初から捜索の手を学者の街と王都、そして周辺探索に広げるつもりでご指示なさっておられました。既に地主や住居斡旋人などには既に話を聞いて回り、最近住宅を借り受けた者達の調査は終わっております。街に先に着いていた侍従らに先ほど報告を受けました」

「その話も初めて聞きましたけれど!?」

「お嬢様が御当主様とのお話し合いの後、着替えに飛び出して行かれたので、私が代わりに話を伺っておきました。もう少し落ち着いてお言葉を聞くべきだったかと」

そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。

確かに、キッティがお父様に呼び止められたのに飛び出して行ったのは事実である。

「ちなみに結果ですが、梨の礫です」

「……何も足取りが掴めなかった、ってことね?」

「はい」

キッティはペルシの返答に口元を歪め、肩を震わせる。

「お嬢様?」

「ティル様……流石ですわね!!!!」

ペルシが首を傾げて呼びかけてくるのに構わず、両拳を握り締めて叫ぶ。

「わたくしどころか伯爵家が動いても、一切の足取りを掴ませずに行方をくらますなど、やはり聡明な方ですわ!!! 超一流の詐欺師は足跡すら残さないものなのですわね!!!」

「ああ、そっちですか」

本当に全く何も掴ませないなんて、一体どんな行方のくらませ方なのか、今後についてどう考えているのか……とキッティはティル様の張り巡らせた策謀の内容を考えながら、うっとりと空中に右手を伸ばす。

「ああ、もしかしたらティル様は、変装の達人なのかもしれませんわね! そう、あの完璧な所作すら舞台役者の如き演技だったのかもしれませんわ……あるいは、わたくし達がこちらを探すと見越して、商隊にでも金を握らせて一緒に王都に入ったとかもあり得ますわね……!」

「多分、あり得ないと思いますが。どう考えても、その手の陰謀論よりも、最悪の事態を想定すべきかと」

「ティル様に限ってそんなことはございませんわ!!!」

特に根拠もなくキッティがそう断言すると、ペルシがさらに突っ込んで来る。

「ティル様を詐欺師扱いするのか信頼するのか、どちらかになさる方が宜しいのでは?」

「詐欺師として信頼しておりますわ!!」

彼女にそう即答して、地図を広げたテーブルの上に手をつく。

「ああ、ティル様……ふふ、絶対見つけ出してみせますわ……地獄の底まで逃げたとしても追い詰めて、真相を語っていただきますわよ……!」

「……」

珍しくペルシがため息を吐いて、そのまま話を戻す。

「これからの行動ですが、とりあえず我々も飛竜で探索に参加しましょう。少々気になる情報も得ましたし」

「気になる情報?」

「はい。どうやら侍従らが詳しく聞いたところ、この辺りで『宿泊地の予約をしているのに客が来ない』状況が、ティル様以外にも幾つかあるようです。数は多くありませんが」

キッティは、その言葉に目を見開いた。

ーーー謎ですわ。

まさかティル様以外にもそんな人たちがいるなんて。

ならつまり。

「この辺りに、行方くらましを斡旋している誰かがいる、ってことですのね!? 金を貰えばどんな依頼も請け負う、闇のプロフェッショナルの存在を感じますわ!!」

「違います。宿で部屋を予約する程度には裕福な者らが、近隣で何度か行方知れずになっている、という話です」

「燃えてきましたわ!! 闇の組織の香りがして参りましたわね!」

「合っていますが、間違っていますね」

「次はその失踪請負人の探索に参加するのですわね!!」

キッティの言葉に、ペルシが少しだけ考えた後に、こう口にした。

「そうですね。失踪請負人のアジトを探します」

「では行きますわよーーーーー!!!

とりあえず最後にティル様が目撃された宿泊地まで戻り、男爵領までの道のりを再度辿る、その道すがら。

飛竜に乗ったまま、風を操る魔術に声を乗せて、ペルシが話し掛けてきた。

「お嬢様」

「何ですの?」

キッティが彼女に顔を向けると、眼下の山、下腹辺りを指差している。

道ではないので当然木々が生い茂っていて、少し離れたところに、男爵家に続く緩やかな方の山道が見えているくらいの場所だ。

「あそこに、偽装された家屋がございます」

「え?」

ヒュン、と軽く愛騎を旋回させて、その辺りに目を凝らすと、確かに何か家屋のようなものがあるようだ。

同時に、少し離れてひらけた場所に、馬車が数台、止まっている。

「……あれって?」

「はい。うち二台には見覚えがございますね。私の目には、幌に男爵家の家紋が入っているものと、アイズ伯爵家が仕立てた荷馬車のように見受けられますが」

ペルシは大変目が良いので、キッティには見えない細かいところなどがよく見えるのだ。

それに多分、地形的に街道からは隠されていて、上空からしか見えない場所にある。

「なるほど、ティル様は街に住むのではなく、こっそり隠れ住むことを画策しておられましたのね!!」

「そういうことになりますね」

「ペルシ、お手柄よ!! 褒美は何が良くて?」

「そうですね……お嬢様にしばらく家の中で大人しくしていていただく、というのはどうでしょう。今後、様々な準備もございますし」

「あら、主人の行動を縛ろうなんて欲張りね。でも、いいでしょう!」

ついに、犯人とご対面の場面である。

キッティは、まずは空中を旋回しつつ、じっくりと周りの状況を見た。

おそらくは、ティル様が姿をくらませた街道から、本当に馬車が通れる程度の細い獣道があの辺りに続いているのだろう。

つまり、逃げ場はほぼない。

「行きましょう、ペルシ♪ ティル様を追い詰めるクライマックスでしてよッ!!!」

「そう言うと思いました」

意気揚々と飛竜で隠れ家らしき場所に降下したキッティだったが……結論から言うと、その場所は空振りだった。