軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話 決意

「──さて。では改めて」

カティアとリリアーナの顔合わせが終わった後。

合流したサラと共に、トラーキア家の一行とリリアーナは公爵家の会議室にまで移動していた。

尚、その間にリリアーナとサラの顔合わせも行われたわけだが。

カティアの一件と違って極めて穏便、どころかサラはリリアーナを一目で気に入り、持ち前の優しさで接した結果リリアーナの方も即座に懐いた。カティアが極めて遺憾そうな顔をしていた。

サラの人徳もあるだろうが……何より本来のリリアーナが年相応に人懐っこい性格なのだろう。エルメスに出会うまでそれが様々な要因から発揮されていなかっただけで。

ともあれ、三人がそれぞれの形で王女様への謁見を完了させ。

準備が整ったところでユルゲンがこれからの話をするべく、口を開いたのである。

「これから我々は、王位継承争いに本格的に身を投じるわけだが……その前に再度、殿下のお立場を明確にしておこうか」

他四人の視線が、リリアーナへと向く。

「もう知っての通り、リリアーナ殿下はこれまで最も王位から遠い存在とされてきた。何故なら血統魔法を持たない、『無適性』であったからだ」

「でも──」

「そう。エルメス君の例から分かる通り、血統魔法を持たないことはむしろ福音だ。彼が師としてついた以上、将来的には魔法国家においてもリリアーナ殿下が最高の王候補となることは疑いようがないだろう」

納得が一同に染み渡る。それから、サラが口を開いた。

「では……リリィ様はこれまでと違い、本格的に王位を目指される、ということですか……?」

その問いを受け、リリアーナはしばし言葉を探して黙った後。

真剣な表情で、口を開いた。

「……いいえ」

否定の言葉の後に、されど真摯に言葉を紡ぐ。

「ここまでわたくしを盛り立てていただいた上で、申し訳ないとは思いますわ。けれど……」

「けれど?」

「師匠が、道を示してくださって。魔法の力を得る手段が見つかって。

── だから王様を目指す(・・・・・・・・・) というのは……なんだか、違う気がしますの」

──それは。

確かに、納得のできる話だ。

むしろ逆に、『力を得たから王位を狙う』と宣言するのであれば、これまでの血統魔法至上主義の人間とやっていることが同じになる。

その点においても……確かに彼女の言葉は、自分たちが推す上では相応しいだろう。

そもそもリリアーナは最初に言っていたではないか、『家族で争うなんて馬鹿馬鹿しい』と。

リリアーナが、続けて口を開く。

「わたくしは……お兄様やお姉様と違って、まだ見つけられていないのです。王様になる上で……『王様になって何をするか』ということが」

「……」

「それはいずれ見つかるものなのかもしれません。ですが……今は」

不義理なことと分かっているのだろう。リリアーナの語調が尻すぼみになる。

それを穏やかに見守った上で、エルメスは口を開いた。

「別に、気にする必要はないと思いますよ」

「……師匠?」

「目的というものは、強引に見つけるものではございません。ましてや殿下はまだ幼いのですから」

言葉を区切り、軽く笑いかけると。

「むしろ、それを一緒に探すことも家庭教師の仕事と、僕はそう思っております」

「……!」

きっとその言葉は、彼女にとって非常に心強いものだったのだろう。

リリアーナが目を潤ませ、エルメスの腕にしがみつく。

それを見たカティアは若干複雑な、でも穏やかに見守るような表情をし、サラは対照的に目を見開いた。……そう言えば、サラに初日のリリアーナとのやりとりは教えていなかった。ならばこの反応も当然か。

とりあえず、リリアーナの考えについては理解した。

……同時に、新たな疑問も浮かび上がる。それをエルメスの視線から感じ取ったか、ユルゲンが頷きと共に話を再開する。

「エルメス君の言いたいことは分かる。『なら、王位継承争いに参入しない選択肢もあるのではないか』だろう?」

「はい」

「……だが、そうもいかない事情があるんだ」

恐らく、この先が今回の話の本題だろう。

気を引き締めるエルメスたちに対し、ユルゲンがゆっくりと始める。

「まずは……覚えているかな? 先日君たちが通う学園で起こった事件。その主犯となったクライド・フォン・ヘルムート……を、唆した人物のことを」

「!」

ここで、その名が出てくるか。

「……当然覚えています、お父様」

代表して、カティアが回答した。

「エルが遭遇したその人物は……お父様曰く、長年王国の影に潜んで国を脅かし続けた、現状の王国に楯突く組織の一人……ですよね?」

「ああ。付け加えると、エルメス君の情報からするに恐らくは幹部クラスの人物だろう」

その組織の存在自体は前々から知っていたのだろう。それを感じさせる口調でユルゲンが続ける。

「問題は、これまで潜んでいたはずのそれ程の人物が表に出てきた、ということでね。懸念した私の方でも調べてみたんだが……厄介な事実が判明した。この王位継承争いにも関わってくることだ」

