軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 マリウス

セリーナがこれを読んでいるということは、君はもう一度人生をやり直せているということだろう。

素晴らしい。僕は世界を改変することに成功した。今こそ僕は七曜にふさわしい魔法使いだと、胸を張って言える。

ただ、セリーナ。君は僕のことを覚えていないはずだ。

無理も無い。魔法には常に対価が必要だ。世界を改変するための代償には、魔力だけではとても足りないんだ。

この魔法を行使するには、自分の存在自体を代償とする必要がある。つまり、僕自身の存在を世界に差し出さなければならなかったわけだ。

言っていることはわかるかな? 僕の知っているセリーナのままだったら、このへんで本を投げ出しそうで怖いんだけど、二度目の人生で人間的に成長していることを期待している。

要するに今君のいる世界では、僕は存在しないものとなっているんだ。

自己紹介からしようか。僕はマリウス・レイヴンウッド。そうだな、君の唯一の友達だ。

僕たちの出会いは3才ぐらいまでに遡る。

同じ年頃の貴族の子どもたちがローゼンバーグ公爵家に集められて、君と交流するという迷惑極まりない会合があった。何せ君はわがままいっぱいの手のつけようのないモンスターだったからね。セリーナの言う事をすべて聞き入れる公爵閣下と、セリーナに関わろうとしない公爵夫人が生み出した『実体を持った迷惑』と言っても良い。

だから、その会合は回を重ねるごとに参加人数が減っていって、最後はとうとう僕だけになった。

これは偉業だよ。公爵家の権力を持ってしても不可能があることを証明したのだから。

何で僕だけが続けられたかと言えば、行くたびに公爵家の本を一冊読ませてもらえたからだ。要は僕の知識欲を人質に取られていたというわけだね。僕の家もたくさんの本があったけど、公爵家はそれ以上に本を揃えていた。

おかげで会合では君に殴られたり、蹴られたり、馬にされたり、犬にされたりしていたよ。

しかも、君に命令されたときは、跪いて言う事を聞かなければならなかった。「何様のつもりだ?」って感じだったね。

あと、行くたびにセリーナ付きの召使いさんたちが変わっていた。君のお守りは大変だったんだろうね。同情したものだよ。

だけど、遊び相手が僕ひとりになって、君も思うところがあったんだと思う。

君のわがままにひとしきり付き合った後は、一緒に本を読むようになったんだ。最初は迷惑だと思ったよ。せっかくのご褒美の時間にまで、君は僕に付いてくるようになったんだから。

でも不思議と、その時間だけは大人しくしてくれたんだ。

僕が読む本を見て、

「ふん、つまらなそうな本ね」

ってケチをつけて、自分は別の本を読んでいたんだ。

そして僕が帰ってから、僕が読んでいた本を手に取って読み始めていたって、仲良くなった使用人さんから聞いたよ。

僕が読んでいたのは魔法関係の結構難しい本だったから、そこでも癇癪を起こしていたらしいけどね。

でも、セリーナは負けず嫌いだったから、家庭教師に聞いたり、勉強したりして、頑張って読んだんだって。

それで次に会ったときに僕に言ったんだ。

「あなたの読んでいた本、簡単だったわ」

おかしかったよ。だって、大人でも読めないような本もあったんだ。勉強嫌いな君が読めるようなものじゃなかったんだもの。

だから、僕は君の家庭教師からとても感謝されていたんだ。

「あなたのおかげでお嬢様が勉強するようになりました!」ってね。

君が魔法がある程度できるようになったのも、学院でそこそこ良い点を取れていたのも、僕のおかげなんだよ?

