軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 母の宣告

掲示板の前で膝を突いたあの日から、僕は取り憑かれたようにビビアンの影を追い始めた。

学園の事務局へ行き、留学の詳細を聞き出そうとしたが、「本人および保証人以外の開示は認められない」と冷たくあしらわれた。ドルーマン家へは毎日手紙を出したが、すべて封を切られずに差し戻される。

そんな中、カレンダーの一日が目に留まった。

来週は、ビビアンの誕生日だ。

(そうだ、誕生日だ。この日なら、きっと会える。お祝いを口実にすれば、伯爵も僕を追い返したりはしないはずだ……)

僕はそれを最後の蜘蛛の糸のように掴み、実家のサロンでくつろいでいた母の元へ駆け込んだ。

「母上! 来週のビビアンの誕生日のことなのですが、何を贈れば喜ぶと思いますか? 今年は特別なものを贈りたいんです。彼女が欲しがっていたあの限定の魔導書か、それとも……」

捲し立てる僕の言葉を、母は優雅にティーカップを置く音で遮った。

ゆっくりと顔を上げた母の瞳には、かつて僕に向けられていた慈しみは微塵もなかった。そこにあるのは、見知らぬ他人を蔑むような、底冷えのする冷淡な光だった。

「……ユリウス。あなた、まだそんなことを言っているの?」

「え……? 何のことですか。僕はただ、彼女を喜ばせたいと……」

「喜ばせる? 一年間、あの子を放り出して別の女性に現を抜かしていたあなたが、今更どの口でそんなことを言っているの?」

母の鋭い言葉が、ナイフのように僕の胸を抉る。

「それは……シシリー男爵令嬢を助けるのは、紳士として当然のことで、ビビだって……」

「『ビビちゃんなら分かってくれる』。その慢心が、あの子の心を殺したのよ」

母上は立ち上がり、窓の外を見つめた。その背中は、僕を拒絶しているようだった。

「いい? よく聞きなさい。ビビちゃんはもう、この国にはいないわよ」

一瞬、思考が停止した。

心臓が不規則に跳ね、耳の奥でキーンという高い音が響く。

「……何を、言っているんですか。留学は、二学期からのはずでしょう? 掲示板にだって……」

「あの子が、あなたに自分の行方を知らせるような隙を見せると思う? 彼女は春休みの間に、すでに特例の短期集中講義を受けるためにローゼンタールへ発ったわ。誕生日は、あちらで新しい友人と静かにお祝いするそうよ」

「嘘だ……。だって、僕は最後のお茶会で、ビビと……」

「あの子はね、あなたとの『最後』を自分の中で終わらせるために、あの日あなたに会ったのよ。あなたが自分の自慢話に花を咲かせている間、あの子は微笑みながら、あなたのいない未来を描いていたの。……あなたは最後まで、あの子の慈悲にすら気づかなかったのね」

母が振り返る。その頬を、一筋の涙が伝っていた。それは僕への悲しみではなく、親友の娘であるビビアンを、自分の息子が追い詰めてしまったことへの悔恨の涙だった。

「あの子のご両親も、リッチモンド家との婚約の話はすべて白紙にしたいと仰っているわ。……当然よね。自分の娘を『便利で壊れない道具』のように扱う男に、大切な娘を預ける親がどこにいるの?」

「僕は……僕はそんなつもりじゃ……!」

「つもりはなくても、結果は同じ。……ユリウス、あなたは『身勝手な使命感』を選んだ。なら、その結果を最後まで背負いなさい。あの子の隣という、世界で一番温かな場所を捨てたのは、他でもないあなた自身よ」

母の声が、遠く聞こえる。

視界がぐにゃりと歪み、足元の絨毯が消えてしまったかのような錯覚に陥った。

もう、いない?

僕がビビの名前を叫んでも、どれほど許しを請うても、彼女は海を越えた遥か彼方で、僕の名前を忘れるための時間を過ごしている。

僕は、善意という名の毒を撒き散らす、浅薄な偽善者だった。

ビビアンが僕に捧げてくれた、数えきれないほどの慈しみと献身を、僕は「当たり前」という傲慢な手で、一点の容赦もなく切り刻み、ついには息の根を止めてしまったのだ。

茜色に染まる無人のサロンで、僕はただ、肺に溜まった悲鳴を押し殺し、己の浅ましさに打ち震えることしかできなかった。

ビビがいない。

その事実が、これほどまでに世界を冷たく、空虚なものに変えるとは。

僕は、彼女に贈るはずだったカタログを握りしめ、冷たい床に崩れ落ちた。

その紙は、皮肉にも彼女が選んでくれた、深い青色の装丁だった。