軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44話 対峙2

カティアとルキウスが対峙した同刻。

「……それで、ボクの相手はキミか」

もう一人の刺客──ニィナの前にも、一人の少女が立ちはだかっていた。

「ちょっと意外だけど、まぁ納得かな。少なくとも現状、ボクとまともに戦う場合その魔法を持ってないと話にならないし」

その少女──サラに向かって、ニィナはいつも通り親しげに問いかける。彼女の魔法はそうあることで効果を発揮すると分かっているから。

だが……当の魔法、『 妖精の夢宮(イル・フェルリナ) 』の影響をサラが受けている素振りは今のところない。

理由は──二人の間に展開された、光の檻。

そう。サラの血統魔法の一つ、『 精霊の帳(テウル・ギア) 』。

これは、ニィナの『 妖精の夢宮(イル・フェルリナ) 』による魅了効果を媒介する魔力を強引に遮断する。これで防いでいる限りは、少なくとも即座に影響下に入ることはない。

彼女の魔法の発動条件をこちらの血統魔法使い全員が満たしてしまっている以上、この『 精霊の帳(テウル・ギア) 』が現状ニィナに対抗する唯一の手段。

従って、ニィナに対峙できる相手はエルメスとサラの二人に限られる。

よって、その一方であるサラがニィナの相手に躍り出たのは自然だ、とニィナ自身も了承する。

彼女の魔法を結界で防ぎ、隙を突いて彼女を光の檻そのものに閉じ込める。そうすれば魔法的な直接火力を持たないニィナに結界を破る術はなく、無力化には成功する。そのニィナ対策の戦術を取れるのも二人だけ。

──だが。

その上で、彼女は。

「ごめんね、真面目に聞くんだけど。── キミで(・・・) 大丈夫(・・・) ?」

「……っ!」

尚、静かに問いかけ。彼女の脅威を知悉しているサラが息を呑む。

……そうだ。

確かに、閉じ込めることさえできれば彼女の無力化には成功する。

だが──それをさせないのが、ニィナという人間なのだから。

桁外れの感知能力でもって、魔力の流れや高まり等から魔法の発動場所、大まかな性質まで把握して。こちらこそ短期的な未来予知なのではないかと思う精度であらゆる魔法を回避してくる。

現状彼女が動いていないのは、サラが魔法で閉じ込めようとしていないからであり。それが始まれば、あらゆる能力を駆使して魔法を躱し、サラを無力化しにかかってくるだろう。彼女自身にかかっている 制約(ギアス) によって、その行動をニィナが止めることも不可能。

そんな彼女をまともに止めるためには……それこそエルメスほどに魔法の扱いに長けていることが必要条件であり。その彼ですら手こずることが間違いない相手を、ましてや本来サポート型の魔法使いであるサラに対処できる道理はない。

……しかし、それでも。

「……ご心配、ありがとうございます。でも──承知の、上ですから」

サラも、返すように光の檻越しにニィナに声をかける。学園にいた時と変わらない、親愛を込めて。

同時に思い返す。このマッチングを提案したときに、提案者であるエルメスに言われた言葉を。

サラに、一人でニィナの相手をして欲しい。

そう真剣に頼まれたサラは──エルメスに真っ直ぐな信頼を向けられている喜びが湧き上がると同時に、冷静な部分で困惑と否定を示した。

すなわち──今の自分の力では無理だ、と。

そう申し訳なさげに告げるが──

「はい。恐らく本来なら単独で対抗することは難しいでしょう」

「……え?」

エルメスは、何故かそう同意して。むしろ戦力をしっかり把握していることを褒めてくれたのち……

その上で、大丈夫と判断する理由を。端的にこう、告げてきたのだった。

「ニィナ様は現在── 本気を(・・・) 出せて(・・・) いません(・・・・) 」

「!?」

「正しくは……本気を出さないようにしている、でしょうかね」

そう補足されるも、一言では完全には把握できず。

視線で続きを求めると、彼は頷いて続けてきた。

「恐らく、大司教に与えられた 制約(ギアス) に反しない範囲で自分の能力をセーブしているのでしょう。過剰にこちらを傷つけないように、可能な限り、こちらの被害を増やさないために」

「どうして……そう分かったのですか?」

「これでも、学園でニィナ様とは何度も戦いましたから。その経験とあの方のこれまでの行動、そして極め付けはリリィ様との戦闘記録。

いくら僕の魔法を使えたとしても──ニィナ様が、リリィ様を容易く逃がしすぎだと思ったので」

彼にだけ分かる情報から、確信を持った表情で。

「更には……ニィナ様の側からも、大司教に何かしらの 制約(ギアス) をかけていると思われます。内容としては、人質に取られているだろう家族の安全と……あとは、自身の行動命令にも」

「行動命令……?」

「はい。これもあの方の今までの行動から確信したのですが──大司教は、ニィナ様に『殺人の命令』を下すことはできていない」

「……!」

「どうやってかは知りませんが、恐らくニィナ様が上手く交渉か駆け引きを運んだのでしょう。そうして状況を、手札を、行動すら制限される中で、できる限りの抵抗をしている。

