軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 執心

昼食会に突如として現れた男子生徒、クライド・フォン・ヘルムート。

彼は宣言の後、気障な笑みを張り付けて歩み寄ってくる。

近付いてきて、向かい合う先は──

「──やあサラ嬢、久しいね。ああ、二月の時を経ても相変わらず貴女は美しい。むしろ魅力が増したように思える程だ」

隣に座る、金髪の少女だ。

サラが戸惑い気味に一先ず会釈を返すと、クライドはそれを何かしらの了承と受け取ったか更に口を回し始める。

「先程も述べたと思うけれど、僕がAクラス長となった。Bクラス長の貴女とは是非クラス間の架け橋として親密な関係を築くべきだと思うんだ」

「は、はい……」

「今の学園では何やらAクラスとBクラスで差別を行なっているようだが、僕はそうは思わない。皆同じ学舎に通う仲間だ、差別などせず手を取り合うべきではないだろうか!」

「……」

「そう言うわけで、その第一歩とするために僕も是非この場に加えて頂きたい。如何だろうか?」

疑問の形をとってこそいるが、実際は断られるなど考えてもいない表情で彼は告げる。

しかしサラは、申し訳なさそうにしながらもしっかりと。

「……その、ごめんなさい。今日のところは遠慮していただけると……」

「? 何故だい、何かやむを得ない理由でも?」

「もうお昼休みもあまり残っていませんし、まず、空いている席が無いもので……」

妥当な理由だったはずだが、それを聞いたクライドは心底不思議そうに首を傾げると。

「親睦を深めることに時間はさほど重要ではないだろう。それに、席が空いていない? はは、冗談はよしてくれたまえ」

笑ってから、エルメスの方を指さして。

「── 空いている(・・・・・) じゃないか(・・・・・) 、 そこの彼が(・・・・・) 座っている席が(・・・・・・・) 」

なんの臆面もなく、大真面目な顔で、そう告げたのだった。

「……はい?」

流石に意味が分からず、疑問を返すエルメス。

そんな彼に向かって、クライドは何ら疑いを持たない口調で。

「どうしたんだい? 知っているよ、君はカティア嬢の従者、しかも平民だろう? 大方給仕として呼ばれ、席が余ったから座らせてもらっていたと見える。そこで新しい参加者が来たんだ、速やかに立って本来の仕事に戻るのが従者の仕事ではないかね?」

「…………」

ある意味驚くべきことに。

この男は、それが当然と心の底から信じきっている声、迷いのない声で今のことを言い切ったのだ。

沈黙したのは言い返せないからではなく、困惑と呆れで何を言っていいか分からなくなったからである。

そんな彼に向かって、クライドは少しだけ苛立ちを乗せた口調で言い募る。

「? 何だい、まさか立つのが嫌なわけじゃないよね? 従者の分を弁えない行動は主人の格を下げることにも繋がるんだけれど、その辺りのことをきちんと理解しているなら早く──」

「──いい加減にしなさい、クライド」

そこで、我慢ならないとばかりにカティアが遮った。

「……カティア嬢、君からも言ってやってくれたまえ。従者の躾は主人の役目だ、君ならそれくらい──」

「 エルは(・・・) 参加者として(・・・・・・) 呼んだわ(・・・・) 。だからそこに座るのは当然。分を弁えていないのはあなたの方よ」

「──は?」

今度は、クライドの方が。

訳がわからないと言いたげに表情を歪ませた。

「何の戯れだい、カティア嬢。従者と主人が同じ卓を囲むなど常識的にあり得ないだろう。……ああ、まさかクラス長の座を僕に奪われた腹いせかな? そんな器の小さいことはよした方が君のためにも──」

「あのさ、クライド君。その辺りは正直どうでもいいんだけど」

尚も何かを言おうとしたクライドを、今度はニィナの声が遮る。

彼女は黄金の瞳をすっと細めると、先日のような冷たい声で。

「キミさっき言ったよね? 皆同じ学舎に通う仲間だって。その理屈で言うならBクラスに通うエル君だって仲間だ、それを従者だの平民だの言って遠ざけるのはそれこそ差別じゃないのかなぁ」

「!」

「とゆーか、ボクは普通にキミと同じ机で食事なんて嫌だから。エル君の方が百倍良い──って比べるのもエル君に失礼なくらいには嫌だから。なので全力で反対しまーす」

彼女らしく明け透けな、だからこそ痛烈な拒絶を言い放つ。

するとクライドは、今度はエルメスに矛先を向けてきて。

「……従者の君。君は随分クラスメイトと親しくなっているようだね。しかし、ならばもう今更親睦を深める意味だって無いだろう? ここはまだ交流のない人間に席を譲る謙虚な姿勢が必要だとは思わないかい?」

