軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話 記念パーティー

無事迷宮攻略を完了し、公爵家へと戻ってきたエルメスたち。

そこから数日は、公爵家でのゆっくりとした日が続いた。

同行した騎士たちがかなり負傷してしまったのでその治療と休養に時間をかけている、というのもあるが。

何よりエルメスたちが持ち帰った 古代魔道具(アーティファクト) 。王室に提出したそれの分析と、持ち帰ったことによる莫大な功績に対する報酬やらなんやらで、公爵家全体がバタバタして迂闊にカティアたちも動けないという理由もあった。

そういうわけで、エルメスも数日は護衛としての仕事はなく。

「カティア様、お茶が入りましたよー」

もう一つの使用人としての仕事をこなしていたのだった。

「ええ、いただくわね──って、美味し」

彼の淹れた紅茶に口をつけたカティアが、思わず目を見開いて率直な感想を述べる。

「それは良かった。カティア様のお好みが分からなかったので師匠基準で入れてみましたが、お口に合ったなら何よりです」

「いえ……好みとか以前にエル、あなた純粋に紅茶淹れるのすごく上手いわ。どこで身につけたの?」

「? 師匠の所ですかね。家事はほとんど僕がやっていましたから、5年もすれば人並み程度にはなったと思いますが……」

「人並みどころではありませんよ、エルメス君」

苦笑気味の口調で告げてきたのは、カティアの傍付きであるメイド、レイラである。

彼女には、トラーキア家の使用人として働く上でのあれこれを今仕込まれているところである。

つまるところ、直属の上司だ。

「家事はうちのメイドたちと比べても遜色ないほどに完璧、新しいお仕事もすぐにコツを掴んで吸収する。理想の生徒ですわね、すぐに教えることも無くなるでしょう」

「光栄です。拾っていただいたのですから、早くお役に立てるようにならなければ」

お墨付きをいただいたので、多少の自信とともに微笑んでエルメスは告げる。

「というわけで。なんでもお申し付けください、カティア様」

「んぐっ」

すると、何故かカティアがむせた。

「だ、大丈夫ですか?」

「へ、平気よ……少し紅茶が変なところに入っただけ……」

「……今のはエルメス君が悪いですわね」

そして、何故か責められた。

「……とにかく、この後は私の魔法の研究でしょう? 私も後から行くから、先に準備してなさい」

「わ、分かりました」

先のやり取りの意味は分からなかったものの、確かにこれからは先日迷宮で決めた、カティアの『 救世の冥界(ソテイラ・トリウィア) 』を再現するため彼女の魔法を詳細に見る時間だ。

流石は公爵家相伝の魔法、術式の複雑さが段違いで想像以上に時間がかかりそうだが……着実に解析を進められている実感はある。

それに何より、これほど緻密に組み上げられた美しい魔法を見るのは、純粋に楽しい。

今日はどの角度から検証しようか。そう考えているうちに先程のことは忘れ、エルメスは思索の海に沈みつつ一礼とともにカティアの部屋を出たのだった。

「…………はぁー」

エルメスが扉を閉め、数秒ほど沈黙が続いてから。

カップを一旦机に置いたカティアが溶けるようにソファへと崩れ落ちた。

当然、その顔は真っ赤である。

「気持ちはわかりますよ、お嬢様」

それを眺めてうんうんと腕を組み頷くレイラ。

「婚約者に捨てられ、失意の底で悪漢に襲われそうなところに颯爽と現れた幼馴染の男の子! 幼き日の約束を胸に立派に成長した彼が華麗に悪漢を撃退! そりゃー惚れます。聞いてる私ですらキュンキュンしたんですもの。直に味わったお嬢様はひとたまりもなかったでしょう」