セリーナはまったく感謝してくれなかったけどね。というか、君が「ありがとう」って言っている姿なんか見たことが無いよ。

僕たちの付き合いはずっと続いた。君の素行は少しずつ良くなっていった。1ミリ成長するのに百年かかる水晶のように。

でも、君は世間一般的に見ると、やっぱりわがままで威張りん坊で、他の貴族の子たちからあんまりよく思われていなかったんだ。

そして、僕もそれで良いと思っていた。

セリーナには僕だけがいればいいんだ、って思ってしまったんだ。

散々、君のことを悪く言ったかもしれないけど、僕だって大した人間じゃなかったんだよ。

本当は僕は君と会うのは、そんなに嫌じゃなかったんだ。

セリーナは綺麗だったからね。初めて会ったとき驚いたよ。

黒い宝石みたいな瞳。奇跡的な調和をした顔。柔らかな絹のような白い肌。

長い黒髪は繊細で美しくて工芸品みたいで、思わず落ちていた髪を持ち帰ったこともあった。

「こんな美しい女の子が存在するんだ!」って僕は感動したんだよ。まるでおとぎ話から抜け出したお姫様みたいだったから。

まあ、それをもってしても、他の人たちが逃げ出すほど性格は悪かったけど……

僕はね、君を独占したかったんだ。君の友達は僕ひとりでいいって思っていたんだ。

でも本当は、友達ならもっと君に言うべきことを言わなければならなかった。

僕は13才でローズウッド学院に入った。

ここの魔術クラスは魔法使いなら誰しも目指すところだけど、通常は16才で入るところを3年早く入ることができたんだ。

こう言うと凄いと思うかもしれない。実際、僕はある程度優秀ではあった。

あったんだけど、そこまでではなかったんだよ。

13才の僕の誕生日に君は僕に言ったんだ。

「誕生日おめでとう、マリウス。わたしが最高のプレゼントを用意したわ。あなたは来年からローズウッド学院の魔術クラスに入れるのよ! わたしがお父様にお願いしたの。どう? 凄いでしょう?」

……凄すぎて気を失いかけたよ。ローゼンバーグ公爵家の権力はそこまで無理が効くんだ、と思ってね。

もちろん断る事なんてできない。公爵の面子を潰すことになるからね。

せっかくの僕の誕生日だったのに、その晩、我が家は親戚が10人くらい死んだような重苦しい雰囲気に包まれたよ。

そして、眉間に深い皺を作った父さんが僕に言ったんだ。

「死ぬ気でやるしかないぞ」

今だから言うけど、本当に迷惑だったよ!

僕はその日から本当に死ぬ気で勉強したんだ。何せ同級生は全員3才年上だ。僕が授業についていけなかったら、公爵に迷惑がかかる、レイヴンウッド家の沽券に関わるんだ。

そして何よりも君がまた言われてしまうんだ。

「ああ、またローゼンバーグの娘が迷惑をまき散らしてる」って。

それだけは避けたかった。僕のせいで君が悪く言われるのは嫌だった。

だから、必死になって頑張ったんだよ。

実技でも座学でも1番になれるように努力した。1年次の終了時に僕が首席になったことを知った君は無邪気に笑ったんだ。

「さすが、わたしのマリウスね」

憎かったよ。人の気も知らないで、幸せそうに笑っているんだから。

でも僕は、それでも君に笑っていて欲しかったんだ。

僕はそのまま卒業するまで魔術クラスの首席を守り続けた。

卒業したときはホッとしたよ。肩の荷が下りたと思った。

僕の卒業と入れ替わりに、セリーナはローズウッド学院へ入学した。

入学の少し前に

「わたし、エドワード様と婚約したのよ!」

って誇らしげに言われたときは、少し胸に痛みを感じたよ。ちょっとだけね。

公爵家の立場を考えたら、当然の成り行きだと思っていたから。

僕はその後、魔法の研究者として働くことになった。

昔から興味があった『時の魔法』の研究に励んだんだ。

研究は上手くいったよ。何せ君の相手をする必要が無くなったんだからね。

少し寂しくて、それを紛らわすように研究に打ち込んだんだ。

で、完成したのがこの本だよ。

時間軸を固定することで、どんな外部の干渉にも影響を受けることの無いアーティファクト。

元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶への足掛かりとなりうる書だ。

もちろん、ほんの僅かな一歩に過ぎないのだけどね。

この偉業を君に見せた時の反応は微妙なものだった。

「何それ? 全然凄くないじゃない。何の意味もないわ」

君は僕にそう言ったんだ。まあ仕方がない。これの凄さを理解するには、ある程度の魔法に関する知識体系が必要だったからね。

だけど、その数日後、君はまたとんでもないことを言い出したんだ。

「マリウスを七曜に推薦しておいたわ」