「……えー、っと。その、カティア様」

「エル、いいのよ。素直に言いなさい、私が許可するから」

「分かりました。全然思いませんしすごくお断りしたいです」

「だそうよ。ちなみに私も同意」

大変息の合った拒絶である。

絶句するクライドに、再度カティアの追い討ちがかけられた。

「というかあなた、耳触りの良い言葉で誤魔化すのはやめたらどうかしら。──本当は、理屈をつけてサラに近づきたいだけでしょう?」

「ッ! それは──そうやって人の目的を邪推するのは良くないことだよ!」

何やらものすごく覚えのあることを自ら言ったかと思うと、今度は唯一敵でないと判断したかサラの方に向き直って。

「サラ嬢! 何故か僕は貴女の知人からひどく嫌われてしまっているようだ。君の方から説得してくれないか、僕はただ皆と親睦を深めたいだけだということを!」

「……えっと……」

「まさしく聖女の如き慈愛を持つ貴女なら分かるだろう! 可哀想なことに、僕は昔から誤解されやすい。君の言葉で知人たちの曇った目をどうか覚まさせて──」

「っ、あの!」

言葉を並べるクライドに向かって、サラは心持ち大きめな声を放った。

それを聞いてか、或いは彼女が途中で声を上げるなど前期の彼女からは予想できなかったから。

言葉を止めたクライドに対し、彼女は優しそうな面持ちながらも眉を寄せて。

「……同じ学舎に通う者同士、親しくなりたいという心は分かります」

「! ああ、そうだろうだから──」

「でもっ! ……無理やり距離を詰めるのは、良くないと思います。それと──わたしの友達を、悪く言うのは……やめて、ください」

きっぱりとした否定の口調に、一瞬言葉を失うクライド。だが直後に失言に気付いたのか、

「ち、違うんだよ! 今のはあくまで言葉の綾だ、決して君のご友人を悪くなど──!」

「っ!」

必死に否定しようとするあまり、今までより更に彼女との距離を詰めて、迫るように捲し立てる。

それを受けて、サラは怯えるように体を震わせて後ずさると。

丁度隣に座っていたエルメスの裾を掴み、逃げ込むように頭を彼の背中で隠す。

──それはあたかも、彼に縋るかのようで。守ってもらうかのようで。

「──ッ!!」

その光景を見た瞬間、クライドの表情が激甚な憤怒と嫉妬に彩られた。

直後、その顔が一転して冷酷な無表情に変化。そして次の瞬間。

ばちっ、と。

クライドとエルメスの中間で、微かな火花と魔力が弾けた。

「──」

それはひょっとすると、この学校に通う一般的な生徒では気付かないほど刹那の出来事だったかもしれない。

だが、生憎と。この場にいるのは学校の中でもトップクラスに魔法の基礎能力が高い者たちばかりだ。

故に、気付く。

今──クライドがノーモーションでエルメスに向けて雷の汎用魔法を放ち。

それを、エルメスが同様ノーモーションで結界の汎用魔法を展開し受け止めたことを。

クライドが目を見開く。まさか止められるとは思っていなかった、と言いそうな顔だ。

その表情、そして眼前で起きた出来事から彼の行動意図は明らかで。

「──クライド」

故に、カティアが告げる。先ほどよりも尚冷え切った言葉と目線で。

「 一度だけ(・・・・) 見逃してあげる(・・・・・・・) 。だから、さっさとこの場から去りなさい」

その言葉に彼は再度先の憤怒を顔に乗せて歯軋りするが。

また直ぐに、かなり苦労したようだがいつもの顔を取り戻して告げる。

「……なるほど、どうやら僕の意思を今汲み取ってはもらえないようだ」

どうやら考えを改めるつもりはないらしい。

「残念だが退散するよ、引き時くらいは弁えているからね。……ああ、でも、そうだ」

軽く後ろに下がるが、それからクライドは視線をエルメスの方に向けてきて。

「確か昼休み明けの授業は、『合同魔法演習』だったね。── 楽しみに(・・・・) しているよ(・・・・・) ?」

ある意味で凄まじい感情を宿した瞳でエルメスを見据えると、今度こそ背を向けて去っていったのだった。

残された四人の中で、しばしの静寂が流れる。

それを破ったのは、銀髪金瞳の少女。

「……目をつけられちゃったねぇ」

ニィナは呆れつつ、けれどどこか面白がるような目線を向けてきて。

「御愁傷様、エル君。多分次の授業、ちょっと愉快なことになるよ」

「……何だか楽しんでませんか?」

「楽しんでるよ? だってボク、魔法演習は合法的にサボれるからね! 高みの見物させてもらいますよー」

くすくすと笑いつつ、からかい気味にそう告げてくる。

「……ニィナ、趣味が良くないわ。でも言う通りよエル、一応気をつけたほうが良いわ」

「え、ええ。ちなみにその、『合同魔法演習』とは──」

「字面で大体分かるでしょう? あなたたちが昨日やった魔法演習。これを──AクラスとBクラス合同で行うのよ」

「……それは、また」

聞くからに厄介ごとの温床になりそうな授業である。

今の一件もある。カティアの言う通り警戒だけはしておこう。

「まぁ、あなたなら大丈夫だとは思うけど。……それとサラ、もうクライドは行ったわ。……手を離してもいいのよ」

「あっ、す、すみません……っ」

最後にカティアの指摘によって、ようやくサラがエルメスの裾から手を離す。

「エルメスさん、ごめんなさい……」

「いえ、お構いなく。……しかし、裾を掴まれるというのは思った以上に照れくさいですね」

「は、はい……」

彼の指摘にサラは真っ赤になって縮こまり、彼もどこか誤魔化すように軽く笑って。

「……やっぱり悪い女じゃない?」

「否定できないわね……事情は知ってるから、強くは言えないけれど」

カティアとニィナの微妙な指摘を受けつつも。

エルメスは警戒と共に、意識を次の授業へと備えるのであった。