「…………、まさか」

そこまで聞かされ、直感を得るエルメス。

それに違わず、ユルゲンはそう、と口を開き──

「── 既に(・・) 入り込んで(・・・・・) いる(・・) んだよ。第一王子と第二王女の陣営に、その組織の人物が」

カティアとサラが、驚愕の表情を見せる。

予想通りの回答に、エルメスも神妙に頷く。

「しかも、末端じゃない。恐らく両陣営の中枢に近いところの誰か、だ。そうとしか思えない不自然な陣営の挙動がそこかしこに散見された」

「……なるほど」

「分かるだろう? 長い潜伏の期間を経て、彼らは──本格的に、国盗りを始めにかかったんだ」

彼らの目的は、朧げにしか分かっていない。

だが──クライドを利用して、あれほどの破壊を撒き散らすことを是とする組織だ。それらが台頭してくるとなれば……どう考えても、真っ当な結末は期待できそうにない。

止めなければならないのは、必然だ。

同時に、そのことを踏まえて考えれば今回の参戦の目的も見えてくる。

「分かったようだね。そう、我々の第一目標は──各陣営に潜伏しているその組織の人間を炙り出し、潰すことだ。そのためには……公然と敵対できる立場の方が、何かと都合が良い」

納得する。

第一王子と第二王女、両陣営に入り込んでいるということは──少なくともこのまま継承争いを見守れば、組織の息のかかった王が誕生してしまうということだ。

そのような意味でも、第三勢力として名乗り出るのはそれ自体に意味がある。……例え、担ぎ上げる対象に今は王位を目指す意思がなくとも。

「……そういうことですわ」

ユルゲンの話がひと段落したのを見計らって、リリアーナが口を開く。

彼女は、この話を事前に聞かされていたのだろう。

「わたくしは、積極的に王様になるつもりはない。……お兄様とお姉様がそれぞれの意思で王様を目指すのならば、それを止める権利はありませんわ」

俯いた後、でも、と顔を上げ。

「……その志を、邪な意思で利用しようとする者がいるのならば。志を利用して、お兄様やお姉様を操り害そうとするものがいるのなら。

王家の一員として、家族として……見過ごすわけには、いきません。例え──家族と、争うことになったとしても」

そう、毅然と宣言する。……その言葉の重みを理解して、微かに体を震わせながら。

圧倒される。この小さな王女様に課せられたあまりに重い責務に、その上で戦うと宣言した彼女の決意に。

──家族を守るために家族と戦う。その決断をした、少女の意思に。

「……っ」

間違いなく、恐怖はあるのだろう。その証拠に、震えは今も収まる気配を見せない。

それをみかねてか、或いは心を打たれてか。サラがリリアーナを後ろから抱きすくめる。支えるようにしっかりと、敬意を払うように優しく。

「な、なんですの」

リリアーナも口では抗議しつつも、縋るようにサラの抱擁を受け入れる。回された腕を取り顔を埋める様子を、エルメスもカティアも見守っていた。

理解した。この王女様の意思も決意も、全て。

そうして、やるべきこともはっきりした。ユルゲンがまとめる。

「そういうわけだ。一先ずの方針としては、まず第一にリリアーナ殿下の実力を高めること。戦う以上、これがあるに越したことはないからね。

そして第二に──陣営の強化だ」

「それは……確かに」

「うん。うちが弱いと言う気はないけれど、それでも僅か一家だけというのは心許ない。勢力的にはまだ欲しいから──とりあえず一家。これまで中立を保ってきた強力な公爵家にいずれ声をかけてみよう」

そして次に、とユルゲンが告げる。

「続いては……戦力の強化、だね」

「……僕たちだけでは足りませんか?」

「欲を言えば、もう一人欲しい。……ああ、君たちの実力に不満があるわけではもちろんないよ。でも──君たちの魔法は良くも悪くも尖りすぎているからね」

三人を見回してそう結論付けた後、彼は笑みを深めて。

「だから、その穴を埋めるような。実力は劣っていても汎用性に長けた魔法使いで、こちらの理念を理解してくれて──そして出来れば、君たちに無い視点を持っている人物が良い。ただそこまでは高望みかな……と、思っていたんだけれど」

今度はそれを苦笑に変えて、やや揶揄うように告げてきた。

「まさかぴったりの人材が見つかってしまった。……我ながら、エルメス君を学園に行かせたことは大正解だったようだよ。……噂をすれば丁度、だね。入りなさい」

部屋の向こうの気配を読み取って声をかける。同時に扉が開き、一礼するメイドのレイラに引き連れられて入ってきたのは──

「?」

「!」

「わぁ……!」

「……なるほど」

リリアーナが首を傾げ、カティアが目を見開き、サラが喜びを表し、エルメスが穏やかに納得した。

四者四様の反応を引き出した、当の人物は──

「……お声がけ感謝します、トラーキア公爵閣下。そして初めて御意を得ます、リリアーナ王女殿下」

彼らしく実直に、ユルゲンに一礼した後リリアーナの前に跪く。

そうして、真っ直ぐに。

「イェルク子爵家長男、アルバート・フォン・イェルク。公爵閣下のお声により推参致しました。……非力非才の身でありますが、お役立ていただければ幸いです」

ある意味で王族に対する態度としてはこの上なく正しい……だが故に彼ら三人には無かった対応というなんとも奇妙な初顔合わせを行った。

リリアーナは、おっかなびっくりしつつも受け入れて。級友三人は驚きつつも歓迎の意を示す。

そうして揃った五人の子供たち。彼らを眩しそうに眺めつつ、ユルゲンが締め括る。

「エルメス君、アルバート君、サラさん、カティア、そしてリリアーナ殿下。私が見込んだ、この国でも指折りの子供たちよ。……君たちが、これからの中心だ」

万感の、想いを込めて。

目的に向けて走り続けてきた公爵は、宣言するのだった。

「さぁ──国を変える戦いを、始めよう」