軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111話 撤退

「手を出すな、って……」

いくらなんでもそんなわけにはいかない……と、言いかけた直前。

「!」

居る三人に目がけて、無数の魔弾が降り注ぐ。

エルメス、ルキウスは悠々と。ヘルクは驚きの表情を浮かべつつ、それでも結界を構築して防ぐ。

気だるげに次の攻撃の準備をするカルマ。相手の攻撃に備えつつ次の手を探るエルメスだったが、そこで声。

「おい。お前──まさか、 見せたのか(・・・・・) ? あいつに魔法を」

「……その口ぶりだと、向こうの特性は既にご存じだったようですね。ええ、『 魔弾の射手(ミストール・ティナ) 』と、『 無貌の御使(ルナド・サラカ) 』を。それ以上はこの魔法だけで戦っていますが」

「……チッ、厄介なことを」

忌々しそうに舌打ちをするヘルク。そのままエルメスから視線を外し、カルマだけを視界に捉えた上で一言。

「おい、リリアーナの側近。噂に聞くお前の『魔法』が本物なら、絶対に戦うな。複数の血統魔法を使いこなすお前の性能は、奴との相性が最悪だ」

「……」

「いや、それも関係ないか。……そこのお前はフロダイトの兄か、お前も手を出すな。何度も言うが──奴は、僕の、獲物だッ!」

そこで台詞を区切ると──再び放たれたカルマの魔弾を今度は躱し、言葉通り単独でカルマに向かって突撃していった。

「ヘルク殿下!」

静止の意味を込めてエルメスが呼びかける。

理由は言うまでもなく……到底勝ち目があるようには思えなかったからだ。

第一王子ヘルクの魔法能力は詳しくは知らない。ただ、王宮内の立場や王国の価値観を加味して考えるに……『アスターよりも上』ということは絶対にあり得ないだろう。

であれば、無理だ。余程アスター失脚以降成長していないと……否、していたとしても。あの化け物と単騎で渡り合えるようにはならない、なっていればそもそも王位継承争いなど起こり得ない。

だが、それだともう一つの単純な疑問が生じる。

第一王子は、口ぶりから察するにこれより前も『奴』と渡り合っていたはずだ。

…… どうやって(・・・・・) ?

それを確かめるためにも、戦闘体制は維持しつつ一度は見に回るエルメス。そんな前でヘルクは……その理由を、この上なく分かりやすい形で見せてきた。

「── 双蛇の小枝(カドゥケウス) !」

「!」

魔力を高めると同時、ヘルクが取り出したものは……一対の蛇と翼の意匠が入った杖。見覚えのある──そう、エルメスがかつて兄クリスと対峙した際にクリスが使っていた、基礎魔法性能を凄まじく底上げする 古代魔道具(アーティファクト) 。

「 深淵魔術(アトロアビス) 、 薄雪の聖者(エーデルワース) 、 奏の天籟(ダルセニアス) !」

更に石板、腰帯、首輪の形の道具を取り出して装着。

その意匠、そして感じる魔力からするに……

「まさか……あれは全て、 古代魔道具(アーティファクト) か?」

隣のルキウスが呟いたその一言に、エルメスも同意した。

それを証明するかのように、続けてヘルクが放った血統魔法、『 白凪の大蛇(エリヴァ・ガルダ) 』。それが──最初に撃ったものとは桁外れの威力で放たれる。

……なるほど、と思った。

カルマを相手に、半端な魔法を撃っただけではたちどころにコピーをされて向こうの力を底上げするだけ。

であれば、単独の魔法で渡り合うしかない。しかし、向こうは生物的に尋常ではない魔法適性を持っており、どんな魔法であってもこちらよりも優れた性能で使いこなしてくる。

故にそれを埋めるために── 相手が(・・・) コピー(・・・) できない(・・・・) 魔道具の(・・・・) 力で(・・) 性能差を(・・・・) 埋める(・・・) 。

それが、ヘルクが現在行なっている……そして 古代魔道具(アーティファクト) を大量に所持している王家の人間だけができるカルマ対策というわけだ。

……だが、同時に分かってしまう。

(──それだけで対応しきれるほど、向こうは甘くない)

エルメスたちはカルマと対峙していた時間はわずかだが、それでも理解できる、できてしまうほどに相手の力は隔絶している。

そもそも生物としてのステージが違うのだ、例え 古代魔道具(アーティファクト) とはいえそれだけに頼り切って埋め切れるような差ではないのだ。

……それに、もう一つ。

古代魔道具(アーティファクト) は確かに強力だ、使用者は無条件で何かしらの魔法的能力の底上げをすることができる。

──だが、そのようなものには必ず代償があるのがこの世の常。

魔道具の場合は、使用者に強制的な能力を与える代償として……端的に言えばかなりの無理を強いるのだ。

つまり、自分の体を破壊しながら能力を底上げするだけの代物。短期間では問題無いが……長期間の使用では肉体に深刻なダメージが出かねない。

そして。

「飽きたって言ったじゃん。……せっかくだし、新しい魔法をもう少し試させて貰おうかなぁ」

「──ッ!」

魔法の威力で一方的に攻め立てていたヘルクが、顔を顰めて頭を押さえる。……察するに、これまででもかなり連続してしかも多数の 古代魔道具(アーティファクト) を使い続けていたのだろう。

僅かに緩んだ攻勢の隙を見逃さず、カルマが脱出。そのまま、最初にエルメスを見て再現した魔弾と強化魔法の推進力で一気に迫り、華奢な肉体からは想像できない凄まじい拳を繰り出してヘルクの頭を殴り潰そうとして──

