軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

108話 反転

まずは、こいつを兵士たちから引き剥がすことが先決。

多分、先ほどの台詞は冗談ではない。眼前の白い少年は恐らく本気になれば……それこそ指先一本で容易く人を殺せる。それくらいの力を持っている。

故に、戦法は向こうの意識が兵士たちに向く前の先制攻撃一択。

ルキウスと素早くアイコンタクトでその意識を共有すると、即座に行動を開始した。

「!」

まずは、ルキウスが真っ向から突撃。懐に潜り込んだ時の彼の強さは間違いなく王国最強格、さしもの奴とて無視できる脅威ではない。

予想通り、意識をこちらに向け。突撃してくるルキウスを迎え撃つべく魔力を高める──

──が、それは 囮(デコイ) 。

「術式複合──『 無貌の御使(ルナド・サラカ) 』」

突撃するルキウスの影に紛れて、エルメスが魔法の詠唱。『 無貌の御使(ルナド・サラカ) 』と『 魔弾の射手(ミストール・ティナ) 』の複合血統魔法、魔弾の推進移動に加えて身体強化魔法も併せて桁外れの機動力を再現する魔法。

これまで以上に洗練された魔法の技術に加え、実際の『 無貌の御使(ルナド・サラカ) 』の使い手であるルキウスに要諦を教わった今のこの魔法は……一瞬の速度だけはルキウスをも凌ぐ。

「!?」

流石の奴も、神速で突撃してくるルキウスの後ろから、更に速くもう一人が来るとは思わなかったのだろう。

対応が間に合わず、エルメスの体当たりが直撃。咄嗟にガードだけは辛うじて間に合うが、衝撃までは逃がせずもろに吹き飛ばされる。

飛んだ先は、狙い通り人がいないところ。

「追撃するぞ」

「はい」

無論、仕留め切れたとは微塵も思っていない。

ルキウスと呼吸を合わせて追いかける。案の定、向こうは空中で体勢を立て直して着地。そのまま自然体でその場に立ち、二人を待ち受ける。

改めて、人の少ない場所で対峙する両者。その場に居た魔物や兵士たちも三者の発する桁違いの威圧に呑まれたかすぐに離れ、ここならある程度気兼ねせず戦えるだろう。

さて、どうするか。今の攻防から把握した向こうの身体能力、魔力等から次の戦術を組み立てようと顔をあげ──

「──」

──思わず、戦慄した。

その場に立っている魔物は、特別何かをしたわけではない。

ただ、エルメスを見ていた。敵意も何もなく、ただ純粋で透明な視線を向けていて。

……なのに、何故か。

とんでもないことが起こるような、予感がしてしまって。

そう感じた瞬間、眼前の少年が口を開く。

「……すごいねぇ、きみ。今の、魔法だよね?」

「……はい?」

まさかの、直球の賞賛。

加えて、たった今敵対しているとは思えないような純粋な褒めるような、憧れるような感情の乗った言葉が出てきて。困惑する。

「あんなに速い魔法、初めて見た。血統魔法でも見たことなかったし、別の魔法?」

「……」

「何か二つの魔法を合わせてた感じ? 白いやつを生み出して体の中に入れてたのは見たんだけど、んーっと……」

どう動くか測りかねているエルメスとルキウスの前で、その少年は。

あまりにも無邪気に、先ほどの様子を反芻するように手を動かして。

「んーっと、えーっと、確かあれがあんな感じで、あーして、こーして……」

探るように己の魔力をぐねぐねと動かした後。

虚空を見ながら魔力を高め、目の前の空間に指先を向けて。

白い魔弾を(・・・・・) 、 中空に生み出して(・・・・・・・・) 。

それを(・・・) 、 己の脚に吸い込ませ(・・・・・・・・・) 。

「── こんな感じかな(・・・・・・・) ?」

直後。

爆音と共に、少年の姿が掻き消え──次の瞬間にはエルメスの前にいた。

「………………は?」

「あ、やったぁ」

少年が、その喜びの表情のまま。何の躊躇もなく腕を振り抜いた。

「──────ッ!?」

激甚な衝撃がエルメスを襲った。

ほぼ直撃、と言って良いだろう。避けることも、先ほどのようにガードすることすら間に合わず。辛うじて体を僅かにずらして急所を避けるのが精一杯。

「エルメス君!」

ルキウスですら、エルメスが弾き飛ばされた後でようやく気づくほどの速度と衝撃。そこで少年に攻撃を仕掛けてくれたおかげで追撃は免れ、どうにか『 星の花冠(アルス・パウリナ) 』で回復の暇を得られる。

……だが。

受けた精神的な衝撃は、肉体的ダメージの比ではなかった。

(今、の……)

間違いない。

今の少年の言動、生み出した魔法、そしてもたらされた結果が。否定の余地を許さず、一つの事実を指し示していた。

今、あの、魔物は。

──相手の魔法を見た上で、それを己のものにして再現した。

それは。

エルメスが……今まで、他の魔法使いに対してやってきたこと。

「今……どう、したんですか」

思わず、エルメスは少年に問うていた。

魔法を再現できた……しかも、今エルメスの使える中でも相当高度な技術である複合血統魔法でそれをやるということは。

この相手は、少なくともエルメスと同格以上の魔法理論を修めており──

……と、思ったのに。

「え、見た通りだと思うけど。きみの魔法を同じことをやったんだよ」

「つまり、貴方も……創成魔法、或いはそれに類する魔法理論を──」

「?? 何言ってるのか分からないけど……」

眼前の、白い少年は。

本気で分からないものを見るように、首を傾げた後。

「── 魔法って(・・・・) 、 見るだけで(・・・・・) なんとなく(・・・・・) 真似できる(・・・・・) ものじゃ(・・・・) ないの(・・・) ?」

「──」

「……ばか、な」

……今までとは、次元の違う場所に来てしまったと。

この瞬間、両者ともに。疑いようもなく、確信してしまうのだった。