──戦っているんです。ニィナ様も限られた状態で、それでも可能な限り」

「──」

驚きと共に、エルメスを見据えるサラ。

「以上のことから、『今のニィナ様』ならサラ様でも単独での対応が可能だと判断しました。

捕らえられるのが理想ですが……無理をなさる必要はありません。カティア様と同じく、決着まで時間を稼いでいただければと」

それを、静かにエルメスも見返すと。

信頼と、感謝と──あとは何故か、罪悪感を宿したような顔と共に。

頭を下げて、頼んできたのだった。

「危険な役目を押し付けて、申し訳ございません。

ですがどうか、貴女の手で──ニィナ様を、助けて下さいませんか?」

そうして、現在。

ニィナと対峙しているサラは、胸に手を当てて……あの時の答えを、告げる。

「……もちろん、です」

エルメスはきっと知らないのだろう。

自分が、そう言われた時──どれほど、嬉しかったのかを。どれほど、今押さえている胸のうちが暖かなもので満たされたかを。

彼のように、誰かを変えられる人になりたかった。

そんな、憧れた彼が。常に自分一人で全てを解決し、実際そうするだけの力があった彼が……他ならぬ自分に、確かな信頼と共に何かを任せてくれる。

……彼をそうしたのが、自分一人の功績だなんて思い上がるつもりは当然ない。

でも──その一因となれたことくらいは、彼女も自覚できていたのだ。

──だから、今度は自分の番だと。

決意を込めて、サラは眼前の少女を見据える。

「……ニィナ、さん」

金の瞳が特徴的な、何処か不思議な可憐さをもつ少女。

普段は明るく飄々として──でも今は、何処か疲れ切って退廃的な雰囲気も宿す少女を見る。

……ニィナの事情を知って、助けたいと心から思った。

無論、全てを把握できているわけではない。ひょっとするとのっぴきならない、自分たちにはどうしようもない事情があって、ニィナ自身サラたちには想像もつかなかった暗いものを抱えているのかもしれない。

でも……それも全部ひっくるめて、助けると決めたのだ。

なら──それを阻む理由は、この世のどこにも存在し得ない。

故に、サラは。学園の聖女と呼ばれた少女は、エルメスが肯定してくれた自分のままで、告げる。

「あなたを、助けます。……いえ、あなたには── 助かって(・・・・) もらいます(・・・・・) 」

どこまでも傲慢な、救済を。

言葉の形で、彼女は宣言し。対するニィナは……疲れたような感情の窺い知れない表情でそれを迎え撃って、展開された結界を軽々と回避し──

二つ目の激突が、始まるのだった。

「──よし」

ルキウスにはカティアを、ニィナにはサラを。

事前に取り決めておいた通りのマッチアップで予定通り戦いが開始したのを確認して、エルメスは小さく呟く。

そう、ここまでは予定通り。

そしてフロダイトの兄妹にそれぞれ彼女たちをぶつけた以上、当然残るは──

「──大司教の相手は、僕だ」

告げて、エルメスは敵陣の最奥──そこに佇む向こうの総指揮官を見る。

……驚いているかは分からない。ひょっとするとこれも予知にはあったかも知れない。

だが──意外だったことは間違い無いだろう。

何せ、大司教の力の根源である 古代魔道具(アーティファクト) :スカルドロギアによる未来予知能力。

エルメスは、それによって最も予知されやすい対象──すなわち、大司教にとっては最も与し易い相手であるだろうから。

……しかし。

現在その予知には、リリアーナのおかげで綻びができている。恐らく今でもエルメスの行動には高いレベルでの先読みをされているだろうが、それでも一度崩れた以上完璧ではあり得ない。

加えて……エルメスが最も読まれるとは言え、だから他の人間に任せるというわけにもいかないのだ。

何せ、大司教は未だその能力の底が知れない。こちらの知り得ない手札をまだ隠し持っていることは間違い無いだろう。

それがある以上、ただ読まれにくいからという理由だけで半端な相手を送り込むわけにもいかない。そういう意味でも、やはり適任はエルメスなのだ。

──そして。

何より、エルメスには秘策がある。……いや、正直今から言うことだけ聞くと秘策と呼べるようなものには聞こえないかも知れないが。

その内容は、大司教の未来予知を対策するものだ。

今までは『読まれない』存在であるリリアーナを最大限動かして不確定要素を増やすことでそれに対抗していた。

……だが、ここで前提に立ち返ろう。

自分たちの目的は──『大司教の未来予知を破ること』だろうか?

答えは、当然否。この戦いの根本的な目的は──『大司教を打倒すること』だ。

この二つは同一では無い。

極端な話……大司教さえ打倒できれば未来予知をどうこうする必要はないのだ。

そう、つまり。

──『分かっていても避けられない未来』を叩き込めば良いのである。

そのために、この状況を作り出した。

配下の北部連合はリリアーナを中心とした魔法兵士たちで対抗し。フロダイトの兄妹にはそれぞれ最強の血統魔法使いの少女たちをぶつけて足止めを行い。

そうして……曲がりなりにも、大司教と一対一の状況を作り上げたのだ。

「────」

かくして、エルメスは。

その凄まじい魔法の能力、頭脳、そして機転と信念によって立ちはだかるあらゆる困難を打倒してきた少年は、その自負と実力でもって。

「……大司教ヨハン」

まず真っ先に使用する魔法の詠唱を、終えてから。

こう、宣言するのだった。

「今から真っ直ぐ、貴方を倒しに行く。

この未来── 止められる(・・・・・) ものなら(・・・・) 止めてみろ(・・・・・) 」

好きなだけ予知していれば良い。対策もすれば良い。

自分の知らない魔道具や魔法だって、いくらでも使ってもらって構わない。

ただ──自分はその全てに対応し、打ち破って叩き潰すだけだ。

大司教が一対一で、エルメスを止める。そんなとんでもない未来を── 例え(・・) 予知(・・) してでも(・・・・) 実現(・・) できるのか(・・・・・) と。

傲慢に、挑戦的に問いかけて、彼は地面を蹴り、そして。

北部反乱の。そして、この国の未来を決める契機となる戦い。

その運命を分ける、決着までの数分間が──始まったのだった。