──そこで、一通りの観察と分析、回復を終えた二人が戦線に復帰。

カルマの拳をルキウスが剣で受け止め、その隙にエルメスが直撃コースの魔弾。一先ずのその場からの離脱及びヘルクを守ることに成功した。

「ッ! 何をしている! 手を出すなと──!」

「申し訳ございませんが、ヘルク殿下」

ヘルクが気色ばんで噛みつきかけるが、それに対してエルメスは冷静に。

「ここは戦場です。そういう言葉は、 手を出させない(・・・・・・・) ほどに(・・・) 強く(・・) なって(・・・) から(・・) 言ってください」

「エルメス君の言う通りかと。少なくともあの少年は、我々にとっても打倒すべき敵。勝手に助太刀させていただきますので、ご容赦を」

「……ッ」

相手が王族だからと言葉に容赦を与えるような気遣いは、二人とも持ち合わせてはいない。一切の手心ない言葉にヘルクが悔しそうに俯く。

……それに、二人にとってもこの時点での援軍──とまでは言えないが、カルマを敵視する強力な存在が参戦するのはありがたいのだ。

これで、三人がかりであれば勝てるとは到底思えないが、少なくとも真っ当に戦える体制は整った。

後は勝ち筋を見つけるだけ……と、二人とも思っていたが。

この時点で。二人とも──『相手が魔物である』という先入観に囚われて失念していた。

「んー……、ちょーっとやな感じがしてきたなぁ」

エルメスの魔弾を防ぎ、体制を立て直したカルマがどこか感情の読めない顔で、平坦なトーンと共に告げる。

「きみたち三人がかりか。流石に全員瞬殺とはいかないだろうし……なーんか周りの味方たちも結構減らされてるっぽいし……あと、東の方に多分すごくやばい奴がいるよね。何あれ、空飛んでるの? きみたちの仲間? あれがここにくると流石にまずいなぁ」

そのまま、凄まじい魔力感知で周囲の状況及びローズのことまで把握すると。

そこで、にっこりと笑ってぱんと手を叩き。

「──よし。 逃げよっか(・・・・・) 」

「!」

「な……」

一見すると、当然の判断に思えるかもしれない。

だが──それでも、二人にとってはあまりに驚きの宣言だった。

……魔物が、逃げる?

あの、人類に対する殺意の化身が。あらゆる場所に出現し、人類の痕跡を嗅ぎ取るや否や問答無用で襲い掛かり、執拗なまでにこちらを殺害しようと猛進してくる存在が。

人類を前にして、逃げる──など。彼らの常識には到底あり得ないことだった。

「うん、大体分かった。きみたちがすごく……今までで一番すごく強いことも、このまま油断してたら負けちゃうだろうことも。

だから…… ちゃんと(・・・・) 仲間たちと(・・・・・) 、 きみたち(・・・・) 全員の(・・・) 殺し方を(・・・・) 考えて(・・) から(・・) また来るよ」

そして、察する。

人類を前にして、そのまま問答無用に襲いかかってくるのではなく。

撤退も覚え、後退を覚え。『次殺すために今退く』という手段を、それを成せるだけの知性を覚えた存在が。

今後……どれほどの脅威に化けてしまうのかも。

「っ」

「エルメス君合わせろ、こいつは──!」

こいつを今、逃すわけにはいかない。

そう瞬時に二人が判断し、追撃体制に入るが。

「じゃあね~」

反対に、ひどく気の抜けた様子でカルマが呟き──しかし手段は的確に、エルメスから映し取った複合血統魔法、桁違いの推進力を以て、瞬時にその場から離脱する。

追うことは出来る。

だが、追いつくことはできない。仮に追跡し切れたとしても再び対峙できるのは恐らく向こうの本拠地。まだ他にも魔物がいる場所で……カルマを相手取って、二人だけで勝てるとは到底思えない。

結果……逃がし切る以外に、取れる手段がない。

「…………」

「……切り替えようか、エルメス君」

あまりにも、色々な出来事がありすぎたが。

ともあれ、戦況は一息ついた。あの場ではあれ以上の手段は取れなかっただろうと、エルメスもルキウスに言われて思考を切り替える。

「……そうですね。少なくとも魔物の撃退には成功したようですし、奴の離脱に合わせて引いていくのも魔力感知で察しています。最初の窮地を考慮に入れれば、悪くない戦果でしょう」

間違いなく向こうの鍵となるカルマを、こちらの戦力を把握された状態で逃したのは痛いが……それはこちらも同じこと。仲間たちと合流し、倒し方を考えた上で再戦する手もある。

……まぁ、仮にそうしたとしてもしっかりとした勝ち目が見えないのが難しいところだが。

加えて──とエルメスは、傍らに目をやる。

「く、そ……っ」

思わぬ再会を果たした第一王子ヘルクは。カルマが逃げた方向を心底悔しそうに見据えていたが……エルメスたちの様子に気づくと、歯噛みしつつも即座にその場から逃げ去る。

……追うべきかどうか、一瞬考えた。

だが、今はそれ以上にやるべきこと、考えるべきことがありすぎる。

「リリィ様の元に、戻りましょうか」

「だな。情報整理と今後の方針のすり合わせ。……とりわけ今回は、やるべきことが山積みだ」

あの魔物は何で、どういう存在で。いつからこのような状況になっており、それ以前はなぜあんな存在が表に出てこなかったのか。

そして……第一王子ヘルク、ひいては王家が。どのように関わっているのか。

……王都決戦の前ではあるが、途轍もない困難に今回も当たってしまうようだと。

覚悟を決めつつ──エルメスはルキウスと共に、陣営に戻るのだった。