「……悪漢は言い過ぎよ……あと私がちょろい女みたいな言い方はやめなさい」

「それはあながち間違っても……失礼致しました」

思わず素直な感想が出かけたが、カティアから立ち上る黒いオーラを素早く感じ取って口をつぐむ。

「でも、本当にいい拾い物をなされましたねお嬢様。エルメス君、すっごく素直でいい子ですよ。あの傍若無人な王子様とは大違い!」

「……第二王子殿下よ、悪く言うのは良くないわ」

「知りません! お嬢様を捨てたような見る目のない殿方に向ける敬意は持ち合わせておりませんので!」

ふい、と子供っぽくそっぽを向くレイラ。

だがすぐに気を取り直すと、今度は悪戯心を含んだ笑顔で、

「もう誰がどう見ても明らかなのではっきり言いますが、お好きなんでしょう? どうでしょう、いっそ想いの丈を告げてみては」

「んなっ! で、できるわけないでしょう!!」

ようやく引きかけた頬の紅潮を再発させ、カティアが身を乗り出して反論した。

「何か問題でも?」

「問題しかないわよ! もう身分も違えば立場も違う、彼の見ている場所もきっと昔とは違うわ。……それに……」

「それに?」

黙り込んだカティアに問い直すと、彼女はどこか言いたくなさげに視線を彷徨わせたが、結局弱々しい声で。

「……私は、先月婚約者を失ったばかりの身よ。なのにいきなりそんな……気移りの激しい女だってエルに思われたらどうするのよ……」

「……お嬢様。可愛すぎます」

「ってレイラ、何故私に抱きつくの」

「可愛すぎるからです」

あまりに唐突な行動に、先程の態度から一転して半眼を向けるカティア。

なんか色々と馬鹿らしくなったので、いっそ気になっていたことは全部言うことにした。

「あとね」

「まだ何かご心配が?」

「……なんだかエル、大人っぽすぎるのよ」

「ほう?」

レイラが抱擁を解いてカティアに向き直る。

彼と再会して以降、一番気がかりなのはそれだった。

昔はそれこそ年相応の子供らしく、素直かつ派手に感情を表に出す子だったと記憶している。

だが5年ぶりに会った彼は、非常に淡々とした、落ち着いた性格となっており。

大人びたと言われればそれまでだが……悪く言ってしまえば、色々な感情が希薄なように思えるのだ。

先の迷宮の件で怒ってくれたりと感情が無いとまでは行かないのだろうが、どうもその点が気がかりで。

……有り体に言えば、もっと自分に興味を持って欲しい──なんて、これは完全にわがままだけれど。

「私のことも、きれいだ、って褒めてくれたけどすごくあっさりだったし。……だから、その……」

「なるほど。もっと照れたり戸惑ったり、そういう反応が見たいと!」

「……まあ」

「王都一の美少女カティア様の魅力にどぎまぎしている、年頃の少年らしい初心で可愛い反応が見てみたいと!」

「そ、そこまでは……って、それはあなたの感想でしょう」

「それは否定しません!」

昔から思っていたことだが、このメイドは色々と明け透けすぎる。

「でも本心ですよ。カティア様は贔屓目なしに見ても王都でトップクラスに可愛い女の子です! そして、そういうことならお任せください!」

「……どういうことかしら」

得意げに胸を張るレイラを若干疑わしげに見るカティア。

「お嬢様は先日、迷宮から 古代魔道具(アーティファクト) を持ち帰り、王都に献上なさいましたね。これは素晴らしい功績です。必ずやなんらかの褒賞を下賜され……そして、記念パーティーも開かれることでしょう」

「!」

「チャンスはそこです! 不肖お嬢様を知り尽くしたこの私が、お嬢様の魅力を最大限に引き出すドレスアップを施してみせましょう! そしてエルメス君にエスコートさせ、誰よりも魅力的なお嬢様を誰よりも近くで見てもらうのです!」

ぐっと拳を握って力説するレイラ。

「お嬢様ほどの美少女にそこまでされてぐっとこない殿方はおりません! 幸いそのパーティーでお嬢様は間違いなく主役、どれほど綺麗なドレスアップを施しても咎められることはございません。そう、今までやりたくてもできなかったあの装飾やあのドレスなんかも……!」

そして、カティアを全力で着飾りたいという欲望もきっちり入っていた。

レイラの読み通り、 古代魔法具(アーティファクト) の褒賞としてトラーキア家にはいくつかの宝物が下賜され。

日を置かず、記念パーティーが開かれる運びとなった。

現時点で婚約者がおらず兄弟もいないカティアは、エスコート役として使用人のエルメスを指名。

エルメスは自分でいいのかと思ったが、年の近い男性の使用人が彼しかいないという当然建前だが一応理屈は通っている理由を聞いて了承した。

こうして、カティアの狙い及び予想通りの運びとなって。

しかし当日は予想外のことも起こることになる、パーティーが開幕するのであった。